)” の例文
会衆は蠱惑こわくされてれていた。底の底から清められ深められたクララの心は、露ばかりの愛のあらわれにも嵐のように感動した。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「そりゃア、叔母さんの言うのももっともです、しかし、まア、男がれ込んだ以上は、そうしてやりたくなるんでしょうから——」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
知ったので御座いますからね。でもお玉がれるのも道理で御座いますよ。あんな立派な殿様は、羽田の漁師町にはありませんからね
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
女中ねえや、お手柔てやはらかにたのむぜ。」と先生せんせい言葉ことばしたに、ゑみわれたやうなかほをして、「れた證據しようこだわよ。」やや、とみなかほる。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あの女は尼姿の方が綺麗に見えたんだよ。依右衛門がそれにれたんだ、——自分の髪を切る位のことは何んとも思ってやしない」
上気せる美くしき梅子のあどけなきかほを銀子は女ながらにれと眺め「私が悪るかつたの、梅子さん、何卒どうぞ聴かして下ださいな」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
二人共彼の事を「お美しい方」と呼んでゐた。ルヰザは彼の事を「れ/″\するやうな人」と云ひ、彼を「讃美する」のであつた。
やはり弁証法に限る、とれ直すかも知れない。そうでないかも知れない。もっともっと勉強してみてからでなければわかるまい。
多頭蛇哲学 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すると、平尾さんが大変れ込み、どうか、これを譲ってくれといいました。しかし、後藤君は、実はこの不動だけはお譲り出来ない。
お通夜や又何やかや用達ようたしの道々などで、私は高木の妹から、彼が甚だ好色漢で、宿屋へ泊れば女中を口説くどく、或時バーの女に
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
お天気のこと、恋愛のこと、文学のこと、彼は女の喋る言葉にれることもあったが、何かがパッタリ滑り堕ちるような気もした。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
すると叔父夫妻もいちど見ようということになり、二人で来ておなつを見たうえ、叔母のほうがこれまたすっかりれこんでしまった。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうさ、何も、具体的に男と女がれたりはれたりすることばかりが抒情的じゃないくらい君判んないのかい。息子は頭が良いよ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「なに、あの女は真公にれてやがったが、真公が居なくなると気が変になってしまって、鳴門なるとの渦の中へ飛びこんでしまったよ」
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女の眼はひとえに三味線の糸の上に落ちているようである。恐らく彼女は、自分のかなでている音楽を、一心に聞きれているのでもあろう。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
衣透姫そとおりひめに小町のころもを懸けたという文三の品題みたては、それはれた慾眼の贔負沙汰ひいきざたかも知れないが、とにもかくにも十人並優れて美くしい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
りっぱな音楽家で、ピアノがお上手じょうずです。あの人の前では、あなたのことを批評はできません。あなたにれこんでるのですから。
本院の大臣おとど御屋形おんやかたには、ずゐぶん女房も沢山ゐるが、まづあの位なのは一人もないな。あれなら平中がれたと云つても、——
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ねえ、僕が川上の世話を焼きすぎるといって心配したり、かれこれいうものがあるけれど、男は女にれているに限ると思うのです。」
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今日きょうの事も忘れ明日あすの事も忘れれている自分の事も忘れて浩さんだけになってしまう。浩さんはかように偉大な男である。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うそもけれんもないところ、お千絵様はあなたにしんかられています。顔だけ見せてあげただけでも、どんなにおよろこびかもしれませんぜ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八雲は縁側えんがわに立ってそれに聞きれ、『いかに面白いと楽しいですね』と言って喜んだが、また『私、心痛いです』と言った。
抱一は放縦と無検束ずぼらで人に誤まられたが、根が多感多恨の単純な好人物であったから一見コロリと紅葉にれ抜いてしまった。
此方こち昔馴染むかしなじみのヸーナス殿どのめさっしゃい、乃至ないし盲目めんない息子殿むすこどのれいのコーフェーチュアのわうさんが乞食娘こじきむすめれた時分じぶん
身にしみて聞きるる浪子は勇々ゆゆしと誇りて、早く海軍大臣かないし軍令部長にして海軍部内のふうを一新したしと思えるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
あいつにれてもなんでもいるんではないが、いなくなると心がいらいらする、れて焦れてたまらない、しまいには血の気が頭に上って
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はずかしがるにゃァあたらねえ。なにもこっちから、血道ちみちげてるというわけじゃなし、おめえにれてるな、むこさま勝手次第かってしだいだ。——おせん。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
往来に全部一列に並べて勘定にかかる。早くも人だかりに逢う。六角の駄墨だぼく、その形や模様にれ込んで一包のすべてをあがなう。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「女工のれ方はブルジョワのお嬢さんのようにネチネチと形式張ったものではなくて、実に直接且つ具体的なので困る!」
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
武内たけのうちつたのは、新著百種しんちよひやくしゆ挿絵さしゑたのみに行つたのがゑんで、ひど懇意こんいつてしまつたが、其始そのはじめより人物にれたので
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ピーシチク (驚嘆して)こりゃ、どうだ! いや、あなたは魔女か妖精ようせいか、シャルロッタさん……わしはすっかりあんたにれましたよ……
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それにしても好いたのれたのというようなもしくはそれに似た柔くあたたかな感情を起し得るものとは、夢にも思って居なかった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仰向いてつばを吐くのはやめるものよ。だけど、あんたが船長になると、今度は、ほんとに純粋な生娘が、あんたにれてよ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
伊豆伍夫婦がれこんで、似合いの夫婦だ、内裏雛だいりびなだと、うつくしいものを二つ並べる興味に、まず親達のほうが騒ぎ出した、と前にいった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おまえ、なんだってそんな目をして僕を眺めるんだい? そりゃあ、イワンはあの女にれこんでしまったのさ、そして今でも惚れているよ。
その女にね(栗原さんは一寸云いしぶって、頭をかくのです)実は私はれていたのですよ。しかもそれが、恥しながら片思いという訳なんです。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
世に処して成功しようと思うには女房にれなくては不可いかんと言われたそうですが、誠にあじわうべき言葉で、気に食わぬ点はなるべく寛大に見て
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ナライ小碓皇子おうすおうじの故智をならい、花恥ずかしき美女に化けて往くと、ノンテオクたちまちれて思いのありたけ口説くどく。
どうしたわけで、あんな出来そくないの、野郎のくせに、内股にあるいているような奴にれたかねえ——おかげで、いのちを取られかかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
老人連、全然すっかりれ込んでしまった。いつにも大河、二にも大河。公立八雲やくも小学校の事は大河でなければ竹箒たけぼうき一本買うことも決定きめるわけにゆかぬ次第。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
せいはスラリとして痩型やせぎすの色の白い、張りのいい細目の男らしい、鼻の高い、私の眼からもれとするような、ねたましいほどの美男子であった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
預けてあるげっちょろけたお椀に、飯や汁を一緒に盛って食いながら、私の読む講談にれるのが習慣であった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
れているという単純な言葉がなかなか思いつかなかった。嫌悪しているものに逆に引きつけられるという自虐のからくりには気がつかなかった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
この荒療治のおかげで、不幸にも蘇武は半日昏絶こんぜつしたのちにまた息を吹返した。且鞮侯そていこう単于はすっかり彼にれ込んだ。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
大坂ダイハンよ、お前はれている女から、いつも馬鹿と呼ばれているんだぞ」と罵り、そこで皆から、ひとしきり嘲笑の雨。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
夏ともなれば、ボタンの穴に大きな花束をさしているが、きっとこれは、だれか彼にれた田舎娘の贈り物であろう。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
「イエもう、わざの上の工夫くふうげていたと解りますれば何のこともございません。ホントにこの人は今までに随分こんなこともございましたッけ。」
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ああそれはい男よ。どうやらあたしも夢中になりそうだわ。でもどうだっていい、あたしブラシュヴェルに、あんたにれてるって言っておくの。
身のおいといふにはあらね、おのれまた若しともなし。さやけさはかかる夜ながら、見のれむ光にあらず、杉木立青きはあれど、隣山となりやま早やも痩せたり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かくおそろしい傾倒のしようなのです。全くれ込んでいるのです。イタリアでは就中なかんずくヴェネチアが好なのです。