悶絶もんぜつ)” の例文
稚児輪ちごわ姿すがたの牛若丸が笛にしめりを与えると同時に、突然苦悶くもんのさまを現わして、水あわを吹きながら、その場に悶絶もんぜついたしました。
伊那丸いなまるの馬は、ひづめって横飛びにぶったおれた。咲耶子さくやこは、竿立さおだちとなったこまのたてがみにしがみついて、ほのおのまえに悶絶もんぜつした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忠作が武者振むしゃぶりつくのを一堪ひとたまりもなく蹴倒けたおす、蹴られて忠作は悶絶もんぜつする、大の男二人は悠々ゆうゆうとしてその葛籠を背負って裏手から姿を消す。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あの男は唯のペングイン鳥になり、氷山ひようざんあひだを歩いてゐた。そのうちに烈しい暑さの為にとうとう悶絶もんぜつして死んでしまつた。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
銀町の大工の棟梁伊兵衛、暗い路の片側に仰向けに倒れて、足を溝へおとしたまま、手に小砂利をつかんで悶絶もんぜつしていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
落ちかけた時調子の取りようが悪かったので、棒が倒れるように深いみぞにころげこんだ。そのため後脳こうのうをひどく打ち肋骨ろっこつを折って親父は悶絶もんぜつした。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ほのぼのとした生の感覚や、少年の日の夢想が、まだその部屋には残っているような心地ここちもした。だが彼は悶絶もんぜつするばかりに身をこわばらせて考えつづけた。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
いしの躯が痙攣けいれんを起し、すぐに嘔吐おうとが始まった。形容しようのない不快な(それが毒物なのだろう)匂いがあたりにひろがり、いしは悶絶もんぜつするかのようにうめいた。
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは、その真赤な硬い藻を両手ですくいあげたその所員は、急に両手をふるわせ、悶絶もんぜつしてしまった。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
麻油は驚いた。が非力ひりきな伊豆をいっぺんにね返すと、あべこべに伊豆の首筋をとらえて有無を云わせずにめつけた。伊豆はばたばたもがいて危く悶絶もんぜつするところまでいった。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そうしてひらひらと女房の眼のさきへ舞って来ると、女房は声も立てずに其の場に悶絶もんぜつした。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私の赤黒い変な顔を見ると、あまりの事に悶絶もんぜつするかも知れない。悶絶しないまでも、病勢が亢進こうしんするのは、わかり切った事だ。できれば私は、マスクでも掛けて逢いたかった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
聞いてたけり立ち悶絶もんぜつして場外にかつぎ出されるクサンチッペはなぶさ太郎君のあとを追うて
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
物言わぬ夫の遺筐いきょうを、余人の衣類のごとくしばらく折目をさすりておりしが、やがて正気にかえりし時は、早や包みをいだきしめて悶絶もんぜつしたり、げに勇蔵は田原坂たばるざかの戦官軍大敗の日に
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
打けるにウンと言て其まゝ悶絶もんぜつなせしかば茂助は驚き先生せんせい苛酷ひどいことをされたり夫では爰には居ぬにちがひも有めへかたき幸手さつての三五郎と知れてゐるからは先々親分の死骸を葬り相手に油斷を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
物を言はず悶絶もんぜつする千之助を、三人の荒くれた男が、引攫つて肩に引つ擔ぎました。
私はそれらの器から悶絶もんぜつの声を聞いている。なぜかくも病むかを訴えているのだ。そこにはこの世へののろいが含まれ、救いへの求めが響いているのだ。私は聞き流すわけにはゆかない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
悶絶もんぜつするような苦しみの中から、葉子はただ一言ひとことこれだけを夢中になって叫んだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
便すなはち宮の夫の愛を受くるを難堪たへがたく苦しと思知りたるは、彼の写真の鏡面レンズの前に悶絶もんぜつせし日よりにて、その恋しさに取迫とりつめては、いでや、この富めるに饜き、ゆたかなるにめる家を棄つべきか
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
事実は菅公のたゝりを気に病む餘り病気に取りかれ、枕許まくらもとに験者を招いて薬師経を読み上げさせていたところ、経の中に宮毘羅くびら大将と云う文句があったのを、「汝をくびる」と聞き違えて悶絶もんぜつ
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
葛木はなおすがる袖をお孝に預けたまま、つまずいて悶絶もんぜつした小児を抱いた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よ、松島はヒシと左眼を押へて悶絶もんぜつす、手を漏れて流血淋漓りんりたり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
奇怪な悶絶もんぜつしそうな生きかた! そして一文の金もないのだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
あまりに神気をらし過ぎどうやらこれは悶絶もんぜつしそうだ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただれたる眩暈くるめき三度みたび、くわつとして悶絶もんぜつすれば
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
悶絶もんぜつするような声を私は出した。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
その場に悶絶もんぜつしてしまった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
呻吟しんぎんと、叫びと、悶絶もんぜつ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
たちまち水あわを吹いてその場に悶絶もんぜつしてしまいましたものでしたから、同時に右門の口から裁断の命令が発せられました。
よく神降りをやる巫女が、いちど悶絶もんぜつして、それから、うわ言のように、神のことばをしゃべり出す——あのときの凄味すごみをもった顔なのである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娘はまもなく悶絶もんぜつした。すると、娘の片方の足を押えていた女が、突然、悲鳴をあげて暴れだした。行者はその女を指さして、「狐はこの女に移った」と云った。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
寂静ではあるけれども、弁信の面の上には、苦痛のあとと悶絶もんぜつの色は現われてはいないのです。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もし彼女が、ひとめその笛の音の主の姿を見たならば、きゃっと叫んで悶絶もんぜつするに違いない。芸術家はそれゆえ、自分のからだをひた隠しに隠して、ただその笛の音だけを吹き送る。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
二度目に蹴上げたとき、ハルクは、うんとうなって、その場に悶絶もんぜつしてしまった。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はたや、太皷たいこ悶絶もんぜつつらなりはし槍尖やりさき
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
忽ちに警固けいごの者に引据ひきすゑられ悶絶もんぜつなさぬ計りなりやゝつて泣聲なきごゑ出し是申長庵殿御死おしになされし其後にて私したくれいなどに御出おいでなさるには及びませぬ私しとても御前おまへには何のうらみもなけれども八ヶ年の其むかし天神樣の裏門前であひたる事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ひとりが腰縄こしなわをさぐるすきに、ふいに、忍剣の片足がどんと彼の脾腹ひばらをけとばした。アッと、うしろへたおれて、悶絶もんぜつしたのを見た、べつなさむらい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぐうう——と長い音を立てながら、六尺入道玄長法師がもろくも悶絶もんぜつしながら、長いうえにも長く伸びたのを見ますと、荷物にしていた女にはこぶし当ての一撃!
妻の顔は血のけをうしなって硬ばり、固く歯をくいしばっていた。悶絶もんぜつしたのであった。……高雄は茶碗に水をんで来て、妻を抱き起して、くいしばった歯の間から口の中へ注ぎ入れてやった。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こんなことをりかえしたものだから、博士はついに悶絶もんぜつしてしまった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
見る見る野辺のべに渦巻きて悶絶もんぜつすれば
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
以て百ばかつゞけ打に打せければあはれむべし傳吉は身のかはやぶにくさけて血は流れて身心しんしん惱亂なうらんし終に悶絶もんぜつしたるゆゑ今日のせめは是迄にて入牢じゆらうとなり之より日々にせめられけるが數度の拷問がうもんに肉落て最早こしも立ずわづかに息のかよふのみにて今は命のをはらんとなす有樣なり爰に於て傳吉思ふやうかゝ無體むたいの拷問はひとへに上臺憑司が役人とはら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、お袖をとらえて叩き伏せた。泣き狂い、泣きさけぶのを、わけもたださず、二つ三つ、足蹴あしげをくれて、悶絶もんぜつさせた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふとそこに横笛が——その息穴をなめたために牛若が悶絶もんぜつするにいたりましたその横笛がころがっているのを発見すると、突然伝六に向かって、いつもの右門がするごとく
元帥は、チューインガムを、くちゃくちゃみつつ、女史の報告に耳を傾けていたが、それから間もなく、彼はどうしたものか、うんといって、両手で虚空をつかむと、その場に悶絶もんぜつしてしまった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
銀五郎の浴衣ゆかたである、傷口から血の流るるに任せたため、あたりを血の池のように染めて悶絶もんぜつしてしまったらしい。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さわやかな京弥の声が飛んだとき、すでに対手はタンポ槍をにぎりしめたまま、急所の脾腹ひばらに当て身の一撃を見舞われて、ドタリ地ひびき立てながらそこに悶絶もんぜつしたあとでした。
と彼が呻きながら、その場に悶絶もんぜつした。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あッ」と、縄尻をほうりだして、逃げかけた捕手も、すねを払われて前へのめった。残るひとりは、源次が夢中で蹴とばした足の先に、脾腹ひばらをかかえて悶絶もんぜつした。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妻は悶絶もんぜつせんばかり、なお良人おっとの膝にしがみついて慟哭どうこくする。その間にも、護送の役人は、軒を叩いて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)