ゆき)” の例文
○こゝに我が魚沼郡うをぬまごほり藪上やぶかみの庄の村より農夫のうふ一人柏崎かしはざきえきにいたる、此路程みちのり五里ばかりなり。途中にて一人の苧纑商人をがせあきびとひ、路伴みちづれになりてゆきけり。
船が伊東の海岸を離れる頃は、大島がかすかに見えた。その日は、ゆきの時と違って、海上一面に水蒸気が多かった。水平線の彼方かなたは白く光った。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
きゝ成程なるほど何時いつ迄當院の厄介やくかいなつても居られず何分にも宜しくと頼みければ感應院も承知なして早速さつそくかの片町の醫師方へゆきみぎはなし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……そのゆきかえりか、どっちにしろ切符の表に、片仮名の(サ)の字が一字、何か書いてあると思いますか。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それもきいたのよ。——すると、滝山さんは変な顔をして、確かにたった二人っきりだって言うのよ。そして、ゆきにも帰りにも映画館でも、誰にも逢わなかったって」
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
... 今大王ゆきかれを打取たまはば、これわがための復讐あだがえし、僕が欣喜よろこびこれにかず候」トいふに金眸いぶかりて、「こはしからず。その意恨うらみとは怎麼いかなる仔細しさいぞ、苦しからずば語れかし」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
毎日学校へのゆきかへりに提灯の名を早くもそらんじ女同士が格子戸こうしどの立ばなしより耳ざとく女の名を聞きおぼえて、これを御神燈の名に照し合すほどに、いつとなく何家の何ちやんはどんな芸者といふ事
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
でぬ約束やくそくつじゆきかへりつてどもまてども今日けふはいかにしけんかげえずれにかんもうしろめたしなにとせんかならたまふな我家わがいへられんははづかしとて丁所ちやうどころつげたまはねどさき錦野にしきのにてそれとなくきしはうろおぼえながらおぼえありしおいかりにふれゝばそれまで
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
○こゝに我が魚沼郡うをぬまごほり藪上やぶかみの庄の村より農夫のうふ一人柏崎かしはざきえきにいたる、此路程みちのり五里ばかりなり。途中にて一人の苧纑商人をがせあきびとひ、路伴みちづれになりてゆきけり。
出窓の硝子越がらすごしに、娘の方がゆきかえりの節などは、一体傍目わきめらないで、竹をこぼるる露のごとく、すいすいと歩行あるふり、打水にもつまのなずまぬ、はで姿、と思うばかりで
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見付てヤア/\皆々みな/\はやきてなアレ紙くづ買がきつねばかされて田圃のなかで屑はござい/\と呼で一ツ所をゆきたりたりしてるがいし投付なげつけやらうと云に子供等は追々おひ/\馳集はせあつまり是は可笑をかしい/\と手に/\石を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我れ幼年えうねんころはじめて吉原を見たる時、黒羽二重に三升の紋つけたるふり袖をて、右の手を一蝶にひかれ左りを其角にひかれて日本づゝみゆきし事今にわすれず。
図書 以後、お天守したゆきかいには、誓って礼拝をいたします。——御免。(つっと立つ。)
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふに中村市之丞取次とりつぎとして出來れば次右衞門申やう町奉行まちぶぎやう大岡越前守使者ししや平石次右衞門天一坊樣御重役ぢうやく山内伊賀亮樣に御目通めどほり致し申上度儀御座候此段御取次下さるべしと有に市之丞此旨このむね伊賀亮へ申つうじけるに伊賀亮熟々つら/\思案しあんするに奉行越前病氣びやうき披露ひろうし自分に紀州表へ調しらべに參りしに相違さうゐなし然ばゆき三日半歸り三日半調しらべに三日かゝるべし越前病氣引籠びやうきひきこもりより今日は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我れ幼年えうねんころはじめて吉原を見たる時、黒羽二重に三升の紋つけたるふり袖をて、右の手を一蝶にひかれ左りを其角にひかれて日本づゝみゆきし事今にわすれず。
ゆきには、なんにも、そんなやつなかつたんです。もつと大勢おほぜい人通ひとゞほりがありましたからかなかつたかもれません。かへり病院びやうゐん彼方あつちかどを、此方こつちまがると、其奴そいつ姿すがたがぽつねんとしてひとツ。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
友人いうじんいはく、我がしたしき者となり村へ夜話よばなしゆきたるかへるさ、みちかたはら茶鐺ちやがまありしが、頃しも夏の事也しゆゑ、農業のうげふの人の置忘おきわすれたるならん、さるにてもはらあしきものはひろかくさん
きふなんだかさびしくつて、ゑひざめのやうな身震みぶるひがた。いそいで、燈火ともしびあて駆下かけおりる、とおもひがけず、ゆきにはおぼえもない石壇いしだんがあつて、それ下切おりきつたところ宿やどよこながれるるやうな谿河たにがはだつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
寺へ預けて、ゆきかえり、日の短い時の事です。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)