家鴨あひる)” の例文
馬や牛や羊はいうに及ばず、鶏や家鴨あひるなどの鳥類や、それから気味のわるいへびわに蜥蜴とかげなどの爬蟲類はちゅうるいを入れた網付の檻もあった。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
または藝者や素敵な美人や家鴨あひる……引ツくるめていふと、其等の種々の人や動物や出來事が、チラリ、ホラリと眼に映ツてそして消えた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
『それはわかつてる、大方おほかたかはづむしぐらゐのものだらう』とつて家鴨あひるは『しかし、ぼくくのは大僧正だいそうじよううしたとふのだ?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しかし家鴨あひるの血を絞ってその血で家鴨の肉を煮る料理とか、大鰻をぶつ切りにして酢入りのゼリーで寄る料理とかは鼈四郎は始めてで
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
最近私は烏や、豚や、家鴨あひるや、こうしの叫び声を完全に真似する行商人に逢った。また私は、気のいい一人の老人(図271)を写生した。
画はやはり田舎の風景で、ゆるやかな流れの岸に水車小屋があって柳のような木の下に白い頭巾をかぶった女が家鴨あひるに餌でもやっている。
森の絵 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そら、滝の湯の横に、岩に掘った小さな池があって、家鴨あひるを飼っている家があるでしょう。あの池の中に、沢山金魚がいるのよ。
機関車 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
雛鶏ひなどり家鴨あひると羊肉の団子だんごとをしたぐし三本がしきりにかやされていて、のどかに燃ゆる火鉢ひばちからは、あぶり肉のうまそうなかお
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
百姓家ひゃくしょうや裏庭にわで、家鴨あひるなかうまれようとも、それが白鳥はくちょうたまごからかえ以上いじょうとりうまれつきにはなんのかかわりもないのでした。
と言つて、薬を飲まされる家鴨あひるのやうに、しつかり口をつぐんだが、物の三十分も経つたと思ふ頃、急にはじけるやうに笑ひ出した。
家鴨あひると雞とは随処に出没するので殆ど無数という外はなく、尚、別におびただしい野良猫共が跋扈ばっこしている由。野良猫は家畜なりや?
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
店いっぱいに拡ったびついた錠が、つるのように天井まで這い上り、隣家の鳥屋に下った家鴨あひるの首と一緒になって露路の入口を包んでいる。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
くちばしでない嘴、翼でない翼、みずかきでない蹼、足でない足、笑いたくなるような悲しい泣き声、そういうもので家鴨あひるは成り立ってる。
黄泥こうでいの岸には、薄氷が残っている。枯蘆かれあしの根にはすすけたあぶくがかたまって、家鴨あひるの死んだのがその中にぶっくり浮んでいた。
日光小品 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ほう、この家鴨あひるの嘴みたやうな金具は、こりや何かな。ほう、こりやよく光る小刀だな。こんなに何本も何に使ふのかな」
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
突きおとされた豆腐屋の末っ子は落下しながら細長い両脚で家鴨あひるのように三度ゆるく空気を掻くようにうごかして、ぼしゃっと水面へ落ちた。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
ドイツの俚説に灰上に家鴨あひるや鵞の足形を印すれば、罔両もうりょうありと知るという(タイラー『原始人文篇』二板、二巻一九八頁)。
伸子はリボン一巻と、白レイステーブル掛と、可愛い家鴨あひるの子の玩具を二つ買った。安川は伸子の子供らしい買物を見て
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
逃げ出すといっても足の不自由な友造だから、早速には逃げられないで家鴨あひるのような恰好かっこうをして駈け出しました。女はそれきり追いもしないで
亭主と連立って、私達は小屋の周囲まわりにある玉菜畠、葱畠、菊畠などの間を見て廻った。大根乾した下の箱の中から、家鴨あひるが二羽ばかり這出はいだした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山も酔い、波も歌い、馬や羊や家鴨あひるまでも踊り出しそうな“遊びの日”が、一日あるひここの泊内を世間知らずな楽天地にした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無論この川で家鴨あひる鵞鳥がちょうがその紫の羽や真白な背を浮べてるんですよ。この川に三寸厚サの一枚板で橋がかっている。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
目のはやい君ちゃんがみつけたのは、白い家鴨あひるの小屋のような小さな酒場だった。二階の歪んだ窓には汚点しみだらけな毛布が太陽にてらされている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
鶏でも家鴨あひるでもうずらでもつばめでも何の卵でも好き自由に孵化かえります。玉子五十個入で三十円も出せば軽便なのがあります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
家鴨あひるや鶏も飼おう、近所の人を招いたり、貧しいお百姓の療治をしてやったり、本を頒けてやったりもしよう……。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼はおのが生活のいかなる場合のための音楽をも皆こしらえ出していた。朝、家鴨あひるの子のように、たらいの中をかき回す時のためにも、音楽をもっていた。
その家には人間と豚と犬と鶏と家鴨あひるが住んでいたが、まったく、住む建物も各々の食物もほとんど変っていやしない。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
代議士と選挙民とはにわとり孵化ふかされた家鴨あひるひなが水に入って帰らないように、たちまちに代議士は権力階級へ、選挙民は屈従階級へと分れて千里の距離を生じ
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「じゃ、こんどは家鴨あひるをご覧になりませんか? 池に放し飼いにしてあるんですよ。どうです。散歩がてらに」
博士の目 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
えんへ立って見ると、どうやら、河口へ出た家鴨あひるを、通りがかりの小舟が、網を投げかけたので、驚ろいて橋の下を越して、沖へ出ていったものらしかった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
家鴨あひる天空そらがどうしてべませう。それども一生懸命いつしやうけんめいとびあがらうとしてんでみたが、どうしても駄目だめなのできだし、きながら小舎こやにかへりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
八蔵は農家の伜であるが、家には兄弟が多いので、彼は農業の片手間に飼いどり家鴨あひるなどを売り歩いていた。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、今、相手が買ったばかりの家鴨あひるくちばしを見せる。両手は品物を売るために明けて置かなければならないので、彼女は足でそれを絞め殺しているのである。
隣の家鴨あひるが二羽迷い込んだ。めすは捕えて渡したが、雄がゆかの下深く逃げ込んで、ドウしてもつかまらない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「それそれ、わたしもそう思っておりましたんですよ、ここへ呼んでやろうとね」とアクシーニヤは釘をさして、よちよち家鴨あひるのように庭木戸の方へ歩み去った。
桃の咲きはじめてゐる、そして家鴨あひるの泳いでゐる徐州あたりの川べりで、手でも洗つて休んでゐるところだらう、両袖りやうそでをたくし上げて小ざつぱりと立つてゐる姿なのだ。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
左右の岸には土筆つくしでも生えておりそうな。土堤どての上には柳が多く見える。まばらに、低い家がその間から藁屋根わらやねを出し。すすけた窓を出し。時によると白い家鴨あひるを出す。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
およしなさいっていうのもきかないで、お友達の狐が、る家の家鴨あひるを盗もうとしたので、お百姓ひゃくしょうに見つかって、さんざ追いまくられて、命からがら逃げたことでした。
手袋を買いに (新字新仮名) / 新美南吉(著)
いまや、雄鶏おんどりも、雌鶏めんどりも、七面鳥、鵞鳥がちょう家鴨あひるに加えて、牛や羊とともどもに、みな死なねばならぬ。十二日間は、大ぜいの人が少しばかりの食物ではすまさないのだ。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
ひげへても友達ともだち同士どうしあひだ無邪氣むじやきなもので、いろ/\のはなしあひだには、むかしとも山野さんや獵暮かりくらして、あやまつ農家ひやくしやうや家鴨あひる射殺ゐころして、から出逢であつたはなしや、春季はる大運動會だいうんどうくわい
町と村との境をかぎった川には、あし白楊やなぎがもう青々と芽を出していたが、家鴨あひるが五六羽ギャアギャア鳴いて、番傘とじゃがさとがその岸に並べて干されてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「旦那。うちで家鴨あひるは飼いなさらんか。裏の川にはなして置けば、なんの面倒もらんですど」
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
就中世子の側に仕えているものは、一層謹慎しているから、外へ出て酒を飲むといっても、その頃から流行出した、軍鶏しゃもとか家鴨あひるとかの鍋焼き店へ行く位のものであった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
それから彼は、池に家鴨あひるを四五羽飼おうかと思ってることを打ち明けました。それは、彼よりも寧ろ孫の信生の望みでありました。——恒吉はもう五十歳を越していました。
白き家鴨あひる、五羽ばかり、一列に出でて田の草の間をあさる。行春ゆくはるかげを象徴するもののごとし。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
池では家鴨あひるが時々羽搏き、植込の葉影で寝とぼけた夜鳥が、びっくりしたように時々啼いた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なほ、近所の百姓たちに簡便に出来る蔬菜そさいの速成栽培のやりかたを教へたり、子供のある家では子供の内職として家鴨あひるを飼ふやうにといふやうな事を奨励してあるいたりした。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
昼は邸の裏の池に鉄網かなあみを張って飼ってある家鴨あひる家鶏にわとりいじったり、貸し本を読んだりして、ごろごろしていたが、それにもんで来ると、お庄をいびったり、揶揄からかったりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それを日本通のアメリカ人がよろこんで、家鴨あひるが餌を食うみたいにガボガボ食っている。
人身ひとだけよりも高い蘆が茂りに茂って、何処に家があるとも分らぬが、此あたりを通って居ると、蘆の中から突然だしぬけ家鴨あひるの声が聞えたり、赤黒い網がぬっと頭を出して居たり、または
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)