大胡坐おおあぐら)” の例文
梯子段はしごだん踏轟ふみとどろかして上ッて来て、挨拶あいさつをもせずに突如いきなりまず大胡坐おおあぐら。我鼻を視るのかと怪しまれる程の下眼を遣ッて文三の顔を視ながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何百年かわからない古襖ふるぶすまの正面、板ののようなゆか背負しょって、大胡坐おおあぐらで控えたのは、何と、鳴子なるこわたし仁王立におうだちで越した抜群ばつぐんなその親仁おやじで。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多分おおかた小鼻怒らし大胡坐おおあぐらかきて炉のはたに、アヽ、憎さげの顔見ゆる様な、藍格子あいごうしの大どてら着て、充分酒にもあたたまりながらぶんを知らねばまだ足らず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お町はちょっとも引きそうにありません、——それどころか、長火鉢の向うへ、女だてらに大胡坐おおあぐらをかくと、お楽の手から猪口をむしり取ります。
とお藤からそれを手渡された伝吉は、腰が抜けたようにどッかと大胡坐おおあぐらをかいて、封を切る手さえふるえていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六十本の大小を床の間にたばで立て掛け、その前に大胡坐おおあぐらの月輪軍之助を上座に、ズラリと円くいながれて、はや酒杯が飛ぶ、となりの肴を荒らす、腕相撲
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
などと追々増長して、師匠の布子どてらを着て大胡坐おおあぐらをかいて、師匠が楊枝箱ようじばこをあてがうと坐ってゝ楊枝をつかうがいをするなどと、どんな紙屑買が見ても情夫いゝひととしか見えません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
正面に雲竜うんりゅう刺青ほりものの片肌を脱いで、大胡坐おおあぐらを掻いた和尚の前に積み上げてある寺銭が山のよう。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
井村、溝部は刀を提げたまま、横柄おうへいに座敷へ通る。揚屋へは刀禁制であるが、壬生といえば刀のまま上る。井村は、大胡坐おおあぐらをかいて、酒を命じ、芸子げいこ太夫たゆうを呼びにやる。
ずっと以前には長い立派なひげいかめしそうにはやした小父さんであった人がそれをり落し、涼しそうな浴衣ゆかた大胡坐おおあぐら琥珀こはくのパイプをくわえながら巻煙草をふかし燻し話す容子ようす
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
座敷へ這入はいって見ると驚いたのは迷亭先生まだ帰らない、巻煙草まきたばこの吸い殻を蜂の巣のごとく火鉢の中へ突き立てて、大胡坐おおあぐらで何か話し立てている。いつのにか寒月君さえ来ている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と団さんはそんな事情には頓着なく大胡坐おおあぐらをかいたまゝ箸を執った。尤もきちんと坐っているものは一人もいない。星野さんまで立膝をして爪先に貧乏揺りという奴を演じさせている。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
鏡一台の前にはいずれも女が二、三人ずつ繍眼児押めじろおしに顔を突出つきだして、白粉おしろい上塗うわぬりをしたり髪の形を直したり、あるいは立って着物を着かえたり、大胡坐おおあぐら足袋たびをはきえたりしているのもある。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
容易にしびれの切れないように大胡坐おおあぐらをかいてしまったのである。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その時、の四隅をめて、真中処まんなかどころに、のッしりと大胡坐おおあぐらでいたが、足を向うざまに突き出すと、膳はひしゃげたように音もなくくつがえった。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長谷倉甚六郎は、入口の二畳に大胡坐おおあぐらをかくと、肌おしひろげて、一刀をわれとわが腹に突っ立てていたのでした。
奥では久米一、おそろしく華麗な部屋に、南蛮なんばん渡りの縞衣しまぎぬを着て、厚いふすまの上に大胡坐おおあぐらをかいていた。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部屋の中央に、むこう向きに大胡坐おおあぐらをかいて大盃をあおっているぼろあわせに総髪の乞食先生……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
奥の間の障子を開けて見ると、果して昇があそびに来ていた。しかも傲然ごうぜん火鉢ひばちかたわら大胡坐おおあぐらをかいていた。そのそばにお勢がベッタリ坐ッて、何かツベコベと端手はしたなくさえずッていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
火鉢のそばへすぐまたもどってたちまち鉄瓶に松虫のおこさせ、むずと大胡坐おおあぐらかき込み居る男の顔をちょっと見しなに、日は暖かでも風が冷たく途中は随分ひえましたろ、一瓶ひとつ煖酒つけましょか
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其の座敷をそっと覗いて見ると、客の坊主がおすみの部屋着を着て、坊主頭に鉢巻をして柱に倚掛よっかゝって大胡坐おおあぐらをかいて、前にあるのアみんなまぐさ物、鯛の浜焼なぞを取寄せて、それに軍鶏しゃもなんぞくらって
あなた——どうでしょう、天狗様の方が股が裂けそうな大胡坐おおあぐらで、ずしんと、その松の幹へよりかかると、大袈裟な胡坐ッたら。あれなんですよ。
大胡坐おおあぐらをかいた泰軒居士が、じっと眼をつぶっているのは、今、柳生対馬守の嘱望しょくもうもだしがたく、命を賭けて神馬の像をきざもうと、このたびの日光造営にくわわっていったあの作阿弥を
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まあまあ此方こちへといざなえば、ずっと通って火鉢の前に無遠慮の大胡坐おおあぐらかき、汲んで出さるる桜湯を半分ばかり飲み干してお吉の顔を視、面色いろが悪いがどうかしたか、源太はどこぞへ行ったのか
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
黒木の太柱に神代杉ずくめの原始的なやかたではあるが、ふすま衝立ついたての調度物は絢爛けんらんなほどぜいをつくした山荘の一室に、雨龍太郎は厚いしとね大胡坐おおあぐらをかいて、傍らにいる一人の浪人を顧みて、こう云った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と廊下で別れて、一人が折曲おりまがって二階へ上る後から、どしどし乱入。とある六畳へのめずり込むと、蒲団も待たず、半股引はんももひきの薄汚れたので大胡坐おおあぐら
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かまうことはない大胡坐おおあぐらで楽にいてくれ、とおずおずし居るを無理に坐にえ、やがて膳部も具備そなわりし後、さてあらためて飲み干したる酒盃さかずきとって源太はし、沈黙だんまりで居る十兵衛にむかい、十兵衛
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大胡坐おおあぐらの泰軒先生へ向かって、初対面の挨拶をはじめていた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
両膚脱りょうはだぬぎの胸毛や、大胡坐おおあぐらの脛の毛へ、夕風がさっとかかって、悚然ぞっとして、みんなが少し正気づくと、一ツ星も見えまする。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妙なことをすると思うと、内へ帰って、どたり大胡坐おおあぐらを掻込んでね、あかりは店だけの、薄暗い汚い六畳で、その茶碗のふちを叩きながら、トテトンツツトン
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉄蔵はのさのさ入りて大胡坐おおあぐら。「これでも子持の親父様とっさんだ。」「そういやあ竹坊はどうした。二三見えねえぜ。」「彼奴あいつあ、こかしたよ。」と平気でう。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあ、それから米坊をかつぎ込んで、ちょうど縁端えんばな大胡坐おおあぐらをかいて毛抜をいじくってやあがった、鯰の伝をふんづかまえて、思うさま毒づいたとお思いなさいよ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるにさかさまに伏してのぞかぬ目には見えないであろう、尻ッこけになったいわおの裾に居て、可怪あやしい喬木の梢なる樹々の葉をしとねとして、大胡坐おおあぐらを組んだ、——何等のものぞ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぜというに、いま、樹立こだちの中を出ますと、高縁の突端とっぱしに薄汚れたが白綸子しろりんず大蒲団おおぶとんを敷込んで、柱を背中に、酒やけの胸はだけで、大胡坐おおあぐらいたのはやぶの中の大入道。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いよ、いよ、かまやしないや、ひとりで遊んでら。」と無雑作むぞうさに、小さな足で大胡坐おおあぐらになる。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
過日いつぞやその温習さらいの時、諸事周旋顔に伝六木戸へ大胡坐おおあぐらを掻込んでいて、通りかかった紋床を、おう、と呼留め、つい忙しくって身が抜けねえ、切前にゃあ高座へ上るのだから
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こいつをつえというていで、客は、箸を割って、ひじを張り、擬勢を示して大胡坐おおあぐらどうとなる。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其奴そいつ間夫まぶだか、田楽だか、頤髯あごひげすさまじい赤ら顔の五十男が、時々長火鉢の前に大胡坐おおあぐらで、右の叔母さんと対向さしむかいになると、茶棚わきの柱の下に、櫛巻の姉さんが、棒縞ぼうじまのおさすり着もの
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……どんなお酒だったでしょうね、熱い甘露でしょう、……二三杯あがったと思うと、凍った骨、枯れた筋にも、一斉いっときに、くらくらと血がいて、積った雪をひっかけた蒲団ふとんの気で、大胡坐おおあぐら
いややがて、この鯉を料理して、大胡坐おおあぐらで飲む時の魔神の姿が見せたいな。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあ、出して渡してくれ、否と言うが最後だ。とどっかと坐して大胡坐おおあぐら
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何じゃい。」と片手に猪口ちょくを取りながら、黒天鵝絨くろびろうど蒲団ふとんの上に、萩、菖蒲あやめ、桜、牡丹ぼたんの合戦を、どろんとした目で見据えていた、大島揃おおしまぞろい大胡坐おおあぐらの熊沢が、ぎょろりと平四郎を見向いて言うと
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大胡坐おおあぐら掻きたるが笑いながら言示いいしめせり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は大胡坐おおあぐらで胸を開けた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)