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夥
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おびただ
ふりがな文庫
“
夥
(
おびただ
)” の例文
吾々に支払う蚊の涙ほどの鑑定料が惜しいのかも知れないが、余計なところには一切
喙
(
くちばし
)
を
容
(
い
)
れさせないのだから詰まらない事
夥
(
おびただ
)
しい。
無系統虎列剌
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
怪漢の帽子といわず、
襟
(
えり
)
をたてたレンコートの肩先といわず、それから怪漢の顔にまで
夥
(
おびただ
)
しい
血糊
(
ちのり
)
が飛んでいた。大した獲物だった。
人間灰
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
何時
(
いつ
)
でも
夥
(
おびただ
)
しい崇拝者の群れが——日本風に言うと狼連が——取り巻いて居るという噂も、深井少年は充分に知り尽して居りました。
焔の中に歌う
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
ましてこの竹生島の周囲は、深いことに於て、竹生島そのものが
金輪際
(
こんりんざい
)
から浮き出でているというのだから、始末の悪いこと
夥
(
おびただ
)
しい。
大菩薩峠:39 京の夢おう坂の夢の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
さか
鱗
(
うろこ
)
を立てて、
螺旋
(
らせん
)
に
蜿
(
うね
)
り、
却
(
かえ
)
つて石垣の穴へ引かうとする、
抓
(
つか
)
んで飛ばうとする。
揉
(
も
)
んだ、揉んだ。——いや、
夥
(
おびただ
)
しい
人群集
(
ひとだかり
)
だ。
妖魔の辻占
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
ザクザクと融けた雪が
上面
(
うはつつら
)
だけ凍りかかつて、
夥
(
おびただ
)
しく歩き悪い街路を、野村は寒さも知らぬ如く、
自暴
(
やけ
)
に
昂奮
(
たかぶ
)
つた調子で歩き出した。
病院の窓
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
そして、そこに光っている
夥
(
おびただ
)
しい眼の中には、どれもこれも、
朴訥
(
ぼくとつ
)
な誠意があふれて、微塵でも、彼の正体を疑うものはありません。
パノラマ島綺譚
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
一階南側に
列
(
なら
)
んでいる窓が恰も巨大な
閘門
(
こうもん
)
のように
夥
(
おびただ
)
しい濁流を奔出させているのであったが、あの小学校が
彼処
(
あそこ
)
に見えるとすると
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
武蔵は
怒
(
いか
)
ったが、間に合わなかった。役人たちの身支度からして物々しかったが、行くほどに
途々
(
みちみち
)
屯
(
たむろ
)
していた捕手の
夥
(
おびただ
)
しさに驚いた。
宮本武蔵:07 二天の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
見て居ると、其
夥
(
おびただ
)
しい
明光
(
あかり
)
が、さす息引く息であるかの様に
伸
(
の
)
びたり縮んだりする。其明りの中から時々
電
(
いなずま
)
の様な
光
(
ひかり
)
がぴかりと
騰
(
あが
)
る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
諦念! 何たる悲しい
隠
(
かく
)
れ
家
(
が
)
だ! しかも、それのみが今の僕に残されている唯一の隠れ家だとは!——君の
夥
(
おびただ
)
しい気苦労のただ中へ
ベートーヴェンの生涯:04 ベートーヴェンの手紙
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
、
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
、
フランツ・ゲルハルト・ヴェーゲラー
、
エレオノーレ・フォン・ブロイニング
(著)
夥
(
おびただ
)
しい参詣者の絶えなかったことと、当時その境内が別世界のように
賑
(
にぎ
)
わったということだけは、子供たちでさえよく知っていた。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
秋の夜はしずかで、高いポプラの枝が
微風
(
そよかぜ
)
に揺らいでいます。空は
夥
(
おびただ
)
しい星でした。少年は目をあけてじっとそれをながめました。
フランダースの犬
(新字新仮名)
/
マリー・ルイーズ・ド・ラ・ラメー
(著)
顎から胸へかけて、
夥
(
おびただ
)
しく血を流し、いまはもう、目を逆釣らせてしまった、哀れな男の顔を
窺
(
のぞ
)
き込んで、菊之丞は涙をこぼした。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
日本海を
差挟
(
さしはさ
)
んで露領と相対し、いわゆる裏日本の一部を成します。特に北の方は積雪の量が
夥
(
おびただ
)
しく、しばしば丈余にも達します。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
右側も左側も三段四段に重ねられて、ここもまた店と同じく
夥
(
おびただ
)
しい犬の
古檻
(
ふるおり
)
であった。空の檻もあれば犬のはいっている檻もある。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
これほど
夥
(
おびただ
)
しい馬の中にわが乗る磨墨ほどの逸物はいないと思うと、景季はひとりこみあげる微笑を抑えることが出来なかった。
現代語訳 平家物語:09 第九巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
暗緑色に濁った
濤
(
なみ
)
は砂浜を洗うて打ち上がった藻草をもみ砕こうとする。
夥
(
おびただ
)
しく上がった
海月
(
くらげ
)
が五色の
真砂
(
まさご
)
の上に光っているのは美しい。
嵐
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
そのうちに扁理は、強い香りのする、
夥
(
おびただ
)
しい漂流物に取りかこまれながら、うす暗い海岸に愚かそうに突立っている自分自身を発見した。
聖家族
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
また急速に鉄道を敷設しおるが、これにも被害が
夥
(
おびただ
)
しい。
而
(
しか
)
して女子はこの種の危険性を
帯
(
お
)
べる事業には従わぬから、女子の死傷は無い。
婦人問題解決の急務
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
今川義元の
菩提所
(
ぼだいしょ
)
に家康が幼時
人質
(
ひとじち
)
に来ていたという因縁が
絡
(
から
)
んでいる丈けに道具の品目が
夥
(
おびただ
)
しい。義元公自画自讃という掛物があった。
ぐうたら道中記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
可なり大きく延びた奴を、
惜気
(
おしげ
)
もなく
股
(
また
)
の根から、ごしごし引いては、下へ落して行く内に、切口の白い所が目立つくらい
夥
(
おびただ
)
しくなった。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
しかし案内の話によると渋峠から東南によったところ、ものの貝池の北に寄った方面に積もった火山灰には
夥
(
おびただ
)
しい毒が含まれているそうだ。
魔味洗心
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
普請
(
ふしん
)
も粗末だったが、
日当
(
ひあたり
)
も
風通
(
かぜとおし
)
もよく、樹木や草花の
夥
(
おびただ
)
しく
植
(
うえ
)
てあるのを
我
(
わが
)
ものにして、夫婦二人きりの住居にはこの上もなく思われた。
果樹
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
陳列品の中で思ひがけなかつたのは、ミイラの
夥
(
おびただ
)
しい
蒐集
(
しゅうしゅう
)
であつた。非常に保存がよく、
繃帯
(
ほうたい
)
まで原態をとどめてゐるのも少なくなかつた。
わが心の女
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
家鴨
(
あひる
)
と雞とは随処に出没するので殆ど無数という外はなく、尚、別に
夥
(
おびただ
)
しい野良猫共が
跋扈
(
ばっこ
)
している由。野良猫は家畜なりや?
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
床の間の上には、血が、
夥
(
おびただ
)
しく淀んでいた。そして、確かに、落ちている筈の腕が無かった。南郷は、行燈を置いて、四方を見廻していた。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
産まれた時から死ぬ時まで、無自覚的にしろ自覚的にしろ、とにかく一人の人間が他の生命を奪う数は
夥
(
おびただ
)
しいものと云わなければならない。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
私は
鋸屑
(
おがくず
)
を
膠
(
にかわ
)
で練っていたのだ。万豊の桐畑から仕入れた材料は、ズイドウ虫や
瘤穴
(
こぶあな
)
の
痕
(
あと
)
が
夥
(
おびただ
)
しくて、下彫の
穴埋
(
あなうめ
)
によほどの手間がかかった。
鬼涙村
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
どこまで行っても同じような焼跡ながら、
夥
(
おびただ
)
しいガラス
壜
(
びん
)
が気味悪く残っている
処
(
ところ
)
や、
鉄兜
(
てつかぶと
)
ばかりが一ところに吹寄せられている処もあった。
廃墟から
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
以て憲政の進歩を阻礙すること頗る
夥
(
おびただ
)
しい。この点より見ても選挙権は出来るだけ広きに及ばねばならぬことは明白である。
憲政の本義を説いてその有終の美を済すの途を論ず
(新字新仮名)
/
吉野作造
(著)
東京の街をすこし歩けば誰にでも判るように、五百人以上も働いている工場などでない小さい下請工場の数は実に
夥
(
おびただ
)
しい。
若きいのちを
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
その中に、汗は遠慮なく、
眶
(
まぶた
)
をぬらして、鼻の側から
口許
(
くちもと
)
をまはりながら、頤の下まで流れて行く。気味が悪い事
夥
(
おびただ
)
しい。
酒虫
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
熊楠いう、これも羵羊や羔子同様多少
拠
(
よるところ
)
ある談で、わが邦に
鹿角芝
(
ろっかくし
)
などいう
硬
(
かた
)
い角状の菌あり、熱帯地には
夥
(
おびただ
)
しく産する。
十二支考:06 羊に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
こうなると、人馬を雇い入れるためには
夥
(
おびただ
)
しい
金子
(
きんす
)
も
要
(
い
)
った。そのたびに半蔵は六月近い強雨の来る中でも隣家の伏見屋へ走って行って言った。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
夥
(
おびただ
)
しい巡査がいま迄の
蛮地
(
ばんち
)
のエロチシズムの掃除を始めて、街は伝統とカルチュアが支配する帝王色に塗りかえられた。
女百貨店
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
近江には
丈草
(
じょうそう
)
、
許六
(
きょりく
)
、
尚白
(
しょうはく
)
、
智月
(
ちげつ
)
、
乙州
(
おとくに
)
、
千那
(
せんな
)
、
正秀
(
まさひで
)
、
曲翠
(
きょくすい
)
、
珍碩
(
ちんせき
)
、
李由
(
りゆう
)
、
毛紈
(
もうがん
)
、
程已
(
ていい
)
などと申すように
夥
(
おびただ
)
しく出て、皆腕こきのしたたか者です。
俳句上の京と江戸
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
ほらあの
夥
(
おびただ
)
しい足音だ。あいつ等みんなにかかられちゃ、十のうち十、命はねえ。助かったら拾い物だ。坊や、泣くなよ、小父さんがついてらあ。
沓掛時次郎 三幕十場
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
夥
(
おびただ
)
しい視線の焦点に、ぼうと上気して倒れそうな彼女が、胸のカアネエションに
接吻
(
キス
)
して、下の闘牛士へぽんと投げる。
踊る地平線:07 血と砂の接吻
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
安政時代、地震や
饑饉
(
ききん
)
で迷子が
夥
(
おびただ
)
しく殖えたため、その頃あの
界隈
(
かいわい
)
の町名主等が建てたものであるが、明治以来
殆
(
ほとん
)
ど土地の人にも忘れられていた。
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
国貞は天明六年に生れ
元治
(
げんじ
)
元年七十九歳を以て歿したればその長寿とその制作の
夥
(
おびただ
)
しきは正に
葛飾北斎
(
かつしかほくさい
)
と
頡頏
(
きっこう
)
し得べし。
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
払暁
(
ふつぎょう
)
海岸通りを見廻っていた観音崎署の一刑事は、おきん婆あの船員宿の前の歩道に
夥
(
おびただ
)
しい血溜りを発見して驚いた。
上海された男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
血
夥
(
おびただ
)
しく流れたるが、
只
(
と
)
見れば
遙
(
はるか
)
の
山陰
(
やまかげ
)
に、一匹の大虎が、嘴に咬へて持て行くものこそ、
正
(
まさ
)
しく月丸が
死骸
(
なきがら
)
なれば
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
現に
久慈川
(
くじがわ
)
のとある
渡船場
(
わたしば
)
付近では、見上ぐる前方の絶壁の上から、
巨巌大石
(
きょがんだいせき
)
の
夥
(
おびただ
)
しく河岸に墜落しているのを見る。
本州横断 癇癪徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
夥
(
おびただ
)
しい二人だけの思ひ出がありながら、実際には、必死になつてゆくほど、相反する二人の心が、無駄なからまはりをしてゐるに過ぎないのだつた。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
昨夜からの様子で冷遇は覚悟していても、さすが手持無沙汰な事
夥
(
おびただ
)
しい、予も此年をしてこんな経験は初めてであるから、まごつかざるを得ない訳だ。
浜菊
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
罎
(
びん
)
やら、
行李
(
こうり
)
やら、
支那鞄
(
しなかばん
)
やらが足の
踏
(
ふ
)
み
度
(
ど
)
も無い程に散らばっていて、
塵埃
(
ほこり
)
の香が
夥
(
おびただ
)
しく鼻を
衝
(
つ
)
く中に、芳子は眼を
泣腫
(
なきはら
)
して荷物の整理を為ていた。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
そして、なんだか寒い程引き
緊
(
しま
)
った気持の中で、
一斉
(
いっせい
)
に開こうとする花束のような、
夥
(
おびただ
)
しい微笑がふくらみ、
軈
(
やが
)
て静かな
泪
(
なみだ
)
となって溢れ出すのを感じた。
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
十分程すると、私達の立っている
処
(
ところ
)
より少しく左に
寄
(
よ
)
って、第二号
船渠
(
ドック
)
の
扉船
(
とせん
)
から三
米
(
メートル
)
程
隔
(
へだた
)
った海上へ、
夥
(
おびただ
)
しい泡が
真黒
(
まっくろ
)
な泥水と一緒に浮び上って来た。
カンカン虫殺人事件
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
特性としては、
物干
(
ものほし
)
の柱に立てた丸太のてっぺんなどに羽を休めることである。さてその日も暮れかかってくると、普通のやんまが
夥
(
おびただ
)
しく集まってくる。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
夥
漢検1級
部首:⼣
14画
“夥”を含む語句
夥多
夥間
夥伴
夥兵
化夥間
同夥
夥中
夥多敷
夥度
夥敷
引手夥多
御夥間
江戸兒夥間
竜夥
露夥