かこ)” の例文
若狭わかさから越前へ移って、そこの朝倉義景あさくらよしかげへ身を寄せたところ、ここに、朝倉家の家中にはれられず、不遇をかこっていた一人物がいた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むなく帰省して見れば、両親は交々こもごも身の老衰を打ちかこち、家事を監督する気力もせたれば何とぞ家居かきょして万事を処理しくれよという。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「学校に行かんならんのでこんな絵でも日がかかって困ります」などとかこったりされながら「写されるのだったら直写ししても構いませぬ」
昔のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
、ロウマの学者達がかこった時に、彼らはこの変化を決してその住民の増加には帰さず、耕耘及び農業の放棄に帰したのである1
忍び今の身の敢果はかなきさまかこちつゝ如何いかなる因果と泣沈なきしづむにぞ文右衞門はかたちたゞしコレお政其方は何とて其樣に未練みれんなることを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
光り物は母屋の廊下を通過するか、軒先から屋根の上などへ現われて消える、響音も慟哭どうこくもごくかすかで、あたかも「化物共は無聊ぶりょうかこっている」
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蝶子、わたしはおまえに対してそれはわたしの芸人のしつけに在るのだという。わたしはわたし自身に対し相変らず可哀相な躾けの身だなとかこつ。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
子規も小さい時分から絵画は非常に好きだが自分は一向かけないのが残念でたまらぬとかこっていた。夕日はますます傾いた。隣の屋敷で琴が聞える。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
山の手の深い堀井戸の水を浴びようとかいうので、夏は水道の水の生温なまぬるきをかこつ下町の女たち二、三人づれで目黒の大黒屋だいこくやへ遊びに行く途中であった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
十兵衛がのっそりで浮世の怜悧りこうな人たちの物笑いになってしまえばそれで済むのじゃ、連れ添う女房かかにまでも内々活用はたらきの利かぬ夫じゃとかこたれながら
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さすがに木村の他意ない誠実を笑いきる事はしないで、葉子はただ心の中で失望したように「あれだからいやになっちまう」とくさくさしながらかこった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
則ち恋愛なり、而して彼は我を生かしむることをもせず、空しく我をして彼のデンマルクの狂公子の如く、我母が我を生まざりしならばと打ちかこたしむるのみ。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
かこつ青年もある。彼等は皆朝起をして壮健になったのではない。壮健でないから朝起をするのである。
朝起の人達 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ああ私にはこのやうに屋根さへなく、雨は私の眼のなかにも降るのだ」とかこたずにはゐられぬ孤獨なマルテのかはいさうな姿がひとりでに浮んでくるやうである。
一挿話 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
昨日きのうの栄華に引替えて娘は明暮不幸をかこち、我も手酷てひど追使おいつかわるる、労苦を忍びて末々をたのしみ、たまたま下枝と媾曳あいびきしてわずかに慰め合いつ、果は二人の中をもせきて
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
輕しとかこちし三尺二寸、双腕もろうでかけて疊みしはそも何の爲の極意ごくいなりしぞ。祖先の苦勞を忘れて風流三昧にうつゝを拔かす當世武士を尻目にかけし、半歳前の我は今何處いづくにあるぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
巨勢は老女とかばねかたわらに夜をとほして、消えてあとなきうたかたのうたてき世をかこちあかしつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
『久しくここに逗留しているが何時なおって故郷に帰られるであろうか、旅でこんな事になって悲しい悲しい。』と繰返してかこつ傍から、同行の者が頻りにそれを慰めている。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
今や完全なる勝利か、しからずんば国民一人残らずの死あるのみである。眼前の現実に跼蹐きょくせきして、いたずらに物資の不自由をかこつことをやめよ。卑小なる保身を離れて、偉大なる夢を抱け。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
泣く泣くかこつ繰言の、それその証拠には、この合部屋に膝をかかえているじゃないか
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
我国の商人はしばしば、英国労働の労賃の高いことをもってその製造品が外国市場で売負かされる原因であるとかこっているが、しかし彼らは高い資本の利潤率については何事も言わない。
貫一は不断にこのことばいましめられ、隆三は会ふ毎にまたこの言をかこたれしなり。彼はものいいとまだに無くてにはか歿みまかりけれども、その前常に口にせしところは明かに彼の遺言なるべきのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
親子八人もの家族を抱えて亡父の遺産では食べて行けなくなったと云う、少し大袈裟おおげさに云えば生活難を感じ出したことにあるのだから、東京へ来た当座こそ、家の狭さをかこっていたものの
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鏡にむかうときのみ、わが頭の白きをかこつものは幸の部に属する人である。指を折って始めて、五年の流光に、転輪のおもむきを解し得たる婆さんは、人間としてはむしろせんに近づける方だろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
居間の狭くなることをかこったようなこの句も、その条件にははずれていない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
おしもお利きなさろうけれど、この大旦那でさえ、旅の身ではねえとかこごとをおっしゃる——まして、女興行師風情のわたしで、どうなるものか、それを考え出すと、腐ってしまわざるを得ない。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
折角あれが見えるのを娯しみにしていたのに、と妻は病床でかこった。
忘れがたみ (新字新仮名) / 原民喜(著)
検校はもう七十近いので、耳は遠く眼はもとよりめしいているので、近ごろは何もわからないと、自分の耄碌もうろくをよく口癖にかこっているが
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何とぞ早くその故をただして始めの如く同室に入らしめよと、打ちかこつに、もとより署長の巡廻だにあらば、直ちに愁訴しゅうそして、互いの志を達すべし
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
尋ねさがされても知れぬには仕方なしあはれ今にも市之丞殿が來たりなば夫は災難さいなんのがれなんと女心のやるせなくてんに歎き地にかこち或ひは己をくやみ市之丞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もっともその場合には、富者は、労働の価格が高いことや、下層階級が高慢なことや、仕事をしてもらうのが難しいことなどを、絶えずかこつことであろう。
熱し熱しと人もいい我もかこつ。鴻巣こうのす上尾あげおあたりは、暑気あつさめるあまりの夢心地に過ぎて、熊谷という駅夫の声に驚き下りぬ。ここは荒川近きにぎわえる町なり。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
哥沢節うたざはぶし」は時代のちがつた花柳界くわりうかいの弱いかこちを伝へたに過ぎず、「謡曲えうきよく」は仏教的の悲哀を含むだけ古雅こがであるだけ二十世紀の汽船とは到底相容あひいれざる処がある。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なおこの灯の利益な点を挙げてみれば、第一前記のごとく室の隅にまで明るくなる故、倉庫の中などにこれを点ずれば、貨物の出し入れに暗さをかこつ心配はなくなる。
ムーア灯 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
探偵の身にしては、賞牌しょうはいともいいつべき名誉の創痕きずあとなれど、ひとに知らるる目標めじるしとなりて、職務上不便を感ずることすくなからざる由をかこてども、たくみなる化粧にて塗抹ぬりかくすを常とせり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胸に燃ゆる情のほのほは、他を燒かざれば其身をかん、まゝならぬ戀路こひぢに世をかこちて、秋ならぬ風に散りゆく露の命葉いのちば、或は墨染すみぞめころも有漏うろの身をつゝむ、さては淵川ふちかはに身を棄つる
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
間数も不足なき程にあれば何をかかこつべきと思ふなるに、俳翁しきりに其狭陋けふろうなるをつぶやきて止まず。一向に心得ねば、笑つて翁に言ひけるやう、御先祖其角の住家より狭しと思すにやと。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
し数学に多少の真理があるとすればこの老人は「これでも年だけは人並に取ります。もう六十三ですよ」とかこち、三輪さんは「当年四十一の青二才でございます」と謙遜したことになる。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
萬事に不如意ふにょいかこつ身の上となったであろう。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「さて、困ったものよと、おかこちを洩らされ、ひとつ、佐殿すけどのからでもいうてもらうしかあるまいかなどと、お焦立いらだちのていにござりました」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
求めて一塊の岩礁に膠着こうちゃくして常に不自由をかこつ人も稀にはあることはあるように思われる。
学問の自由 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一時的に田舎に住居を構える者や農場をたぬ小商人は、非常にこの不便をかこち、また大きな地所を有つ商人の妻達は、ノルウェイの家族の家内経済は、あまり広汎複雑なので
いづれ業繋ごふけの身の、心と違ふ事のみぞ多かる世に、夢中むちゆうに夢をかこちて我れ何にかせん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
御本尊様の前の朝暮ちょうぼ看経かんきんには草臥くたびれかこたれながら、大黒だいこくそばに下らぬ雑談ぞうだんには夜のふくるをもいとい玉わざるにても知るべしと、評せしは両親を寺参りさせおき、鬼の留守に洗濯する命じゃ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あらられたる石にも神の定めたる運あり。」とは沙翁の悟道なり。静かに物象を観ずれば、物として定運なきにあらず。誰か恨むべき神を知りそめたる。誰かかこつべきぶつを識りそめたる。
山庵雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
明智城の明智十兵衛光秀という者と、いつも御主君の夫人おくがた様にかこち語りをしておいであると、それがしまでが洩れ伺っておる。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
農業状態に関しては、七八の報告のうち、六は進歩、一〇は退歩したと云い、七〇は一般に奨励を要すると云い、三二は『開拓の増加』をかこち、一二は『開拓の奨励』を要求している。
新聞一枚に堅き約束を反故ほごとなして怒り玉うかとかこたれて見れば無理ならねど、子爵のもとゆきてより手紙はわずかに田原が一度もっきたりしばかり、此方こなたからりし度々の消息、はじめは親子再会のいわい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
老齢六十五、何十年来藩政をみて、また天下の枢機すうきにも参じ、いま致仕ちしして、かんにあってもなお、かれはしみじみそうかこたずにはいられない。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去歳こぞの春すがもりしたるか怪しき汚染しみは滝の糸を乱して画襖えぶすま李白りはくかしらそそげど、たてつけよければ身の毛たつ程の寒さを透間すきまかこちもせず、かくも安楽にして居るにさえ、うら寂しくおのずからかなしみを知るに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)