ほつ)” の例文
大約おほよそ三四町も駈通して、もう大丈夫だらうと思ツて、自分は立停たちどまツてほつと一息した。あとを振向いて見ても誰も來る模樣が無い。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
覚えず、恍惚うっとりする、鼻のさきへ、炎が立って、自分でった燐寸マッチにぎょっとした。が、しゃにむに一服まず吸って、はじめて、一息ほつとした。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
圭一郎は救はれた思ひでほつとした。けれども彼はY町の赤十字病院に入院してゐるといふ子供の容態の音沙汰に接し得られないことをうらみにした。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
二人限きりになると、何れもほつと息を吐いて、今し方お吉の腰掛けた床の間に膝をすれ/\に腰掛けた。かくて十分許りの間、田舍言葉で密々こそ/\話合つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
やつと暫くして代議士は議事堂カピトルへの通り路に見窄みすぼらしい小さな教会がある事を思ひ出して、ほつと息をついた。
さてなにがしぼくしたが我家わがやをさしてかへみちすがらさき雲飛うんぴが石をひろつた川とおなじながれかゝつて居るはしまで來ると、ぼくすこかたやすめるつもりで石を欄干らんかんにもたせてほつ一息ひといき
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
裏の果樹園へつれ出されて、彼女は初めてほつとした。水蜜桃のるところを、彼女は初めて見た。野菜畑なども町で育つた彼女には不思議なものの一つであつた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ほつとした氣で仲間の喫ふタバコの煙を眺めてゐた。
めたん子伝 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
二人きりになると、何れもほつと息を吐いて、今し方お吉の腰掛けた床の間に膝をすれ/\に腰掛けた。かくて十分許りの間、田舎言葉で密々こそこそ話し合つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しやちくぢらなかへ、芝海老しばえびごとく、まれぬばかりに割込わりこんで、ひとほつ呼吸いきをついて、橋場はしば今戸いまど朝煙あさけむりしづ伏屋ふせや夕霞ゆふがすみ、とけむながめて、ほつねんと煙草たばこむ。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「も一ツ」と今度は徳二郎がついでやつたのを女は又もや一呼吸ひといきに飮み干して月にむかつて酒氣をほつと吐いた。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
私はほつとして、この難場の救主に、どうぞ/\と言つて、自分の座蒲團の裏を返してすゝめた。
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
男はほつと息をついた。そして謹んで電話をかけて石炭を催促した。石炭と女房かないと——双方どちらとも回復とりかへしたやうな嬉しさを感じたのは、それからものの十分も経つてからだつた。
そして友人の助力などで、とにかく其の古屋に永久落着くことになつて、一時ほつとしたのであつたが、それだけの室数では、うにも遣繰やりくりのつかないことが、その後一層彼の頭脳あたまを悩ました。
風呂桶 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そのうち、すきて、縁臺えんだいに、うすべりなどを持出もちだした。なにうあらうとも、今夜こんや戸外おもてにあかす覺悟かくごして、まだにもみづにもありつけないが、ほついきをついたところへ——
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
内気者うちきものの照子が酒にでも食べ酔つたやうな、ほつとした気持で辞して帰らうとすると侯爵は
きよろ/\四辺あたりを見廻して居たがほつ酒気しゆきを吐き、舌打して再び内によろめき込んだ。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「これで己もいくらかほつとした。」磯村も言つた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「あれ、じやうこはいねえ、さあ、えゝ、ま、せてるくせに。」とむかうへいた、をとこいたしたへ、片袖かたそでかせると、まくれたしろうでを、ひざすがつて、おりうほつ呼吸いき
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、ほつと胸先を撫でおろすさうだ。だから間違つて電車にき殺される場合には、成るべく履物を後先あとさきへ、片々かた/\は天国へ、片々かた/\は地獄へ届く程跳ね飛ばす事だけは忘れてはならない。
もやゝさわやかにつて、ほつ呼吸いきをしたとき——ふと、いや、はじめてとはう、——かれけたはすに、むかがは腰掛こしかけに、たゝまりつもきりなかに、ちておちかさなつたうつくしいかげた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして式が済むと、鉄瓶のやうにおなかの蓋を持ち上げて、ほつと大きな息をいた。
取縋とりすがるものはないのだから、部屋へや中央まんなかむねいだいて、ちながらほつ呼吸いきをついた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
材木町ざいもくちやう陶器屋たうきやつま嬰兒あかごふところに、六歳ろくさいになる女兒をんなのこいて、すさまじ群集ぐんしふのなかをのがれたが、大川端おほかはばたて、うれしやとほつ呼吸いきをついて、こゝろづくと、ひとごみに揉立もみたてられたために
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
春日野村かすがのむらいたので、づ一けん茶店ちやみせやすんで、一行いつかうほつ呼吸いき
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
坂上さかがみは、氣拔きぬけのしたさまに、大息おほいきほついて
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それだけで、なやましきひとほついきする。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
バスケツトをおさへて、ほついきして
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つかれたやうに、ほつ呼吸こきふして
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほつと息。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)