すなわ)” の例文
通常つうじょう人間にんげんは、いいことも、わるいこともみな身外しんがいからもとめます。すなわ馬車ばしゃだとか、書斎しょさいだとかと、しかし思想家しそうか自身じしんもとめるのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すなわれが暗謨尼亜アンモニアである。至極しごく旨く取れることは取れるが、ここに難渋はその臭気だ。臭いにも臭くないにも何ともいようがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
孝孺おおいに数字を批して、筆を地になげうって、又大哭たいこくし、かつののしり且こくして曰く、死せんにはすなわち死せんのみ、しょうは断じて草す可からずと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
日本人だの外国人だのと狭い量見で考えずに、世界を一つの国と見て考えるべしと言うのであった。すなわち彼の世界聯邦論せかいれんぽうろん根柢こんていである。
咢堂小論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「あたぼうのまん中でさあ」おそめでひどくもてた客、すなわち五十塚に伝吉と呼ばれたこの若者は、膝をぽんと叩いてみえを切った。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「一切の苦厄をだしたまう、舎利子、しきくうに異らず、空は色に異らず、色すなわち是れ空、空即ち是れ色、受想行識じゅそうぎょうしきもまた是の如し」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
舎費すなわち食糧費としては月二円でみ、予備門の授業料といえば月わずかに二十五銭(もっとも一学期分ずつ前納することにはなっていたが)
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その内大君の利益は五十万元すなわち一週ごとに一万元ばかりなり。一週間この利益なしといえども御老中その不都合を覚ゆることなきを得べしや
尊攘戦略史 (新字新仮名) / 服部之総(著)
刹那せつなすなわちモーメントの出来事を……」と、云ったような言葉遣いが、譲吉の僧侶に対する反感を、一層強めた。殊にその坊主が
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
折柄おりから時分どきでござろう——」と、戸田老人は陽を仰いだ、「このあたりで昼食をしたため、あとはすなわち一気呵成かせいとまいろうか」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
鹿島ゑ津さんはすなわち初代ぽん太で、明治十三年生だから昭和十一年には五十七歳になるはずで、大正十四年四十六歳で歿ぼっしたのである。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
すなわち斜めに張ればどういう意味になるとか、逆サに張ればどういう意味になるとか、二枚張ればどうとか、三枚張ればどうとか。
雑草一束 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
令嬢教育すなわち娘として世に立つ大切な年頃の教育を主として授けず、御門違おかどちがいな人の妻となり母となった後の教育を一足飛いっそくとびに授けて置いて
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
この話は長谷川伸君から聞いた話であるが、長谷川君は日露えきの際、すなわち明治三十七年の暮に、補充兵として国府台こうのだいの野砲連隊へ入営した。
戦死者の凱旋 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
七十六 この室に蝟集している人々がすなわち全人類のわずかなる遺族なんだ、この人々のほかに人は無い、けれど彼等は死んだ人の幸福をうらやんだ
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
不祥な言を放つものは、いわかわやから月に浮かれて、浪に誘われたのであろうも知れず、とすなわち船をいだしたのも有るほどで。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとり全土を統一した最高の王者のみと言わず、島々のかはらすなわち頭、一地に割拠した大小の按司あじぬしもまたテダであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
当時政府の保護を得たる狩野家かのうけすなわち日本十八世紀のアカデミイ画派の作品は決してこの時代の美術的光栄を後世に伝ふるものとはならざりき。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「けれども、」と私はくちはさんで、「けれども其の一種の性格が僕等の特長とくてうなんぢやないか。此の性格がうしなわれた時は、すなわち僕はほろびたのだ。 ...
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
一つのモデルであっても十人が十人描いたものは皆違っておって、自然にその人が、すなわち作者自身が、その上に現れて来る。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そこの教会には精魂を打ち込むオルガンのなかったことが、オルガンすなわちバッハの観のあった彼にとっては、重大な失望であったに違いない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
私の故郷ではむろんのこと、東北でも武蔵野でも味うことの出来なかった全く別の春を、すなわち古典の春を私ははじめてそこで知ったのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
おおかたこんなことを言えば、すなわちそれが厭味だと云うかも知れません。然らば口を閉じるより外はないようなものです。
Resignation の説 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二月十一日、すなわち紀元節の日だが、この日はひどく寒く、午前六時に零下五度三分という、東京地方にはまれな低温だった。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「余が自らにいて最も気掛りになつてゐるのは、余が美しく、すなわち気長に騒がずに、悠揚として死にたいと云ふことだ」
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
すなわち実体のないものが如何いかにして実在的であり得るかということが人生において、小説においてと同様、根本問題である。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
今お堂と云ったのは、すなわちその奇妙な倉庫のことなのだ。わしはそこへたどりつくと、建物の片隅に設けられた、狭い機械室の中へ身を潜めた。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……『古今註こきんちゅう』に、『鶴は千歳せんざいにしてそうとなり、二千歳にしてこくすなわ玄鶴げんかくなり。白鶴はっかくもまた同じ。死期を知れば、深山幽谷しんざんゆうこくにかくれてみずから死す』
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
すなわち人は愛の作用を見て直ちにその本質を揣摩しまし、これに対して本質にのみ名づくべき名称を与えているのではないか。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
況や私は食道楽、すなわち美食研究という一事業がありますために、尚更食物の着物を攻究する責任がありますので、一層作陶に努力している次第です。
近作鉢の会に一言 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
然乍しかしながら御手紙まいり候ごとに一寸御返事に困るやうなるは、すなわち真直に遠慮なく所信を述べて申越され候為にして、外に類なきことと敬服いたし候事に候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
重な原因というはすなわち人情の二字、この二字に覊絆しばられて文三は心ならずも尚お園田の家に顔をしかめながらとどまッている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その時部屋の窓の外にあたって、この時の音は少し消魂敷けたたましい。バン……と鳴って響いた。すなわち妻が死んだのであった。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
雪ふりしきる厳冬まふゆのさ中に、花を尋ねても、花はどこにもありませぬ。これがとりも直さず「色すなわち是れ空」です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
すなわチ其通義トハ人ノ自カラ生命ヲ保シ自由ヲ求メ幸福ヲ祈ルノ類ニテ、他ヨリ之ヲ如何トモス可ラザルモノナリ。
すなわ煙草たばこ盆、枕屏風まくらびょうぶ船底枕ふなぞこまくら夜着よぎ赤い友染ゆうぜん、などといったものが現われて来るのだ、そして裸の女が立っていれば如何にも多少気がとがめる事になる
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それから私は思う、外国の山を見るには、二つの見方が、経験されはしまいか、すなわち自分の国の自然に似ている方面と、似ていない方面との二つである。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
よって臣勇を奮いすすみ窺いて、確かに妖蟒ようもうを見る。頭、山岳の如く、目、江海に等し。首をぐればすなわち殿閣ひとしく呑み、腰を伸ばせば則ち楼垣尽くくつがえる。
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
すなわち一八七二年、ロッテイ・ファウラアの実験を行い、つづいて名霊媒ウィリアムスの交霊会にのぞみ、次第に心霊事実の正確なることを認むるに至った。
それはすなわち瓦斯の栓をもっとゆるくしておくことです。彼はる日、細君が昼寝をしている時にこっそりとその栓へ油を差して其処をなめらかにしておきました。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
因って儂ら同感の志士は、これを未萌みほう削除さくじょせざるを得ずと、すなわ曩日さきに政府に向かって忠告したる所以ゆえんなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
すなわち分割のこと、これに与るも不利、与らざるも不利、然らばこれに対処するの策なきか。曰く、あり。しかも、ただ一つ。すなわち日本国力の充実これのみ。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「うむ——色もあるにはある、しきすなわくう、空は即ち色なりといって、魂だって、色がえという理窟は無え」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すなわち一八八九年に出版したので、しかもそのなかで進化論のことをダーウィニズムと称しているのです。
チャールズ・ダーウィン (新字新仮名) / 石原純(著)
その私の旅行というのは、人が時空と因果の外に飛翔ひしょうし得る唯一の瞬間、すなわちあの夢と現実との境界線を巧みに利用し、主観の構成する自由な世界に遊ぶのである。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
二人が自分の名を自分で覚える頃には二人ともその育つ姿や生活に相応する——すなわちおとうさんは女にふさはしく、おかあさんは男らしい呼名に都合よくなつて居ました。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
すなわち熔岩の断崖がそこに出来ているのであるが、下半部の下積みになった熔岩は石垣状を呈し
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
それがすなわち小幡の屋敷の近所に住んでいるKのおじさんで、おじさんは旗本の次男であった。その噂を聴くと、すぐに小幡の屋敷に押し掛けて行って、事の実否じっぴを確かめた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
五郎治からわたくしが言付けられますれば、すなわち私が、兄五郎治のだいを勤むべき処、御用あって御家老からお呼出しに相成りましたから、むを得ず家来勘八に申付けましたので
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これはどうしても帳中に伉儷かうれいの契淺からぬ相思の人の床が無ければならぬと「こよなきあそび」すなわち藝術の方面から推察するところ、實は之が空しく、そこに何も無いと知つて
薄紗の帳 (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)