他愛たわい)” の例文
しからず、親に苦労を掛ける。……そのくせ、他愛たわいのないもので、陽気がよくて、おなかがくちいと、うとうととなって居睡いねむりをする。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「成程ね、さう聽くと一向他愛たわいもありませんね。おい、番頭さん、遠慮することはねえ、親分は見通しだ、ズツと入つて來なさるがいゝ」
この前四谷に行って露子の枕元で例の通り他愛たわいもない話をしておった時、病人がそで口のほころびから綿が出懸でかかっているのを気にして
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、気がつくと、自分の膝に戯れていた十八公麿まつまろが、いつのまにか、月の光の中を、他愛たわいなく這いまわって、縁へ出ていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お政は始終顔をしかめていて口も碌々ろくろく聞かず、文三もその通り。独りお勢而已のみはソワソワしていて更らに沈着おちつかず、端手はしたなくさえずッて他愛たわいもなく笑う。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その二つの見方はどっちも、それだけの理由があると思います。他愛たわいのないという印象を与えたこともほんとうでしょう。何人かの女の人からそう云う批評を聞きました。
女性の生活態度 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼らはどんな他愛たわいもないこと、といってもちろんKの態度は残念ながらその部類にははいらないものだったが、そういうものによってもひどく傷つけられ、親友とも話さなくなり
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
最近になって人造じんぞう宇宙線の研究がにわかに盛んになりましたが、この研究が進むといよいよこの人造宇宙線を使って、水銀を金にすることが他愛たわいもなく出来るようになりそうな気がします。
科学が臍を曲げた話 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
二つの手桶てをけあふるゝほどみて、十三はれねばらず、大汗おほあせりてはこびけるうち、輪寳りんぽうのすがりしゆがみづばき下駄げた前鼻緒まへばなをのゆる/\にりて、ゆびかさねば他愛たわいきやうなり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あゝ蟻さんのお歸り/\。」なぞと、お駒は他愛たわいもないことを言つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
と家庭教師は他愛たわいなく代数の声に聴き惚れた。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
きちさんは他愛たわいもなく笑つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
唯吉たゞきちは、襟許えりもとから、手足てあし身體中からだぢうやなぎで、さら/\とくすぐられたやうに、他愛たわいなく、むず/\したので、ぶる/\とかたゆすつて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「なるほどね、そう聴くと一向他愛たわいもありませんね。おい、手代さん、遠慮することはねえ、親分は見通しだ、ズッと入って来なさるがいい」
年齢としには増せた事を言い出しては両親にたもとを絞らせた事はあっても、又何処どこともなく他愛たわいのない所も有て、なみに漂う浮艸うきぐさの、うかうかとして月日を重ねたが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
二畳敷の真中に縫物をひろげて、その上に他愛たわいなく突ッ伏していたお時は、急に顔を上げた。そうしてお延を見るや否や、いきなり「はい」という返事を判然はっきりして立ち上った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二つの手桶てをけあふるるほどみて、十三は入れねば成らず、大汗に成りて運びけるうち、輪宝りんぽうのすがりしゆがみ歯の水ばき下駄げた、前鼻緒のゆるゆるに成りて、指を浮かさねば他愛たわいの無きやうなり
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして天罰てんばつとはいえ重傷を負っている烏啼を、遂に他愛たわいなく引捕ひっとらえた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこを狙って孫兵衛がポンと放したから他愛たわいもなく
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りつゝ、たましひからさきとろけて、ふら/\とつた若旦那わかだんな身體からだは、他愛たわいなく、ぐたりと椅子いすちたのであつた。于二女之間恍惚夢如にぢよのあひだにくわうこつとしてゆめのごとし
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もう二十歳はたちにもなつて、大丸髷おほまるまげの赤い手柄てがらが可笑しい位なお靜が、平常ふだん可愛がられ過ぎて來たにしても、これは又あまりに他愛たわいがありません。
すかさず追蒐おっかけて行って、又くわえてポンとほうる。其様そん他愛たわいもない事をして、活溌に元気よく遊ぶ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こんな他愛たわいもない会話が取り換わされている間、お延はついに社交上の一員として相当の分前わけまえを取る事ができなかった。自分を吉川夫人に売りつける機会はいつまでっても来なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『はははは、そんな他愛たわいのない事か』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当前あたりまえです、学校の用を欠いて、そんな他愛たわいもない事にかかり合っていられるもんかい。休暇になったから運動かたがた来て見たんだ。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「八、もう一度やり直しだ。こんなに他愛たわいもない殺しで、こんなに骨を折るのは珍らしい。下手人になり手が多過ぎたよ」
宗助は父の死んだ時、東京で逢った小六を覚えているだけだから、いまだに小六を他愛たわいない小供ぐらいに想像するので、自分の代理に叔父と交渉させようなどと云う気は無論起らなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
跡は他愛たわいのないけむのような物になって了う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
つちが急に柔かく、ほんのりと暖かに、ふっくりと綿を踏んで、下へ沈みそうな心持。他愛たわいなく膝節の崩れるのに驚いて、足を見る、と白粉おしろいの花の上。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜はお杉と同じ部屋に寝るが、二人ともよく眠るので、地震や近所の火事さえ知らずにいて、あくる朝、よく店の者に笑われる話など、まことに他愛たわいもない口振りです。
何もする事のないこの長い幕間まくあいを、少しの不平も云わず、かつて退屈の色も見せず、さも太平らしく、空疎な腹に散漫な刺戟しげきを盛って、他愛たわいなく時間のために流されていた。彼らは穏和おだやかであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
他愛たわいなくかしらさがつたとふのは、中年ちうねん一個いつこ美髯びぜん紳士しんしまゆにおのづから品位ひんゐのあるのが、寶石はうせきちりばめたあゐ頭巾づきんで、悠然いうぜんあごひげしごいてた。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夜はお杉と同じ部屋に寢るが、二人ともよく眠るので、地震や近所の火事さへ知らずに居て、翌る朝、よく店の者に笑はれる話など、まことに他愛たわいも無い口振りです。
ずっと谷底の古御堂ふるみどう狐格子きつねごうしの奥深くともれたもののごとく、思われた……か思ったのか、それとも夢路を辿たどる峠からのぞく景色か、つい他愛たわいがなくなる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
船頭の三吉が豫て仕掛けをしてあつたらしく、船底の栓が他愛たわいもなく拔けるのと、卯八の必死の力が、荒れ狂ふ三吉をふなばたから川の中へ押し轉がすのと、殆んど一緒だつたのです。
先刻さっきの、あの雨の音、さあっと他愛たわいなくのきへかかって通りましたのが、ちょう彼処あすこあたりから降り出して来たように、寝ていて思われたのでございます。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といふ他愛たわいもないもの。お駒どの、新の字と署名した、何の疑もない代物です。
またふわりと来て、ぱっと胸に当って、はっとすると、他愛たわいもなく、形なく力もなく、袖を透かして背後うしろへ通る。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
錢形平次の顏を見ると、ガラツ八は他愛たわいもなく縁側に崩折れて了ひました。
いたずらに砂を握れば、くぼみもせず、高くもならず、他愛たわいなくほろほろと崩れると、またかたわらからもり添える。水をつかむようなもので、さぐればはらはらとただ貝が出る。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな他愛たわいのない掛合が、船の中の空氣をすつかりやはらげてくれました。
(ああ、ああ。)とにごった声を出して白痴ばかくだんのひょろりとした手を差向さしむけたので、婦人おんなは解いたのを渡してやると、風呂敷ふろしきひろげたような、他愛たわいのない、力のない
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何の他愛たわいもありません、ほんの頸動脈をやられただけです。
「余り気を入れると他愛たわいがないよ。ちっとこうあらたまっては取留めのない事なんだから。いいかい、」
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は他愛たわいもなく笑ひ乍ら、輕い心持で小屋を出ました。
いや、こうも、他愛たわいのない事を考えるのも、思出すのも、小北おぎたとこくにつけて、人は知らず、自分で気がとがめるおのが心を、われとさあらぬかたまぎらそうとしたのであった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いい心持に、すっと足をのばす、せなかが浮いて、他愛たわいなくこう、その華胥かしょの国とか云う、そこへだ——引入れられそうになると、何の樹か知らないが、萌黄色もえぎいろの葉の茂ったのが、上へかかって
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美人びじん見惚みとるゝとて、あらうことか、ぐつたり鏡臺きやうだい凭掛もたれかゝつたと他愛たわいなさ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おんぶするならしてくれ、で、他愛たわいがないほど、のびのびとした心地ここち
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お三重はもう、他愛たわいなく娘になって、ほろりとして
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)