仕舞しまい)” の例文
いよいよ仕舞しまいにはどうなるかというと、神の国に生れるか地獄に行くかの二つであると、こういって居るマホメット教徒もあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
琴はこの家の七重と井口かしこ、鼓は永田松枝、仕舞しまいは藤井かなえ、そうして新顔の娘は大場いねといい、これは三げんをみごとに弾いた。
艶書 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
利春は幼少の頃から部屋住のまま藩主斉清公の前に出て御囃子や仕舞しまいを度々相勤めて御感に入り、いつも御褒美を頂戴していた。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
仕方しかたがない矢張やつぱわたし丸木橋まるきばしをばわたらずはなるまい、とゝさんもふみかへしておちてお仕舞しまいなされ、祖父おぢいさんもおなことであつたといふ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
モウ一盃、これでお仕舞しまいりきんでも、徳利とくりふって見て音がすれば我慢が出来ない。とう/\三合さんごうの酒を皆のん仕舞しまって、又翌日は五合飲む。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「戦争だ。お仕舞しまいだッ。——鷺山も稲葉山も、亡んでしまえ。焼けた跡には、また草が出る。こんどの草は真ッ直ぐに——」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おつや 仕舞しまいにゃあ追っ掛けられるような事になるかも知れないが……。(笑う。)実は……あたし、主人と衝突してね。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私に興味を感じたら、お仕舞しまいまでお読み下さい。僕はまだ二十歳の少年なので、貴重なお時間をいていただくのも、心苦しいまでに有難く存じます。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
右京の去った後で、信祝は、もう一度書類を読み直したが、とこの間から、革帯のかかった手箱を取ると、じょうを開けて、下の方へ仕舞しまい込んでしまった。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
花の三月、日本橋倶楽部クラブで催された竹柏園ちくはくえんの大会の余興に、時の総理大臣侯爵桂大将の、寵娘おもいものの、仕舞しまいを見る事が出来るのを、人々は興ありとした。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その名前を一々読んだ時には何だか世の中が味気あじきなくなって人間もつまらないと云う気が起ったよ。一番仕舞しまいにね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これで、私も若い時分には、それ相当の野心を持っていたんですがね。こういう姿になっちゃお仕舞しまいですよ」
二癈人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手前てめえが、そうしてのぼせ切って東西南北を血眼ちまなこで馳け廻っている有様を見ると、おれは不憫ふびんで涙がこぼれる、仕舞しまいの果てにはなけなしの、もう一本の片腕を
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この祠の片側を通りぬけることが出来る。後方はまっ暗で、ここで灯を貰い、我々は数百フィート進んで行ったが、お仕舞しまいにはかがまねばならぬようになった。
くび彼方あっちへふり此方こっちへふり、お百度の歩く通りに左右へ頭を廻して、とうとう仕舞しまいまで見て居りました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は思いついた時勝負で風呂へ飛んで行くので、朝風呂、昼、夜の仕舞しまい風呂の差別がない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
亥刻よつ(十時)そこそこでした。お勝手のお仕舞しまいんで、私は隣の三畳へ引揚げた時で」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
彼が仕舞しまい時分に、ヘトヘトになった手で移した、セメントのたるから小さな木の箱が出た。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
たしか謡曲や仕舞しまいも上手であったかと思う。若先生も典型的な温雅の紳士で、いつも優長な黒紋付姿を抱車かかえぐるまの上に横たえていた。うちの女中などの尊敬の対象であったようである。
追憶の医師達 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あれ程ありし雪も大抵はきえ仕舞しまいました、此頃このごろの天気のさ、旅路もさのみ苦しゅうはなし其道そのみち勉強のために諸国行脚あんぎゃなさるゝ身で、今の時候にくすぶりてばかり居らるるは損という者
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
初めは、まあそのくらいのつもりだったらしいが、だんだん面白くなったらしく、仕舞しまいには、ブルージンをはいて、トンカチをもって出かけて行き、ごっそり石ころを持って帰るようになった。
娘の結婚 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ところが、何しろ二人とも、野放図もない我儘者わがままものだったから、何処どこにも永く尻が落着く筈がねえ。仕舞しまいには、流れ流れて奥州街道を、越ガ谷の方まで、見世物の中にまじって落ちて行きさえしたのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
皆さん。お静かに願い上げます。唯今ただいま女優が一人、急病でくなりました。しかしもう事は済みましたから、御安心の上、お仕舞しまいまでごゆるりと御見物願います。では直ちに第六景、『奈良井遊廓』の幕を
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いよいよ高輪もお仕舞しまいですかねえ」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
穴市あないち仕舞しまいはくやむめの花 路圭
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
九輪草くりんそう四五輪草で仕舞しまいけり 一茶
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
今日のみの春を歩いて仕舞しまいけり
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
到頭とうとう仕舞しまいには洋書を読むことをめて仕舞うて攘夷論でも唱えたらば、ソレはおわびが済むだろうが、マサカそんな事も出来ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私の通って来た時分はもうごく仕舞しまいの荷物をカリンポンまで送り出すという場合で、その後は誰も通らぬ事になって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そんなことをして此方こつちをさん/″\おどかして置いて、お仕舞しまいに高い祈祷きとう料をせしめようとする魂胆こんたんに相違ないのだ。そのくらゐの事が判らないのかな。
着衣喫飯の主人公たる我は何物ぞと考え考えてせんめてくると、仕舞しまいには、自分と世界との障壁しょうへきがなくなって天地が一枚で出来た様な虚霊皎潔きょれいこうけつな心持になる。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次にはぜひとも、月江様の仕舞しまいの一さしを、所望所望、という声がしきりと彼女を攻めたてている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坊主ぼうずまでが陰氣いんきらしうしづんで仕舞しまいましたといふに、みれば茶椀ちやわんはし其處そこいてちゝはゝとのかほをばくらべてなにとはらずになる樣子やうす、こんな可愛かわひものさへあるに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「市川は、喜多流の仕舞しまいを自慢にしてはいるが、尺八を吹くといったことを聞かない」
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼方此方あちこちに休ませ、一番お仕舞しまいにお菊が、路地の木戸を締めに外へ出たようでございます、——木戸は今朝確かに内から締って居りましたから、あの時お菊が締めたに相違ございませんが
仕舞しまいには天ぷらの語源まで出てくる始末で、これには少々閉口した。
雪の話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「おやおや、この分では、仕舞しまいまで拝見するのかもしれない。」
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
もう妻を疑うのは、この辺で、はっきりお仕舞しまいにしよう
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「こう寒くちゃ、舟もお仕舞しまいだね」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
スルと先方も中々しぶとい。再三再四やって来て、とう/\仕舞しまいには屋敷を半折して半分ずつ持とうとうから、れも不承知。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それから仕舞しまいにはおかゆが一ぱいずつ出るですが、そのお粥を取る時の競争と言ったら実にたまらんです。もっともその粥は米で煮てあるのが多い。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
りきは一さんいゑて、かれるものならこのまゝに唐天竺からてんぢくはてまでもつて仕舞しまいたい、あゝいやいやいやだ、うしたならひとこゑきこえないものおともしない、しづかな、しづかな
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やはりそれらからの関係であろう、武士のうちにも謡曲はもちろん、仕舞しまいぐらいは舞う者もある。笛をふく者もある。鼓をうつ者もある。その一人に矢柄喜兵衛という男があった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おととしよりは去年、去年よりはことし、あれほどお好きな謡曲ようきょくにしても、近ごろは、おうたいも極く稀じゃし、興にのって、仕舞しまいをあそばすようなことも、とんとないのを見ても」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何だとうとうかつがれたのか、あまり書き方が真面目だものだからつい仕舞しまいまで本気にして読んでいた。新年匆々そうそうこんな悪戯いたずらをやる迷亭はよっぽどひま人だなあと主人は笑いながら云った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ところへ閑人ひまじんが物珍しそうにぽつぽつ集ってくる。仕舞しまいには東風と独逸人を四方から取り巻いて見物する。東風は顔を赤くしてへどもどする。初めの勢に引きえて先生大弱りのていさ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小唄浄瑠璃じょうるり仕舞しまいなどもお構いなし、山内、花時に限って、無礼講、武家も町人も女も男も、毛氈もうせん花むしろの上には階級なく、清水堂のほとり、寒松院の並木、吉祥閣の下、慈眼堂の前、いたる所
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗助そうすけ安井やすゐ御米およねからとゞいた繪端書ゑはがきべつにしてつくゑうへかさねていた。そとからかへるとそれがすぐいた。時々とき/″\はそれを一まいづゝじゆんなほしたり、見直みなほしたりした。仕舞しまいにもう悉皆すつかりなほつたからかへる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「お客さん、もうお仕舞しまいかね」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)