つゞみ)” の例文
いや馬鹿ばやしいやだ。それよりかつゞみつて見たくつてね。何故なぜだかつゞみおとを聞いてゐると、全く二十世紀の気がしなくなるからい。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
年を取ると滅切めつきり氣が弱くなつて、若い時にひどい眼に逢はせた奴が、つゞみを鳴らして仕返しに來さうで、どうも、夜もオチオチ眠られない
てる絶壁ぜつぺきしたには、御占場おうらなひばがけつて業平岩なりひらいは小町岩こまちいは千鶴ちづるさき蝋燭岩らふそくいはつゞみうら詠続よみつゞいて中山崎なかやまさき尖端とつさききばである。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
沖の方は平なること鏡の如きに、岸邊には青く透きとほりたる波寄せたり。その岩に觸るゝや、つゞみの如き音立てゝぞ碎くる。われは覺えず歩をとゞめたり。
それはいしかん一方いつぽうけたようなかたちのものや、つゞみかたちをした土製品どせいひんで、まへまをした石器時代せつきじだい墓場はかばから、よく人骨じんこつみゝのあたりで發見はつけんされるのであります。(第四十一圖だいしじゆういちず
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
瀬田は頭がぼんやりして、からだぢゆうの脈がつゞみを打つやうに耳に響く。狭い田の畔道くろみちを踏んで行くに、足がどこを踏んでゐるか感じが無い。やゝもすれば苅株きりかぶの間の湿しめつた泥に足をみ込む。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
宴は朝から始まって、ゆうがた、空におぼろ月のかゝる頃までつゞいたが、莚の上にところ/″\燈火が運び込まれた時分、いたく酔った則重は座頭につゞみを打たせて自らうたいながら曲舞くせまいを舞った。
遠くでつゞみが鳴つてゐる。ゆき子がその鼓の音に眼を覚すと、富岡は寝床にゐなかつた。鼓の音はラジオだつた。ゆき子は起きて、褞袍どてらの前をあはせ、時計を見ると、もう十一時を一寸まはつてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
つきにうつ大城おほきつゞみしばして。くだちゆくを、たれか しまぬ
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
かくを吹きつゞみをうちて、のうちを
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
どうして今の世にあゝが抜けてゐられるだらうと思ふと、それ丈で大変な薬になる。いくら僕が呑気でも、つゞみおとの様なはとてもけないから
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
紅花べにばななへや、おしろいのなへ——とくちうするにおよぶまい、苗賣なへうりこゑだけは、くさはながそのまゝでうたになること、なみつゞみまつ調しらべにあひひとしい。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちよいと金があつて好い男で、へえけえは下手だが小唄とつゞみの上手で、これは間違ひもなく薄墨の深間だつたさうですよ。今は浪々の身で金ツけとは縁がない。
それに追ふものの足音が少しも遠ざからない。瀬田は自分の足の早いのにすこぶる満足して、たゞ追ふものの足音の同じやうに近く聞えるのを不審に思つてゐる。足音は急調きふてうつゞみを打つ様に聞える。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
大城おほきつゞみといふのは、和歌山城わかやまじようの『とき』の太鼓たいこです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「少し気が利き過ぎてゐる位だ。是ぢやつゞみの様にぽん/\する画はけないと自白する筈だ」と広田先生が評した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宵々よひ/\稻妻いなづまは、くもうす餘波なごりにや、初汐はつしほわたるなる、うみおとは、なつくるまかへなみの、つゞみさえあきて、松蟲まつむし鈴蟲すゞむしかたちかげも、刈萱かるかやはぎうたゑがく。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「綾のつゞみだよ、——尤も桂の池に身を投げる代りに、達者な花嫁婆さんを見付けた相だが——」
凝つとしてゐると、梅の香が流れて、遠くの方から、時々ポン、ポンと忘れたやうなつゞみの音が聽えて來るといつた晝下りの風情は、平次の神經をすつかりなごめてゐたのでせう。
うつゝにげば、うつゝにこえて、やなぎ土手どてに、とんとあたるやつゞみ調しらべ鼓草たんぽぽの、つゞみ調しらべ
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まゆしろ船頭せんどうぐにまかせ、蒔繪まきゑ調度てうどに、待乳山まつちやまかげめて、三日月みかづきせたる風情ふぜい敷波しきなみはないろたつみやこごとし。ひとさけくるへるをりから、ふとちすましたるつゞみゆる。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
萬歳まんざいつゞみはるかに、鞠唄まりうたちかうめあひこえ、突羽根つくばねたもとまつ友染いうぜんひるがへす。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ゆきふかくふと寂寞せきばくたるとき不思議ふしぎなるふえ太鼓たいこつゞみおとあり、山颪やまおろしにのつてトトンヒユーときこゆるかとすれば、たちまさつとほる。天狗てんぐのお囃子はやしふ。能樂のうがくつねさかんなるくになればなるべし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)