かをり)” の例文
ちゝゆめだ、とつてわらつた、……祖母そぼもともにきてで、火鉢ひばちうへには、ふたゝかんばしいかをり滿つる、餅網もちあみがかゝつたのである。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此故このゆゑなまぐさにほひせて白粉おしろいかをりはな太平たいへい御代みよにては小説家せうせつか即ち文学者ぶんがくしやかず次第々々しだい/\増加ぞうかし、たひはなさともあれど、にしん北海ほつかい浜辺はまべ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
高原に立つて秋草を吹き靡かす初秋の風に身をまかせて、佇んでゐる自分じぶんを描き、風のかをりをなつかしんでゐたのだ。
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
若しその由來を知らずば誰か信ぜん、果實このみと水のかをり、劇しき慾を生みて、かく力をあらはさんとは 三四—三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
宗助そうすけ小供こどもときから、この樟腦しやうなうたかかをりと、あせ土用どようと、砲烙灸はうろくぎうと、蒼空あをぞらゆるとびとを連想れんさうしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
少年のくちびるよりも赤く、さうしてやはり薔薇特有の可憐な風情ふぜいと気品とを具へ、鼻を近づけるとそれがかをりさへ帯びて居るのを知つた時彼は言ひ知れぬ感に打たれた。
かまどの上の大きいお鍋が、ぐつぐつ歌つてゐて、うまさうなかをりが、庭一ぱいに漂つてゐたから。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そして熱は、かをりを目に見えるものにして、烟のやうに、かの天体の方へと立ち昇らせてゐる。
異国の菊のかをりに新らしい流離の涙をそそぐピエルロチが秋の心をまたとなく懐かしむ。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
我が恋ふ人のたまをこゝに呼び出すべきかをりにてもなければ、要もなし、気まぐれものゝ蝙蝠かうもり風勢ふぜいが我が寂寥せきれうの調を破らんとてもぐり入ることもあれど、捉へんには竿なし、し捉ふるとも
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
裏畑の梨の樹の下に落ちて死ぬ蝉の数と共に、秋のかをりが段々深くなつて行く。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
清らのかをりは、金毛は、静かにうごくかとみれば
菫花ヴァイオレットかをりむせばさるるばかりにくんわたりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
外に 私を囲んで暖くかをりよくにほふひと
優しき歌 Ⅰ・Ⅱ (新字旧仮名) / 立原道造(著)
接吻くちづけ』のうましかをりきりごと
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
野に滿つるかをりも知らず
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
みんなみの花のかをり
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「おまけにおまへ小屋こや一杯いつぱい蘭麝らんじやかをりぷんとする。うつくしいことつたら、不啻毛嬙飛燕まうしやうひえんもたゞならず。」
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
海岸うみぎしには、何といふ名だか忘れてしまつたが、奇妙なつやつやした木に囲まれた、丸木造りのきれいな小屋……空中には、人を酔はすやうな何とも言へないかをり……小屋の中には
翌日あくるひばん宗助そうすけはわがぜんうへかしらつきのうをの、さらそとをどらすさまながめた。小豆あづきいろまつためしかをりいだ。御米およねはわざ/\きよつて、坂井さかゐいへうつつた小六ころくまねいた。小六ころく
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
夏草のかをりに埋もれた駅内に、常になくなまめいてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
接吻くちづけ」のうましかをりは霧の如
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
かをりと毒麦身に着けて
バタのかをりも新鮮だ。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それ、とふたつほこりをたゝいたが、まだしもうもしない、うつくしい夫人ふじんうつをそのまゝ、みぎ座布團ざぶとんをすゝめたのである。あへてうつりといふ。留南木とめぎのかをり、香水かうすゐかをりである。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
春の日を燒くかをりあり。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
じゆんゆづつて、子爵夫人ししやくふじんをさきに、次々つき/″\に、——そのなかでいつちあとに線香せんかう手向たむけたが、手向たむけながらほとんゆきむろかとおもふ、しかかをりたかき、花輪はなわの、白薔薇しろばら白百合しろゆり大輪おほりん花弁はなびら透間すきま
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)