さわ)” の例文
旧字:
見てみるがいい、気味の悪いことがあるものか、血だ、血だ、血ですべってはいけない、刃物を取ってしまえ、刃物にさわると怪我をする
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、その拍子に女はコートの右のそでに男の手がさわったように思った。で、鬼魅きみ悪そうに体を左にらしながら足早に歩いて往った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
太郎右衛門が伊作のいたところへ着いた時には、伊作と多助は大事そうにして、何か持ち上げて見たりさわって見たりしていました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
「御参詣の方にな、おさわらせ申しはいたさんのじゃが、御信心かに見受けまするで、差支えませぬ。手に取って御覧なさい、さ、さ。」
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一たびこれに触れると、たちまち縲紲るいせつはずかしめを受けねばならない。さわらぬ神にたたりなきことわざのある事を思えば、選挙権はこれを棄てるにくはない。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
政はそっと小女の手にさわった、「おめえもそういうことに気がつくようになったんだな、縹緻きりょうもぐっとあがったし、気がもめるぜ」
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして、身代の十万貫の半分の五万貫を、都中の貧乏人に分けてやりました。すると、世間は正直なもので、都の人々は寄るとさわると
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「どうか騒がない様にして下さい。人気稼業ですからね。そうでもないことが、世間の噂になったりしますと、商売にさわりますからね」
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鬢盥びんだらいに、濡れ手拭を持ち添えたいろは茶屋のお品は、思いきりの衣紋えもんにも、まださわりそうなたぼを気にして、お米の側へ腰をかける。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその汚れた手や器具でさわれば食物が汚れ、汚れた食物を腹の中に入れるとその人が汚される、というふうに考えたからです。
「ウム。よさそうじゃのう。此奴こやつどもの方針は……国体にはさわらんと思うがのう、今の藩閥政府の方が国体には害があると思うがのう」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして平素からの軽いかわいたせきが増してきた。彼女は時々隣のマルグリットに言った。「さわってごらんなさい、私の手の熱いこと。」
玉子や肉の物ばかりですと少しのどさわる気味がありますからジャムのサンドイッチかあるいは野菜サンドイッチを一緒に食べます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
なぜならば土地を離れて、家郷とすべき住家すみかはないから。そこには拡がりもなく、さわりもなく、無限に実在してゐる空間がある。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
単に自分大事ということから、なるべくさわらないようにしようとするためでありました。いわゆる「触らぬ神に祟りなし」というのです。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
夫は昔から見知らぬ人間に足腰をませたりすることが嫌いなたちで、今まで按摩あんまやマッサージの類に体をさわらせたことはないのである。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「手をさわるな!」とシルヴァーは一ヤードほど跳び退きながら叫んだ。それは熟練した体操家のような速さと確かさだと私には思われた。
こうして、長屋の連中、寄るとさわると互いに眼を光らせ、口を尖らせているので、恐ろしく仲がわるいようだが、そうではない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この上もなく純潔なおりの恋愛とも言えるもので、彼女はその娘を愛した。その娘からさわられるのを感ずると、息がつまるほど感動した。
平常ふだんから大きい美しい眼は、今にも、ちょっと物でもさわれば、すぐ泣き出しそうに、一層大きくこちらを見張って、露が一ぱいたまっている。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
私は、手を伸ばして、大使の声のする空間をさわってみたくてたまらなかったけれど、なんだかおそろしくて、どうしても手は伸びなかった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金属や陶器のは火を入れると周囲が熱くてさわれなくなるが、木製のだとそんな事はない。これはつまり金属陶器木材等の伝熱率の大小による。
歳時記新註 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そしてするどをむきしながら子家鴨こあひるのそばにはなんでみた揚句あげく、それでもかれにはさわらずにどぶんとみずなかんでしまいました。
次郎はそっと手で顔をさわってみた。ぬるぬるしたものがくっついているような気がする。さほどひどくはないが、ぴりぴりした痛みを覚える。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
勿論上の者に向て威張りたくも威張ることが出来ない、出来ないからただモウさわらぬように相手にならぬようと、独りみずから安心決定あんじんけつじょうして居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と、おじいさんはかねえたときいった。そして、さわりたいからそばへ乳母車うばぐるまをよせてくれ、といった。ぼくたちは、おじいさんのいうとおりにした。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ふくろじゃねえよ。おいらのせるなこの中味なかみだ。文句もんくがあるンなら、おがんでからにしてくんな。——それこいつだ。さわったあじはどんなもんだの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
私は刀に少しさわってみたり、文庫の中をのぞいて見たりするのですが、その中には祖父の句集や、道中記などの半紙綴りのものなどもありました。
虫干し (新字新仮名) / 鷹野つぎ(著)
ところが、木戸は内から念入りに締っていたというし、塀には恐ろしくヤワな忍び返しが打ってあるから、うっかりさわってもはずれるに決っている。
勢いよく二三十間突いておいて、ひょいと腰をかける。汗臭あせくさ浅黄色あさぎいろ股引ももひき背広せびろすそさわるので気味が悪い事がある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坑夫達はそんな風に言って、そこを通りかかる度毎たびごとに、青の鼻先へさわってやるのだった。併し青は、黒い鼻先をほんのかすかにうごめかすだけであった。
狂馬 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
此方こちの心が醇粋いっぽんぎなれば先方さきの気にさわる言葉とも斟酌しんしゃくせず推し返し言えば、為右衛門腹には我を頼まぬが憎くていかりを含み、わけのわからぬ男じゃの
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それから二人ふたりはそこをて、クレムリにき、大砲王たいほうおう(巨大な砲)と大鐘王たいしょうおう(巨大な鐘、モスクワの二大名物)とを見物けんぶつし、ゆびさわってたりした。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
病院でも文学青年が幾人かおり、寄るとさわると外国の作品や現代日本の作家の批評をしたり、めいめい作品を持ち寄ったりもして、熱をあげていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
覚えてるようでもあれば、覚えていないようでもあったが、何だか心の傷にでもさわられるような気がしたのである。
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
抽斗ひきだしは、みな、キュッと口を結んでさわりでしたらただではすまさないぞ、というふうに意地の悪い眼をむいている。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もうこうなったら黙って成り行きを窺っているよりほかはないと、お時は腫れものにさわるようなおびえた心持ちで、遠くからそっと二人を眺めていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それじゃア大工さんを頼めば可い」とお徳はお源の言葉がしゃくさわり、植木屋の貧乏なことを知りながら言った。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「やあ、危険きけん! 危険きけん! おまえさんにゃさわれない。」といったが、たか屋根やねがっていてりられなかった。
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
新太郎君は耳痛いことを聞かされる積りで覚悟をしていたが、それもなくて、当らずさわらずの話が長い間続いた。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その尾におびただしく節あり、驚く時非常な力で尾肉を固く縮める故ちょっとさわれば二、三片にれながらおどり廻る。
この頃は二子ふたこの裏にさえ甲斐機を付ける。斜子の羽織の胴裏が絵甲斐機じゃア郡役所の書記か小学校の先生みていて、待合入りをする旦那だんな估券こけんさわる。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
吉田の弟は病室で母親を相手にしばらく当りさわりのない自分の家の話などをしていたがやがて帰って行った。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
伊助は鼻の横に目だって大きなほくろが一つあり、それにさわりながら利く言葉にどもりの癖も少しはあった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
二月半ほど留守にした間に、置捨てて行った荷物でも書籍でも下手へたさわられないほどの塵埃ほこりたまっていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「飲めるのなら、いくらだッて飲んでおくれよ。久しぶりで来ておくれだッたんだから、本統に飲んでおくれ、身体からだにさえさわらなきゃ。さア私しがお酌をするよ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
いわゆる売りことばに買いことば、こちらが柔和にゅうわにおだやかなる心をもって人に接すれば、相手の柔和な心を抽き出す。鐘もうちよう、人の心もさわりようである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その地下植物の白い脈はあまり細くて、さわれば直ぐ切れて了ふ程のもので、葉もなければ根もない。地の中で少しづつ大きくなつて、可なりの遠方まで伸びて行く。
母は腫れものにでもさわるように大事に扱いまして、わたくしの機嫌を取結ぶことが、わたくしをして、また池上の機嫌を取結ばしめるよすがにでもなると思ってか
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と言わぬばかりの高慢の面付つらつきしゃくさわってたまらなかったが、其を彼此かれこれ言うと、局量が狭いと言われる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)