覿面てきめん)” の例文
この場所ぎめの際の一喜一憂する表情は見ていて面白かった。くじ運のいいとわるいでは、その夜の商いに覿面てきめんにひびくわけである。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
「悪い方でもなかろうと思うけれど、一切秘密だから他の相場が分らない。兎に角覿面てきめんだ。勉強すると上る。君は屹度上っているよ」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
蛮僧の治療の効は、覿面てきめんに現れた。劉大成は、その日から、ぱつたり酒が飲めなくなつたのである。今は、匂を嗅ぐのも、嫌だと云ふ。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だが、そのいどむやうな強い眼の色と全身に滲み出た一種圧迫的な怒気とはその表面の叮重さを明かに裏切つてゐた。効果は覿面てきめんだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
「よろしい、どっちが勝つかまあ見ていろ。小林に啓発けいはつされるよりも、事実その物に戒飭かいしょくされる方が、はるかに覿面てきめんで切実でいいだろう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
郷里くにを出るのに、夷人いじんの船などに乗せられて、よいことのあろうはずはない、覿面てきめんでしたのう、船は霧に包まれて坐礁しかけたり
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「天に口なし、鼻を以て云わしむる」という事を覿面てきめんに証拠立てるものであるという事が、もし本当に人類全体にわかったらどうでしょう。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は自分の罪が、ヒシ/\と胸にこたへて来るのを感じた。自分の野卑な、狡猾な行為が、子の上に覿面てきめんに報いて来たことが、恐ろしかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
いはんやしも歐米流おうべいりう姓名せいめい轉倒てんたふするときは、こゝに覿面てきめんおこ難問なんもんがある。それは過去くわこ歴史的人物れきしてきじんぶつとき如何いかにするかといふことである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
かれが痛感したにちがいないであろうことは、十年の快楽も、この一夜につぐないさせられたという覿面てきめんむくいであったろう。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は歯をひしばつて口惜くやしがつた。が、やつぱりどうすることも出来なかつた。覿面てきめんなもので、林檎林はその後、日に増し生気を失つて行つた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
われは覿面てきめんに死の天使を見たり。その翼は黒き灰と流るゝいはほとにして、一たびこれを開張するときは、幾多の市村はこれがために埋めらるゝなり。
この言葉は覿面てきめんだつた。女優はそれを聞くと、胸に抱へた花束をそつくりそのまま買ひ取られでもしたやうに、顔中を明るくして満足さうに笑つた。
立山サラサラ越えの黒百合の伝説は、昔物語として一笑にしていたが、黒百合の怨霊、其の山荒れ、今覿面てきめんに、我らの頭上に降りかかって来たのだ。
登山は冒険なり (新字新仮名) / 河東碧梧桐(著)
これはギリシア人などが極力驕慢を警戒したのと同じ考えで、ギリシアにおいても神々の罰が覿面てきめんに下ったのである。
男子が自ら女子に欺かるるので、かもそのここに至るは因果は廻る小車の如く、前に自ら女子を欺きたるその応報の覿面てきめんに示現したのに外ならぬ。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
所詮覿面てきめんに日常生活にっ附かってかなくては行けない。この打っ附かって行く心持が Dionysosジオニソス 的だ。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その後カションはいかなる病気びょうきかかりけん、盲目もうもくとなりたりしを見てこれ等の内情を知れる人々は、因果いんが覿面てきめん気味きみなりとひそかかたり合いしという。
黒船騒ぎ以来、諸大名の往来は激しく、伊那いなあたりから入り込んで来る助郷すけごうの数もおびただしく、その弊害は覿面てきめんに飲酒賭博とばくの流行にあらわれて来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かくては如何なることばをもて夫はこれに答へんとすらん、我はこのことわり覿面てきめん当然なるに口を開かんやうも無きにと、心あわてつつ夫の気色をひそかうかがひたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのなかでも盗賊の多いというのが覿面てきめんにおそろしいので、この頃は都大路みやこおおじにも宵から往来が絶えてしまった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちと人が悪いようなれども一切ただにて拝見したる報いは覿面てきめん、腹にわかに痛み出して一歩もあゆみ難くなれり。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
皆鶴姫みなづるひめ殿やら京の君様やら、ありとあらゆる女に手を出し、その後もずっと女狂い、怨めしや怨めしや! その天罰が覿面てきめんにむくい、今は落人おちゅうどのお身の上
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いや、ばち覿面てきめんだ。境内へ多時しばらくかかっていた、見世物師と密通くッついて、有金をさらってげたんです。しかも貴女、女房がはらんでいたと云うじゃありませんか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬で峠を越そうなぞと強がった天罰覿面てきめん、谷へ落ちなかったのが何よりのめっけもの。元気は再び旧に倍す。
みじかころでも、あさねむたさが覿面てきめん自分じぶんたしなめるにもかゝはらずうそ/\とあるいてねばくさふるぼけた蚊帳かやなかあきらめてそのよこたへることが出來できないのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そして百八十人の住民たちで、無事二匹の牛を片づけたそうである。効果は覿面てきめんで、テスト用の巨大石像は、やすやすと、草原の上を曳いていかれたと書いてある。
牛の丸焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
下司げすな笑いは、お神楽の清吉のゆがんだ唇から、ガラッ八の開いた口へ、覿面てきめんに叩きつけられたのです。
よってようやく取りおろしてやったが、覿面てきめんなものでその夜はさしもに荒れた鼠がガタとも云わない。
「ええ、こんな人間は、死んでしまうのが当り前だわ、天罰だわ、天罰覿面てきめんだわ、自業自得だわ!」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
三日の間二尺に余る積雪中を辿り歩いた報いは覿面てきめんで、今だにきずあとが寒さに痛む程の凍傷を受けた。
冬の山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
超越した特別な世界のもののように考えているのかもしれないが、みたまえ! そんな愚かな考えの者は、覿面てきめんに世の中から手ひどいしっぺ返しを喰うに極っているから
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
お店は素人故に何もわからないなどと思うと天罰覿面てきめん、必ずその影響があらわれるものである。
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
さア/\/\と糶詰せりつめのちは男がそれまでに思召すのをなどと申して、いやらしい振になって騒ぎを起しまするが、女の子が男を口説くどく秘法は死ぬというが何より覿面てきめんでげす。
その晩、早くねたわたしは、あくる朝、覿面てきめんに早く眼がさめた——勝手の知れないまま、しばらく床の中でもじもじしていたものの、辛抱し切れなくなってわたしは起きた。
春深く (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
当行学院御院主、昨秋らい関東御巡錫中ごじゅんしゃくちゅうの故を以て、その留守を預かる院代いんだい玄長げんちょうと申す者じゃ。邪魔立て致すとは何を暴言申さるるか、霊地の庭先荒さば仏罰ぶつばつ覿面てきめんに下り申すぞッ
天罰覿面てきめんはここの理窟だ。大慾のなんとか言ふ文句もあるね。いやはや智恵者も顔色なしだ
今日まで知られているものでは、おそらく天正てんしょうの銘記のあるのが一番古いであろうか。少しでも不敬なことをすればそのたたりは覿面てきめんで激しいという。だから誰も恐れうやまっている。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
日本人には勿論のこと、いくら西洋人が明るみを好むからと云って、あの暑さには閉口するに違いなかろうが、何より彼より、一遍明りを減らしてみたら覿面てきめんに諒解するであろう。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
中には覿面てきめんその狂いがむくって来て、今さら後悔のほぞを噛むようなことが沢山あります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うはさだけでも、死刑しけいといふものには、覿面てきめん效力かうりよくがあるとおもつて、但馬守たじまのかみ微笑びせうした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
アア養母殺しの輪田夏子、死刑終身刑の宣告を受け、首尾よく牢を脱け出だして松谷秀子と生まれ代わり今は又養父殺しの罪に捕わる、業か因果か、無実の罪かそもそも又覿面てきめんの天罰か。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そして男の上へ身をかがめて微笑んだ。男は溜息ためいきを衝いた。それから何か言おうとした。何か非常な侮辱を覿面てきめんに与えて遣りたいのである。そうするのが当然だと考えられるのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
地主にとっても利益のことではなく、門閥の大木に根廻しをするようなもので、もしその売上金が紙数ばかり多いこのごろの株券にでも変わっておれば、あまりに覿面てきめんな結果であった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
渠の影響が覿面てきめんに來たのだと嘲るだらうが——早くからたゝき込まれて居た、耶蘇教の神が分らなくなつて、之を棄てゝしまつたし、また自分の愛して居た少女が理想のものでなかつたり
神秘的半獣主義 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
古風作者こふうさくしゃかきそうな話し、味噌越みそこし提げて買物あるきせしあのおたつが雲の上人うえびと岩沼いわぬま子爵ししゃくさま愛娘まなむすめきいて吉兵衛仰天し、さてこそ神も仏も御座る世じゃ、因果覿面てきめん地ならしのよい所に蘿蔔だいこは太りて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
背に腹はえられず、つい道ならぬ欲に迷いしために、たちま覿面てきめん天罰てんばつ受けて、かくも見苦しき有様となり、御目おんめにかかりしことの恥かしさよと、生体しょうたいなきまで泣き沈み、御恵おんめぐみにあずかりし時は
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
予期したことながら、余りにも覿面てきめんな効果に、わしは思わず声をかけた。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女房は覿面てきめんにかれに向つて、自分の夫を懶惰にする人だと責めました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
一廉ひとかど労働者の先覚顔して、煽動した因果覿面てきめん、ちょっとした窓の修繕や半里足らずの人力車を頼んでも、不道理極まる高い賃を要求されて始めて驚き、自ら修繕し、自ら牽き走ろうにも力足らず