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虻
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あぶ
ふりがな文庫
“
虻
(
あぶ
)” の例文
窓を開けて仰ぐと、溪の空は
虻
(
あぶ
)
や
蜂
(
はち
)
の光点が忙しく飛び交っている。白く輝いた蜘蛛の糸が弓形に膨らんで幾条も幾条も流れてゆく。
冬の蠅
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
四目垣
(
よつめがき
)
の裾には赤い百合が幾株も咲いていた。わたしは飛んでいる
虻
(
あぶ
)
を追おうとして、竹切れでその花の一つを打ち砕いてしまった。
明治劇談 ランプの下にて
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
虻
(
あぶ
)
が刺し、蜂が刺す、大きな
毒蟻
(
どくあり
)
が噛み、文覚の五体は、しばらくすると
無慚
(
むざん
)
な有様となったが、彼は足の指一つ動かさなかった。
現代語訳 平家物語:05 第五巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
それやこれやの思いに暮れて、鶴子はハンケチを口に
銜
(
くわ
)
えたまま台所の柱に身をよせかけ、葡萄棚に集る
虻
(
あぶ
)
の羽音を聞いていた。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
彼の生の意味と欲望は、
婆娑羅
(
ばさら
)
な道にあるだけだ。この世は、欲望の園であり、じぶんは花に飽かない
虻
(
あぶ
)
の大王だと思っている。
私本太平記:04 帝獄帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
▼ もっと見る
大神ゼウス
虻
(
あぶ
)
を放ちて馬を
螫
(
さ
)
さしめ、飛馬狂うてベを振り落し自分のみ登天す。ベは尻餅どっしりさて
蹇
(
あしなえ
)
となったとも盲となったともいう。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
事務長は
虻
(
あぶ
)
に当惑した
熊
(
くま
)
のような顔つきで、
柄
(
がら
)
にもない謹慎を装いながらこう受け答えた。それから突然本気な表情に返って
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
東風
(
こち
)
菫
(
すみれ
)
蝶
(
ちょう
)
虻
(
あぶ
)
蜂
孑孑
(
ぼうふら
)
蝸牛
(
かたつむり
)
水馬
(
みずすまし
)
豉虫
(
まいまいむし
)
蜘子
(
くものこ
)
蚤
(
のみ
)
蚊
(
か
)
撫子
(
なでしこ
)
扇
燈籠
(
とうろう
)
草花 火鉢
炬燵
(
こたつ
)
足袋
(
たび
)
冬の
蠅
(
はえ
)
埋火
(
うずみび
)
俳諧大要
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
昼の中多く出た
虻
(
あぶ
)
は、潜んでしまったが、蚊は仲秋になると、益々あばれ出して来る。日中の興奮で、皆は正体もなく寝た。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
蝶でも
虻
(
あぶ
)
でも
蜻蛉
(
とんぼ
)
でもかげろうでもおよそ水面に近い空間を飛んでいる虫を見れば水中から躍りだして、一気にそれを、ぱくりと食ってしまう。
魔味洗心
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
憂鬱
(
ゆううつ
)
な眼付をして、三吉が昼寝から
覚
(
さ
)
めた時は、
虻
(
あぶ
)
にでも刺されたらしい
疼痛
(
いたみ
)
を覚えた。お俊は髪に塗る油を持って来て、それを叔父に勧めた。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
その
虻
(
あぶ
)
の
羽音
(
はおと
)
を、
聞
(
き
)
くともなしに
聞
(
き
)
きながら、
菊之丞
(
きくのじょう
)
の
枕頭
(
ちんとう
)
に
座
(
ざ
)
して、じっと
寝顔
(
ねがお
)
に
見入
(
みい
)
っていたのは、お七の
着付
(
きつけ
)
もあでやかなおせんだった。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
何だろうとそこいらを見まわしますと、そこの白壁によせかけてあったサイダーの
瓶
(
ビン
)
に一匹の
虻
(
あぶ
)
が落ち込んで、ブルンブルンと狂いまわりながら
虻のおれい
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
香倶土三鳥
(著)
そして、
虻
(
あぶ
)
や黄金虫や——それまで彼女にたかっていた
種々
(
いろいろ
)
な虫どもが、いきなり
顫
(
おのの
)
いたようないっせいに、羽音を立てて、飛び去ってしまった。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
主人が
骨牌
(
かるた
)
をやっている間、ピラムはじっとしている。脚を
舐
(
な
)
める。人が通って、その脚を踏もうとすると引っ込める。
虻
(
あぶ
)
を噛み殺す。
嚔
(
くしゃみ
)
をする。
ぶどう畑のぶどう作り
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
疲れ果てたそして極めて靜かなその場の氣持を壞さない樣に、私はわざわざ座を立つてその蟲を逃がさうとした。見ると、それは大きな
虻
(
あぶ
)
であつた。
樹木とその葉:14 虻と蟻と蝉と
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
大山の足に、本来、馬につくべき、ツクツクボーシほどもある
虻
(
あぶ
)
が、血を吸いかけて、その鋭い嘴を刺したのだった。
山谿に生くる人々:――生きる為に――
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
ようやく筆の持てる頃から絵が好きで、使い残りの紅皿を姉にねだって口のはたを染めながら皿のふちに青く光る紅を
溶
(
とか
)
して
虻
(
あぶ
)
や
蜻蛉
(
とんぼ
)
の絵をかいた。
折紙
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
夏近くなって庭の古木は青葉を一せいにつけ、池を埋めた
渚
(
なぎさ
)
の残り石から、いちはつやつつじの花が
虻
(
あぶ
)
を呼んでいる。
老妓抄
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そうして当時の評論を調べて見ると、
是等
(
これら
)
の作物が全く問題になって居ない。青木健作氏の「
虻
(
あぶ
)
」
抔
(
など
)
は好例である。
長塚節氏の小説「土」
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
虻
(
あぶ
)
が一匹、座敷を横切って庭へ飛去ると、真夏の日はカッと照り出して、青葉の反映が、藤左衛門の
帷子
(
かたびら
)
や、白い障子を、深海の色に染めるのでした。
銭形平次捕物控:090 禁制の賦
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
かんかん
日
(
ひ
)
の
照
(
て
)
る
炎天
(
えんてん
)
につツ
立
(
た
)
つて、
牛
(
うし
)
がなにか
考
(
かんが
)
えごとをしてゐました。
虻
(
あぶ
)
がどこからかとんできて、ぶんぶんその
周圍
(
まはり
)
をめぐつて
騷
(
さわ
)
いでゐました。
ちるちる・みちる
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
春の花には
虻
(
あぶ
)
がうなって、ゲンツィヤナの空色を見つめてると、気が遠くなるようだ、空にはながながと一条の雲が、クリンムルの谷を西南に横ぎって
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
菊、茶山花の香を含んで酒の様に濃い空気を吸いつゝ、余はさながら
虻
(
あぶ
)
の様に、庭から園、園から畑と
徘徊
(
はいかい
)
する。庭を歩く時、足下に落葉がかさと鳴る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
まるで
及
(
およ
)
びもつかないわ。青いチョッキの
虻
(
あぶ
)
さんでも黄のだんだらの
蜂
(
はち
)
めまでみなまっさきにあっちへ行くわ。
ひのきとひなげし
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
嫁御が
俯向
(
うつむ
)
けの島田からはじめて、室内を白目沢山で、
虻
(
あぶ
)
の飛ぶように、じろじろと飛廻しに
眗
(
みまわ
)
していたのが、肥った膝で立ちざまにそうして声を掛けた。
革鞄の怪
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その大都市が、ぶうんぶうんと
虻
(
あぶ
)
の飛び交っているこの山中の真昼の睡った空気と瑠璃色の空の下に、今
忽焉
(
こつえん
)
としてその全貌を
晒
(
さら
)
け出しているのであった。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
片側には泉嘉門の屋敷の、古びた障子の玄関があって、一匹の
虻
(
あぶ
)
が障子の桟へ唸り立てながらぶつかっていた。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
尻尾
(
しっぽ
)
でピシッと腹の
虻
(
あぶ
)
を打ち殺すみたいに、不意に人間のおそろしい正体を、怒りに依って暴露する様子を見て、自分はいつも髪の逆立つほどの
戦慄
(
せんりつ
)
を覚え
人間失格
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
ヴェランダの上にのせた
花瓶
(
かびん
)
代用の
小甕
(
こがめ
)
に「ぎぼし」の花を生けておいた。そのそばで新聞を読んでいると大きな
虻
(
あぶ
)
が一匹飛んで来てこの花の中へもぐり込む。
沓掛より
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
払子は一度それを振ると、大抵の邪念は
虻
(
あぶ
)
のやうに飛んでしまひさうに思はれた。「ぢや、これをさし上げるとしよう。掘出し物なんだが、まあ仕方がない。」
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
遠野の城下はすなわち煙花の街なり。馬を駅亭の主人に借りて
独
(
ひと
)
り郊外の村々を
巡
(
めぐ
)
りたり。その馬は
黔
(
くろ
)
き海草をもって作りたる
厚総
(
あつぶさ
)
を
掛
(
か
)
けたり。
虻
(
あぶ
)
多きためなり。
遠野物語
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
晩方
(
ばんがた
)
になると、
虻
(
あぶ
)
が、木の繁みに飛んでいるのが見えた。大きな石がいくつも、
足許
(
あしもと
)
に転がっている。
過ぎた春の記憶
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
ビラの代りに、工場の中に
虻
(
あぶ
)
か蜂の一匹でも迷いこんだ方が、それより大きな騒ぎになるかも知れないのだ。「虻」と「ビラ」か! それさえ比較にならないのだ。
工場細胞
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
菜の花のそれが眼に浮ぶ、菜の畑の中に
跼
(
かが
)
んで、
虻
(
あぶ
)
のブンブン
呻
(
うな
)
るのを聴きながら、本を読んだり
菜の花
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
ぶーんと飛んで行つたのでジガ蜂だといふことを知つた。そして彼が急降下で落下したところには、肥えふとつた大きな
虻
(
あぶ
)
がだらしなく足をすくめてころがつてゐた。
ジガ蜂
(新字旧仮名)
/
島木健作
(著)
けれどもなにごとも
取付
(
とっつき
)
が肝心だから、途中でいけなかったなんていうことになると
虻
(
あぶ
)
蜂
(
はち
)
とらずだからね、あたしもよく考えてみて、それからもういちど相談しようよ
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
木の間がくれに洩れる六月の陽が汗を
滲
(
にじ
)
ませた。羽虫が目先をちらついた。
虻
(
あぶ
)
が追いかけて来た。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
赤土の道では油断をすると足を
掬
(
すく
)
われて一、二回滑り
落
(
おち
)
、
巌石
(
がんせき
)
の道では
躓
(
つまづ
)
いて生爪を剥がす者などもある。その上、
虻
(
あぶ
)
の押寄せる事
甚
(
はなはだ
)
しく、手や首筋を刺されて閉口閉口。
本州横断 癇癪徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
それから吉野のアキヅ野においでになつて獵をなさいます時に、天皇がお椅子においでになると、
虻
(
あぶ
)
が御腕を
咋
(
く
)
いましたのを、
蜻蛉
(
とんぼ
)
が來てその虻を咋つて飛んで行きました。
古事記:03 現代語訳 古事記
(旧字新仮名)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
朱柄
(
しゆえ
)
の
麈尾
(
しゆび
)
をふりふり、裸の男にたからうとする
虻
(
あぶ
)
や蠅を追つてゐたが、
流石
(
さすが
)
に少しくたびれたと見えて、今では、例の
素焼
(
すやき
)
の瓶の側へ来て、七面鳥のやうな恰好をしながら
酒虫
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
九谷焼の花瓶に
射干
(
ひあふき
)
と白い
夏菊
(
なつぎく
)
の花を
投込
(
なげこみ
)
に差した。中から大きい
虻
(
あぶ
)
が飛び出した。紅の毛氈を掛けた
欄干
(
てすり
)
の傍へ座ると、青い紐を持つて来て手代が前の幕をかかげてくれた。
住吉祭
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
虻
(
あぶ
)
のような
羽虫
(
はむし
)
も飛んでいる。河上では
釣
(
つり
)
をしている人もいる。何が釣れるのか知らない。底まで澄んでみえるような水の青さだった。時々、客を乗せた
屋形船
(
やかたぶね
)
が下りて来る。
田舎がえり
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
纔
(
わづか
)
にかく言ひしのみにて、彼は又
遅
(
ためら
)
ひぬ、その
髯
(
ひげ
)
は
虻
(
あぶ
)
に苦しむ馬の尾のやうに
揮
(
ふる
)
はれつつ
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
六月の末になると、アメリカの花どもがいよいよ
猖獗
(
しょうけつ
)
して、朝から、蜂がくる
虻
(
あぶ
)
がくる。
我が家の楽園
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
蝶もやはりさういふ風にしてゐるし、
虻
(
あぶ
)
やあの牛の血を吸ふ大きな蠅も飛んでゐる。場所は上等の処だ。さて、それから仕事だ! じよらうぐもは水際の柳のてつぺんに攀ぢ上る。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
翅音
(
はおと
)
をたてて舞っている眼の先の
虻
(
あぶ
)
を眺めていたが、不図其奴が鼻の先に止まろうとすると、この永遠の木馬は、
矢庭
(
やにわ
)
に怖ろしい胴震いを挙げて後の二脚をもって激しく地面を蹴り
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
着物も、頸も、下の草も、赤黒く染まって、疵口には
虻
(
あぶ
)
が止まって動かなかった。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
それは蟻が一生懸命で
生殺
(
なまごろ
)
しの
虻
(
あぶ
)
に取りついているように、ズルズルと引張っては、またはなしてしまい、また引張っては離れ、離れては引張り、引張っているうちに自分の腰が砕け
大菩薩峠:19 小名路の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
関白の威勢や、三好秀次や浅野長政や前田利家や徳川家康や、其他の
有象無象
(
うぞうむぞう
)
等の信書や言語が何を云って来たからと云って、
禽
(
とり
)
の羽音、
虻
(
あぶ
)
の羽音だ。そんな事に動く根性骨では無い。
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
“虻(アブ)”の解説
アブ(虻・蝱)は、昆虫綱ハエ目(双翅目)ハエ亜目(短角亜目)の名称である。その範囲や定義は完全には一致しないが、広義にはおおよそ、廃止された分類群である直縫群 Orthorrhapha、もしくはそれにやや異同のあるグループをアブと呼ぶ。後者は基本的に、和名に「アブ」とつく種のグループと一致するが、このグループは直縫群と大半が一致するものの完全には一致しない。
狭義にはアブ科の総称とするが、狭義のアブについては科記事を参照されたい。
(出典:Wikipedia)
虻
漢検準1級
部首:⾍
9画
“虻”を含む語句
虻蜂
虻田
虻蜂蜻蛉
蚊虻
白虻
虻熊
虻蜂取
蜂虻
黒虻