わき)” の例文
「こんなわけで、僕はすっかりふりまわされて、恥をかくやら、大失態を演ずるやら、今思い出してもわきの下から冷汗が出てくるよ」
暗号数字 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「勘忍の革袋か」と高声にあざけりながら、——幸いにして当の勘忍袋はたいして暴れもせず、ただわきの下へ冷たい汗が出ただけだった
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
テナルディエはわきのポケットから、大きな灰色の紙包みを取り出した。種々の大きさにたたんだ紙が中にはいっているらしく見えた。
野飼いの奇傑きけつ蒲生泰軒は、その面前にどっかと大あぐらを組むと、ぐいと手を伸ばして取った脇息をあかじみたわきの下へかいこんで
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そう云っている板倉の鼻先を、五人が一とかたまりになって駈け足の練習でもしているように握りこぶしを両わきに附けながら走って通った。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二、三町行くとその荷物を石のある所にうまく卸して休まなくちゃあ歩けない。寒いのにわきの下から汗が出るという始末、実に苦しい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
検温器を患者のわき揷入そうにゅうしたりして、失望したり、れったがったりしたが、外へ出ない時も、お銀にばかりまかせておけなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お富や子供らのこと考えるたびに、伊之助のわきの下には冷たいねばりけのある汗がわく。その汗は病と戦おうとする彼の精神こころから出る。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その空気が一番多く侵入する所はわきしたか腰の附け根だからそこを押えてみると空気の吹込んであるのはブクブクと気泡あわが動く。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「久助君が来たのを、その足音もしないうちから感づいているのだから、我々なんぞはもうわきの下の毛穴まで数えられているかも知れない」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
血を連想した時高柳君はわきの下から何か冷たいものが襯衣シャツに伝わるような気分がした。ごほんと取り締りのないせきを一つする。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蔡福は聞くうちにもわきの下に冷めたい汗をタラタラとたらしていた。くやしいが人間の違いか。この威圧はどうしようもない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女の青いしまのはんてんを羽織って立っている私は、きりわきの下を刺されくすぐられ刺されるほどに、たまらない思いであった。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
冬の外套がいとうわきの下に折鞄おりかばんを抱えた重吉は玄関前の踏み石を歩きながら、こういう彼の神経を怪まないわけには行かなかった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
引金にひもがかかっているため敬二郎のわきの下を貫き、紀久子の胸を貫くことになる計画だったのだけれど、それも見事失敗に終わってしまった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
ようやくゆるんだ帯から首をはずしてほっとしたが、わきの下や背筋には冷たい汗が出てどきんどきんと心臓が激しかった。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
私のぶらつくところはおおむね背中のようなわきの下のような指の間のような裏通り、時とすると……のような辺であった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
そこでそれがふたゝせないやうに、あいちやんはそれをわきしたみ、それからその友達ともだちほも談話はなしつゞけやうとしてもどつてきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
(お前達まへだち生意気なまいきだよ、)とはげしくいひさま、わきしたからのぞかうとしたくだん動物どうぶつ天窓あたま振返ふりかへりさまにくらはしたで。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
男はシャツのわきの裂けたるも知らで胴衣ちよつきばかりになれるあり、羽織を脱ぎて帯の解けたる尻を突出すもあり、十の指をばよつまで紙にてひたるもあり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
投げ飛ばされた一郎次は、右のわきの下に刀でえぐるような痛みを感じました。彼は、もう死ぬような気がしました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼のわきの下から冷汗がポタポタと滴った。急にたまらない恥かしさを覚えて、今一度、土の上に額を押しつけた。
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もっと大きな声で願います、といわれながらやっとそれだけいったときの、のぼせたせつなさを思って、今も、伸子はわきの下がしっとりとするのであった。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
波止場に入りし時、翁は夢みるごときまなざしして問屋といや燈火ともしび、影長く水にゆらぐを見たり。舟つなぎおわれば臥席ござきてわきに抱き櫓を肩にして岸にのぼりぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこで、そのありかをたずねてゆくと、女は両親を識らないと言い張っていたが、そのわきの下に大きいあざがあるのが証拠となって、彼女はとうとう恐れ入った。
やぶから棒を突き出したようにしりもったてて声の調子も不揃ふぞろいに、辛くも胸にあることを額やらわきの下の汗とともに絞り出せば、上人おもわず笑いを催され
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鳥井青年は、わきの下から冷いあぶら汗をタラタラ流しながら、泳ぐ様にして恋人の前に近づいて行った。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私のはいつのにかわきしたくゞつてゐました。私は東明館前とうめいくわんまへからみぎれて、わけもなくあかるくにぎやかなまち片側かたがはを、店々みせ/\うて神保町じんぼうちやうはうへと歩いて行きました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ベルが鳴ってから電気を附けたと見えて、玄関のわき欞子れんじの硝子にぱっと明りが映ったのであった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
紫色の影をつくるわきの下に魅力を感じて立あがると、藍色のアブサン酒を彼女のグラスにいだ。
スポールティフな娼婦 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
自分は急いでいるのだということを示すために書類入れをわきの下に高く押しこみ、言葉を続けた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
この伝で往くと、栖鳳氏の天人はへそあなからくすぐつたいわきの下の皺までかねばならなくなる。
さらばござんなれと、ひそかに刀を抜いてわきの下に片手で隠し持ち、きっ先を後方に向けておいて、おばけが近づいて来てまさに彼にふれようとした瞬間にズブリと突き刺した。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
だまっていても、わきの下が気持悪くニヤニヤと汗ばんだ。由三は今ようやく出来かけている口笛を吹きながら、手にぶら下ったり、身体にからまって来たり、一人で燥いでいる。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
と、答えて、わきの下に、冷汗を流していた。大作は、薄い柳行李から、袴を出しながら
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
わきの下からも、冷たい水が湧いて、気持わるく横腹を流れる。しきりに、水を飲んだ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
街の一端に近きポヽロの廣こうぢにつなを引きて、馬をば其うしろに並べたり。馬は早や焦躁いらだてり。脊には燃ゆる海綿をり、耳後には小き烟火具はなびを裝ひ、わきには拍車ある鐵板を懸けたり。
「ママ、僕にあたらしいシャツを出してよ。このシャツはわきの下がやぶれてんだもの。」
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
慄悍ひょうかんな動物は、弾丸をくぐって直ちに、人に迫って来る。それは全く凄いものだった。衛兵は総がかりで狼と戦わねばならなかった。悪くすると、わきしたや、のどに喰いつかれるのだ。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
弓張ゆみはりなざア其方そっちの羽目へ指しねえな、提灯ちょうちんをよ、たれえを伏せて置いて、仏様のわきの下へ手を入れて、ずうッと遣って、盥のきわで早桶を横にするとずうッと足が出る、足を盥の上へ載せて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
罪人を裸にして右わきを土壇に当て、右手は土壇に立てられた竹に繩でしばりつけ、左手は助手がひっぱっている。そして正面から、罪人の左肩から右乳へかけて斜に、「袈裟切けさぎり」をする。
せいばい (新字新仮名) / 服部之総(著)
彼が最後に書物を買った時は、チョッキから、上衣から洋袴ズボンから、外套まで、小型の奴は悉くポケットに詰め込み、大冊は両わきに抱えたので、何処の辻馬車の馭者ぎょしゃも彼を乗せる事を拒んだ。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
いたずらっ児時代の記憶を喚起して見ても、瓦をめくって親かとまちがえるような大きな子雀を見たこともあれば、また椽先えんさきなどへ入って来るのには、時々はわきの下などの赤裸なのもいる。
まだ花は盛りでわきの坊に一泊し、翌日は蔵王堂からそれぞれと見物し、関屋の花を眺めて橘寺に出で、夜に入り松明たいまつの出迎えを受けて安部寺に一宿し、長谷、三輪、石上を経て奈良に戻った。
達也様にはわきの下に小指の先で突いたほどの赤あざがある、花と同じように下唇に黒子ほくろもあるはずです、しかし、それ等は外から見てわかる事で、云いがかりだと仰しゃられてはそれまでですが
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
お前はわきの下を拭いてゐるね。冷汗が出るのか。それは俺も同じことだ。何もそれを不愉快がることはない。べたべたとまるで精液のやうだと思つてごらん。それで俺達の憂欝は完成するのだ。
桜の樹の下には (新字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
雲の峰一道二道と山のわきより立ち昇りて、神女白銀の御衣みけしいて長し、我にいま少し仙骨を有するの自信あらば、して天際に達する易行道いぎやうだうとなしたりしならむ、下はすなは荒邈くわうばくとして、裾野も
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
今更の汗わき下を傳へば後悔の念かしらにのぼりて、平常つねの心のあらはれける我れ恥かしく、さても何如なる事をか申たる、お前樣お二人の外に聞かれし人は無きかと裏どへば、佐助大笑ひに笑ひて
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ああ、またしてもよく寝られたもんだ。まだなにもできちゃいないじゃないか! はたしてそうだ、はたしてそうだ。わきの下の輪さだって今まで取ってないんだ! 忘れてる、こんなかんじんなことを
こはをかしやはらかなこのわきの下くすぐればふふと笑ふ正覚坊
真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)