はぎ)” の例文
はじめて、白玉のごとき姿を顕す……一にん立女形たておやま、撫肩しなりとはぎをしめつつつまを取ったさまに、内端うちわ可愛かわいらしい足を運んで出た。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やつの義足と娘のはぎとの間に何の関係があるか。マリユスは嫉妬の発作に襲われた。「彼奴あいつもいたんだろう。あれを見たに違いない!」
炎に似た夢は、袈裟の睫毛まつげをふさがせ、閉じたるくちを、舌もてあけ、うちぎのみだれから白いはぎや、あらわなのふくらみを見たりする。
僕等は弘法麦こうぼうむぎの茂みをけ避け、(しずくをためた弘法麦の中へうっかり足を踏み入れると、ふくらはぎかゆくなるのに閉口したから。)
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ふくらはぎが重たくなって、両肱をもたせた製図板に重心をかけて小休みしていたサイは、びくっとした顔になって、烏口を持ち直した。
三月の第四日曜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
露の深い路地、下水に半分身を落して、乙女の身体は斜に歪み、もすそくれないと、蒼白くなったはぎが、浅ましくも天にちゅうして居るのです。
やり過して地びたをって後へ廻った鉄公の手がお鶴の裾にかかったかと思うと紅がひるがえって高く捲れた着物から真白なはぎが見えた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
春告鳥はるつげどり』の中で「入りきた婀娜者あだもの」は「つまをとつて白き足を見せ」ている。浮世絵師も種々の方法によってはぎを露出させている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
つまを掴んでたくし上げた。だらーッと下がった緋の長襦袢の、合わせ目が開いて女のはぎとは見えない、細っこい毛臑けずねがニョッキリ出た。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あゝやさしきわが父よ、汝耳をかたむけたまはば、我かくはぎを奪はれしときわが前にあらはれしものを汝に告ぐべし。 一二四—一二六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
黒いストッキングが少くなり、カシミヤやセルのはかまの下から肉づきのよい二三寸のはぎをのぞかせて行く職業婦人が多くなった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丁度膝頭のあたりからふくらはぎへかけて、血管が青く透いて見える薄い柔かい肌の上を、紫の斑点がぼかしたように傷々いた/\しく濁染にじんでいる。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
水は半ば凍り、泥濘でいねいはぎを没する深さで、行けども行けども果てしない枯葦原かれあしはらが続く。風上かざかみまわった匈奴の一隊が火を放った。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ソノはぎハナハダ白カリシカバたちまチニ染著せんぢやくノ心ヲ生ジテ即時ニ堕落シケリ、ソレヨリやうやク煙火ノ物ヲ食シテ鹿域ろくゐきなか立却たちかへレリ
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いつのまにか、もうふくらはぎなかばまできている。まもなく膝を没するであろう。それからもも、腹、胸、首……やがて全身水びたしに——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
親指が没する、くるぶしが没する、脚首あしくびが全部没する、ふくらはぎあたりまで没すると、もうなかなかたにの方から流れる水の流れぜいが分明にこたえる。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
梯子段はしごだんを描きてのぼりまたりんとする婦女の裾より美しきはぎうかがはしむるは、最も柱絵に適当すべき艶麗なる画題なるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お鳥はひやっこい台所の板敷きに、ふくはぎのだぶだぶした脚を投げ出して、また浅草で関係していた情人おとこのことを言いだした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
西郷の港では、雨の土砂降りに降る中に尻からげをして白いはぎを出してゐる娘達が友禅モスリンの帯の色彩をあたりに際立たせて迎ひに出てゐた。
隠岐がよひの船 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
くちばしに刺されたのか、蹴爪に撃たれたのか、彼女は左右の脚を傷つけられて、白いはぎからなま血が流れ出していた。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はぎあらはに端折りて、ささやかなるものを負ひつつ来給ふさま苦しげにもあらず、常の道歩み給ふさまなるがいとうれし。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
見ると彼女の白いはぎには泥がつき、何かで傷つけたらしく血がにじんでいた。彼女はしかしそれを見ても泣かずにいた。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
『陛下、シバとエチオピアでは誰でも申す事でございます。バルキス女王の片はぎは毛だらけで、片足は二つに裂けた黒い爪ぢやと皆が申して居ります』
バルタザアル (新字旧仮名) / アナトール・フランス(著)
小紋まがいの裾を引擦った突かけ草履のはぎも露わに、和尚と良助を突飛ばすようにして死骸の傍に走り寄ると……ワッ……とばかりに取縋って泣出した。
横にたふれた時、白い職服きものの下から赤いものが喰み出して、其の下から圓く肥つた眞白いはぎの出たのが眼に浮んだ。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
唯家を出て、西へ西へと辿たどって来た。降り募るあらしが、姫の衣を濡した。姫は、誰にも教わらないで、裾をはぎまであげた。風は、姫の髪を吹き乱した。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
手に薙刀を持ちなされたまま……母御前かならず強く歎きなされな……獣に追われて殺されつろう、はぎのあたりを噛み切られて北の山間やまあいに斃れておじゃッた
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
すると白い柔らかそうな、すんなりしたはぎがあらわになり、また慌てて、優雅な歩きぶりにかえるのであった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「これ、あばれるな! はぎが出らあな! 白いもの、赤いもの、ちらちらするなあ、おれ達にゃあ目の毒だ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
じゅうぶんにはぎをまくって、諸公がたに傷跡をご検分願わっしゃい。だれかてつだって、まくってつかわせ
ぼつぼつ疲れかげんになってきたはぎのあたりへ、ズボンをとおして、ひやりとしたものがみ込んでくる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
陶はと見ると、やッつけの束髪結びにだらしなく羽織を引ッ掛け、はぎを蹴出さんばかりのしどけない立膝で縁の柱に凭れ、月琴げっきんを抱えて俗曲かなにかを歌っていた。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「女これかれゆあみなどせむとて、あたりの宜しき所に下りて往く云々、何の葦影にことづけて、ほやのつまのいずし、すしあはびをぞ、心にもあらぬはぎにあげて見せける」
へそはぎも出ずるがままに隠しもせず、奮闘といえば名は美しいけれど、この醜態は何のざまぞ。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
腰巻がしだいに尽きて、下から茶色のはぎが出る。脛が出切できったら、藁草履わらぞうりになって、その藁草履がだんだん動いて来る。頭の上に山桜が落ちかかる。背中には光る海をしょっている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
阿母かあさんに度々起されて、しどけない寝衣姿ねまきすがたで、はぎの露わになるのも気にせず、眠そうなかおをしてふらふらと部屋を出て来て、指の先で無理に眼を押開け、まぶちの裏を赤く反して見せて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
二時間の後、用達ようたしに上高井戸に出かけた。八幡はちまんの阪で、誰やら脹脛ふくらはぎを後からと押す者がある。ふっと見ると、烏山からすやま天狗犬てんぐいぬが、前足をげて彼のはぎを窃とでて彼の注意をいたのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
のみのゐてはぎをさしさす居ぐるしさ日の暮れぬまともの書きをれば
ひたすらにわが身いとしと銭湯せんたう脚気かつけはぎをさすりけるかな
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
南風モウパツサンがをみな子のふくらはぎ吹くよきうれひ吹く
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鱗のかさなつたきたないはぎをこすりあひ
測量船拾遺 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
雨後の月そや夜ぶりのはぎ白き
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
まっ白なはぎがちらりと見えた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あけなるはぎひぬとも
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
こぼれるはぎすそに巻き
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
裸体に蓑をかけたのが、玉を編んでまとったようで、人の目にはうすものに似て透いて肉が甘い。脚ははぎのあたりまでほとんどあらわである。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
露の深い路地、下水に半分身を落して、乙女の身體はなゝめゆがみ、もすその紅と、蒼白くなつたはぎが、淺ましくも天にちゆうしてゐるのです。
髪はほどけて顔へかかり、裾は乱れてはぎを現わし、襟はひらけて乳房を見せ、一方の袖が引き千切れて、二の腕があらわに現われている。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ぐわらぐわらとすさまじい物音が、飾り壇の下へ種々さまざまな物を落した。鎧櫃よろいびつ、血みどろな片腕、白いぶらぶらなはぎかんざし、立て札——
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐ側方そっぽを向いてしまって、足の甲だの、はぎのあたりだの、背筋の方だの、蚊に喰われたあとしきりにぼりぼり掻き始めました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)