胡弓こきゅう)” の例文
夕方ゆうがたになると、父親ちちおや子供こどもとは、ひのきのしたに、どこからかかえってきました。子供こどもは、えだつくった、胡弓こきゅうっていました。
あらしの前の木と鳥の会話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そういえば、耳のぴんと立った太夫たゆうがひとりござって、胡弓こきゅうをじょうずにひいてきかしてくれたてや。じゃ、あれが、きつねだったのかィ
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
とある大家たいけの別荘のようなやしきのまえを通りましたら琴や三味線や胡弓こきゅうのおとが奥ぶかい木々のあいだかられてまいるのでござりました
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それをまた、陪席ばいせきの来賓はみな、おかしげに眺め合って、しばしば、楽堂がくどう胡弓こきゅうふえの音も、耳に忘れるばかりな歓声だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえ、僕は、こんなこころよい気持ちのときに、君の胡弓こきゅうが聴きたいのだ。どうぞ、いてください、なしの花のお雪さん。」
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
目覚しき獅子の皮の、かかる牡丹の母衣の中に、三味さみ胡弓こきゅう、笛、太鼓、つづみを備へて、節をかしく、かつ行き、かつ鳴して一ゆるぎしては式場さして近づき候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
両側の飲食店からは、絃歌の音がさんざめき、それに交って、どこの露地からも、異国情調の濃い胡弓こきゅうの音や騒々しい銅鑼どらのぶったたくような音が響いて来た。
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は一本糸の胡弓こきゅうを作り、自ら勝利の唄を奏で、且つ踊った。興奮している時の彼は中々美少年である。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
のみならず彼等の後ろには鳥打帽子などをかぶった男も五六人胡弓こきゅうを構えていた。芸者は時々すわったなり、丁度胡弓の音に吊られるように甲高いうたをうたい出した。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どこからか兵士のかなでる胡弓こきゅうの音が漂ってくる。姫は寝台に身を起して、じっと不思議そうに成吉思汗ジンギスカンを見詰めている。長い沈黙がつづく。咽ぶような胡弓の調べ。
その前には十二三の少女が男の方を向いてたっている。少し離れてへやの入口には盲目めくら床几しょうぎに腰をかけている。調子の高い胡弓こきゅうと歌の声はこの一団から出るのである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
笛や胡弓こきゅうに合せて、おどり狂っているのですから、ネルロにとっては、よい気持のしない日であるにもかかわらず、彼はよく堪えて、小屋の入口に犬と並んで腰かけ
その控室の方に当っては、もはや、午後の演奏の支度にかかっているらしく、尺八に対して音締めを直している琴や胡弓こきゅうの音が、音のこぼれもののように聞えて来る。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
林泉りんせんのさま見事なる料理屋の座敷に尾上松助おのえまつすけ胡弓こきゅうの調子を調べつつ三絃さんげん手にせる芸者と居並び女形おんながたの中村七三、松本小次郎の二人ふたり箱引はこひきの戯れなすさまを打眺めたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その前を、脊中いっぱいに胡弓こきゅうを脊負って売り歩く男や、朝帰りの水兵や、車に揺られて行く妊婦や、よちよち赤子のように歩く纏足てんそくの婦人などが往ったり来たりした。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
へやには既に遊女達が多勢集まってはやしていたが、鳰鳥の姿が現われると琴も胡弓こきゅうも音を停めた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小人たちの一ばん大きいのも五つ位の子どもの大きさで、小さいみんなが笛や胡弓こきゅうの調子にあわせておどっている。おどっていないものは飮んだり食べたりしているのだった。
ジェミイの冐険 (新字新仮名) / 片山広子(著)
胡弓こきゅうと太鼓に合せた伊勢音頭いせおんどが、河波を渡って道庵先生のウトウトしかけたところへ、それがとうとうたらりと流れ込むので、先生の好い心持を、またもう一層よい心持にして
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どこからか、胡弓こきゅうのキューキューいう音が聞えてきた。昨日はいやに耳ざわりだったそれが、今夜は物悲しい音と聞かれるのは、早くもそれになれたせいというより、心のせいか。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
踊りに伴って鳴る楽器が春にふさわしい閑雅な音をただよわす。胡弓こきゅう、長鼓、太胡、笛、しょうの五器がそれぞれの響きを悠揚ゆうような律に調和させて大同江の流れの上へ、響いて行くのである。
淡紫裳 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
糀街こうじまち」と唐文字からもじ刺繍ぬいとりした唐幡とうばん青龍幡せいりゅうばんを先にたて、胡弓こきゅう蛇皮線じゃびせん杖鼓じょうこけい、チャルメラ、鉄鼓てっこと、無闇むやみに吹きたて叩きたて、耳もつんざけるような異様な音でけたたましく囃してゆく。
上手なバラライカや胡弓こきゅうを聞くたんびに耳を押えてウンウン云っていたのですが……そうして一日も早く両親の処へ帰りたい……上等のグランドピアノを思い切って弾いてみたいと
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どこかで遠く、胡弓こきゅうをこするような低い音が、悲しく連続して聴えていた。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
振るっているのはホッテントットの用いる三弦の弦楽器にガボウイというのがあり、ザンジバルの胡弓こきゅうにガブスというのがある。また一方では南洋セレベスにある金属弦ただ一本のカボシがある。
日本楽器の名称 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あの阿魔あまでもなくッて、荒れ寺の中から、金切ごえを聴かせる奴があるか——な、あの、かすかなかすかな物の気配——ありゃあ夜禽よとりの声でもねえ、物ずきが、胡弓こきゅうを弾いている音いろでもねえ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そして胡弓こきゅうひきを三人ほどおめしで。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
その荒れた城跡に草の茫々ぼうぼうと生えた中で、夕暮方の空を眺めて一人のやせた乞食が胡弓こきゅうを鳴らして、悲しい歌を歌っていました。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みだらな胡弓こきゅうの音を聞きつけて、張飛がその室をうかがうと、果たして正面のとうに美人を擁して酔いしれている高官がある。まぎれもない督郵だ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旧の正月が近くなると、竹藪たけやぶの多いこの小さな村で、毎晩つづみおと胡弓こきゅうのすすりなくような声が聞えた。百姓の中で鼓と胡弓のうまい者が稽古けいこをするのであった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
丁度二人は「浮かれ胡弓こきゅう」の噺の中の人間のように、微妙な楽の音に恍惚と耳を傾けた儘、いつまでもいつまでも眼瞼まぶたの裏の明るい世界を視詰めてすわって居た。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
向後どこへか呼ばれた時は、おびえるなよ。気の持ちようでどうにもなる。ジャカジャカと引鳴らせ、糸瓜へちまの皮で掻廻すだ。こと胡弓こきゅうも用はない。銅鑼鐃鈸どらにょうはちを叩けさ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分の楽屋へ逃げて来た印度人、楽屋にはお玉のお君が胡弓こきゅうを合わせていました。
「秋の胡弓こきゅうの長きむせび泣き」というの有名な La chansonシャンソン d'automneドオトオヌ(秋の歌)の一篇の如きはヴェルレエヌが高踏派こうとうはの詩人として最も幸福なる時代の作で
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
胡弓こきゅう) シナのフキン。朝鮮のコクン。日本のコキュー。モハメダンのギゲ。古代フランスのギグ。今のドイツのガイゲ。アフリカのゴゲ。いずれも同一属の楽器としてこんな名前が並べ得られる。
日本楽器の名称 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ねこが胡弓こきゅうひいた
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
こと胡弓こきゅうかなでがどこかに聞え、楼畔ろうはんの柳はふかく、門前のえんじゅのかげには、客の乗馬がつないであった。すべてこれ、一ぷく唐山水とうさんすいの絵であった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乞食こじきは、胡弓こきゅうって、まちへやってきました。父親ちちおやは、むらあるいて、子供こどもは、一人ひとりまちへきたのであります。
あらしの前の木と鳥の会話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、ろっかん山のきつねは、月のいい晩なんかそのかげで、胡弓こきゅうをひくまねなんかしとるげなが
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
階下ではもう地方じかたが並んだと見えて、胡弓こきゅうと三味線の調子を合わす音がきこえた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その容姿うるはしくして都はづかし、三絃さみ胡弓こきゅうならぬ歌うたひて、余念なく居りけるを、参詣の人、彼が麗はしき顔色かんばせに心をとられて銭を投掛くること雨の降り霧の飛ぶが如くなるを
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ひと事みたいに仰っしゃるけれど、それじゃあずいぶんお上手なんでしょう。どうです、てまえが笛を吹きますが、ひとつ胡弓こきゅうをおきになりませんか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おじいさんはゆきうえにすわって音頭おんどをとりました。わかおんなと、わか一人ひとりおとこっておどりました。一人ひとりおとこは、やはり、ゆきうえにすわって胡弓こきゅういていました。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
じいあるきながら胡弓こきゅうは、さむ北風きたかぜおくられて、だんだんととおくにえてゆくのでありました。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「はてな? この城中に美妓がいるな。胡弓こきゅうの音がするぞ」と、耳をすました。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供こどもは、やっととおか十一になったくらいのとしごろで、さむそうなふうをしてじいいてまちなかあるきました。じい胡弓こきゅうって、とぼとぼと子供こどもあとからしたがいました。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
胡弓こきゅうくひなびたおんななどもいて相当に賑わっていた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは、ちいさなっている胡弓こきゅういて、かぜからならった、かなしげなうたをうたいはじめました。すると、とお人々ひとびとは、みんな不思議ふしぎかおつきをして、子供こども見送みおくりました。
あらしの前の木と鳥の会話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かべゆかにも胡弓こきゅうこと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、ときならぬいい音色ねいろが、山奥やまおくのしかもさびしい野原のはらうえこりました。ふえ胡弓こきゅうおと、それにじってかなしいうたふしは、ひっそりとした天地てんちおどろかせました。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すると一日あるひ天気てんきのいいのこと、漁夫りょうしおきあみろしますと、それに胡弓こきゅうが一つひっかかってきました。それが、あとになって、乞食こじきっていた胡弓こきゅうであることがわかりました。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)