突込つっこ)” の例文
女は、帯にも突込つっこまず、一枚たなそこに入れたまま、黙って、一帆に擦違すれちがって、角の擬宝珠ぎぼしゅを廻って、本堂正面の階段の方へ見えなくなる。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三「えゝ、成程……お母さんちょいと手を私の袂の中へ突込つっこんで下さい、これが流行物はやりものだから何うでげしょう、このくらいでは」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この話は最近読んだばかりだから、まだ記臆きおくには新しい方だ。色や光や臭いという方面から突込つっこむのも面白いが、この話は音の怪に属する。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
こういわれて、おとこはこなかあたま突込つっこんだ途端とたんに、ガタンとふたおとしたので、小児こどもあたまはころりととれて、あか林檎りんごなかちました。
んとの、じゃァござんせんぜ。あのおよんで、垣根かきねくび突込つっこむなんざ、なさけなすぎて、なみだるじゃァござんせんか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そこまで突込つっこみ得ていないために、探偵小説の本来の使命を見失い、どうしていいか解からないまま間誤間誤まごまごしているだけの話ではないか……と……。
探偵小説の真使命 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
邪魔になるお客さんは、遠慮なく突きとばしてよろしいのである。お客さんは、突きとばされてどんぶりの中に顔を突込つっこもうと、誰も怒るものはいないであろう。
で、学者も学問の種類によっては、学問が深くなれば是非骨董の世界に頭を突込つっこみ手を突込むようになる。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
橋本と余は、勢いよく浴衣ゆかたげて、競争的に毛脛けずね突込つっこんで、急に顔を見合せながらちぢんだ事がある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
左の胸に突込つっこんだるナイフの木の現われおる。この男舞台の真中まんなかに立ち留まり主人に向いて語る。
突込つっこんで行くと同じことで、爪先下つまさきさがりに富士川まで出てしまうんでございますから楽なもので
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此方こっち流石さすがに生理学者で、動物を殺すに窒塞ちっそくさせればけはないと云うことをしって居る。幸いその牛屋は河岸端かしばたであるから、其処そこつれいって四足をしばって水に突込つっこぐ殺した。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と太郎右衛門は間抜まぬけな顔をして、二人の立っている間へ顔を突込つっこんでやりました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
志津子が思わず叫んだ、——千之はずいと一歩進んで鋭く突込つっこんだ。
海浜荘の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
若紳士は何かにつけて中川を突込つっこまんと
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
押えられて、手を突込つっこんだから、脚をばったのように、いや、ずんぐりだから、蟋蟀こおろぎのようにもがいて、頭でうすいていた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この紋がねえ、三蓋松に実の花菱が、そっくり象嵌ぞうがんで出て居るってんだ、こいつア妙じゃアございませんか、これが突込つっこんだなりで有るんでがすが
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
水夫デッキ連中は沖へ出次第に小僧を餌にしてふかを釣ると云っているそうだし、機関室の連中は汽鑵ボイラ突込つっこんで石炭の足しにするんだと云ってフウフウ云っている。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして湯屋の留桶とめおけを少し深くしたような小判形こばんなりの桶の底に、硝子ガラスを張ったものを水に伏せて、その中に顔を突込つっこむように押し込みながら、海の底をのぞき出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さっきから幾度もそういっているじゃないか。係員にそういってくれ。ぐずぐずしているようなら勝手にこっちが綱を切ってとびあがるぞと、きびしく一本突込つっこんでおいてくれ」
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夜具のそでに首を突込つっこんで居たりけりさ、今の世の勝頼かつよりさま、チト御驕おおごりなされ、アハヽヽと笑いころげて其儘そのまま坐敷ざしきをすべりいでしが、跡はかえっいやさびしく、今の話にいとゞ恋しさまさりて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雑所は前のめりに俯向うつむいて、一服吸った後を、口でふっふっと吹落して、雁首がんくびを取って返して、吸殻を丁寧に灰に突込つっこ
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草苅に小さい子や何かゞまぐさを苅りに出て、帰りがけに草の中へしるしに鎌を突込つっこんで置いて帰り、翌日来て、其処そこから其の鎌を出して草を苅る事があるもので
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
同時にアラスカ近海の難航海に堪え得るだけの食料や石炭すみを、船が割れる程突込つっこむ訳だが、その作業は平生いつもの通り二三日がかりで遣るのでさえ相当せわしいのに
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
千代子はまた首を突込つっこんだ。彼女のかぶっていたへなへなの麦藁帽子むぎわらぼうしふちが水につかって、船頭にあやつられる船の勢にさからうたびに、可憐な波をちょろちょろ起した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
といいながら、指を函の中に突込つっこんで、ぼくたちをかきまわした。ぼくはしばらく運動しなかったので、の若い男の指でがらがらとかきまわされるのが、たいへんいい気持ちだった。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
その鍋の前へ立つと、しゃんと伸びて、ひじを張り、湯気のむらむらと立つ中へ、いきなり、くしゃくしゃの顔を突込つっこんだ。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右の死骸を藁小屋へ突込つっこみまして、それから有合ありあわした着替の衣類に百五六十両の金を引出して、逃げる支度をしているうちに、門前には百姓が一杯黒山のようにむらがり寄り
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その時不意にがらがらと開けられた硝子戸ガラスどの音が、周囲あたりをまるで忘れて、自分の中にばかり頭を突込つっこんでいた津田をはっと驚ろかした。彼は思わず首を上げて入口を見た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし奴さん、うまい工合に傷の箇所かしょに、血どめのガーゼ——ガーゼじゃないが、きれを突込つっこんで、器用にその上を巻いてある。奴さんにとっては、これはうちの頭目以上の幸運だったんだ
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
突込つっこんで行くと遂には
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
突然いきなり年増としま行火あんかの中へ、諸膝もろひざ突込つっこんで、けろりとして、娑婆しゃばを見物、という澄ました顔付で、当っている。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし一度この社会に首を突込つっこんで、獰猛組どうもうぐみの一人となりすましたら、一月二月と暮して行くうちには、この男くらいの勢力を得る事はできるかも知れない。できるだろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでけば宜しいのに、先へ行って腹が空ってはならんから二つ三つ用意に持って行こうと、右袂こちらへ二つ左袂こちらへ三つ懐から背中へ突込つっこんだり何かして、盗んだなりこうつと
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、私は大袈裟おおげさあきれてみせて、ひとのいい博士の、急所に一槍ひとやり突込つっこんだ。
御手洗みたらしは清くて冷い、すぐ洗えばだったけれども、神様の助けです。手も清め、口もそそぐ。……あの手をいきなり突込つっこんだらどのくらい人をそこなったろう。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此畜生奴こんちきしょうめ、本当にお前や己は、尻尾しっぽが生えて四つん這になってわんの中へ面ア突込つっこんで、さかなの骨でもかじる様な因果に二人とも生れたのだから、お賤手前てめえも本当にお経でも覚えて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と初さんが、勝栗かちぐりのような親指を、カンテラの孔の中へ突込つっこんだ。うまい具合にはまる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
燻精師長は、さすがに醤の信任があついだけに、するどく博士に突込つっこむ。
もとへ突込つっこんで、革鞄の口をかしりとくわえさせました時、フト柔かな、滑かな、ふっくりと美しいものを、きしりとくびって、引緊ひきしめたと思う手応てごたえがありました。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腹掛はらがけ突込つっこんで帰りましたが、悪い事は出来ないもので、これが紀伊國屋へあつらえた胴乱でございます、それが為にのちに蟠龍軒が庄左衞門を殺害せつがいしたことが知れます。これはのちのことで。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
給仕がそのすそを動かして、竹の洋杖を突込つっこんだ時、大きな模様を抜いた羽二重はぶたえの裏が敬太郎の眼にちらついた。彼はへびの頭がコートの裏に隠れるのを待って、そらにその持主の方に眼を転じた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金博士はにやりと笑って立上ると、冷蔵庫の中へ頭を突込つっこんだ。
といった工合ぐあいで、呑込むと、焼火箸やけひばし突込つっこむように、咽喉のどを貫いて、ぐいぐいと胃壁を刺して下って行く。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
へその奥だよ」と云った。神さんは手を細い帯の間に突込つっこんだまま
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
課長は、最も重大なるところを突込つっこんだ。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と中腰に立って、煙管を突込つっこむ、雁首がんくびが、ぼっと大きく映ったが、吸取るように、ばったりと紙になる。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
煙管きせる突込つっこんで、ばったり置くと、赤毛氈あかもうせんに、ぶくぶくして、まがい印伝の煙草入は古池を泳ぐていなり。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「久しぶりで、私が洗って差上げましょう。」と、脱いだ上衣を、井戸側へ突込つっこむほど引掛ひっかけたと思うと、お妙がものを云うひまも無かった。手を早や金盥に突込んで
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、やけに突立つったつ膝がしらに、麦こがしの椀を炉の中へ突込つっこんで、ぱっと立つ白い粉に、クシンとせたは可笑おかしいが、手向たむけの水のれたようで、見る目には、ものあわれ。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)