浄瑠璃じょうるり)” の例文
旧字:淨瑠璃
平家琵琶へいけびわや宴曲・謡曲・浄瑠璃じょうるり・長唄・浪曲などのような、語り物風なのや、謡い物にしても長いものに到っては、千差万別である。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
お化粧中は口三味線くちじゃみせん浄瑠璃じょうるりを語るのですからたまりません、私は全くこの草鞋裏の親切だけは御免だとつくづく思ったのであります。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
女には珍しく、声も調子もこの浄瑠璃じょうるりにまん向きだと、隠居はすっかりれこみ、本式に教えるから女師匠になれ、と云いだした。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
浄瑠璃じょうるりの言葉に琴三味線の指南しなんして「後家ごげみさおも立つ月日」と。八重かくてその身の晩節ばんせつまっとうせんとするの心か。我不われしらず
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
話に聞いた——谷を深く、ふもとを狭く、山の奥へ入った村里を廻る遍路のような渠等かれらには、小唄浄瑠璃じょうるりに心得のあるのが少くない。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例えば浄瑠璃じょうるりの「十二段草子そうし」は、ほとんと『義経記』と同じころに今の形が整うたものかと思うのに同じ話がもう別様べつように語り伝えられ
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何んと云っても徳川時代に俳諧や浄瑠璃じょうるりの作者があらわれて縦横に平談俗語を駆使し、言葉の世界に新しい光を投げ入れたこと。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
われわれは浄瑠璃じょうるりの松王丸を見るかわりに俳優何某の松王丸しか見ることができないのであるが、この人形の松王丸となると
生ける人形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
五左衛門は用心棒のつもりで置いた様子ですが、小僧か下女にまで甘く見られて、剣術よりは小唄浄瑠璃じょうるりの節廻しに苦労する肌合の男です。
加えることがあったのは人のよく知る通りである本年〔昭和八年〕二月十二日の大阪朝日新聞日曜のページに「人形浄瑠璃じょうるりの血まみれ修業」
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分はそばにいる人から浄瑠璃じょうるりにあるさがまつというのを教えて貰った。その松はなるほど懸崖けんがいを伝うようにさかに枝をしていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
軍談、落語、音曲、あやつり人形、声色こわいろ、物真似、浄瑠璃じょうるり、八人芸、浮かれ節、影絵など、大もの揃いで、賑やかな席である。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ご存じでもございましょう、常磐津の浄瑠璃じょうるりに、両面月姿絵ふたおもてつきのすがたえ、俗に葱売ねぎうりという、名高い曲でごさいまして、その中に、おくみという女が二人現れ
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
暗やみのだんまりは見馴れているが、雪の中のだんまりは珍らしいというのである。浄瑠璃じょうるりは「雪月花」で、団十郎の鷺娘さぎむすめ保名やすなも好評であった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それかの今日に存在する浄瑠璃じょうるり院本まるほんなるものは実に封建思想の産物にして実にその真相をうつし出だしたる明鏡なり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
浄瑠璃じょうるりを聞いても、何をうなっているやらわからない。それが不思議な縁で、ふいと浪花節なにわぶしと云うものを聴いた。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
浄瑠璃じょうるりの文句にはいいけれど、梅川も、忠兵衛も、経済というものを知らない、使いつくしてはじめてお宝の有難味を知るなんて、子供にも劣るわねえ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
軽部は大阪天王寺第×小学校の教員、出世がこの男の固着観念で、若い身空で浄瑠璃じょうるりなど習っていたが、むろん浄瑠璃ぐるいの校長に取りいるためだった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
父の弟子は多く女弟子であったが、助ちゃんはいちばん新参でそのうえ肝腎の浄瑠璃じょうるりがあまり上手でなかったようだから、誰からもあなどられていたようである。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
その頃から声のよいのをめられていたが、彼女の生母よりも一人の叔父おじが我事のように悦んで、自分の好きな浄瑠璃じょうるりを一くさりずつ慰み半分におしえていた。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
講釈だの浄瑠璃じょうるりだのへはごくまれにしか足ぶみしなかったわたしは、だから吾妻橋のそばの「東橋亭」
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
元和げんな寛永以来かんえいいらいの、素朴な士風や町人道の反動として、“世の中は金、女というも金次第”と心中物の浄瑠璃じょうるり作者すら云う黄金万能が、この世の鉄則となってきた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも保養のことなれば、湯は付けたり、浄瑠璃じょうるり、三味線のみにて、毎日の楽しみいうばかりなし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
書天狗画天狗浄瑠璃じょうるり天狗、その上に本物の天狗に出られて叱られでもしたらたまらないから筆をく。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
時には一合五しゃくにふえた酒のわざで、ろくに呂律ろれつのまわらぬ浄瑠璃じょうるりをあやつるようなこともあった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
冥途めいど飛脚ひきゃく」の中で、竹本の浄瑠璃じょうるりうたう、あの傾城けいせいに真実なしと世の人の申せどもそれは皆僻言ひがごと、わけ知らずの言葉ぞや、……とかく恋路にはいつわりもなし、誠もなし
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
義兄あにと切れることの出来なかった妹や、倉へ入って、白小袖を着て、剃刀かみそりで自殺したという姉のことを、浅井から聞いたとき、お増はそれを浄瑠璃じょうるりか何ぞにあるような
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
芝居の仕草しぐさや、浄瑠璃じょうるりのリズムにともない、「天下晴れての夫婦」などと若い水々みずみずしい男女の恋愛の結末の一場面のくぐりをつける時に、たった一つくらい此の言葉を使うのは
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
文楽ぶんらく浄瑠璃じょうるり人形にまつわる不思議な伝説、近代の名人安本亀八のいき人形なぞを御承知でございましたなら、私がその時、ただ一個の人形を見て、あの様に驚いた心持を
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただ願うらくはかの如来にょらい大慈だいじ大悲だいひ我が小願の中において大神力を現じ給い妄言もうげん綺語きご淤泥おでいして光明顕色けんじき浄瑠璃じょうるりとなし、浮華ふかの中より清浄しょうじょう青蓮華しょうれんげを開かしめ給わんことを。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
夜もけて客足が少くなった時分には、眼鏡めがね越しにしわくちゃな眼をしばたたきながら、商売物の浄瑠璃じょうるり本か何かを取り上げては、妙な節をつけて小声で語るのが爺さんのくせだった。
浄瑠璃じょうるり哀情あいじょうのたっぷりある盲人沢一さわいちさとの、夢か浮世かの壺坂寺つぼさかでらに詣でて、私はただひとり草鞋わらじの紐のゆるんだのを気にしながら、四月のな菜の花匂うほこりのみちをスタスタと
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
ってのとおりこの狂言きょうげんは、三五ろうさんの頼朝よりともに、羽左衛門うざえもんさんの梶原かじわら、それに太夫たゆう鷺娘さぎむすめるという、豊前ぶぜんさんの浄瑠璃じょうるりとしっくりった、今度こんど芝居しばいものだろうじゃねえか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
御存じのお方もありましょうが、太閤記の浄瑠璃じょうるりで、主君を攻め殺して天下を取ろうとする明智光秀が、謀反むほんに反対する母親や妻女を『女子供の知る事に非ず』と叱り付けております。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
班女はんじょといい、業平なりひらという、武蔵野むさしのの昔は知らず、遠くは多くの江戸浄瑠璃じょうるり作者、近くは河竹黙阿弥もくあみおうが、浅草寺せんそうじの鐘の音とともに、その殺し場のシュチンムングを、最も力強く表わすために
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おそらく江戸五郎一座の浄瑠璃じょうるりかたりか、下座でも勤めている芸人だろう。
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
大切おおぎり浄瑠璃じょうるり上の巻「襖落那須語すおうおとしなすのかたり」、下の巻「名大津画噂一軸なにおおつえうわさのいちじく」。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
ようより芝居寄席よせに至るをこのみ、また最も浄瑠璃じょうるりたしなめり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
説経浄瑠璃じょうるりにもあるもので、これは変えられない。
役者の一生 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
とお父さんは唯々小川さんの浄瑠璃じょうるりを恐れた。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ちゃあんと浄瑠璃じょうるりにも書いてある奴さ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「でも、日本の浄瑠璃じょうるりなどは?」
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その点では、歌舞伎とか浄瑠璃じょうるりとか、西洋音楽においてでも、同じ狂言、同じ曲を幾度観賞しても、いいものは相当の興味がある。
と『疑雨集』中の律詩りっしなぞを思い出して、わずかうれいる事もあった。かくては手ずから三味線さみせんとって、浄瑠璃じょうるりかたる興も起ろうはずはない。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
要するに普通ふつう世間に行きわたっている範囲はんいでは、読み本にも、浄瑠璃じょうるりにも、芝居しばいにも、ついぞれたものはないのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それでも勉強するような気持になったのね、おみやはこう思って、そっと覗いてみると、それはなにかの浄瑠璃じょうるり本であった。
浄瑠璃じょうるりの調子に合せて、舞台の上の人は操られるように手足を動かしたり、しなやかな姿勢をしたりした。どうかすると花やかな幕が開けた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
浄瑠璃じょうるりで聴いた文句ですよ、——ところが平松屋の内儀のお駒は、部屋の真ん中にとこを敷いて、自分は奥の方の壁寄りに、少しつぎの当った寝巻を
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
連歌俳諧もうたい浄瑠璃じょうるりも、さては町方の小唄こうたの類にいたるまで、滔々とうとうとしてことごとく同じようなことをいっている。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「大阪のことでござった。声のいい、浄瑠璃じょうるり語りのおなごがありました。若竹わかたけといってな、人はみな、竹女たけめと呼んだ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)