最初はじめ)” の例文
照子嬢も声鋭く、「それは売物です。」と遣込やりこむれば、濶歩おおまたに引返し、「だから最初はじめに聞いたじゃないか、価値ねだんわかれば払うのさ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これはつまり土地とち御守護ごしゅごあたらるる神様かみさまでございまして、その御本体ごほんたい最初はじめからどおしの自然霊しぜんれい……つまり竜神様りゅうじんさまでございます。
それらをさちなき柴木のもとにあつめよ、我は最初はじめ守護まもりの神をバーティスタに變へしまちの者なりき、かれこれがために 一四二—一四四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
俺も最初はじめはわからなかつたが、後でわかつたよ。あの番頭は後家のお富とねんごろになつて、鳴海屋の乘つ取りを目論んだのさ。お富は後家を
はり自分が最初はじめに疑っていた通り、生死しょうし不明の父はこの穴の底深き処に葬られているのかも知れぬ。それにしても、お杉はうしたろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
柳沢は最初はじめから、私が階段はしごだんを上って来たのを、じろじろと用心したような眼つきでみまもったきり口一つ利かないでやっぱり黙りつづけていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
さよう、左門はその位置に、片膝を敷き、片膝を立て、刀を逆ノ脇に構え、最初はじめから現在いままで、寂然せきぜんと潜んでいたのであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
マーキュ いや、こんな阿呆あほらしい拔駈ぬけがけ競爭きゃうさう最早もう中止やめぢゃ。何故なぜへ、足下おぬし最初はじめからぬけてゐるわ。なんと、頭拔づぬけた洒落しゃれであらうが。
(役場の方は四ヶ月許りでめて了つた。)最初はじめ、朝晩の礼拝にみんなと一緒になつて御神楽を踊らねばならなかつたのには、少からず弱つたもので
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
物は最初はじめが大切だそうだ。初めて逢った時可厭いやだと思った人は何時までも可厭だとは、お花姉さんの始終しょっちゅう言う事だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
女は最初はじめから覚悟していたらしく、静かに元の肘掛椅子に腰を下して、矢張り石のように冷やかな姿でうなだれた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
最初はじめのうちの作曲や歌詞は、それをよく知ってつくられているが、段々大物にしようとしたところに無理がある。
最初はじめ黒沢商店の角で五拾銭銀貨を恵んだのが却て悪い例となり、恵まれぬ時は悪声を放つので、人だかりのするのがいやさにまた五拾銭やるようになってしまう。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それにつけてもあんじられるは園樣そのさまのこと、なん余計よけい世話せわながら何故なぜ最初はじめから可愛かわゆくて眞實しんじつところ一日ぬもになるくらいなれど、さりとて何時いつてもよろこばれるでもなく
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なかなか私に言えそうもなかッたから、最初はじめは小万に頼んで話してもらうつもりだッたのさ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「そして、前よりも大分あをざめてゐますね——最初はじめ、見たときよりも。どうしたのです?」
元より大病というではありませんから今はお医師いしゃにもかゝらず、たゞ気まかせにさせてあるんで、尤も最初はじめのうちは晋齋も可愛そうだと思召し、せめて病気だけはなおしてやろうと
最初はじめはさすがに熱もはげしく上りて、ベッドの上のうわ言にも手をほこにして敵艦をののしり分隊長と叫びては医員を驚かししが、もとより血気盛んなる若者の、傷もさまで重きにあらず
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「その驚きは道理ことわりでおじゃる。おれも最初はじめはそうとも知らず『何やらん草中にうめいておる者のあるは熊に噛まれた鹿じゃろうか』と行いて見たら、おどろいたわ、それがかの二方でおじゃッたわ」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
一体どうした情由わけだと、最初はじめは物柔かに尋ねたが、妹は容易にその仔細を明かさずただ一刻もの邸には居られませぬと云う。
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それかのをんなは、最初はじめの夫を失ひてより、千百年餘の間、蔑視さげすまれうとんぜられて、彼の出るにいたるまで招かるゝことあらざりき 六四—六六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
やなぎわたかぜもなし、寂然しんとして、よくきこえる……たゞそらはしくもばかり、つきまへさわがしい、が、最初はじめからひとひとツ、ほがらかこゑみゝひゞくのであつた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その最初はじめを如何にと申すに、吾家に祖先より伝はれる一軸の絵巻物のはべり。中に美婦人の裸像を描きとどめたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
うとも然うとも。よす方が宜い。素々もともと芳夫さんは三越の店員って柄じゃない。わし最初はじめから不賛成だった」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それから先の連合つれあいに嫁いでさんざん苦労もするし、そりゃおもしろいことも最初はじめのうちはありましたさ。
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
最初はじめつた時から俺は、あの眼は氣違ひの眼ぢやないし、言ふことも拵へ事のやうな氣がしたよ
「白ばら」は最初はじめての閨秀けいしゅう作家号にるし、「小町湯」や美妙との合作もつづいて発表された。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
モン長 このふる爭端さうたんをば何者なにものあたらしうひらきをったか? をひよ、おぬしは最初はじめからそばにゐたか?
最初はじめいひ出し時にやふやながら結局つまりは宜しと有し言葉を頼みに、又の機嫌むつかしければ五月蠅いひては却りて如何と今日までも我慢しけれど、約束は今日と言ふ大晦日のひる前
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
突然、その時裏庭に向いた、障子一杯に蒼白い、燐の火が燃え立つと思う間もなく、おおきな女の頭の影が、髪をおどろに振り乱し、最初はじめに一つやがて二つ、それから三つ映って見えた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まして市郎は、最初はじめからのお葉という女を意中はおろか、眼中にも置いて居なかったのであるが、今日の一件に出逢っていささか意外の感をした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天は汝等の心のうごき最初はじめ傾向かたむきを與ふれども、凡てに於て然るにあらず、また假りに然りと見做すも汝等には善惡を知るの光と 七三—七五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
最初はじめその女が路を歩いている時背後うしろから一人けて来た男があった、ということを通行人が告げたので、女は身装みなりい上に、容色が抜群であるから、掬摸か
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうぞ皆さん……」なんて言って「第一に」と又最初はじめから芸当のやり直しをしている。最早喧嘩だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
最初はじめいひいでし時にやふやながら結局つまりしと有し言葉を頼みに、又の機嫌むつかしければ五月蠅うるさくいひてはかへりて如何いかがと今日までも我慢しけれど、約束は今日と言ふ大晦日おほみそかのひる前
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「本当に——最初はじめはくやしいと思っても、段々れて、それに反抗心も出て、勝手になんでも言うがい、いくらでも書くが好いという気になって、意地悪になってしまって……」
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あの抽斗ひきだしも、下の方の、お前の僅ばかりの物で、おもなるものの入っていそうな処は、最初はじめから錠を下してあったが、でも上の二つは、——私の物も少しは入っているし、——何か知ら
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「僕だって最初はじめは知らなかった……本来なれば紅玉エルビーは、阿片窟征伐のあの晩に張教仁に助けられて安全の所にいる筈だが、その後袁更生の魔術の手にまた奪い返されたものと思われるね」
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
図星ずぼしなんで……ヘエ。もっとも最初はじめからる気じゃなかったんで、みんながあの小僧は女だ女だって云いましたからね。仕事にかからせる前にチョット調べて見る気であすこに引っぱり込んだんで……ヘエ……」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
我は最初はじめの響きに心をとめてかなたにむかひ、うるはしき調しらべにまじれる聲のうちにテー・デウム・ラウダームスを聞くとおぼえぬ 一三九—一四一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
彼は中々の横着者おうちゃくもので、最初はじめ兎角とかくに自分の素性来歴を包もうと企てたが、要するにれは彼の不利益におわった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
最初はじめは珍らしくて鹿煎餅を振舞ってやったけれど、斯う到るところで鉢合せをしては応接にいとまがない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
最初はじめいひいでときにやふやながら結局つまりしとあり言葉ことばたのみに、また機嫌きげんむつかしければ五月蠅うるさくいひてはかへりて如何いかゞ今日けふまでも我慢がまんしけれど、約束やくそく今日けふ大晦日おほみそかのひるまへ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
僕だって最初はじめからこういう間の中といっちゃあ、末始終すえしじゅうはきっとなきを見なければならないと思うから、今度こそ別れるような話にしようか、今度こそと、その度にしおれちゃあここへ来ると
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふん、いい気味だ、思い知ったか。……わたし最初はじめあの人が好きで、香油においあぶらで足を洗い、精々ご機嫌を取ったのに、見返ろうとさえしなかったんだからね。そこでカヤパを情夫いろにして、進めてあの人を
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は、最初はじめから斯様な嬉しい目に逢ったのは、生れて初めてであった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
最初はじめに我に物いへる靈即ち曰ふ。汝は汝のわがために爲すを好まざることを、枉げて我に爲さしめんとす 七六—七八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
妹がく斯く申して是非とも離縁を申し込んで呉れと云う、ついては右に付き、何か御心当りの事でもござろうかと尋ねると、隼人も最初はじめは笑い、後には眉を顰めて
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大人連中は最初はじめから話し続けていたが、汽車が新橋で停った時、三輪さんは窓から首を出して見て
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
數の中には眞にうけて此樣な厄種やくざを女房にと言ふて下さる方もある、持たれたら嬉しいか、添うたら本望か、夫れが私は分りませぬ、そも/\の最初はじめから私は貴君が好きで好きで
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)