旦那だんな)” の例文
それに旦那だんな様はいつでもおはいりなさいと言われます、その上夜中にでも、おはいりという許しがなくてもはいれるのですもの……。
「そうそう、前の旦那だんなさんとの間に出来た娘な、あれはあんじょう話がついて、自分の方へ引き取ってる云うこッちゃけど、………」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十年も昔に流行はやったような紋付羽織を祝儀不祝儀に着用して、それを恥ともせず、否むしろ粗服を誇りとするが小諸の旦那だんな衆である。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
駕籠舁どもは大いにわらひコレ旦那だんなどうした事をいひなさる此道中は初めてと見えるゆゑ夫リヤア大方おほかた此宿の者が御客をつるつもりの話しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ええ、特別のことがありますとも! 旦那だんな、冬になって、雪が深くつもりますってえと、何もかも一面に平らになってしまいまさ。
すると電話に出て来たのは、泰さんの店の番頭で、「旦那だんなは今朝ほど早く、どちらかへ御出かけになりました。」と云う挨拶あいさつなのです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
起きて下さらなくっちゃ、おそくなるじゃありませんかと云った。御作さんの旦那だんなは九時を聞いて、今床の上に起き直ったところである。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしぢやない!おまへだ!——でもわたしぢやない、甚公じんこうりてくんだ——さァ甚公じんこう旦那だんなつたよ、おまへ煙突えんとつりてけッて!
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「ちょいと寄ってらっしゃらなくって、かわいい旦那だんな?」と女の一人がかなり響きのいい、まだそんなに嗄れていない声で言った。
旦那だんな様、この人が石屋の伊手市いでいちどんといいまして、あすこのお墓を刻んだ人でして……詳しいことを、よう知っとりますで……」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「そんだが、旦那だんなはたいしたもんでがすね、旦那だんないたんだつてつたらなあ」とかれさらいてつた近所きんじよものかへりみていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
仕立おろしのセルをすらりときた若い奥様に、「どうだ、愉快だね。こんな風な絵は国宝だよ」そう言って見てゆく旦那だんな様もありました。
最初の悲哀 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
もう地獄ぢごくへも汽車きしや出来できたかえ、おどろいたね。甲「へえゝどうも旦那だんな、誠にしばらく……。岩「いやア、アハヽヽこれは吉原よしはら幇間たいこもち民仲みんちうだね。 ...
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「駄目だよ。旦那だんなが気がないから」さくと云うその男はうつむいたまま答えた。「もう楮のなかから小判の出て来る気遣きづかいもないからね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
前の日まで、憲法ということの講釈を、若い旦那だんなたちの幾人かが熱心に聴きにきた。その人たちが世話役でもあったのであろう。
こいつはわたしいそこないだ。が、ともかく、おれいのつもりで、いいものをつてきましたよ。旦那だんな金魚きんぎょきだそうですね。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
茶店ちやみせ老人夫婦らうじんふうふとは懇意こんいつて『旦那だんなまた石拾いしひろひですか。始終しじうえては、りますまい』とわらはれるくらゐにまでなつた。
「浦粕てい」という寄席よせや、諸雑貨洋品店、理髪店、銭湯、「山口屋」という本当の意味の料理屋——これはもっぱら町の旦那だんな方用であるが
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「しかし、しかしですね、いまのような場合に旦那だんながやられたとしたら、あなたはその職工側に対して好意を持つことができますかしら?」
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その一人は、近国の門閥家もんばつかで、地方的に名望権威があって、我がままの出来る旦那だんな方。人に、鳥博士ととなえられる、聞こえた鳥類の研究家で。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……なあに、いいさ……まあ、こうして坐っていよう。……だが旦那だんなさまは、どうやら毛皮外套シューバも召さずに、ただの外套でいらしたらしい。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
旦那だんな、またいらしったの。わたし一人のときにこんなところへいらしったりしちゃあ、みなに痛くもないおなかを探られて、わたし困るわよ」
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「迷惑になりそうだ、私は帰ろう。旦那だんなの来ることは初めからわかっていただろうに、私をごまかして泊まらせたのですね」
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
他處目よそめうらやましうえて、面白おもしろなりしが、旦那だんなさまころはからひの御積おつもりなるべく、年來としごろらぬことなきいへきをばかり口惜くちをしく
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それとも、あたしにしろ、旦那だんなさまにしろ、また子供たちにしろ、その鍋を使うのに、いちいちお前さんの許しを受けなきゃならないのかい?
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
彼女は彼をぶしつけにじろじろながめて、「旦那だんな様は疲れていらっしゃるからお目にはかかれません、」とまず言い出した。
「おや、ま、そちらに。早くおはいり遊ばせ。お風邪かぜを召しますよ。旦那だんな様はまだお帰り遊ばしませんでございますか?」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
なんで、そんないやなかおをして、おれをにらむんだい。もうおまえの世話せわになどなりはしない。おれ明日あすから旦那だんなさまだ。
くわの怒った話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
するとまた「お旦那だんなが折れた。お嬢さん達があんなになりなさつて気が弱つたからだ。」と、どこかで奉公人達が
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
花田 俺たち五人の中に一人、おまえの旦那だんなにしてもいいと思うのがいるっておまえいつかのろけていたじゃないか。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
宗右衛門町のあるお茶屋では、一ケ月千円以上の支払あるお客への勘定書かんじょうがきには旦那だんなの頭へ御の一字をつけ足して何某御旦那様と書く事になっている。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
島崎村しまざきむらの木村の旦那だんながいつてをらつしやつたが、あそこの屋敷の中に小さいはなれがあるさうで、よかつたら良寛さんに、はいつてもらひたいげなが。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
旦那だんなさま旦那さま。まアはやくでてごらんなさいまし、とてもすばらしい大鷲おおわしが、比叡ひえいのうしろから飛びまわってまいりました。お早く、お早く」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔は私の畑仕事にときどき手伝って下さったものなのに、ちか頃はてんで、うちの事にかまわず、お隣りの畑などは旦那だんなさまがきれいに手入れなさって
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
二年ばかり前に一度日本橋の商家の若旦那だんなと結婚したのであるが、口やかましいしゅうとめと、それに対して全く彼女をかばってくれない夫とに愛想をつかして
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「もう、旦那だんなさん、勘忍かんにんして下さい。ホンのこの坊ちゃん達のいたずらだ。悪気わるぎでしたのじゃありません。いい加減に、勘忍してあげておんなさい。」
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
知りあいの商店の旦那だんなをよびだして、かけあったり、もういい加減で売っちゃえと云っても、ダメダメ安すぎる、大いにハリキッてむことを知らない。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
轎夫きょうふが分からぬことをいって賃銭ちんせん強請ねだったり、この旦那だんなは重いとか、が多いとか、かごの中で動いて困るとか、雨が降るとか、橋がないから御免ごめんとか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
お母さんときたら、いつでもあのジョージさんの腕にもたれるほうが、御自分の旦那だんなさんの腕にもたれるのより好きだったんですからね。おかわいそうに。
この頃は二子ふたこの裏にさえ甲斐機を付ける。斜子の羽織の胴裏が絵甲斐機じゃア郡役所の書記か小学校の先生みていて、待合入りをする旦那だんな估券こけんさわる。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
旦那だんなというのは学問がしたいといって、お隣の家へ漢学を習いに来るのでしたから、いわば私と同門のわけです。私は『日本外史』などを習っていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
サッポロに集まった渡り職人どもにはこいつはちッとばかり大仕事かと思いますね、さ、さ、そういうことは、旦那だんなの方が百も承知でしょうが、そこで、実は
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
旦那だんなさん。百八十りょうやって下さい。俥はもうみしみし云っていますし私はこれから病院びょういんへはいります。」
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
売り手のじいさんやばあさんも長い煙管きせるを吹かしたり編み物をしているのでありました。ひやかしていると、「ドクトルの旦那だんなさん、降誕祭贈物ワイナハトゲシェンクはいかがです」
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おとよ、ほかの事ではないがの、お前の縁談の事についてはずれの旦那だんなが来てくれて今帰られたところだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「十円? 心得たっ。だが、旦那だんな、何十台抜くかわかりませんぜ。あとで冗談だなんて言いっこなしだぜ」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
旦那だんな! 先生! 人が悪いや、あっしをこんなに追いまくるなんて——ねえ、旅は道づれ世は情けって言いまさあ。ひとついかがで、御相談いたしやしょう」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「お豊さん、もう一遍旦那だんな様にさう申して来て下さいな、わたし今日は急ぎますから、ちよつとお目に懸りたいと」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一寸ちょいとした事だが可笑おかしい話があるその次第は、江戸で御家人ごけにんの事を旦那だんない、旗本はたもとの事を殿様とのさまと云うのが一般の慣例である、所が私が旗本になったけれども
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
旦那だんなもあまり心が小さいじゃありませんか。私がどうして一つの界方位とって逃げるものですか。」
織成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)