ねじ)” の例文
どんな些細ささいなことでも見逃さないで、例えば、兄は手拭てぬぐいを絞る時、右にねじるか左に捩るかという様なことまで、れなく調べました。
縄状熔岩パフエーフエーがいたるところで縄のようにねじれあい、黒や鉄色や、赤味がかった岩が、垂直に無限の闇黒のなかへ逆落しになっていた。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「青竹を割ったどころか、漢竹かんちくねじったような子だ。嘘ばかり吐いている。お前は余所よそさんの娘を不良少女なんて言う資格がない」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こんどは余は石段の上に立ってステッキを突いている。女は化銀杏ばけいちょうの下で、行きかけたたいななめにねじってこっちを見上げている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なるほどあの腰をねじった姿勢や腰にまとう衣や、下肢が薄衣の下から透いて見えるところや、すべて「酷似」するといわれても仕方がない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
だのに瑛子自身が、妙に体をねじくらしたような態度でいいかげんな風に喋るのを見ると、宏子は我慢がならない気がした。
海流 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
つまりねじれた、時代を超絶したような考は持ってもいず、解せようともしなかったのが、蔀君の特色であったらしい。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
フン! ねじれ。 押しひしゃげ。やるがいいや。捩れるときは捩れるもんだ。そうそういつまでも、機会というものがお前を待っては居ないだろうぜ。
牢獄の半日 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
世間にはいがみ合うどらねじり合う銅鈸にょうばちのような騒々しいものを混えることに於て、かえって知音や友情が通じられる支那楽のような交際も無いことはない。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
運転手の手にハンドルが一寸ねじられると、物珍らしさにたかる村の子供のむれはなれて、自動車はふわりとすべり出した。村路そんろを出ぬけて青山街道に出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と時代にゆるめていひ「一人ひとりならず二人ふたり三人さんにん首綱くびづな」にて右手を頸へやり「のかからぬ内、早く金を出しやあがれ」にて肘をつき離し、体を起して左へねじ
……世の暗さは五月闇さつきやみさながらで、腹のすいた少年の身にして夜の灯でも繁華な巷は目がくらんで痩脛やせはぎねじれるから、こんな処を便たよっては立樹にもたれて
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なれどもすこやかな二本の脚を、何面白おもしろいこともないに、ねじって折って放すとは、何という浅間あさましい人間の心じゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「開かないわ、錆びついているのよ、ええ、ぎゅっとねじって見るわ、やっと開いたけど、手巾とバスの回数券と、それに香水の瓶がはいっているきりよ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
頭は月代さかやきが広く、あお向いた頸元くびもとに小さなまげねじれて附いていて、顔は口を開いてにこやかなのは、微酔ほろよい加減で小唄こうたでもうたっているのかと思われました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それだけに此処は物凄い淵を成し、薄濁りを帯びた水が大きな渦を巻いて、ねじれた漏斗のような口を開きながら、底の方から気味悪るい音を吐き出している。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
人間世界の事は何が何やら分らない、確かに生きて居ると思う人が死んだりする。いわんや金だ、渡さなければならぬとねじくれ込んで、到頭とうとうもっいって貰いました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「でもお嬢様の身体は、欄干の下にねじれたように倒れて、背中には、匕首が突っ立って居りました」
その危険から救ってくれたものは、病後の身体の衰弱であった。私は縁に足を垂れて腰掛けていたので、女の方を見るためには、身体をねじって斜めうしろを向かねばならない。
産毛うぶげえたような水田を網目形に区切ってる青っぽい運河、その運河の中に映ってる日の光。褐色かっしょくの細葉を房々ふさふさとつけ、ねじれた面白い体躯たいくせたしなやかさを示してる、秋の樹木。
佐保子さほこが私を敵視するやうになり、この間まで僕婢ぼくひのやうであつた兄弟達が物とも思はなくなつたのに、いきどほつてます/\横道へねじれて行つたのも、その時には是非もないことだつたのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ゆえに雨天うてんの日は終日しゅうじつ開かなく、また夜中もむろんじている。閉じるとその形がふでの形をしていてねじれたたんでいる。色は藍紫色らんししょくで外は往々褐紫色かっししょくていしているが、まれに白花のものがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
これでも昔は内芸者うちげいしゃぐらいやったと云うを鼻に掛けて、臆面おくめんもなく三味線を腰に結び付け、片肌脱ぎで大きな口をいて唄う其のあとから、茶碗を叩く薬缶頭やかんあたまは、赤手拭のねじり鉢巻、一群ひとむれ大込おおごみうしろから
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
気のせいだか少し位置が、ねじれているようだ。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
かたりかけて、轟大尉とゞろきたいゐ虎髯こぜんぎやくねじりつゝ
かちゃりと入口の円鈕ノッブねじったものがある。戸はかない。今度はとんとんと外からたたく。宗近君は振り向いた。甲野さんは眼さえ動かさない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
治安維持法関係の思想犯は解放される、とはっきり語られている数行の文字は、ひろ子の心をねじりあげた。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
少しねじくって遣てもいじゃないかと、わざと勧めるようなふうであったけれども、私はれ程に思わぬ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
全身に水を浴びたよう脂汗をにじみ出し長身の細い肢体をねじらし擦り合せ、甲斐かいない痛みをき取ろうとするさまは、蛇が難産をしているところかなぞのように想像される。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かすり傷一つ負いません。会津征伐丈けでしたから、赤子の腕をねじるようなもので」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さらに体を左へねじって、顔を右斜め向こうに頭を地につけ、初め前へ出していた右手をうしろへのばして、初めは宙宇にやがてパタと腰の上に、やがてぐなりと体に添うて下へ落ちる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
と肩を引いて、身を斜め、ねじり切りそうにそでを合わせて、女房は背向そがいになンぬ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この剪定鋏せんていばさみはひどくねじれておりますから鍛冶かじに一ぺんおかけなさらないと直りません。こちらのほうはみんな出来ます。はじめにお値段ねだんめておいてよろしかったらおぎいたしましょう。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
女中がひとり背後うしろから駈け抜けて、電燈のかぎねじった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
老人はいながら、顔の向をうしろへ変える。ねじれたくびに、行き所を失った肉が、三筋ほどくびられて肩の方へり出して来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
如何いかが御座ござるとねじり込んで、大変やかましい事になって、大に重役の歓心を失うて仕舞しまったが、今日より考えれば事の是非ぜひかかわらず、随行の身分にしてはなはくない事だと思います。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
丁度その刹那せつな、上体を少しねじるような姿勢で歩いていた千鶴子が、唇を何とも云えぬ表情で笑うとも歪めるともつかず引き上げた。千鶴子は勿論はる子がそこにいることは知らない。
沈丁花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もがいても、僕は手をねじられているから、そのまゝついて行く外仕方がなかった。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「菓子がなければ、早く買って置けば可いのに」と代助は水道の栓をねじって湯呑ゆのみに水をあふらせながら云った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神さんは、首をねじって、店の鴨居にかけてある古風なボンボン時計を見上げた。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
やっとの思でハンドルをギューッとねじったら、自転車は九十度の角度を一どきに廻ってしまった、その急廻転のために思いがけなき功名を博し得たと云う御話しは
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なるほど……赤坊の手をねじるようなものだから放っておいたんだが、この頃メキメキ高度になって来たじゃないですか、え? こんなに高度になっては放っても置けない、え? そうでしょう?」
刻々 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
上には三抱みかかえほどの大きな松が、若蔦わかづたにからまれた幹を、ななめにねじって、半分以上水のおもてへ乗り出している。鏡をふところにした女は、あの岩の上からでも飛んだものだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たいをそのままに白いえりの上から首だけを横にねじると、欄干らんかん頬杖ほおづえをついた人の顔が五寸下に見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
薄暗くなったへやの中で、叔父の顔が一番薄暗く見えた。津田は立って電灯のスウィッチをねじった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暖かい日の午過ひるすぎ食後の運動がてら水仙の水をえてやろうと思って洗面所へ出て、水道のせんねじっていると、その看護婦が受持のへやの茶器を洗いに来て、例の通り挨拶あいさつをしながら
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
にもかかわらず、このつもりが少々覚束おぼつかなかったと見えて、自分が親指にまむしをこしらえて、俎下駄をねじ間際まぎわには、もう白い眼の運動は済んでいた。残念ながら向うは早いものである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この辟易へきえきすべき多量の形容詞中から、余と三歩のへだたりに立つ、たいななめにねじって、後目しりめに余が驚愕きょうがく狼狽ろうばい心地ここちよげにながめている女を、もっとも適当にじょすべき用語を拾い来ったなら
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日清……いたい。いたい。どうもこれは乱暴だと振りもがくところを横にねじったら、すとんとたおれた。あとはどうなったか知らない。途中とちゅうでうらなり君に別れて、うちへ帰ったら十一時過ぎだった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)