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悚然
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ぞっ
ふりがな文庫
“
悚然
(
ぞっ
)” の例文
燈
(
ひ
)
の消えたその洗面所の
囲
(
まわり
)
が暗いから、肩も腰も見えなかったのであろう、と、
疑
(
うたがい
)
の幽霊を消しながら、やっぱり
悚然
(
ぞっ
)
として
立淀
(
たちよど
)
んだ。
鷭狩
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それでも若旦那が血だらけになって楽屋へかつぎ込まれた時には、わたしも総身に
冷水
(
みず
)
を浴びせられたように
悚然
(
ぞっ
)
とした。
半七捕物帳:03 勘平の死
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そうしてその苦しがって死ぬのを、面白がって眺めているのだとしか思われないことがあって、私は
悚然
(
ぞっ
)
とします。
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
彼
(
あ
)
れから吾妻橋へ掛りました時に文七は「あゝ
昨夜
(
ゆうべ
)
此処
(
こゝ
)
ン
処
(
とこ
)
で飛び込もうとしたかと思うと
悚然
(
ぞっ
)
とするね」
文七元結
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
饐
(
す
)
えたような地衣の匂いの中に立ち腐れになっている、うっかり手が触れると、
海鼠
(
なまこ
)
の肌のような滑らかで、
悚然
(
ぞっ
)
とさせる、
毒蚋
(
どくぶと
)
が、人々の肩から上を、空気のように離れずにめぐっている
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
▼ もっと見る
悚然
(
ぞっ
)
として、
向直
(
むきなお
)
ると、
突当
(
つきあた
)
りが、樹の枝から
梢
(
こずえ
)
の葉へ
搦
(
から
)
んだような石段で、上に、
茅
(
かや
)
ぶきの堂の屋根が、
目近
(
まぢか
)
な
一朶
(
いちだ
)
の雲かと見える。
春昼
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その蒼ざめた顔その悲しそうな声、今も眼に着いて耳について、思い出しても
悚然
(
ぞっ
)
とします——と声
顫
(
ふる
)
わせて物語る。
お住の霊
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
女房の何となく
悚然
(
ぞっ
)
としたのは、黄菊の露の置きかわる、霜の白菊を渡り来る、夕暮の小路の風の、冷やかなばかりではなかった。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
或物
(
あるもの
)
を窓の外へ
推出
(
おしだ
)
し
突出
(
つきだ
)
すような身のこなし、それが済むと
忽
(
たちま
)
ち身を
捻向
(
ねじむ
)
けて私の顔をジロリ、睨まれたが最期、私はおぼえず
悚然
(
ぞっ
)
として
最初
(
はじめ
)
の勇気も
何処
(
どこ
)
へやら
画工と幽霊
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
これを聞いて
渠
(
かれ
)
は思わず手を差延べて、
抱
(
いだ
)
こうとしたが、触れば
消失
(
きえう
)
せるであろうと思って、
悚然
(
ぞっ
)
として膝に置いたが、
打戦
(
うちわなな
)
く。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それと同時に
彼女
(
かれ
)
は黄八丈の小袖も欲かった。若いお内儀さんも気の毒であった。よもやと思うものの、若しお熊さんがこの川へ飛び込んだら
何
(
ど
)
うなるであろう。
彼女
(
かれ
)
はまた
悚然
(
ぞっ
)
とした。
黄八丈の小袖
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
「私は
又
(
また
)
不思議な物でも通るかと思つて
悚然
(
ぞっ
)
とした、お
媼
(
ばあ
)
さん、
此様
(
こん
)
な
処
(
ところ
)
に一人で居て、昼間だつて
怖
(
おそろ
)
しくはないのですか。」
二世の契
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
まったくそりゃ
悚然
(
ぞっ
)
としたよ。ひとりでに、あの姿が、城の中へふいと入って、向直って、こっちを見るらしい気がした時は。
南地心中
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
見えん処へ隠してくれんか。——私はもう、あの人が田圃で濡れた時の事を思っても、
悚然
(
ぞっ
)
とする。どうだね、
可哀想
(
かわいそう
)
だとは思わないかね。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
荒海の
磯端
(
いそばた
)
で、肩を合わせて一息した時、息苦しいほど蒸暑いのに、
颯
(
ざあ
)
と風の通る音がして、思わず脊筋も
悚然
(
ぞっ
)
とした。
絵本の春
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私ゃこうやってお前さんがここに盗んだものを並べてあるのを見ると、一々動くようで蛇の鱗だと思って、
悚然
(
ぞっ
)
とした。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その
摺
(
す
)
れ違った時、袖の縞の
二条
(
ふたすじ
)
ばかりが傘を持った手に触れたのだったが、その手が
悚然
(
ぞっ
)
とするまで冷え
透
(
とお
)
る。……
雪柳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
両膚脱
(
りょうはだぬぎ
)
の胸毛や、
大胡坐
(
おおあぐら
)
の脛の毛へ、夕風が
颯
(
さっ
)
とかかって、
悚然
(
ぞっ
)
として、
皆
(
みんな
)
が少し正気づくと、一ツ星も見えまする。
草迷宮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
こういいいい体温器を入れられた時は、私は思わず、
人事
(
ひとごと
)
ながら
悚然
(
ぞっ
)
とした、お庇で五分その時は熱が上ったですよ。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私は何んですか、
悚然
(
ぞっ
)
として寝床に足を縮めました。しばらくして、またその(ええ、ええ、)という変な声が聞えるんです。今度は
些
(
ちっ
)
と近くなって。
春昼後刻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と鋭い目で
熟
(
じっ
)
と見られた時は、
天窓
(
あたま
)
から、
悚然
(
ぞっ
)
として、安本
亀八
(
かめはち
)
作、小宮山良助あッと云う
体
(
てい
)
にござりまする
活人形
(
いきにんぎょう
)
へ、氷を
浴
(
あび
)
せたようになりました。
湯女の魂
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
円い
肘
(
ひじ
)
を白くついて、あの天眼鏡というのを取って、ぴたりと額に当てられた時は、小僧は
悚然
(
ぞっ
)
として
震上
(
ふるいあが
)
った。
絵本の春
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
まだ左の
袂
(
たもと
)
の下に包んだままで、
撫肩
(
なでがた
)
の
裄
(
ゆき
)
をなぞえに、浴衣の筋も水に濡れたかと、ひたひたとしおれて、片袖しるく、
悚然
(
ぞっ
)
としたのがそのままである。
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
お辻は十九で、
敢
(
あえ
)
て不思議はなく、
煩
(
わずら
)
つて
若死
(
わかじに
)
をした、其の黒髪を切つたのを、私は見て
悚然
(
ぞっ
)
としたけれども、其は仏教を信ずる国の習慣であるさうな。
処方秘箋
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
と崖ぶちの
日向
(
ひなた
)
に立ったが、紺足袋の繕い。……雪の襟脚、白い手だ。
悚然
(
ぞっ
)
とするほど身に沁みてなりませんや。
唄立山心中一曲
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
同時に
真直
(
まっすぐ
)
に立った足許に、なめし皮の
樺色
(
かばいろ
)
の靴、宿を欺くため座敷を抜けて持って入ったのが、向うむきに揃っていたので、立花は頭から
悚然
(
ぞっ
)
とした。
伊勢之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
颯
(
さっ
)
と血が流れたという……話を聞いた事があって、それ一羽、私には他人の鷺でさえ、お澄さんのような女が殺されでもしたように、
悚然
(
ぞっ
)
として震え上った。
鷭狩
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「うふん。」といって、目を
剥
(
む
)
いて、脳天から
振下
(
ぶらさが
)
ったような、
紅
(
あか
)
い舌をぺろりと出したのを見て、織次は
悚然
(
ぞっ
)
として、雲の蒸す月の下を
家
(
うち
)
へ
遁帰
(
にげかえ
)
った事がある。
国貞えがく
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
砂の上に唯一人やがて星一つない下に、果のない
蒼海
(
あおうみ
)
の浪に、あわれ
果敢
(
はかな
)
い、弱い、力のない、身体
単個
(
ひとつ
)
弄
(
もてあそ
)
ばれて、
刎返
(
はねかえ
)
されて居るのだ、と
心着
(
こころづ
)
いて
悚然
(
ぞっ
)
とした。
星あかり
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
夫人は時にあらためて、世に出たような
目
(
まな
)
ざししたが、
苫船
(
とまぶね
)
を一目見ると、
目
(
ま
)
ぶちへ、
颯
(
さっ
)
と——
蒼
(
あお
)
ざめて、
悚然
(
ぞっ
)
としたらしく肩をすくめた、黒髪おもげに、沖の
方
(
かた
)
。
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
優しい柔かな声が、思いなしか、ちらちらと雪の降りかかるようで、再び
悚然
(
ぞっ
)
として息を引く。……
鷭狩
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
宗吉はかくてまた明神の
御手洗
(
みたらし
)
に、更に、氷に
閑
(
とじ
)
らるる思いして、
悚然
(
ぞっ
)
と寒気を感じたのである。
売色鴨南蛮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
鐘さえ霞む日は
闌
(
たけなわ
)
に、眉を
掠
(
かす
)
める雲は無いが、
薄
(
うっす
)
りとある
陽炎
(
かげろう
)
が、ちらりと幻を淡く染めると、露地を入りかけた清葉は、
風説
(
うわさ
)
の吾妻下駄と、擦違うように
悚然
(
ぞっ
)
とした。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
もうその
咳
(
せきばらい
)
で、小父さんのお
医師
(
いしゃ
)
さんの、
膚触
(
はだざわ
)
りの柔かい、
冷
(
ひや
)
りとした手で、脈所をぎゅうと握られたほど、
悚然
(
ぞっ
)
とするのに、たちまち鼻が
尖
(
とが
)
り、眉が逆立ち、額の
皺
(
しわ
)
が
茸の舞姫
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
これに
悚然
(
ぞっ
)
とした
状
(
さま
)
に、一度すぼめた袖を、はらはらと翼のごとく
搏
(
たた
)
いたのは、紫玉が、
可厭
(
いとわ
)
しき
移香
(
うつりが
)
を払うとともに、高貴なる
鸚鵡
(
おうむ
)
を思い切った、安からぬ胸の波動で
伯爵の釵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
常燈明の細い
灯
(
あかり
)
で、ちょいと見ると、鳥なんですって、死んだのだわねえ、もう水を浴びたように
悚然
(
ぞっ
)
として、何の鳥だかよくも見なかったけれど、謎々よ、……解くと
吉原新話
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
もう私、
二条
(
ふたすじ
)
針を刺されたように、背中の両方から
悚然
(
ぞっ
)
として、足もふらふらになりました。
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
思出すわ。……
鋤鍬
(
すきくわ
)
じゃなかったんですもの。あの、持ってたもの
撞木
(
しゅもく
)
じゃありません?
悚然
(
ぞっ
)
とする。あれが魔法で、私たちは、誘い込まれたんじゃないんでしょうかね。
貝の穴に河童の居る事
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と
急遽
(
そそくさ
)
して、実は
逃構
(
にげがまえ
)
も少々、この臆病者は、病人の名を聞いてさえ、
悚然
(
ぞっ
)
とする様子で
湯女の魂
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
これでまた爺どのは
悚然
(
ぞっ
)
としたげな。のう、いかな事でも、明神様の
知己
(
ちかづき
)
じゃ言わしったは
串戯
(
じょうだん
)
で、大方は、葉山あたりの
誰方
(
どなた
)
のか御別荘から、お忍びの方と思わしっけがの。
草迷宮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
けれども、私は、その姿の、ぼッとしたのといい、
背後
(
うしろ
)
だった形といい、折から、その令嬢というのを悩ます、病の魔のような気がして、こっちも病人だ、
悚然
(
ぞっ
)
としましたよ。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
瑠璃色
(
るりいろ
)
に澄んだ
中空
(
なかぞら
)
の
樹
(
こ
)
の間から、竜が円い口を張開いたような、釣鐘の影の
裡
(
なか
)
で、
密
(
そっ
)
と、美麗な
婦
(
おんな
)
の——人妻の——写真を
視
(
み
)
た時に、
樹島
(
きじま
)
は血が冷えるように
悚然
(
ぞっ
)
とした。……
夫人利生記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
とおくれ毛を風に吹かせて、女房も
悚然
(
ぞっ
)
とする。
奴
(
やっこ
)
の顔色、
赤蜻蛉
(
あかとんぼ
)
、
黍
(
きび
)
の穂も夕づく日。
海異記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
客は、
陽
(
ひなた
)
の赤蜻蛉に
見愡
(
みと
)
れた瞳を、ふと、
畑際
(
はたぎわ
)
の尾花に映すと、蔭の片袖が
悚然
(
ぞっ
)
とした。
みさごの鮨
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
高坂は、
悚然
(
ぞっ
)
として思わず手を
挙
(
あ
)
げ、かつて
婦
(
おんな
)
が我に
為
(
な
)
したる如く
伏拝
(
ふしおが
)
んで
粛然
(
しゅくぜん
)
とした。
薬草取
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
余
(
あまり
)
の事に、ここへ来るは今日には限らないと思切って、はじめて
悚然
(
ぞっ
)
として、帰ろうとして、骨を送った船の
漾
(
ただよ
)
う処を
視
(
なが
)
むれば、四五本打った、
杭
(
くい
)
の根に
留
(
とま
)
ったが、その杭から
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と枕に顔を
仰向
(
あおむ
)
けて、
清
(
すず
)
しい目を
睜
(
みは
)
って熟と瞳を据えました。小宮山は
悚然
(
ぞっ
)
とする。
湯女の魂
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
……
流灌頂
(
ながれかんちょう
)
——虫送り、虫追、風邪の神のおくりあと、どれも気味のいいものではない。いや、野墓、——
野三昧
(
のざんまい
)
、火葬のあと……
悚然
(
ぞっ
)
とすると同時に、
昨夕
(
ゆうべ
)
の白い踊子を思い出した。
河伯令嬢
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私がお世辞を言うものですかな、
真実
(
まったく
)
ですえ。あの、その、なあ、
悚然
(
ぞっ
)
とするような、
恍惚
(
うっとり
)
するような、
緊
(
し
)
めたような、投げたような、緩めたような、まあ、
何
(
な
)
んと言うて
可
(
よ
)
かろうやら。
歌行灯
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
遊女
(
つとめ
)
あがりの女をと気がさして、なぜか不思議に、女もともに、
侮
(
あなど
)
り、
軽
(
かろ
)
んじ、
冷評
(
ひやか
)
されたような気がして、
悚然
(
ぞっ
)
として五体を取って
引緊
(
ひきし
)
められたまで、
極
(
きま
)
りの悪い思いをしたのであった。
第二菎蒻本
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
“悚然”の意味
《名詞》
恐れて震えるさま。
(出典:Wiktionary)
悚
漢検1級
部首:⼼
10画
然
常用漢字
小4
部首:⽕
12画
“悚”で始まる語句
悚
悚立
悚気
悚毛
悚撃