きつ)” の例文
じゃあ吾家うち母様おっかさんの世話にもなるまいというつもりかエ。まあ怖しい心持におなりだネエ、そんなにきつくならないでもよさそうなものを。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
きつく云う、お蔦の声がきっとしたので、きょとんとして立つ処を、横合からお源の手が、ちょろりとその執心の茶碗を掻攫かっさらって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「引揚げようとすればするほど、深く沈もうとなさる。最後は、水藻にしがみついて離れようとしないんだから、きつかった」
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「人を出し抜いたり何かして随分ね。私を誘うという約束だったじゃありませんか。」と、少しきついような調子で言った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そなたくろ外套マントルほゝばたく初心うぶをすッぽりとつゝんでたも、すれば臆病おくびゃうこのこゝろも、ぬゆゑにきつうなって、なにするもこひ自然しぜんおもふであらう。
「光悦や、今のう、きついかたちをした侍衆が、三名づれで、ここの門前へ来て、不作法な言葉を吐いて行ったというが。……大事はあるまいかの」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうもこの節は御浪人衆のお働きがいっちきつうごわすから、戸を開ける一拍子に、これ町人、身共は尊王の志を立てて資金調達に腐心致す者じゃが
「あなたがあんまりきつくお叱りになるから、こんなことになるんです。あの子は気が小さいから、優しくいつてきかせなければ、駄目だめなんですよ。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
藤十郎どのに、工夫を尋ねるといつも、きつい小言じゃ。みんな自分で工夫せいとはあの方の決まり文句じゃ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
きょうの女は三十七八で、色のあさ黒い、眼のきつい女でした。どこか似ているようにも思うのですが、確かな証拠もございませんので、なんとも申し上げかねます
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「アブドラ十六番ですのね、いい煙草ですわ……でもこの煙草はわたしには少しきつ過ぎるかしら……」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その些中さなかになるとどうも胸がむかついて来て——と云うものだから、私は眼をつむるよりも——そんな時は却って、上目うわめきつくした方がいいよ——と教えてやったものさ。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「月給の入る衆は不景気知らずだ!。吉本屋も息子が取るで楽になる一方さ!」新蔵は一寸言葉を切ったが「だが人間もちィっと身上が出来るときつくなるで怖っかねえ……」
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
すなわち事理わけのわからぬやつはますますわからなくしてやるという、すこぶるきつい御言葉です。
子供は狸をとつちめるやうな積りで、きつく尻つ辺を叩きつけた。勝名は顔をしかめながら
露というすずりも将来したが竹生島へ納むとあり、太刀は勢州赤堀の家にあり、避来矢ひらいしの鎧は下野国しもつけのくに佐野の家にあり、童は思う事をかなえて久しく仕えしが、後にきつう怒られてせしとかや
それがやり一筋のあるじだという加頭義輝だった。眼のきつい、おなじように長い顔だが色の黒い輝夫という人が、つむぎの黒紋附きを着て来ていたが、大変理屈ずきで、じきに格式を言出していた。
両肩がきつく骨立つてくびが益益長く見える、賤げな左の頬の黒子ほくろと鍵の様に曲つた眼尻と、ひつくり返すやうな目付をして人を見る癖と、それから遇ひさへすれば口説くどき上手じやうずにくどくど云ふ口。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
駒形こまがたの、静かな町を、小刻みな足どりで、御蔵前おくらまえの方へといそぐ、女形おやま風俗の美しい青年わかもの——鬘下地かつらしたじに、紫の野郎帽子やろうぼうしえり袖口そでぐちに、赤いものをのぞかせて、きつい黒地のすそに、雪持ゆきもち寒牡丹かんぼたん
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
千代 今日は最勝寺さまの御会式ぢやさかいに、死んだ娘と、この子の父御ててご供養くやうしておぢやつた。さと母様かかさまきつう止めるゆゑ、つい遅うなつて、只今帰るところぢや。してお前は何処からぢやえ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
主「えゝきついのを頼みました、これ磯之丞いそのじょう々々々」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
晝が晝なか、だいそれたきつ魔藥まやくひとこそ知らね
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
時次郎 三蔵ッて人はきついのでござんすか。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「シトロン酒のきついやつを飲まして下さい」
「俺あ、メリケンはきつい嫌ひだよ。」
熱海線私語 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「えらいきついお方じゃ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
呼び五ヶ年のうち村中にきつい御世話に相成しは實に有難き仕合しあはせなり別て上臺憑司ひようじ親子にあつき御世話に相成しよし然るに昌次郎いまだみえず御迎おむかひにと申す處へ入り來たり直に傳吉の傍らに着座ちやくざし馳走にぞあづかりける傳吉一同へ向ひ私しも江戸表にてよろしき家へ奉公に有り付き金子少々貯は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「などと云うがね、お前もお長屋月並だ。……生きてるうちは、そうまではめないやつさ、顔がちっときつすぎる、何のってな。」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『江戸詰の頃、吉原に参って、初見のおんなきつうもてなされ、門限までに帰りそびれたなどと、あの顔して——』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「のう、お梶どの。そなたは、この藤十郎の恋を、あわれとはおぼさぬか。二十年来、え忍んで来た恋を、あわれとは思さぬか。さても、きついお人じゃのう」
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
髪が昨日よりも一層きつみだれ方で、立てた膝のあたりから、友禅の腰巻きなどがなまめかしくこぼれていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この頃は何分にも秋の日がきつうございますから……。いえ、夏のうちは丁度好い加減の黒さでございましたが、この半月ばかりで急に眞黒になりましたやうで……。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「ブフル島……これは少々、遠いです。それに船ですから、途中がちょっときついかもしれませんよ」
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小さな茶碗ちゃわんに、苦味にがみの勝ったきつい珈琲をドロドロに淹れて、それが昨日から何にも入っていない胃のみ込んで、こんなうまい珈琲は、口にしたこともありません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
すべて人は何様いうきついことを言われても、急所に触れないのは捨てても置けるものであるが、たまたま逆鱗げきりん即ち急所に触れることを言われると腹を立てるものである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ヂュリ さア、いてもませう、かるゝものなら。とはいへ、わたしの矢頃やごろは、はゝさまのおゆるしをばかぎりにして、それよりきつうは射込いこまぬやうにいたしませう。
だが待てよ、どうせあの娘の一件で、神保のほうから脇坂の殿様へきつ掛合かけあいが行くに相違ねえ。こうしてインチキがれたからにゃア、おいらも安閑としてはいられねえのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
きつぱり跳ねつけるやうにきつく手をふつたが、それでもこの船がこの儘天国の港に船がかりするのだつたら、老人は皆を押退おしのけて、誰よりも先に埠頭はとばの土を踏んだに相違なかつた。
心得童子こころえのどうじ主人の思う事をかなえて久しく仕えしが、後にきつう怒られてせしとかやとあるは、『近江輿地誌略』に、竜宮から十種の宝を負い出でたる童を如意にょいと名づけ、竜次郎の祖先だとあると同人で
けれども、なによりこの三人には、最初から採証的にも疑義を差し挾む余地はなかったのである。やがて、クリヴォフ夫人は法水の前に立つと、ケーンの先で卓子テーブルを叩き、命ずるようなきつい声音で云った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
傳「何卒どうぞきつそうなものを頼んでおくんなせえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此方こなたきつう案じておぢやつたのになあ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
ところに、みぎ盲人めくら、カツ/\とつゑらして、刎上はねあがつて、んでまゐり、これは無體むたいことをなされる。……きつ元氣げんきぢや。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
恋い慕うのは人間のする事ではないと、心できつう制統しても、止まらぬは凡夫の想じゃ。そなたのうわさを聴くにつけ、面影を見るにつけ、二十年のその間、そなたの事を
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「子供をどうか連れて行っておもらい申したいもんで……。」と、母親もきついような調子で言った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たとえ今、この家を包むつるぎの林の中であっても、開き直って、そのわけを問いきわめて見なければならないと、思わず真率な眼を輝かせて、武蔵はきつ詰問なじったのであった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きつい方だったろうことは、連添うた者と若い身そらで争い別れをしたことでも想いやられる。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と妹の勧めてくれるおいしい裸麦ライむぎ麺麭パンや、カルパス、半熟卵、チーズだとか果物、さっきのようなきつ珈琲コーヒー……どんなに生き返ったような気がしたか、遠くの海をながめながら
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
松公が河下しもへ投げ込んだんだが、それが、お内儀、不思議なこともあったもんさのう、川を上ってお定婆さんの手に引っかかってたってえから、なんときつい執念じゃあごわせんか。
きつかうべつてゐる。知事に訊くと、知事はまたわざと、顔をしかめて