“強:きつ” の例文
きつく云う、お蔦の声がきっとしたので、きょとんとして立つ処を、横合からお源の手が、ちょろりとその執心の茶碗を掻攫かっさらって、
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眼のきつい、おなじように長い顔だが色の黒い輝夫という人が、つむぎの黒紋附きを着て来ていたが、大変理屈ずきで、じきに格式を言出していた。
「光悦や、今のう、きついかたちをした侍衆が、三名づれで、ここの門前へ来て、不作法な言葉を吐いて行ったというが。……大事はあるまいかの」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とはいへ、わたしの矢頃やごろは、はゝさまのおゆるしをばかぎりにして、それよりきつうは射込いこまぬやうにいたしませう。
紫の野郎帽子やろうぼうしえり袖口そでぐちに、赤いものをのぞかせて、きつい黒地のすそに、雪持ゆきもち寒牡丹かんぼたん
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
源次 おお安いことじゃ。何度でも付き合おう。藤十郎どのに、工夫を尋ねるといつも、きつい小言じゃ。みんな自分で工夫せいとはあの方の決まり文句じゃ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「などと云うがね、お前もお長屋月並だ。……生きてるうちは、そうまではめないやつさ、顔がちっときつすぎる、何のってな。」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お庄はこの「お前さん」などと言われるのが初めのうちきつく耳にさわって、どうしても素直に返辞をする気になれなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夜盗のたぐいか、何者か、と眼稜めかどきつく主人が観た男は、額広く鼻高く、上り目の、たぶ少き耳、やりおとがいに硬そうなひげまばらに生い
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
菊枝 はれ。お祭を見ておぢやるかいのう。何とまあおとましい人々ぢや。此方こなたきつう案じておぢやつたのになあ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「月給の入る衆は不景気知らずだ!。吉本屋も息子が取るで楽になる一方さ!」新蔵は一寸言葉を切ったが「だが人間もちィっと身上が出来るときつくなるで怖っかねえ……」
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
「引揚げようとすればするほど、深く沈もうとなさる。最後は、水藻にしがみついて離れようとしないんだから、きつかった」
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
やがて、クリヴォフ夫人は法水の前に立つと、ケーンの先で卓子テーブルを叩き、命ずるようなきつい声音で云った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「人を出し抜いたり何かして随分ね。私を誘うという約束だったじゃありませんか。」と、少しきついような調子で言った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
後にきつう怒られてせしとかや、巻絹はち縫うて衣裳にすれどもらず、衣服に充満みちけるが、後にその末を見ければ延びざりけり、鍋は兵糧をくに
きついことなんぞわれたものではございませんが、そこはあのは近頃こちらへ参りましたなり、破風口はふぐちから、=無事か=の一件なんざ、夢にも知りませず
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奉公のため、武士のたしなみのため——という彼のきついことばに、信長もそれ以上、無下むげによこせとも云い得なかったが、なお、執着とわがままは、捨てきれなかった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『江戸詰の頃、吉原に参って、初見のおんなきつうもてなされ、門限までに帰りそびれたなどと、あの顔して——』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はっ、恐入おそれいったね。東京仕込じこみのお世辞はきつい。ひと可加減いいかげんに願いますぜ。」
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すべて人は何様いうきついことを言われても、急所に触れないのは捨てても置けるものであるが、たまたま逆鱗げきりん即ち急所に触れることを言われると腹を立てるものである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と妹の勧めてくれるおいしい裸麦ライむぎ麺麭パンや、カルパス、半熟卵、チーズだとか果物、さっきのようなきつ珈琲コーヒー……どんなに生き返ったような気がしたか
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「アブドラ十六番ですのね、いい煙草ですわ……でもこの煙草はわたしには少しきつ過ぎるかしら……」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
きつぱり跳ねつけるやうにきつく手をふつたが、それでもこの船がこの儘天国の港に船がかりするのだつたら、老人は皆を押退おしのけて、誰よりも先に埠頭はとばの土を踏んだに相違なかつた。
たとえ今、この家を包むつるぎの林の中であっても、開き直って、そのわけを問いきわめて見なければならないと、思わず真率な眼を輝かせて、武蔵はきつ詰問なじったのであった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供は狸をとつちめるやうな積りで、きつく尻つ辺を叩きつけた。勝名は顔をしかめながら、
小さな茶碗ちゃわんに、苦味にがみの勝ったきつい珈琲をドロドロに淹れて、それが昨日から何にも入っていない胃のみ込んで、こんなうまい珈琲は、口にしたこともありません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
「お若いし、お兄上様よりは、きついご気質なので、重助も、おもりに、手を焼きまする」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さと母様かかさまきつう止めるゆゑ、つい遅うなつて、只今帰るところぢや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「新さんの知ったことじゃないわ。」とお国は赤い胴着のような物を畳んでいた。髪が昨日よりも一層きつみだれ方で、立てた膝のあたりから、友禅の腰巻きなどがなまめかしくこぼれていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
きつかうべつてゐる。知事に訊くと、知事はまたわざと、顔をしかめて、
自分のすがたを見られるのが嫌らしく、頭を振って、にわかに、きつい顔をして見せた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
良因 ちつと染めあがりが惡うございましたかな。この頃は何分にも秋の日がきつうございますから……。いえ、夏のうちは丁度好い加減の黒さでございましたが、この半月ばかりで急に眞黒になりましたやうで……。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「のう、お梶どの。そなたは、この藤十郎の恋を、あわれとはおぼさぬか。二十年来、え忍んで来た恋を、あわれとは思さぬか。さても、きついお人じゃのう」こう云いながら、藤十郎は、相手の返事を待った。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
……眉は鮮麗あざやかに、目はぱっちりとはりを持って、口許くちもとりんとした……ややきついが、妙齢としごろのふっくりとした、濃い生際はえぎわ白粉おしろいの際立たぬ、色白な娘のその顔。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美人だったか、醜婦だったかも不明だが、先ず十人並の人だったとして置いて差支えは無かろうが、其の気質だけは温和で無くて、きつい方だったろうことは、連添うた者と若い身そらで争い別れをしたことでも想いやられる。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
両肩がきつく骨立つてくびが益益長く見える、賤げな左の頬の黒子ほくろと鍵の様に曲つた眼尻と、ひつくり返すやうな目付をして人を見る癖と、それから遇ひさへすれば口説くどき上手じやうずにくどくど云ふ口。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
晝が晝なか、だいそれたきつ魔藥まやくひとこそ知らね、
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
神月が人魂だといったのを聞いた時、あいつ愛嬌あいきょうのない、鼻のたかい、目のきつい、源氏物語の精霊しょうりょうのような、玉司たまつかさ子爵夫人りゅう子、語を換えて云えば神月の嚊々かかあだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主「えゝきついのを頼みました、これ磯之丞いそのじょう々々々」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
傳「何卒どうぞきつそうなものを頼んでおくんなせえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「人妻になったそなたを恋い慕うのは人間のする事ではないと、心できつう制統しても、止まらぬは凡夫の想じゃ。そなたのうわさを聴くにつけ、面影を見るにつけ、二十年のその間、そなたの事を忘れた日は、ただ一日もおじゃらぬわ」彼は
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「少しきつくと、灰が立って入るもの。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「アア、もっと噛んで、もっときつく噛んで——」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お千代婆さんは少しきついような調子で言った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
時次郎 三蔵ッて人はきついのでござんすか。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「この傘は旦那が持ってたもの。松公が河下しもへ投げ込んだんだが、それが、お内儀、不思議なこともあったもんさのう、川を上ってお定婆さんの手に引っかかってたってえから、なんときつい執念じゃあごわせんか。いや、こわやのこわやの!」
「俺あ、メリケンはきつい嫌ひだよ。」
熱海線私語 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そなたくろ外套マントルほゝばたく初心うぶをすッぽりとつゝんでたも、すれば臆病おくびゃうこのこゝろも、ぬゆゑにきつうなって、なにするもこひ自然しぜんおもふであらう。
「えらいきついお方じゃ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まア、そんな話は後だ。だが待てよ、どうせあの娘の一件で、神保のほうから脇坂の殿様へきつ掛合かけあいが行くに相違ねえ。こうしてインチキがれたからにゃア、おいらも安閑としてはいられねえのだ。ナニ、そのほか何やかやと、ちっとばかりヤバい身体だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「どうもこの節は御浪人衆のお働きがいっちきつうごわすから、戸を開ける一拍子に、これ町人、身共は尊王の志を立てて資金調達に腐心致す者じゃが、なんてことになっちゃあじつもっておたまり小法師こぼしもありませんので、つい失礼——さあ、開きました。さ、ま、どうぞこれへ。」
「何だつて。栄坊がゐない? そりや変だ。さつき私が叱りつけたから、悲しくなつて何処かへいつてしまつたのだらうか。」「あなたがあんまりきつくお叱りになるから、こんなことになるんです。あの子は気が小さいから、優しくいつてきかせなければ、駄目だめなんですよ。」とお母さんがいふ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そんな訳で、小式部さんにも、その日『釘抜』をやる事になったのだがね。その前に、あの人は私を捉まえて、その些中さなかになるとどうも胸がむかついて来て——と云うものだから、私は眼をつむるよりも——そんな時は却って、上目うわめきつくした方がいいよ——と教えてやったものさ。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「さあ、それがよく判りませんので……。前に来たときは夕方で、断わるとすぐに帰ってしまったもんですから、その顔をよく見覚えて居りません。きょうの女は三十七八で、色のあさ黒い、眼のきつい女でした。どこか似ているようにも思うのですが、確かな証拠もございませんので、なんとも申し上げかねます」
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「じゃあ吾家うち母様おっかさんの世話にもなるまいというつもりかエ。まあ怖しい心持におなりだネエ、そんなにきつくならないでもよさそうなものを。そんなおまえじゃあ甲府の方へは出すまいとわたし達がしていても、雁坂を越えて東京へも行きかねはしない、吃驚びっくりするほどの意地っ張りにおなりだから。」
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それから『氏郷記』に、心得童子こころえのどうじ主人の思う事をかなえて久しく仕えしが、後にきつう怒られてせしとかやとあるは、『近江輿地誌略』に、竜宮から十種の宝を負い出でたる童を如意にょいと名づけ、竜次郎の祖先だとあると同人で、如意すなわち主人の意のごとく万事用を達すから心得童子といたのであろう。