店頭みせさき)” の例文
まちまして、いろいろりっぱなものをならべた店頭みせさきとおりましても、それは、ただるばかりで、すららなかったのであります。
赤い手袋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
金縁の目金めがねを掛けたる五ツ紋の年少わか紳士、襟を正しゅうして第三区の店頭みせさきに立ちて、肱座ひじつきに眼を着くれば、照子すかさず嬌態しなをして
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なまのままの肉やロースにしたのや、さまざまの獣肉じゅうにく店頭みせさきつるした処には、二人のわかい男がいて庖丁ほうちょうで何かちょきちょきと刻んでいた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この男は、いつどこから来たともなく、ここの店頭みせさきに坐って、亭主ともつかずやとい人ともつかず、商いの手伝いなどすることになった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
開けひろげてある庭の入口を通して、直ぐ向ふに肴屋の店頭みせさきが見える。さけなどが吊るしてある乾いた町へは急に夏らしい雨が来た。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ぼくは、主人のすゝめてくれた、店頭みせさきの、売りものゝ大きな椅子に腰を下ろし、さうした話をしつゝ、みるともなしに往来のはうをみた。
十年…… (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
きちんと、いつも店頭みせさきに、膝を四角に坐っている善兵衛は、いかにも小間物屋になりきっているが、神崎与五郎だったのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お光の店頭みせさきの左の方の柱には、「第○中隊將校室」と筆太に書かれた長い紙札が貼られ、右の方の柱には「風紀衞兵所」とした札が貼られた。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
多いものは小間物屋、可なり大きな真宗しんしゅうの寺、天理教会、清素せいそな耶蘇教会堂も見えた。店頭みせさきで見つけた真桑瓜まくわうりを買うて、天塩川に往って見る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
されど旅客の來りていこふものもなければか、店頭みせさきには白き繭の籠を幾箇いくつとなく並べられ、客を待てる準備よういは更に見えず。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
つるが長く/\延びて居た。この辺へも、人はどよみをつくつて居る。大きな乳房の胸をあらはに一人の女が店頭みせさきに、壜詰びんづめの酒を日に透して見て居た。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
取手の宿場街の裏通りにある茶屋旅籠ちゃやはたご安孫子屋あびこや店頭みせさきは、今が閑散ひま潮時外しおどきはずれである。それは秋の日の午後のこと。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
私は二十歳はたち過ぎまでふるい家庭の陰鬱いんうつと窮屈とを極めた空気の中にいじけながら育った。私は昼の間は店頭みせさきと奥とを一人で掛け持って家事を見ていた。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
火鉢や茶箪笥ちゃだんすのような懐かしみのある所帯道具を置き並べた道具屋の夜店につづく松飾りや羽子板の店頭みせさきには通りきれぬばかりに人集ひとだかりがしていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
絵草紙屋の店頭みせさきをも素通りする米友が、ことにこれらの絵に向って、足をとどめねばならぬ必要は更にないはずです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
宿屋の店頭みせさきには、かがり火をたき、白木の金剛杖をたばに組んで、縄でくくり、往来に突きだしてある。やはり「山」で生活している町の気分がする。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
彼は客の注意をくために、あらゆる手段を尽して飾り立てられた店頭みせさきを、それからそれとのぞき込んで歩いた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昼は肴屋さかなや店頭みせさき魚骨ぎょこつを求めて、なさけ知らぬ人のしもと追立おいたてられ。或時は村童さとのこらかれて、大路おおじあだし犬と争ひ、或時は撲犬師いぬころしに襲はれて、藪蔭やぶかげに危き命をひらふ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
髪を長くした伊太利イタリイ人の楽師がマンドリンとギタルを合奏するのを聴きながら、店頭みせさきの卓につて麦わらでレモン・カアツシユを呑気のんきに吸ふ客があるかと思ふと
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
お高は、和泉屋の店頭みせさきへ雪崩れかかる人浪と、それをくいとめようとする火消しや、鳶のあいだにはさまれて、椿つばきの花が散り惑うようにほらほらと立ち迷った。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
日本の智慧ちえの火がこの国の蒙昧もうまいなるくらがりを照すところの道具となる縁起えんぎでもあろうかなどと、馬鹿な考えを起してうかうか散歩しながらある店頭みせさきへ来ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
棚には葡萄酒やら苺水やらラムネの瓶やら、空罎にペーパだけ張ツた、罐やらが二三十本も並べてあツて、店頭みせさきには古ゲツトを掛けた床几の三ツも出してあツた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
若侍はすぐと立派にとゞめを刺して、血刀ちがたなふるいながら藤新の店頭みせさき立帰たちかえりましたが、もとより斬殺きりころす料簡でございましたから、ちっとも動ずる気色もなく、我が下郎に向い
店頭みせさきで見つけた眞桑瓜を買うて、天鹽川に往つて見る。可なりの大川、深くもなさゝうだが、川幅一ぱい茶色の水が颯々さあ/\と北へ流れて居る。鐵線はりがねを引張つた渡舟がある。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
さう周圍が眞暗なため、店頭みせさきに點けられた幾つもの電燈が驟雨のやうに浴せかける絢爛けんらんは、周圍の何者にも奪はれることなく、ほしいままにも美しい眺めが照し出されてゐるのだ。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
下町は知らず、我々の住む山の手では、商家しょうかでも店でこそランプを用いたれ、奥の住居すまいでは大抵たいてい行灯あんどうとぼしていた。家によっては、店頭みせさきにも旧式のカンテラを用いていたのもある。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
少なくともあなた方は店頭みせさきで私を奥さんと呼ばないように注意して下さい。
彼女は強いて寂しい微笑を口元に浮かべながらいとまをつげた。そして当てもなく街を歩いているうちに、日はとっぷりと暮れて、店頭みせさきにはあかりがついて、家々の窓が一つずつ明るくなっていった。
小さきもの (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
小首をひねって居たが、格別気に入た品もないらしく手に取ても見ない、店では主人が品物を置換に忙がしそうである、春日は店頭みせさきを離れてふと顔を上げて標札をふりかえって眺めながら歩むうち
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
それから二人はおよそ巴里中にある、ありとあらゆる宝玉屋の店頭みせさき行立った。失なした飾りに類似の品を求めて歩いた。身体は綿の如く疲れきって、胸はいうべからざる苦悶を以てみたされた。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
此処が一番賑かなとおりだそうだ。名物の※甲細工べっこうざいくを売っている店頭みせさき
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
馭者は宿場しゅくばの横の饅頭屋まんじゅうや店頭みせさきで、将棋しょうぎを三番さして負け通した。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
「困るでねえか、そうした事店頭みせさきでおっぴろげて」
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
和泉屋は、羅紗ラシャこわそうな中折帽を脱ぐと、軽く挨拶あいさつして、そのまま店頭みせさきへ腰かけ、気忙しそうに帯から莨入たばこいれを抜いて莨を吸い出した。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
御者はこの店頭みせさきに馬をとどめてけり。わが物得つと、車夫はにわかに勢いを増して、手をり、声をげ、思うままに侮辱して駈け去りぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風呂敷包をかゝへながら紙問屋の店頭みせさきまで行きますと、そこに居る番頭が直ぐ私を見つけまして、小僧にそれと知らせたものです。
花粉おしろい花簪児かんざしを売っている化粧品店がそのちかくにあった。そこには一人の老婆がいて店頭みせさきに腰をかけていた。世高はそこへ入って往った。
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、湯呑み茶碗を持ったまま、おやじは、店頭みせさきまで出て来て道を指さしたが、折ふし、外から帰って来たとんぼ頭の丁稚でっちの顔を見かけると
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その店頭みせさきのガラスにも、つきひかりはさしています。また、みなとにとまっているふねはたれている、ほばしらのうえにもつきひかりたっています。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
梅鉢屋の女將おかみ赤毛氈あかまうせんを敷いた店頭みせさきに立つて、「御門内はお腰の物がりまへん。……やすんでおいでやす。……お腰の物を預けておいでやす。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
何のつもりか、外郎ういろうを二丁買い込んで、それを胴巻の中へ、しまおうとする途端に、店頭みせさきの一方から不意に
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ちょっと客も途絶とだえたので、番頭と小僧が店頭みせさき獅噛火鉢しがみひばちを抱き合って、何やら他愛たあいもないはなしに笑いあってると、てついた土を踏む跫音が戸外そとに近づいて
早くに化粧みじたくをすました姿に明るい灯影を浴びながらお座敷のかかって来るのを待つ間の所在なさに火鉢の傍に寄りつどうていた売女おんなの一人が店頭みせさきに立ち表われた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
これを買って店頭みせさき公然おもてむきに致しておりましても、たのしみを妨げる訳はないから、少しもおとがめはない事で、隠れて致し、金をけて大きな事をなさり、金は沢山あるが退屈で仕方がない
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その店頭みせさきの雑書の中に積まれていたのは、例のヘボン先生の和英字書であった。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それがどうしたわけかその店頭みせさきの周圍だけが妙に暗いのだ。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
ほかの女と一緒に居並んでいる店頭みせさきの薄暗いなかを、馴染なじみであった日本橋の方の帽子問屋の番頭が、知らん顔をして通って行ったりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……店頭みせさきをすとすと離れ際に、「帰途かえりに寄るよ。」はいささか珍だ。白い妾に対してだけに、河岸の張見世はりみせ素見すけん台辞せりふだ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「叔母さん」へあげるための花を買って行きたいという節子を花屋の店頭みせさきに残して置いて、岸本は一足先に寺の境内に入った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おばあさんは、展覧会てんらんかいにきて、一等賞とうしょうをとった大根だいこんつめて、これよりは八百屋やおや店頭みせさきにあったのがおおきいとおもいました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)