トップ
>
唯
>
ただ
ふりがな文庫
“
唯
(
ただ
)” の例文
唯
(
ただ
)
、この大風呂敷の中へひとりでにまきこまれてゆく楽しさだけが、何の批判もなしに私たちの心へぐいぐいと迫ってくるのである。
早稲田大学
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
その裏面には「
情
(
つれ
)
ないは
唯
(
ただ
)
うつり気な、どうでも男は
悪性者
(
あくしょうもの
)
」という
煩悩
(
ぼんのう
)
の体験と、「糸より細き縁ぢやもの、つい切れ易く
綻
(
ほころ
)
びて」
「いき」の構造
(新字新仮名)
/
九鬼周造
(著)
門卒はそれを賈耽に報告して、他に異色の者を認めず、
唯
(
ただ
)
かの尼僧の衣服容色が異っているのみであったと陳述すると、賈は訊いた。
中国怪奇小説集:11 異聞総録・其他(宋)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
唯
(
ただ
)
一つお目にかけて置きたいのは、この
鋲
(
びょう
)
の頭です(と、前夜
卓子
(
テーブル
)
の脚のところから拾いあげた針のとれている鋲の頭を示しながら)
麻雀殺人事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
最も高価なる木乃伊の製法
左
(
さ
)
の如し。先ず左側の
肋骨
(
ろっこつ
)
の下を深く切断し、其傷口より内臓を
悉
(
ことごと
)
く引き出だし、
唯
(
ただ
)
心臓と腎臓とを残す。
虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
▼ もっと見る
議論したけれども母親さんには私の
言事
(
いうこと
)
が解らないと見えてネ、
唯
(
ただ
)
腹ばッかり立てているのだから、教育の無い者は仕様がないのネー
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
ソレカラ長崎に出たとき、二十一歳とは
云
(
い
)
いながらその実は十九歳余り、マダ
丁年
(
ていねん
)
にもならぬ身で立派な
酒客
(
しゅかく
)
、
唯
(
ただ
)
飲みたくて
堪
(
たま
)
らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
幕が
開
(
あ
)
いた——と、まあ、言う
体
(
てい
)
でありますが、さて
唯
(
ただ
)
浅い、
扁
(
ひらった
)
い、
窪
(
くぼ
)
みだけで。何んの
飾
(
かざり
)
つけも、道具だてもあるのではござらぬ。
春昼
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
唯
(
ただ
)
その頃までわたしは数年の間さしては心にも留めず成りゆきのまま送って来た孤独の境涯が、つまる処わたしの一生の結末であろう。
雨瀟瀟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
唯
(
ただ
)
晴れた日に
是等
(
これら
)
の湖水の北岸を通ると、絶えず秀麗なる富士の姿を頭上に仰ぎ、其倒影を湖心に眺めるのが他に見られぬ特色である。
春の大方山
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
唯
(
ただ
)
心配なのは、僕が余計なことを抗議した為めに、あなたに対する会社の待遇、進級、賞与等に影響を及ぼす
虞
(
おそれ
)
はないかということで
青バスの女
(新字新仮名)
/
辰野九紫
(著)
……趣味といっては
唯
(
ただ
)
銃猟だけだったそうですが、これは余程の名人だったらしく、十年ばかり居る間に、S岳界隈の山の案内は
復讐
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
唯
(
ただ
)
鉄鎖のように生命が彼等を引きずるのである。先達の小屋の近所を通りながら、土幕民達は婦が盛んに哀哭しているのを聞いた。
土城廊
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
はじめて私が学士に逢った時は、
唯
(
ただ
)
こんな田舎へ来て隠れている年をとった学者と思っただけで、そう親しく成ろうとは思わなかった。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
引受けさせて頂きたい。けれども
唯
(
ただ
)
一面識のみでは、お頼みになるのも苦しいだろうから、どうか一身を私に
委
(
ゆだ
)
ねてはくれまいか。
樋口一葉
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
理科大學人類學教室
(
りくわだいがくじんるゐがくけうしつ
)
には磨製石斧三百
個
(
こ
)
計り有れど、
兩端
(
りやうたん
)
に刄有るものは
唯
(
ただ
)
一
個
(
こ
)
のみ。コロボックルは磨製石斧を
何
(
なん
)
の
目的
(
もくてき
)
に用ゐしや。
コロボックル風俗考
(旧字旧仮名)
/
坪井正五郎
(著)
某という僧が
定
(
じょう
)
に入って夢みた竜宮の塔を、うつつに現出したものといわれるが、かような様式はわが国にも
唯
(
ただ
)
一つこの東塔あるのみ。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
唯
(
ただ
)
一人暇を取らずにいた女中が驚き
醒
(
さ
)
めて、
烟
(
けぶり
)
の
厨
(
くりや
)
を
罩
(
こ
)
むるを見、
引窓
(
ひきまど
)
を開きつつ人を呼んだ。浴室は
庖厨
(
ほうちゅう
)
の外に接していたのである。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
金銀用度も皆兄まかせにて我が
所有
(
もの
)
といふものもなく、
唯
(
ただ
)
衣
(
き
)
ることと食ふこととに不足なさざるばかりなれば奴隷といふても
宜
(
よ
)
かるべし
印度の古話
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
唯
(
ただ
)
千里眼というものが、手品あるいは詐欺的要素が十分にはいり得る条件で行われるものであるということが
明
(
あきら
)
かにされただけであった。
千里眼その他
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
なるほど、あなたのおっしゃることは
唯
(
ただ
)
それだけ伺っていれば
理窟
(
りくつ
)
が通っています。
何処
(
どこ
)
にも切り込む
隙
(
すき
)
がないように聞えます。
途上
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
わからなければ、勝手にするが
好
(
い
)
い。おれは
唯
(
ただ
)
お前に尋ねるのだ。すぐにこの女の子を送り返すか、それともおれの言いつけに背くか——
アグニの神
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
道義の力、習俗の力、機会一度至ればこれを破るのは
帛
(
きぬ
)
を裂くよりも容易だ。
唯
(
ただ
)
、容易に
来
(
きた
)
らぬはこれを破るに至る機会である。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
私は言わば、
唯
(
ただ
)
、その生墻に
間歇
(
かんけつ
)
的に
簇
(
むら
)
がりながら花をつけている野薔薇の与える音楽的効果を楽しみさえすればよかったのであるから。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
時々子供はお使にやらされる場合、一つか二つのお鳥目を持つことが出来る。それが、子供の銭と関係する
唯
(
ただ
)
一つの機会である。
良寛物語 手毬と鉢の子
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
それは
唯
(
ただ
)
この法事が企てられた時、アマリヤが衷心からいっさいの面倒を見ようと腹を決めた、その辺からきているらしかった。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
蒸汽船とはいえ蒸汽は百馬力ヒュルプマシーネと申して港の出入に蒸汽を
焚
(
た
)
くばかり航海中は
唯
(
ただ
)
風を便りに運転せねばならぬ。
咸臨丸その他
(新字新仮名)
/
服部之総
(著)
お父さまの
金太夫
(
きんだいふ
)
さんが、いろいろと硯箱のことを言ひますが、茂丸は
唯
(
ただ
)
にこにこ笑つてゐて、そんなものをほしいとも何とも言ひません。
硯箱と時計
(新字旧仮名)
/
沖野岩三郎
(著)
しかしこの全く具体的な死はそれにも
拘
(
かかわ
)
らず一般的なものである。「ひとは
唯
(
ただ
)
ひとり死ぬるであろう」、とパスカルはいった。
人生論ノート
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
けれども、天魔に魅入られたものと親父も
愛相
(
あいそ
)
を
尽
(
つか
)
して、
唯
(
ただ
)
一人の娘を阿父さん彼自身より
十歳
(
とを
)
ばかりも
老漢
(
おやぢ
)
の高利貸にくれて了つたのだ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
忠弥の方でも狼狽の余り、数十人実は刹那的
唯
(
ただ
)
一人
(
いちにん
)
と認め得ないところが不覚で、
無効
(
むこう
)
の労力に疲れた結果到頭動きが取れなくなってしまう
ぐうたら道中記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
「そんな事が、あろう筈がない。いくら、変ったって、そりゃ
唯
(
ただ
)
年を取っただけの変化だ。なるべく帰って三千代さんに安慰を与えて
遣
(
や
)
れ」
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
これを以て余は自から
吾
(
わ
)
が不学短識を忘れ、
妄
(
みだ
)
りにその員に
具
(
そな
)
われり。
唯
(
ただ
)
余や不学短識、本校に補う所なかるべし(否々)。
祝東京専門学校之開校
(新字新仮名)
/
小野梓
(著)
コロボックンクルはクシベシには何とも言葉をかけないで、
唯
(
ただ
)
唄ばかりうたって、一俵、二俵、と見る見るうちに六俵の俵を積み上げました。
蕗の下の神様
(新字新仮名)
/
宇野浩二
(著)
けれどもそれは
唯
(
ただ
)
原告を
宥
(
なだ
)
めるのに有効なために私へお云ひになつただけでしたから、私自身は罰らしい苦しい気持でお受けしませんでした。
私の生ひ立ち
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
唯
(
ただ
)
営々として生活しつつある。その生活を包むものに花鳥風月がある。花鳥風月を透して私等の生活を
諷
(
うた
)
うのが俳句である。
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
恋しいあなたが
唯
(
ただ
)
お一人のみゆえこんなにも悲しむのです、というので、この歌の「人」は
貴方
(
あなた
)
というぐらいの意味である。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
咄嗟
(
とっさ
)
の事で、私は
唯
(
ただ
)
目をパチクリするだけであつた。その夜書斎へ入ると机の上に、佐々木邦氏主裁のユーモア・倶楽部誌が開いて載つて居る。
釣十二ヶ月
(新字旧仮名)
/
正木不如丘
(著)
と云うことは、誰にもまたすぐ考えられて来るのであったが、そうと口に出す者はなかったし、
各〻
(
めいめい
)
も、自分で自分の常識を打ち消して迄、
唯
(
ただ
)
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
荷物といふは
大八
(
だいはち
)
に
唯
(
ただ
)
一くるま来たりしばかり、両隣にお定めの土産は配りけれども、家の内は引越らしき騒ぎもなく至極ひつそりとせし物なり。
うつせみ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
唯
(
ただ
)
困るのは食料だった。馬の背に積んで来ただけでは幾日分の
足
(
た
)
しにもならなかった。仁右衛門はある日馬を市街地に引いて行って売り飛ばした。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
だから、異人は他界の威霊であると考へたものが、
唯
(
ただ
)
生活方法が違ふ外に、我々と共通の精神を持つた神聖な生き物としての、ひととも考へられた。
日本文学の発生:――その基礎論――
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
「冗談、冗談じゃ無いよお駒さん、相沢の旦那は気が弱かったんだ、
唯
(
ただ
)
それだけの事だよ、自分の口から、お前に切れてくれとは言い
憎
(
にく
)
かったんだ」
黄金を浴びる女
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
唯
(
ただ
)
女の肉体にはげしい鰻や夜光虫などの持つ電気性が多いとかで、それが決して彼女自身の内部にあるときは有害ではないということであった。ただ
幻影の都市
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
物体といふも
我々
(
われわれ
)
の意識現象を離れて、別に独立の実在を知り得るのではない。我々に与へられたる直接経験の事実は
唯
(
ただ
)
この意識現象あるのみである。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
要
(
よう
)
も無き
唯
(
ただ
)
一個
(
ひとつ
)
の空瓶の口なれば是が
爾
(
さ
)
までの手掛りに
為
(
な
)
ろうとは思わねど少しの手掛りをも見落さじとの熱心より之も念の為にとて拾い上げしなれ
血の文字
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
勝平は、こうして若い美しい妻を得たことが、自分の生涯を
彩
(
いろど
)
る第一の幸福であるようにさえ思われた。今までは、彼の
唯
(
ただ
)
一つの誇は、金力であった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
先
(
ま
)
ず白布が刎ねられた。と其下から男の顔が——若い
強健
(
たっしゃ
)
そうな美しい顔が、胸と共に現われ出た。額に大きな
黒子
(
ほくろ
)
がある。それが
唯
(
ただ
)
一の特徴であった。
人間製造
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
それで
唯
(
ただ
)
氣が悶々して、何等の
踏切
(
ふみきり
)
が付かぬ。そして斷えず何か不安に
襲
(
おそ
)
はれて、自分でも苦しみ、他からは
凋
(
しぼ
)
むだ花のやうに見られてゐるのであツた。
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
唯
(
ただ
)
取柄なのは、家庭や団体なんかが
牛耳
(
ぎゅうじ
)
れそうな精力的なところなんですが……僕あそんなもの欲しくないんです
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
唯
常用漢字
中学
部首:⼝
11画
“唯”を含む語句
唯一
唯々
唯一人
唯今
唯物
唯唯
唯々諾々
唯事
唯我独尊
唯者
唯識
唯中
唯〻
唯一不二
唯物論者
唯一言
真唯中
唯有
唯識論
唯独
...