“厳:きび” の例文
“厳:きび”を含む作品の著者(上位)作品数
吉川英治8
中里介山7
徳田秋声4
近松秋江3
島崎藤村3
“厳:きび”を含む作品のジャンル比率
文学 > フランス文学 > 小説 物語(児童)23.1%
文学 > フランス文学 > 小説 物語5.8%
文学 > 日本文学 > 戯曲1.5%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
台所口から家の使つかいが、お盆へ乗せてふくさをかけたものを持って来ていたが、きびしくしてくれと頼んでいる様子だった。
われわれの間に不和が生じたとすれば、それは、われわれの受けている運命の苛責かしゃくがあまりにきびしかったからだ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
このきびしい、激しい、冷酷な、人間を手玉にとって翻弄ほんろうするところのものが今日の現実というもののほんとうの姿なのだ。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
「合性は至極よろしい。しかしこの人は落ち着きませんね。よほどきびしく監督しないと、とかく問題が起こりやすい。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「だけど、なにしろ友達が悪いんですからね。あなたもあまりきびしく言うのはおしなさいよ。おっかないから。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかしそれをきびしい僧官に見付けられますとその顳顬こめかみに生えて居るところの毛を引抜ひきぬかれてしまう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
はたからあまきびしく干渉かんせふするよりはかへつて気まかせにして置くはうが薬になりはしまいかと論じた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「行いは必ず篤敬……」などとしてある父の手蹟しゅせきを見る度に、郷里の方に居るきびしい父の教訓を聞く気がしたものであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わし師匠ししょうきびしかったし、経を読む身体からだじゃ、はださえ脱いだことはついぞ覚えぬ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大抵の主人は抱えの読書をきらい、きびしく封ずるのが普通で、東京でも今におき映画すら断然禁じているうちも、少なくなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
言葉の意味はきびしいが、粂之介のおもりは温かだった。お那珂なかの顔を見ると、ねんごろにこうさとすのだった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「先に、吉野の蔵王堂ざおうどうで、時政が調べ取ったことばと相違がある。いよいよ、きびしく折檻せっかんして、実をかせい」
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
床几へつくと、すぐその役人はきびしい声でいった。すると、先刻さっきから割竹を持って後ろにかがんでいた二人の小者が、躍り出して、
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上杉家からして来た二十歳はたちの頃から、この夫人は、上野介よりきびしいさがを持っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、間もなく、その近江之介の首がたまりへ投げ込まれて、喬之助は、それ以来、きびしい詮議の眼をかすめて、今に姿を現さぬのである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
奉公ほうこうつらいなどといったら、きっときびしい父親ちちおやのことだからしかるであろう。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
眞弓 差出た申分かは知りませぬが、この喧嘩はわたしに預けてはくださりませぬか。播磨はあとできびしう叱ります。まあ堪忍して引いてくだされ。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
健の恁麽こんな訓導方しつけかたは、尋常二年には余りにきびすぎると他の教師は思つてゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかし私の居った寺では酒に対してはごくきびしいもので、酒を飲んだ事が知れると寺を追出されるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
お前の外部と内部との溶け合った一つの全体の中に、お前がお前の存在をっているように、私もまたその全体の中できびしく働く力の総和なのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お三輪が娘時分に朝寝の枕もとへ来て、一声で床を離れなかったら、さっさと蒲団ふとんを片付けてしまわれるほどきびしい育て方をされたのも母だ。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
輝元の帷幕いばくにも一時はあわただしい動きが見えたが、間もなくきびしい守兵を立てて一切の出入を断ち、ここは反対にひっそりとしてしまった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表向おもてむきにするときびしいものですから、こうして見物に来た時、そうっと売りつけようてんで、支那人はじつ狡猾こうかつですからね。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
墓参に来たのは原田、桜井の女房達で、きびしい武家奉公をしている未亡人やりよは来なかった。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「さあ、もう一度やり直しだ」とかれはきびしい声で言って、いけないところを直した。「カピ、それはいけません。ジョリクール、気をつけないとしかりますぞ」
ことに僕は、博士に一番近い場所に居て、しかも博士の異変を最初に発見したというところから、とりわけきびしい尋問じんもんに会わなければならなかった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この地方は冬がごくきびしくて、貧乏な人たちのために何かしてやらなければなりません。
そなたを見染めた当座は、折があらば云い寄ろうと、始終念じてはいたものの、若衆方の身は親方のおきてきびしゅうて、寸時も心にはまかせぬ身体じゃ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
非常時も、このごろのように諸般の社会相が、統制のきびしさ細かさを生活の末梢まっしょうにまで反映して、芸者屋も今までの暢気のんきさではいられなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
けれども川はやはり水の量豊かで、底にこもる不可犯ふかぼんのこのきびしさはおのずから大河の源流を暗指していたから、僕は心中に或る満足をおぼえたのである。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そして、コンクリートづくりの建物たてものおおまちなかは、のぼらないまえさむさは、ことにきびしかったのです。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
答えは冷酷だった、しかも刃の切れ先をもってするごとくきびしく要所をいた。
或残暑のきびしい午後、保吉は学校の帰りがけにこの店へココアを買ひにはひつた。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もう此頃になると、太政官符に、更にきびしい添書ことわきがついて出なくとも、氏々の人は皆、目の前のすばやい人事自然の交錯した転変に、目を瞠るばかりであつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
使者たるそれがし落度とも相成る事、きびしく督促とくそくいたしおきました。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
制裁のきびしい寄宿に寝泊りしていた男は、一、二度女の足を止めている宿屋へ来て、自分の事情を話して帰ったきり、幾度訪ねても逢わなかった。手紙を出しても来なかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
違ったとはわかったけれども、それでもきびしく押えて逃がそうとはしません。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのきびしい冬がぎますと、まずやなぎ温和おとなしく光り、沙漠さばくには砂糖水さとうみずのような陽炎かげろう徘徊はいかいいたしまする。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
きびしい表庭の戸締も掛金だけ掛けずに置いたは、可愛い子の為であった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
竜之助はその手をきびしく抑えた。郁太郎は火のつくように泣き叫びます。
その冬はひどく寒くて、永い間きびしい霜がり、烈しい風が吹いた。
わたしの当惑とうわくを見つけて、検事けんじきびしく問いつめた。
「しかし」と、山城守は、大きな膝をゆるがせて、ちょっと長庵へ向き直った。「園絵そのえのほうは、かなりにきびしくしらべを致したようじゃが、無駄むだだったようじゃ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私の母などはきびしい人で、私の出入にも相当気を配って居たらしいが、風がひどいから帰って来たというと、そうかい、と云って、よく帰って来たというような顔をしたのである。
このことは入学の当日、お浜にもきびしく、言い渡されたことであった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
さきの役人が置いて行った人相書——もし、これに似た客が来たら遠慮なく申し出でろ、人違いでもとがめはないが、届けを怠ると重い罪だときびしく申し渡されたものであります。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが粂はただいま外出して行方が知れないという返事であったから、更にその行方をきびしく詮索せんさくさせることにして、一方にはがんりきの百を三度目に引き出して調べてみました。
その語気のきびしさに、弾正大弼は思わず足がすくんだ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ジョリクールさん」とヴィタリスがきびしい声で言った。
それを突っかけてすぐ庭に出ることが出来る、夜分やぶんこそ雨戸あまどめて家と庭との限界をきびしくしますが、昼はほとんど家と庭との境はないといってよいほどであります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ただ犯罪の追及という点がみなきびし過ぎるように思える。
平次と生きた二十七年 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
尊氏は、きっと、きついきびしい顔をしてみせた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地獄へ連れ戻そうと、きびしくお指図なさる9120
きびしくんでやつた。追懸おひかけて、
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
告白後の節子がほとんど幽閉の身も同様で、「何処どこへも出ちゃ不可いけない」と父からきびしく言い渡されて、渋谷の姉の家へひとりで行くことすらも禁じられているのを岸本は知っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
然し私は行こう。私に取って已み難き要求なる個性の表現の為めに、あらゆる有縁うえんの個性と私のそれとを結び付けようとするきびしい欲求の為めに、私はえて私から出発して歩み出して行こう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
れいきびしい結托は引き放しにくくて、
寒稽古かんげいこ病める師匠のきびしさよ
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「なるほど、宇治山田の町ではこのごろ火の用心がきびしいということだ、山へ逃げ込んだ悪者が火をつけに来るといって、廻状かいじょうで用心していたっけ、ことによるとその火つけの悪者でも追い込んだかな」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
産物さんぶつを或る一国に専売せんばいするがごとき万国公法ばんこくこうほう違反いはんしたる挙動きょどうならずやとの口調くちょうを以てきびしくだんまれたるがゆえ
その緊迫した金五郎の表情と態度に、つべこべと、抗弁する口を封じてしまう、おかしがたくきびしいものがあって、不服と不満で、仏頂面の子分たちは、だらしなく、二階へ追いあげられた。しぶしぶ、階段を登る。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「あんなにもきびしくなさらないでも」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
静かだが、きびしい掴み方でした。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
もし、母がおりおり恭一のぴんとした教科書と、彼のくちゃくちゃの教科書とを、彼の目の前にならべて、彼にきびしい訓戒を加えることがなかったら、彼はもっといろいろのことに、彼の教科書を利用したかも知れなかった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
鴫沢勾当いわくお師匠さまがいつも自慢じまんをされましたのに春松検校は随分ずいぶん稽古がきびしいお方だったけれど、わたしは身にみてしかられたということがなかっためられたことの方が多かった
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
冬の夜は静かにけて、きびしい寒さが深々と加わるのを、室内に取り付けた瓦斯煖炉ガスだんろの火にあたたまりながら私は落ち着いた気分になって読みさしの新聞などを見ながら女の来るのを今か今かと待ちかねていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
造麻呂 さようでござりましょうか?……それにしても、まあ、大納言様のような立派なお方にもらって頂いて、きびしく仕付けて頂ければ、……なよたけにとりましても、この手前にとりましても、こんな嬉しいことはござりませぬ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
然るにその夜太閤殿下は伏見へ御上洛なさるところでござりまして、宿直とのいの者たちがきびしく番をいたしており、方々の御門を固めていたのでござりましたが、難なく忍び入りまして、奥御殿の様子を窺いますと、女房達の話声がして
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
心の動揺を抑制する手近な方法は、下凡な彼としては、まずふらつきやすい体を抑制することにあることを、彼はだんだん学んで来たので、きびしい宗教的な戒律というほどでなくとも、日常生活を何かそういった形式にめこめるものなら
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
女は上機嫌になると、とかくに下らない不必要なことを饒舌しゃべり出して、それが自分の才能ででもあるような顔をするものだが、この細君は夫のきびしい教育を受けてか、その性分からか、さいわいにそういうことは無い人であった。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その勇敢な人生の闘士は、そういう路傍にえて、ともすれば人を幼年時代の幸福な追憶に誘いがちな、それらの可憐かれんな小さな花をえて踏みにじって、まっしぐらに彼のめざすきびしい人生に向って歩いて行こうとしていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「正しい代りに修行がきびしい——厳しい修行で弟子が少ない、もと名聞みょうもんを好む性質でないから世間からは多く知られていないが、わしとは若い頃から気が合うてよくまじわった——せっかく剣道を学ぶならこの人に就いて学びなされ」
ところが、なあ大将てえしょう今度はお前はどうもそうしなくっちゃならねえ。なるほどスモレット船長せんちょは立派な海員けえいんだ。それぁ己もいつだって白状するさ。だが紀律がきびし過ぎらあ。『義務は義務だ。』ってやっこさんはよく言う。
青い顔をして帰って来、監房へ入るとすぐに寝台の端に手をささえて崩折くずおれたほどであったが、無口な若者はそれ以来ますます無口になり、力のないしかしきびしい目つきでいつまでもじっと人の顔を見つめるようになり、間もなく寒くなる前に死んでしまった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
と言ったが、「今一度留めて遣んなさい。小説で立とうなんて思ったッて、とても駄目だ、全く空想だ、空想の極端だ。それに、田中が此方こっちに出て来ていては、貴嬢の監督上、私が非常に困る。貴嬢の世話も出来んようになるから、きびしく止めて遣んなさい!」
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
なるほど今年の一月以来、……それまで、もう何年という長い年月の間私の方からさんざん尽して心配していることが、いつまでっても少しもらちがあかぬので、一体どうなっているかと、随分きびしいことを、手紙でいってよこしたことはたびたびあります。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「今年も、よくよく御難ごなんな年だ、十津川騒動さえ始まらなければ、こんなことはないのだが、湯の客は少ないし、薬種やくしゅを買いに来る商人も見えず、その上に、今日も明日もきびしい落人詮議おちうどせんぎで追い廻される、たまったことじゃないわ」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「一刻もはやくせぬと、そちの身ばかりか、親にも師にも、災難をかけることに相成ろうぞ。遠国へはしれ、思いきって遠国へ。——それも甲州路から木曾路はけて行くことじゃ。なぜならば、きょうのひる下がりから先は、もうどの関所もきびしゅうなる」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今も今とて、何気なく見廻りましたところ、吾々の眼をぬすんで、怪しい影が奥牢の戸に近づき、何やら声をかけようとしておりますゆえ、思わず、待てッ! ときびしく追いかけましたが、たちまち影を見失い、ツイ御座所近くになるのも忘れて、この不始末をつかまつりました」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お関所にも抜け道があり、お調べにも言い抜けの道があるんでございますがね、やかましいのは入鉄砲いりでっぽう出女でおんなといって、鉄砲がお関所を越して江戸の方へ入る時と、女が江戸の方からお関所を越えて乗り出す時は、なかなか詮議せんぎきびしかったものでございますがね
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蘇武は義人ぎじん、自分は売国奴ばいこくどと、それほどハッキリ考えはしないけれども、森と野と水との沈黙によって多年の間鍛え上げられた蘇武のきびしさの前には己の行為に対する唯一の弁明であった今までのわが苦悩のごときは一溜ひとたまりもなく圧倒されるのを感じないわけにいかない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼女はせていたが頑丈がんじょうで、多少しゃくれたきついあご、短い鼻、丸みを帯びたまゆ、輝いたきびしい大胆なごく青い眼、ギリシャ式の多少つき出た太いくちびるのある美しい口、頸筋くびすじの上につかねてる房々ふさふさとした金髪、日焼けのした顔色をもっていた。
なんとなれば、これらの娘たちが、もし旅先で、やくざ男の甘言かんげんに迷わされて、身をあやまつようなことがあれば、生涯浮ぶ瀬のないきびしい制裁を受けることになってもいるし、娘たち自身も、その制裁を怖るるよりは、そんなみだらなことに身を過つのをずる心の方が強かったからであります。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ま、どうでしやう。余り拷問ごうもんきびしいので、自分もつひ苦しくつてたまりませんから、すつかり白状をして、早くその苦痛を助りたいと思ひました。けれども、軍隊のことについては、何にも知つちやあゐないので、赤十字の方ならばくわしいから、病院のことなんぞ、悉しくいつて聞かしてつたです。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まだ二月半ばのきびしい寒威は残っていても、さすがに祇園町まで来てみると明麗な灯の色にも、絶ゆる間もない人の往来にも、何となくもう春が近づいて来たようで、ことに東京とちがって、京は冬でも風がなくって静かなせいか夜気の肌触はだざわりは身を切るように冷たくっても、ほの白く露霜を置いた、しっとりとした夜であった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
売り物の顔にきずをつけられこのままでは済まされないどうしてくれると大分過激かげきな言辞を使ったので持ち前の聴かぬ気を出し妾の所はしつけきびしいので通っているそのくらいなら何で稽古に寄越よこしなさったのかと逆捻さかねじ的の挨拶あいさつをしたすると親父も負けてはいず打つのもなぐるのもよいが眼の見えぬお人のすることは危険だどこへどんな怪我けがをさせるかも知れぬ盲人は盲人らしく殊勝しゅしょうにせよと
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)