ぼく)” の例文
此両国の訴訟未だ決定に至らざるを以て、ついに争端を起すに至る、平和に事を鎮する乎、両国の人民といえども之をぼくとする事能はず。
黒田清隆の方針 (新字新仮名) / 服部之総(著)
つい昨日までいた開墾小屋では、強い西陽はなえの育ちを思い、あしたの晴朗な気がぼくされて、この上もない光明であり希望であった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例えば、明日の天気の良否をぼくするがごときは、その良なるか、不良なるか、その中間なるかの三答のほかに出ずることあたわず。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
然り、義経及びその一党はピレネエ山中最も気候の温順なる所に老後の隠栖いんせいぼくしたのである。之即ちバスク開闢かいびゃくの歴史である。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
温故之栞おんこのしおり』巻四に、高田の城では大手の前に場所をぼくして、長さ八尺の竿を建ておき、年々雪の多少を測り知る。これを標の竿という。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
世の愚人はこれをもって教育の隆盛をぼくすることならんといえども、我が輩は単にこれを評して狂気の沙汰とするの外なし。
文明教育論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かつ彼の一生をぼくするに、彼つねに身を以て艱難かんなんを避けざるのみならず、みずから艱難を招くもの、その例、即ちこの亡邸の一挙において観るべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
すなはち翌延宝六年戊午つちのえうま二月二十一日の吉辰きっしんぼくして往生講式七門の説法を講じ、浄土三部経を読誦どくじゅして七日に亘る大供養大施餓鬼だいせがき執行しゅぎょうす。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
下谷の家はわたくしの外祖父なる毅堂鷲津きどうわしづ先生が明治四年の春ここにきょぼくせられてより五十有二年にして烏有うゆうとなった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たとい、実際的の吉凶をぼくする行為があったとしても、天空を仰いでも卜せないとは限らぬし、そういう行為は現在伝わっていないから分からぬ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかし年の初め、例えば四、五月頃に七、八月の気候を予察して年の豊凶をぼくし、そうしてあらかじめこれに備えることには十分な可能性がある。
新春偶語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
氏は土佐を第二の故郷だと思われて久しく高知に住われたが、その後明治三十年に遂に教職を辞して東上せられ小石川区巣鴨町に居をぼくせられた。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
惟長は阿古丸あこまる大納言宗通の孫、備後前司季通びんごのさきのつかさすえみちの子だが、人相をぼくすること当時並ぶ者なしといわれ、人よんでそう少納言と敬された公卿であったが
現れた通りの卦を其の儘伝えれば不興を蒙ること必定故、一先ず偽って公の前をつくろい、さて、後に一散に逃亡したのである。公は改めてぼくした。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
政治、外交、経済にわたることもあれば、軍事にわたることもある。歴史を説く者もあれば、未来をぼくする者もある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
創造的勢力は、何れの時代にありても之を欠く可からず。国民の生気は、その創造的勢力によつてぼくするを得べし。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しかるに我が国民間に於ける手形交換の現況果して如何どうだかは、諸君の熟知せらるところ、また以て我が国民性格の高下こうげぼくするに足るではありませんか。
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「若ッ! 若ッ! きょうは単なる遠乗りのはず。たしかにお蓮様一味が、その寮とやらにひそんでおるとわかりましたら、いずれ近く日をぼくして……」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あいつはいつかも話したとおり例の山田宗徧そうへんの弟子で、やはりぼく一(上野介の符牒ふちょう)の邸へ出入りをしている、茶会さかいでもある時は、師匠のおともをして行って
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
垂し鰻屋の臭に指をくはへるたぐひなり慾で滿ちたる人間とて何につけてもそれが出るには愛想が盡る人生居止きよしを營むつひ何人なんぴとの爲にぼくするぞや眺望ながめがあつて清潔な所を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
江戸の西郊、彼のぼくした地の利も彼に幸ひした。彼のその精力と頑強と覇気とを余すところなく発揮した。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
世の人々をして、神がノエと立て給ひし契約にもとづき、世界にふたゝび洪水なきをぼくせしむ 一六—一八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かすかに/\、おこたへのあつたやうにもおもはれたが、それもこゝろまよひしんじて、其後そのゝち朝日島あさひじま漂着へうちやくして、あるとき櫻木大佐さくらぎたいさ此事このことかたつたとき大佐たいさ貴女あなた運命うんめいぼくして
ただ余が先生について得た最後の報知は、先生がとうとう学校をやめてしまって、市外の高台たかだいきょぼくしつつ、果樹の栽培さいばい余念よねんがないらしいという事であった。
一八九四年版ブートン訳『亜喇伯夜譚補遺サップレメンタリー・ナイツ』一にも、アラビアである女生まれた時、占婦ぼくしてこの女成人して、必ず婬を五百人に売らんと言いしがあたった事あり
その時ぼくしていた世帯が少しもおもしろいことはなく、しかも未見のうちから密かに会見を楽んでやってきた今度私と新守座へ割看板の、その頃新橋教坊の出身で
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
洛書らくしょというものは最も簡単なマジックスクェアーである。それが聖典たるえきに関している。九宮方位きゅうきゅうほういだん八門遁甲はちもんとんこうの説、三命さんめいうらない九星きゅうせいぼく、皆それに続いている。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
留心りうしんらば、すなはかならこれけん、留心りうしんくばすなはかならせん。(一〇一)これもつこれぼくせよ
今は三百余年の昔、文禄ぶんろくえき後、むれの鮮人たちがつれられて来て、窯をこの苗代川にぼくした。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この遡行は十日乃至ないし二週間を要す可く、登山の経験は勿論、崖へつりや徒渉等に極めて熟練した案内者人夫を同伴し、減水期を選び、安定せる天候をぼくして決行すべく
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
(心安き間柄失礼は御海恕可被下くださるべく候)所謂いわゆるべくづくしなどは小生の尤も耳障に存候処に御座候。然し「われに酔ふべく頭痛あり」、また「豊年もぼくすべく、新酒もかもすべく」
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
自分等の家族は以前は巴里の市中に住んだがこのビヨンクウルに住居をぼくして引移って来たということや、この家屋いえもなかなか安くは求められなかったというようなことまで
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その時かれは二十二歳であったが、郷党みな彼が前途ゆくすえの成功をぼくしてその門出かどでを祝した。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかし、家康のことだから、ここをぼくして新藩を置くからには、やっぱり相当の深謀遠慮というやつがあり、この城地の存在に、特別の使命が課せられていると見るのが至当だ。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
朝御飯を戴いてから、二階の縁側で鈴実り電車の数に郊外生活の繁昌をぼくしていると
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
星がひらめいていれば、明日の好霽こうせいぼくされるので、おがむようにして悦ぶ、その次にのぞくと、星どころではない、漆黒の空である、人の心も泣き出しそうになる、しかし暁天までには
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そこらによくある賄付下宿ボウデング・ハウスの一つ、ベントレイ夫人方に居をぼくしていたのだったが、はじめのうちは珍しかったとみえて、何やかやとベントレイお婆さんがよく気をつけてくれたけれど
明治二十四年には保は新居を神田仲猿楽町五番地にぼくして、七月十七日に起工し、十月一日にこれをらくした。脩は駿河国駿東郡すんとうごおり佐野さの駅の駅長助役に転じた。抽斎歿後の第三十三年である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
妾が東京に家をぼくせしある日の事、福岡県人菊池某とて当時耶蘇ヤソ教伝道師となり、普教につとめつつありたるが、時の衆議院議員、嘉悦氏房かえつうじふさ氏の紹介状をたずさえ来りて、妾に面会せん事を求めぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その相談が長くなってこんなに手間取れた。近い内に日をぼくして食道楽会というものを開かれる。即ち子爵家の邸内を会場として三十人を限り食道楽者流が極上品な食物会を開くという仕組だ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「ハッハッハッハッハ、なけなしの俺が一枚看板みたいに、動物富籖をもっているのが、そんなに可笑しいか。だが、俺だって当ると思っちゃいないよ。うらないだ。未来をぼくすには、これに限るよ」
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
床の間の掛軸や花瓶かびんなどに目をつける習慣になっていて、花の生け方などで料理がひどく乱暴なものか否かを大体ぼくするのであったが、今そこに蕪村ぶそんと署名された南画風の古い軸がかかっていたので
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
はしなくも自分の運命をぼくしたことになった。
新西遊記 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この地をぼくしたのもお前だった。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
夜は燈花をぼく
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ぼくするところ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ぼくして、過日、未解決におわった大問題をぜひ一決して、さらにさんを重ねたいと思うのであるが、諸公のお考えは如何であるか
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある人の将来の運をぼくするに当たり、その人の平素の性質、品行、学芸、名望、その一家の関係、その社会のありさま等の諸事情を考察すれば
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
わたくしは鈴木彦之が『松塘詩鈔』について「十二月二十八日子寿ガ都下ノ書ヲ得タリ。子寿新ニ居ヲ徒士街ニぼくス。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この日の晴雨を以て一年中の天候をぼくする風も岡山地方にはあるから、あるいは別に何か意味があったかも知らぬ。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)