つつみ)” の例文
なれども、結んだのは生蛇なまへびではござりませぬ。この悪念でも、さすがはおんなで、つつみゆわえましたは、継合つぎあわせた蛇の脱殻ぬけがらでござりますわ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが、案外にも金のつつみがちゃんとあったのだ。それを見て斎藤が悪心を起したのは、実に浅はかな考えではあるが無理もないことだ。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いえ、何も。しかし私の娘と姪が、二人の曲者が邸園ていえんを逃げる時、大きなつつみを持っているのをたしかに見たのですから。」
少しも騒がず手箪笥てだんすの中から一つつみの金(百円包のよし)を取出し与えますと、泥坊はこれほどまでとは思いもよらずきもをつぶした様子なりしが
蓮月焼 (新字新仮名) / 服部之総(著)
返事は聞えなかったが、次のつつみを投出す音がして、直様すぐさま長吉は温順おとなしそうな弱そうな色の白い顔をふすまの間から見せた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
華大媽かたいまは枕の下をさぐって一つつみの銀貨を取出し、老栓に手渡すと、老栓はガタガタふるえて衣套かくしの中に収め、著物きものの上からそっと撫でおろしてみた。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
欝金うこんつつみかかえたおこのは、それでもなにやらこころみだれたのであろう。上気じょうきしたかおをふせたまま、敷居際しきいぎわあたまげた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
今日は祝勝会だから、君といっしょにご馳走ちそうを食おうと思って牛肉を買って来たと、竹の皮のつつみたもとから引きずり出して、座敷ざしき真中まんなかへ抛り出した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おなかもすいたので、つつみをあけて、パンを取出してたべた。びんにつめていた水をのんだ。おなかのすいたのが少しなおり、のどのかわきがとまった。
透明猫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
年の暮で、夜も賑やかな銀座を通る時、ふと風炉敷包みの不体裁なのに気が附いて鞆屋ともえやに寄って小さい革包を買って、つつみをそのまま革包に押し込んだ。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
をさましたら本のつつみはちゃんと枕もとにありましたけれども、帽子はありませんでした。僕は驚いて、半分寝床から起き上って、あっちこっちを見廻みまわしました。
僕の帽子のお話 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
さりとて軽佻かるはずみにもなきとりなし、持ちきたりしつつみしずかにひらきて二箱三箱差しいだつきしおらしさに、花は余所よそになりてうつゝなくのぞき込む此方こなたを避けて背向そむくる顔
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
二人の旅人が下手しもてから来て、涼亭の口で村の男とれ違って入って来る。その一人の甲は、こもで包んだかさばった四角なつつみを肩に乗せ、乙は小さな竹篭たけかごを右の手に持っている。
昼間甘酒茶屋に何かつつみを頂けてあるからというので、次郎がそれを取りに寄ったので、一足あとから歩いて来ると、彼と金右衛門とがこの有様なので、咄嗟とっさの急に釘勘は捕繩を送り
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、能勢五十雄のせいそおであった。やはり、自分のように、紺のヘルの制服を着て、外套がいとうを巻いて左の肩からかけて、麻のゲエトルをはいて、腰に弁当のつつみやら水筒やらをぶらさげている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
帰りに外濠そとぼり線の通りへ出たら、さっと風が吹いて来て持ってるつつみ吹き飛ばしてしもうて、それ追いかけて取ろうとすると、ころころと何処迄でもころこんで行くよってに、なかなか取られへんねん。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、一人の侍のもってきたつつみをあけると郡奉行は、菅笠すげがさを取出した。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
と云って、砂糖のつつみを投げてやった。熊蜂共はブンブンと喜んで
猿小僧 (新字新仮名) / 夢野久作萠円山人(著)
引添える禰宜の手に、けものの毛皮にて、男枕おとこまくらの如くしたるつつみ一つ、あやしひもにてかがりたるを不気味ぶきみらしくげ来り、神職の足近く、どさと差置く。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それじゃ、丁度よう御在ございました。代りに何か御用をいたしましょう。」と婦人はつつみを持ったまま、老人の後について縁側づたいに敷居際しきいぎわに坐り
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だがその予想に反して、その翌朝、捜査課の扉を押して、蜂矢探偵が大きなつつみを小脇にかかえて入ってきたのには、課長以下眼を丸くしておどろいた。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
明智は化粧品のハンカチつつみを大切相に懐中して立上った。書生の山木と小間使のおゆきとが玄関まで彼を見送った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はその後父親にことづけて貝殻一つつみと見事な鳥の毛を何本か送って寄越した。わたしの方でも一二度品物を届けてやったこともあるが、それきり顔を見たことが無い。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
旅商人たびあきゅうどに負えるつつみの中には赤きリボンのあるか、白き下着のあるか、珊瑚さんご瑪瑙めのう、水晶、真珠のあるか、包める中を照らさねば、中にあるものは鏡には写らず。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その省三の眼に細君の枕頭まくらもところがっているコップと売薬のつつみらしい怪しい袋が見えた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と声を掛けて、貴婦人が、と入って来たのでした。……片手に、あの、蒔絵まきえもののつつみを提げて、片手にちいさな盆を一個ひとつ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
午頃ひるごろまで長吉は東照宮とうしょうぐうの裏手の森の中で、捨石すていしの上によこたわりながら、こんな事を考えつづけたあとは、つつみの中にかくした小説本を取出して読みふけった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うちへ帰る途中にも、折々インヴァネスの羽根の下に抱えて来た銘仙のつつみを持ちえながら、それを三円という安いで売った男の、粗末な布子ぬのこしまと、赤くてばさばさした髪の毛と
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吩咐いいつけながら竈の火を按排した。そのそばで老栓は一つの青いつつみと、一つの紅白の破れ提灯を一緒にして竈の中に突込むと、赤黒いほのおが渦を巻き起し、一種異様な薫りが店の方へ流れ出した。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
手早てばやささの葉をほどくと、こわいのがしやつちこばる、つつみの端をおさへて、草臥くたびれた両手をつき、かしこまつてじっと見て
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
頭巾ずきんかむり手に数珠じゅずを持ちつえつきながら行く老人としより門跡様もんぜきさまへでもおまいりする有徳うとくな隠居であろう。小猿を背負った猿廻しのあとからはつつみを背負った丁稚でっち小僧が続く。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
眼があっても節穴同然、気の毒なこった、と思わずクスクスと噴き出したが、また憤然としてたちまち本のつつみの中から、正しく書き写した制芸文と試験用紙をき出し、それを持って外へ出た。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そして廊下への出口に置いてある衣裳棚いしょうだなに、名前の貼紙がしてある処を見てそのつつみせ、コンパクトで鼻の先をたたきながら、廊下づたいにパンツリイを通り抜けると
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おそはれたる如く四辺あたりみまはし、あわただしくつつみをひらく、衣兜かくしのマツチを探り、枯草かれくさに火を点ず。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼は垣の上にあがることも出来なければ、あなの中に潜ることも出来なかった。ただ外に立って品物を受取った。ある晩彼は一つのつつみを受取って相棒がもう一度入ると、まもなく中で大騒ぎが始まった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
うしろなるも、左も右も、人波打ちつつどやどやと動揺どよみ出づる、土間桟敷に五三人、ここかしこに出後でおくれしが、頭巾かぶるあり、毛布けっとまとうあり、下駄のつつみ提げたるあり、仕切の板飛び飛びに越えてく。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桜の花さく河岸かしの眺め(第五図)は直ちに新緑したた元柳橋もとやなぎばしの夏景色(第六図)と変じ、ここにつつみを背負ひし男一人橋の欄干に腰かけ扇を使ふ時、青地あおじ日傘ひがさ携へし女芸者二人話しながら歩み行けり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
五色に透いて輝きまするわにの皮三十六枚、沙金さきんつつみ七十たい
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)