冥土めいど)” の例文
「父親が殺されたといふのに、何事も隱し立てをしてはいけない、——下手人を逃がすやうな事があつては、冥土めいどさはりにもならう」
誠に冥土めいどの人にあったような気がして、ソレカラいろ/\な話をきいて、清水と一緒になったと云うことも分れば何もわかっ仕舞しまった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ですけれど、あの、おまねかれたら、懐中ふところへならなほことだし、冥土めいどへでも、何処どこへでもきかねやしますまい……と真個ほんとうおもひました。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その音がまるでもしあるなら冥土めいどからでも出ただろうといったふうな妙に陰気な響きであるので、必ず驚かされるほどであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
んでもかたちだけの葬式そうしきひとつしてもらえなかった……これでは、いぬやねことおなじであって、冥土めいどもんもくぐれないではないか?
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
人に怨恨えんこんを有し讐敵しゅうてきとなるものは、死後も同様に考え、冥土めいどに入りてそのうらみをむくい、そのあだを報ずることと信じておる。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
でなくば自身冥土めいどまで聞きに行ってくる切支丹きりしたん伴天連ばてれんの秘法でも心得ていないかぎり、推断に苦しむのは当然なことというべきでありました。
この世の利益はもう必要がなくなった今では冥土めいどのお手引きに仏をお願いすることにして、髪を切って尼にすることをそのだれかにさせてくれ。
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大宗匠たちの臨終はその生涯しょうがいと同様に絶妙都雅なものであった。彼らは常に宇宙の大調和と和しようと努め、いつでも冥土めいどへ行くの覚悟をしていた。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
冥土めいどに於けるC子の姿は無線遠視テレヴィジョンに撮られて、直ちに中央放送局へ中継なかつぎされる。娑婆ではこれを、警察庁公示こうじ事項じこうのニュースとしてC子の姿を放送する。
十年後のラジオ界 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
よくよく聞いて見たら、実は百年ぜんに死んだのだが、ふとした好奇心からわざと幽霊になって吾輩を驚かせるために、遠い冥土めいどから出張したのだそうだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいはこれもまた時鳥のように、冥土めいどの鳥ということかも知れぬ。豊後ぶんごの竹田附近にはヒトダマという鳥がある。嘴大にして赤く、羽の端には蒼味あおみがある。
と、酒を位牌いはいにそそぎ、また冥土めいど供養の紙銭かみぜにをつかんでべ終ると、彼は声を放っておいおいと泣きだした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折角出難でがたいチベットから出て来て世界に紹介すべき大功の事を冥土めいどもたらしたからといって何の益があるか。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
雨しとしとと降りて枕頭ちんとうに客なし。古き雑誌を出して星野博士の「守護地頭じとう考」を読む。十年の疑一時にくるうれしさ、冥土めいどへの土産一つふえたり。(五月二十日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ことに、奥さんと一緒に行くんだったら、死んだ兄さんだって、冥土めいどで満足しているかも知れませんよ。死んだ青木じゅん君の瑠璃子夫人崇拝は人一倍だったのですからね。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
冥土めいどの土産に聞かしてやるが、さっき、若僧わかぞう運転士をおびき出してやったのもこっちの計略だ。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
冥土めいどの父親母親が、草葉の蔭から、さぞお前さまのお心持を、ありがたがっておりましょう」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
世事せいじ測る可からずといえども、薙髪ちはつしてきゅうを脱し、堕涙だるいして舟に上るの時、いずくんぞ茅店ぼうてんの茶後に深仇しんきゅう冥土めいどに入るを談ずるの今日あるを思わんや。あゝまた奇なりというべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
間もなく、○○町の名刹めいさつ千福寺の墓地に毎晩人魂が現れるという記事が新聞に出た。おびただしい数だ。冥土めいどの連中も昨今の酷暑に堪え兼ねて、夜々よなよな涼みに浮び上るのだろうとあった。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そういえばそうだが、評判はかねて聞いてるから、どんなものだか冥土めいど土産みやげに見て置きたいと思ってネ。まだ一と月や二タ月は大丈夫生きてるから、ユックリ見て行かれる。」
「いえ、なに、死んでしまへば男も女もありませんよ。」——坊さんはうまい事を言つた。してみると、冥土めいどには活動写真小屋のやうに、婦人席は区割くぎりがつけて無いものと見える。
なにかと思ったらくだらない。聞いていれば、さっきから妙に気障きざな話ばかり。……貰えるものなら冥土めいどからでも、便りをもらいたいぐらいに思っていますが、死んだひとが手紙を
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
殺し汚面々々をめ/\我而已われのみいき勘當かんだうゆるさるゝとも何のよろこびかあらん我も冥土めいど途連みちづれせんとて既に首をくゝるべきていなれば初瀬留も是を聞き其元のおこりは皆私し故なれば倶々とも/″\しなんと同じく細帶ほそおび
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はじめに行基菩薩ぎょうきぼさつというお方がおつくりなすった歌だから、あれを冥土めいど土産みやげに聞いて行けば心残りはないから、わたしの命は今晩限り、明日は、もうこの世の人でないと書いてあるよ
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これはいけないと思う間もなく私は七ツ道具を投げすてて草原の上へ倒れてしまったのだ。ところで私はちょっと空を眺めて見た、この世の空かあるいは最早もはや冥土めいどの空かを確めるために。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
一首の意は、死んで行くこの子は、未だおさない童子で、冥土めいどの道はよく分かっていない。冥土の番人よ、よい贈物をするから、どうぞこの子を背負って通してやって呉れよ、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
一夜、夫の枕もとに現われて、歌をんだ。闇の夜の、におい山路やまみちたどりゆき、かなく声に消えまよいけり。におい山路は、冥土めいどに在る山の名前かも知れない。かなは、女児の名であろう。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
なお樹下に潜みいつ遠近おちこちと夜の影を見回せり、彼の心には現世ははるかの山の彼方になりて、ココは早や冥土めいどに通ずる路のごとく思われ、ヒヤヒヤと吹き来る風は隠府の羽を延ぶるがごとく
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
ちっとも早う上様のおあとを慕うて、冥土めいどのおん供……。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
冥土めいどの案内じゃ提灯が先だんべ」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おぼつかない冥土めいどの細道から
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
てい冥土めいどつまつく
寡婦の除夜 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
ですけれども、真夜中ですもの、川の瀬の音は冥土めいどへも響きそうで、そして蛇籠じゃかごに当って砕ける波は、蓮華れんげを刻むように見えたんですって。
「成程、さう言へば一應尤もだ、それでは冥土めいどの土産に聞かしてやらう、——皆川半之丞が、同志の手をかりて、此穴を掘つたわけは、かうだ」
霊魂れいこんは、まったくかばれなかったのです。りっぱなおてらへいって、おきょうをあげてもらい、丁寧ていねいとむらいをしてもらってから、冥土めいどたびにつこうとおもいました。
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一足先に冥土めいどへ立った卑怯者は、後の二人の仲間は、立場の居酒屋でのみつぶれていると嘘をいったが、先へ廻って、待ち伏せの手ぐすね引いていたのである。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その年麻疹ましんを病んでその子は死んだと、真澄ますみの奥州の紀行の中に書いてある。郭公かっこうは時鳥のめすなどという俗説もあるが、これがまた同じように冥土めいどの鳥であった。
『われはこの家の娘なり。死して冥土めいどに向かうも、娑婆しゃばに多くの衣服を残せしために、思う所に至ることあたわず。願わくは、これこれの衣類を渡されんことを』
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「したんだ、したんだ。ちっと遠すぎるところへ逃げたんですよ。冥土めいどへ飛んじまったんですよ」
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
追っかけて冥土めいどまで、……いやさ、日暮里まで行く。……早打駕籠を二挺、押棒をつけて持って来い。……後先へ五人ずつ喰っついて、宙を飛ばして行け。棺桶は、もう一刻いっとき前に芝を
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
冥土めいどの土産にそれを聞かせてやろうか。鴨下というエセ学者は、五体揃った俺の身体を生れもつかぬこんな姿にしてしまった。自分のために、他人の人生を全然考えないひどい野郎だ。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
幸か不幸か、男の真三郎は冥土めいどへ行ったのにお豊だけはこの世に生き残って、大和の国三輪みわの里の親戚へ預けられている間に、京都を漂浪して来た机竜之助と会うことになってしまった。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ことあたらしく今更に道十郎が後家に告口つげぐちなし此長庵がいのちちゞめさせたるは忝けないともうれしいともれい言盡いひつくされぬ故今はくゝられた身の自由じいうならねばいづ黄泉あのよからおのれも直に取殺し共に冥土めいどつれゆき禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
みを顔にうかべながら、利休は冥土めいどへ行ったのであった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
冥土めいどへ呼びに行くか?」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
紳士 俺の旅行は、冥土めいどの旅のごときものじゃ。昔から、事が、こういう事が起って、それが破滅に近づく時は、誰もするわ。平凡な手段じゃ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なるほど、そういえば一応もっともだ、それでは冥土めいど土産みやげに聞かしてやろう、——皆川半之丞が、同志の手をかりて、この穴を掘ったわけは、こうだ」
どうせない命なら、せめての罪ほろぼしに、この仏といっしょに冥土めいどへ参りとうござります……
「だれか、冥土めいどみちづれにするものはないかな。」と、人間にんげん物色ぶっしょくしていたのです。
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)