先頃さきごろ)” の例文
いま餘波なごりさへもないそのこひあぢつけうために! そなた溜息ためいきはまだ大空おほぞら湯氣ゆげ立昇たちのぼり、そなた先頃さきごろ呻吟聲うなりごゑはまだこのおいみゝってゐる。
先頃さきごろも六つとかになる女の児が、神奈川県の横須賀から汽車に乗ってきて、東京駅の附近をうろついており、警察の手に保護せられた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この後しばらくは全曲入る見込もあるまいから、せめて先頃さきごろ新響しんきょうの演奏した「四季」でも入れておいてもらいたかったと思う。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
わたし先頃さきごろフランスの西海岸にしかいがんにあるカルナックといふところおほきいいしつたのでありますが、いまみつつにをれて地上ちじようたふれてゐます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
かゝる誤りは萬朝報よろづてうはうに最もすくなかつたのだが、先頃さきごろほかならぬ言論欄に辻待つぢまち車夫しやふ一切いつせつ朧朧もうろうせうするなど、大分だいぶ耳目じもくに遠いのがあらはれて来た。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
先頃さきごろ大阪おほさかよりかへりしひとはなしに、彼地かのちにては人力車じんりきしやさかんおこなはれ、西京さいきやう近頃ちかごろまでこれなきところ追々おひ/\さかんにて、四百六輌しひやくろくりやう伏見ふしみには五十一輌ごじふいちりやうなりとふ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
思ひ積りて熟〻つら/\世の無常を感じたる小松の内大臣ないふ重盛卿、先頃さきごろ思ふ旨ありて、熊野參籠の事ありしが、歸洛の後は一室に閉籠りて、猥りに人におもてを合はせ給はず
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
どういうわけでこんなおもてなしにあずかるのか先刻せんこくからしきりに考えているのです。やはりどうもその先頃さきごろおたずねにあずかった紫紺しこんについてのようであります。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
先頃さきごろわが百首のうちで、少しリルケの心持こころもちで作って見ようとした処が、ひどく人に馬鹿ばかにせられましたよ。
先頃さきごろ母へ自分で編んだ温かそうなちゃんちゃんこを送ってくれたそのお礼もいおうと思ったのだが。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
はからず放免はうめんおほつけられ、身に取りまして大慶至極たいけいしごく、誠に先頃さきごろ御無礼ごぶれい段々だん/″\御立腹ごりつぷく御様子ごやうすで。
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは五渡亭国貞が先頃さきごろから英一蝶に私淑してその号まで香蝶楼こうちょうろうと呼んでいたがためであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わらはが隣の祖母様ばばさまは、きつい朝起きぢやが、この三月みつきヶ程は、毎朝毎朝、一番鶏も啼かぬあひだけしい鳥の啼声を空に聞くといふし、また人の噂では、先頃さきごろ摂津住吉の地震なゐ強く
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
すると、修理は急に額を暗くして、「林右衛門めは、先頃さきごろ、手前屋敷を駈落かけおち致してござる。」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先頃さきごろ祖母様を新築の一室にうつしまつらんとせしとき祖母様三日も四日も啼泣ていきゅうし給ひしなど御考被下くだされ候はば、小生がにわかに答ふること出来ざる所以ゆえんも御解得なされ候ならんと存候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
先頃さきごろのよりもくしてつたからもうれでとほ道程みちのり態々わざ/\なくてもれを時々とき/″\つてやれば自然しぜんかわいてしまふだらうと、しろくすりとそれからガーゼとをふくろれてくれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
人の世話にて先頃さきごろ若い者に召抱めしかゝ荷擔にかつぎにも連れ使ひにも出せしに至極實體につとむる故或時新町の出入先よりあつらへの金銀物をもたせ使ひにやりしに夫切それきり一向歸り來らず依て心配なし使ひ先を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
先頃さきごろ送った家中でった写真を叔父さんはどう見たろうとも彼女は書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先頃さきごろよりの礼厚くのべて子爵より礼のおくり物数々、金子きんす二百円、代筆ならぬ謝状、お辰が手紙を置列おきならべてひたすら低頭平身すれば珠運少しむっとなり、ふみケ受取りて其他には手もつけ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
先頃さきごろ熊本県の九州製紙会社を見に行ったときに、私は紙の原料の供給地を尋ね試みたことがある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
妾宅はあがかまちの二畳を入れて僅か四間よまほどしかない古びた借家しゃくやであるが、拭込ふきこんだ表の格子戸こうしど家内かない障子しょうじ唐紙からかみとは、今の職人の請負うけおい仕事を嫌い、先頃さきごろまだ吉原よしわらの焼けない時分
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ある與吉よきちつたとき先頃さきごろ念佛ねんぶつとき卯平うへいさけすゝめた小柄こがらぢいさんが枕元まくらもとた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひげもめがねもあるのさ。先頃さきごろ来た大臣だいじんだってそうだ。」
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
以て拙僧よろしく御取持せん思しめしもあらばうけたまはらんと説法口せつぱふぐちべんに任せて思ふ樣にたばかりければ四人の者共は先頃さきごろよりの寺の動靜やうす如何樣かく有んと思へど誰もたくはへは無れど永代えいだいの家のかぶと無理にも金子調達てうだつ仕つらんそれには御實情じつじやうの處もうかゞひたしといふに心得たりと常樂院はおくおもぶき此由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おつぎは先頃さきごろやうすぐかまどいて柄杓ひしやくで二三ばいみづ茶釜ちやがました。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)