そこな)” の例文
兵乱のために人を殺し財を散ずるのわざわいをば軽くしたりといえども、立国の要素たる瘠我慢やせがまんの士風をそこなうたるのせめまぬかるべからず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは、イエス御自身が「そこなえるあしを折ることなく、煙れる亜麻を消すことなき」人であられたからです(マタイ一二の二〇)。
そこには、半ばむさぼつつかれた兵士達のしかばねが散り散りに横たわっていた。顔面はさんざんにそこなわれて見るかげもなくなっていた。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
事實に向ひて其利害を問ふべからざること、化學の上にて窒素の人をそこなふことあるを怒るに由なきが如くなるべし。これをゾラが小説論とす。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
されど彼がたはぶれは人をそこなふには至らざりしが、獨りハツバス・ダアダアに對しての振舞は、やゝ中傷の嫌ありとおもはれぬ。
ただクラリオネットだけは、吹奏が難しい上に、幼い肺臓では呼吸器をそこなう恐れがある、という校医の意見を尊重して、長友先生に受けもたせた。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
よつて意へらく、幕にて知らぬところを強ひて申し立て、多人数に株蓮しゆれん蔓延まんえんせば、善類をそこなふこと、すくなからず、毛を吹いて瘡を求むるにひとしと。
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
かく噛み噛みたるためにや咀嚼にもっとも必要なる第一の臼歯きゅうし左右共にやうやうにそこなはれてこの頃は痛み強く少しにても上下の歯をあはす事出来難くなりぬ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼はこの書翰のために、有志の面目をも損ずるなるべし、威厳をもそこなうなるべし、さても気の毒の至りなるかな。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
人その身の強弱を顧ずして食うべきもの悉く取って以って食うべしとなさばかならず身をそこなうべし。読書見聞もその修むる道によりて慎むべく避くべきもの多し。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
険を冒し奇を競ふ世のなかには、利益と名誉とををさむるの途甚だ多し、而して尤も利益あり、尤も成功ありと見ゆるものは人を害し人をそこなてきの物品の製造なり。
主のつとめ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
……考へた時は大變面白かつたが、かう書いて見ると、興味索然たりだ。饒舌おしやべりは品格をそこなふ所以である。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
この道楽ものの行末がどうなることかと言い合わしたように余を憫殺びんさいするものの如く見えるので、余の自負心をそこなうことおびただしく、まずそういう処に出席するよりもと
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
氏の純粋性をそこなうものとして、めなければ不可いけないと強情な私も、ついに棒を折ってしまいました。
探偵文壇鳥瞰 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
異事いじともけいおなじうするをはかり、異人いじんともおこなひおなじうするをめば、すなはもつこれかざつて・そこなかれ。ともしつおなじうするらば、すなはあきらかにしつきをかざれ。
昔大竜大湖のほとりかわぬぎ、その鱗甲より虫出で頃刻しばらくして蜻蜓のあかきにる、人これを取ればおこりを病む、それより朱蜻蜓を竜甲とも竜孫ともいいえてそこなわずと載せたを見て
これに因りて泣き患へしかば、先だちて行でましし八十神の命もちてをしへたまはく、海鹽うしほを浴みて、風に當りて伏せとのりたまひき。かれ教のごとせしかば、が身悉にそこなはえつ
されどかれは、誤れば人命をそこなふの恐れあれど、これは間違へばとて、人の笑ひを招くに止まると、鉄面にものしぬ。予は敢へて、恋愛を説くといはじ。ただその一端はかくやらむと。
一青年異様の述懐 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
呪詛は生をそこない、愛は生を高める。ただ愛せよ、そしてすべてを最もよく生かせよ。——こうして私は喜悦と勇気とに充たされる。天分の疑懼はしばらくの間私の心を苦しめなくなる。
生きること作ること (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
事あるいはここに至らば、則ち貴大臣、各将官仁厚愛物の意をそこなうもまた大なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
予らはさほどに寒気を感ぜず、また今まで食気更に振わざりしに引かえたちまち食慾を奮起し、滞岳中に比すれば無論多食せしといえども、更に胃をそこなうことなかりし、これによりて見るに
折よく白が来た。かみさんは、これですか、と少し案外の顔をした。然し新参者しんざんものの弱身で、感情をそこなわぬ為かく軍鶏の代壱円何十銭の冤罪費を払った。かれは斯様な出金を東京税とうきょうぜいと名づけた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かうべあるものこしかして、ぺた/\とつて瞪目たうもくしてこれれば、かしらなき將軍しやうぐんどう屹然きつぜんとして馬上ばじやうにあり。むねなかよりこゑはなつて、さけんでいはく、無念むねんなり、いくさあらず、てきのためにそこなはれぬ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とかく機械が美をそこなうのは、自然の力をぐからである。あの複雑な機械も、手工に比べてはいかばかり簡単であろう。そうしてあの単純な手技は、機械に比ぶれば、いかばかり複雑であろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
五九字を学びゐんを探る人のまどひをとるはしとなりて、弓矢とるますらも富貴は国のもとゐなるをわすれ、六〇あやしき計策たばかりをのみ調練たねらひて、ものをやぶり人をそこなひ、おのが徳をうしなひて子孫を絶つは
引っ掻かれ、引っ裂かれ、身をそこなうばっかりで、10635
我の兵車に打ちあてゝ共にそこなふこと勿れ。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
そこなうたか」
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その中でし得た者は白玉しろたまそこなうた者は黒玉くろだま、夫れから自分の読む領分を一寸ちょっとでもとどこおりなく立派に読んでしまったと云う者は白い三角を付ける。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
……考へた時は大変面白かつたが、恁書いて見ると、興味索然たりだ。饒舌おしやべりは品格をそこなふ所以である。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
吾人はいやしくも基督の立教のもとにあつて四海皆兄弟けいていの真理を奉じ、斯の大理を破り邦々くに/″\あひそこなふを以て、人類の恥辱之より甚しきはなしと信ず。吾人は言ふ、基督の立教の下にありと。
「平和」発行之辞 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
在家にとっては親のために自己を犠牲にすることは徳の中の徳である。しかし出家にとっては、親のためにその道心を捨てるというごときは、私情に迷ってその本分をそこなうことである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
往々身体しんたいの健康をそこないて失敗するものあり、いわんや海の内外土地のかい未開みかいを問わず、その故郷を離れて遠く移住せんと欲するもの、もしくは大に業を海外に営まんと欲するものの如きは
すでにして逐一口を開きしに、幕にて一円知らざるに似たり。っておもえらく、幕にて知らぬ所をいて申立て、多人数に株連蔓延まんえんせば善類をそこなう事少なからず、毛を吹いてきずを求むるにひとしと。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
とかく機械が美をそこなうのは、自然の力をぐからである。あの複雑な機械も、手工に比べては如何ばかり簡単であろう。そうしてあの単純な手技は、機械に比ぶれば、如何ばかり複雑であろう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ドメニカこれを見つけて、そは目をそこなふわざぞとて日の見えぬやうに戸をさしつ。われ無事に苦みて、外に出でゝ遊ばんことをひ、ゆるしをえたる嬉しさに、門のかたへ走りゆき、戸を推し開きつ。
人をそこない自ら殺すなどの椿事ちんじき起すを常としたりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
人の子を教うるの学塾にして、かえって、これをそこなうの憂いなきを期すべからず、云々と。
経世の学、また講究すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
うまやけたり。子、ちょうより退き、人をそこなえるかとのみいいて、馬を問いたまわず。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
始の程こそ屡〻我感情をそこなふこともありつれ、遭難の後病弱の身となりては、親族にも稀なるべき人々の看護の難有ありがたさ身にしみて、羅馬へ伴ひ行かんと云はるゝが嬉しとおもはるゝやうになりぬ。
そもそも粋は人の好むところ、侠も人の愛するところ、然れども粋をして必らずしも身を食ふ虫とならしめ、侠をして必らずしも身をそこなふものとならしめしは、先代の作家大に其罪を負はざる可からず。
数百千年養い得たる我日本武士の気風きふうそこなうたるの不利は決して少々ならず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし私は自己を育てようとする努力に際して、この努力そのものがイゴイズムと同じく愛をそこなうことのあるのを知りました。私は仕事に力を集中する時愛する者たちを顧みない事があります。
ある思想家の手紙 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
所で勝の説に、ソレはとても出来る事でない、ナマジ応砲などしてそこなうよりも此方こちらは打たぬ方がいと云う。うすると運用がた佐々倉桐太郎ささくらきりたろうは、イヤ打てないことはない、乃公おれうって見せる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)