さむらひ)” の例文
まへ講釈かうしやくのと読較よみくらべると、按摩あんまのちさむらひ取立とりたてられたとはなしより、此天狗このてんぐ化物ばけものらしいはうが、かへつて事実じゝつえるのが面白おもしろい。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一門の人々、思顧のさむらひは言ふも更なり、都も鄙もおしなべて、いたしまざるはなく、町家は商を休み、農夫は業を廢して哀號あいがうこゑ到る處にちぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
さむらひたるものが知らずに居るのも變だし、縁側や疊の上を、こんなに汚すのも手際が惡過ぎるとは思はないのかえ
まづ老功のさむらひとは申さず、人並みの分別ある侍ならば、たとひ田辺の城へなりとも秀林院様をお落し申し、その次には又わたくしどもにも思ひ思ひに姿を隠させ
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ころの習慣として、さむらひさむらひを殺せば、殺した方が切腹をしなければならない。兄弟は其覚悟でうちへ帰つてた。ちゝ二人ふたりを並べて置いて順々に自分で介錯をする気であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
気丈な不二子さんは僕等のまへにつひぞ今まで涙を見せたことはなかつた。これはさむらひの女房の覚悟に等しい心の抑制があつたからであらう。然るに今は他人のことごとくが眠に沈んでゐる。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
其の男の本はさむらひにて有けるが、盗みして獄に居て、後放免に成にける者なりけり。
放免考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
見る者なかりしとこゝ浪人體らうにんていさむらひの身には粗服そふくまとひ二月の餘寒よかんはげしきに羊羹色やうかんいろの羽織を着て麻のはかま穿はきつかはづれし大小をたいせし者常樂院じやうらくゐんの表門へ進みいらんとせしが寺内の嚴重げんぢうなる形勢ありさま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
自分は西洋人のふ野蛮人といふものかも知れないと思ふ。さう思ふと同時に、小さい時二親ふたおやが、さむらひの家に生れたのだから、切腹といふことが出来なくてはならないと度々さとしたことを思ひ出す。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
先生せんせい真個まつたく靱負ゆきへつて、むかしさむらひのやうななんですが、それのまゝゆきえだいて、がうにして若輩じやくはいものです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
らばいかなる身分みぶんの者ぞ、衞府附ゑふづきさむらひにてもあるか』。『いや、さるものには候はず、御所の曹司に横笛と申すもの、聞けば御室おむろわたりの郷家の娘なりとの事』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
はい、あの死骸しがい手前てまへむすめが、片附かたづいたをとこでございます。が、みやこのものではございません。若狹わかさ國府こくふさむらひでございます。金澤かなざは武弘たけひろとしは二十六さいでございました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さむらひのくせに弓馬槍劍はから下手ぺた、ちよいと男がよく、辯舌が達者で、算盤そろばんが出來て、風流氣があつた——そこを見込まれて、元々身上の良い増田屋の後家に惚れられ、増田屋の庭先の
美しい娘をさらつてゐる大猿を一人のさむらひが来て退治したり、松前屋五郎兵衛ごろべゑ折檻せつかんされて血を吐いたり、若い女房がひとりの伴を連れて峠を上つて行くと、そこに山賊さんぞくが出て来たりした。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ちひさいとき祖父ぢゞいからいたはなしに、あるさむらひうまつて何處どこかへ途中とちゆうで、きふこの早打肩はやうちかたをかされたので、すぐうまからんでりて、たちま小柄こづかくやいなや、肩先かたさきつてしたため
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ももの花の代りにはすの花を咲かせ、古風なさむらひの女房の代りに王女か何か舞はせたとすれば、毒舌に富んだ批評家といへども、今日こんにちのやうに敢然とはかなへの軽重を問はなかつたであらう。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
西八條の御宴より歸りみちなるさむらひ一群二群ひとむれふたむれ、舞の評など樂げにたれはゞからず罵り合ひて、果は高笑ひして打ち興ずるを、件の侍は折々耳そばだて、時にひややかに打笑うちゑさま、仔細ありげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
あゝ不思議ふしぎことがとおもすと、三十幾年さんじふいくねんの、維新前後ゐしんぜんごに、おなじとき、おなじせつ、おなじもんで、おなじ景色けしきに、おなじ二人ふたりさむらひことがある、とおもふと、悚然ぞつとしたとふのである。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はゝの客に行つてゐた所は、その遠縁とほえんにあたる高木たかぎといふ勢力家であつたので、大変都合がかつた。と云ふのは、其頃は世のなかうごき掛けた当時で、さむらひおきても昔の様には厳重に行はれなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かういふ叔父はこの時にも相手によつては売られた喧嘩を買ふ位の勇気は持つてゐたのであらう。が、相手は誰かと思ふと、朱鞘しゆざやの大小を閂差くわんぬきざしに差した身のたけ抜群のさむらひだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
読者は唯、平安朝と云ふ、遠い昔が背景になつてゐると云ふ事を、知つてさへゐてくれれば、よいのである。——その頃、摂政せつしやう藤原基経もとつねに仕へてゐるさむらひの中に、なにがしと云ふ五位があつた。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
客 しかし昔のさむらひなどは横腹をやりに貫かれながら、辞世じせいの歌をんでゐるからね。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それから何日か後の月夜、姫君に念仏をすすめた法師は、やはり朱雀門の前の曲殿に、ごろもの膝を抱へてゐた。すると其処へさむらひが一人、悠々と何か歌ひながら、月明りの大路おほぢを歩いて来た。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その間に召使ひは一人も残らず、ちりぢりに何処かへ立ち退いてしまふし、姫君の住んでゐた東のたいも或年の大風に倒れてしまつた。姫君はそれ以来乳母と一しよにさむらひほそどの住居すまひにしてゐた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
若殿樣の御不興を受けたさむらひの例もございます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
若殿様の御不興を受けたさむらひの例もございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)