仏壇ぶつだん)” の例文
旧字:佛壇
やがて女房にょうぼうも、このからるときがきました。子供こどもらは、はは御霊みたまをも亡父ぼうふのそれといっしょに仏壇ぶつだんなかまつったのであります。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
光吉こうきちが、父のイハイをおさめた仏壇ぶつだんに向かってお話のけいこをしていると、母が帰ってきてニコニコしながらそれを聞いていることなどもあった。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
と、おりと婆さんはそう語ってから、ふと思い出したように、立って仏壇ぶつだんとびらを開いて、位牌いはいの傍に飾ってあった一葉いちようの写真を持って来て示した。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「もう、来なくてもいい。おれは、煙の出る飯を一杯喰いたい。それを喰ったら死んでもいい。仏壇ぶつだんに上げる飯を、何とか今のうちくれないかなあ」
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればよ仏壇ぶつだんの下こそよきかくれ所なれ、かまへて人にかたり玉ふな、かたりたらば幽霊いうれいを見んとて村の若人わかうどらがべきぞ。心えたるはとて立かへりぬ。
この仏壇ぶつだんの下のつぼには、だいじなものがはいっている。かけはあめのようだけれど、ほんとうは、一口ひとくちでもなめたら、ころりとまいってしまうひどい毒薬どくやくだ。
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
壁は刑事の手に依ってドアの如く左右に押し開けられ、忽ち間口まぐちけん奥行おくゆき三尺ばかりの押入れが現われた。その押入れの中央に仏壇ぶつだんの様に設置してある大冷蔵庫。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほんとうの金かどうかはわかりませんが、まるで、仏壇ぶつだんの中のように、金色にかがやいているのです。
奇面城の秘密 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
押入れのはめこみの中の仏壇ぶつだんの前に、姑のまつが寝たっきりであった。その次に与平の寝床、真中まんなかは子供二人の寝床。それでもうせまい部屋はいっぱいになってしまう。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
あたゝかおだやか午後ひるすぎの日光が一面にさし込むおもての窓の障子しやうじには、折々をり/\のきかすめる小鳥の影がひらめき、茶のすみ薄暗うすぐら仏壇ぶつだんの奥までがあかるく見え、とこの梅がもう散りはじめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
黙っていろよ、何んにも言うな、きっと誰にも饒舌しゃべるでねえぞ、と言い続けて、うちへ帰って、納戸なんど閉切しめきって暗くして、お仏壇ぶつだんの前へむしろを敷いて、其処そこへざくざくと装上もりあげた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、この箱、あたし覚えているわ、お仏壇ぶつだんの中にあった箱でしょう、叔父さん?」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「おとう、あの仏壇ぶつだん抽出ひきだしに、県庁からもろうた褒美ほうびがあるね?」と尋ねました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
そのなかの丸いのをぼんにのせて仏壇ぶつだんに供えたのだったが、疫痢えきりといううわさが立って、だれもきてくれぬ通夜つやまくらもとにすわって、いつもの停電がすんだあと、お母さんはふと気がついたように
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
へいがなかっただけでも、ありがたいのですよ。さあ、この通信簿つうしんぼをお仏壇ぶつだんまえにおあげなさい。」と、おかあさんが、おっしゃいました。
年ちゃんとハーモニカ (新字新仮名) / 小川未明(著)
しをはりて七兵衛に物などくはせ、さて日もくれければ仏壇ぶつだんの下の戸棚とだなにかくれをらせ、のぞくべき節孔ふしあなもあり、さてほとけのともし火も家のもわざとかすかになし
「おかえりなさいまし」お内儀かみのおつまは、夫の手から、印鑑いんかん書付かきつけの入った小さい折鞄おりかばんをうけとると、仏壇ぶつだんの前へ載せ、それから着換きがえの羽織を衣桁いこうから取って
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ある日和尚おしょうさんは檀家だんかから、たいそうおいしいあめをもらいました。和尚おしょうさんはそのあめをつぼの中にれて、そっと仏壇ぶつだんの下にかくして、ないしょでひとりでなめていました。
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
マリヤに似せた観音像を仏壇ぶつだんにひそめて、ひそかにそれを信奉するものや、或いは、そうした人々のみで、法令のとどかぬ山間の部落をなして、一種の切支丹村をかたちづくり
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、はは生前せいぜん毎晩まいばんのように、さけをさかずきについであげたのをていて、ははのちも、やはり仏壇ぶつだんさけをさかずきについであげました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして銀子ぎんす五十両が、びるように、仏壇ぶつだんにおいてあった。これには李達も心を打たれ、さては弟もほんとに前非を悔いて来たものとみえる。このぶんでは老母を托しても心配あるまい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とむらいもすみまして、自宅の仏壇ぶつだんの前に、同胞きょうだいをはじめ一家のものが、ほとけの噂さをしあっていますと、丁度ちょうど今から三十分ほど前に、表がガラリと明いて……仏が帰って来たのでございます」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
法師は紙につゝみて仏壇ぶつだんにおき、夕にのみ玉ひし酒ものこりあり、肴はなくとものみ玉へとていさゝかのものとりいだして、二人ながらのはたに胡坐あぐらかきて酒のみながら七兵衛がいふやう
さかずきは、仏壇ぶつだんのひきだしのなかに、いつもていねいにしまわれてありました。そして、晩方ばんがたになるとされてさけをついでげられました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
奥の正面には、西をうしろにして木像の阿弥陀如来あみだにょらいが立っており、その前に、にぎやかな仏壇ぶつだんがこしらえてあった。電灯を利用したみあかしが、古ぼけた銀紙製ぎんがみせいはすの造花を照らしていた。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おじいさんは、それらの文字もじににじむ、親思おやおもいのじょうをうれしく、ありがたくかんじ、手紙てがみをいただくようにして、また仏壇ぶつだんのひきだしへしまいました。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、仏壇ぶつだんまえへすわり、しずかにかねをたたき、お念仏ねんぶつとなえたのです。そこには、軍服姿ぐんぷくすがたをした若者わかもの写真しゃしんかざられ、おそなものがっていました。
子供は悲しみを知らず (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぼくのおとうさんがくるんだもの、昨夜ゆうべも、いまごろおとうさんが、おとおりだといって、おかあさんは、お仏壇ぶつだん燈火あかりをあげられた。ぼくも、んだら台風たいふうになるよ。
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
また、はるになると、つばきのえだなどをってきて、びんにさして、やはり仏壇ぶつだんまえそなえられたのです。
びんの中の世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
正二しょうじは、いえ仏壇ぶつだんげるろうそくとマッチをりにいくと、とくちゃんは、そのあいだおおきなうりをさがしてきて、なか種子たねして、燈火あかりのつくようなあなけていました。
二百十日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
きんさんは、お仏壇ぶつだん親方おやかた写真しゃしんまつって、命日めいにちには、かならず燈火あかりげておがんだのです。
春風の吹く町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
父親ちちおや行方ゆくえがわからなくなってから、二人ふたりは、毎晩まいばん仏壇ぶつだん燈火ともしびをあげておがみました。
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)
年老としとった祖母そぼは、うみえるまどぎわに、仏壇ぶつだんにろうそくをあげ、まごが、やみなかをこいでくる時分じぶんに、この燈火ともしびあてにすることもあろうと、そのしたにすわって、無事ぶじかえるようにと
海の踊り (新字新仮名) / 小川未明(著)
すると、たなのうえっていた、ふる仏像ぶつぞうまりました。むかしから、いえにあったので、こうしてたなのうえせておいたのです。仏壇ぶつだんなかには、あまりおおきすぎてはいらなかったからであります。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)