中々なかなか)” の例文
私の友人の一人は、東京から見える山へ皆登って見たいと云うていましたが、どうしてこの七十以上の山を登るのは中々なかなか容易ではない。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
蕗屋も斎藤も中々なかなか勉強家だって云いますが、『本』という単語に対して、両人共『丸善』と答えた所などは、よく性質が現れていますね。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
中々なかなか親切に世話をやいてれる。そのうちに船はブリエンツの埠頭に着いた。ここは湖水の東端で、小さな船つきの村である。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
アーおほきに御苦労ごくらう折角せつかく思召おぼしめしだから受納じゆなふいたしまする。先「中々なかなかうまいねえ……これかへりましてもよろしうございますか。 ...
西洋の丁稚 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その男というのはその時分丁度ちょうど四十一二ぐらいで、中々なかなか元気な人だったし、つ職務柄、幽霊の話などはてんから「んの無稽ばかな」とけなした方だった
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
杜子春はこの御客たちを相手に、毎日酒盛りを開きました。その酒盛りの又さかんなことは、中々なかなか口には尽されません。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この人のいたは、日本でもたれか持っている人があるだろうが、中々なかなか巧いもので、ことに故郷の布哇はわいで有名な、かの噴火口の夜景が得意のものであった。
感応 (新字新仮名) / 岩村透(著)
いざ背負しょおうと、後向うしろむきになって、手を出して待っているが、娘は中々なかなか被負おぶさらないので、彼は待遠まちどおくなったから
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
彼奴きゃつ、どうするかと息をひそめてうかがつてゐると、かれは長き尾を地にき二本の後脚あとあしもっ矗然すっくと立つたまゝ、さながら人のやうに歩んで行く、足下あしもと中々なかなかたしかだ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
ワシントン、那波翁なおう云々うんぬん中々なかなか小生はいの事にあらず、まん不幸ふこう相破あいやぶかばねを原野にさら藤原広嗣ふじわらのひろつぐとその品評ひんぴょうを同じゅうするも足利尊氏あしかがたかうじと成るを望まざるなり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
両人ふたりは桜の枝を見てゐた。梢に虫の食つた様な葉がわずかばかり残つてゐる。引越の荷物は中々なかなか遣つて来ない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
信州しんしゅう戸隠とがくし山麓なる鬼無村きなしむらという僻村へきそんは、避暑地として中々なかなか土地ところである、自分は数年ぜんの夏のこと脚気かっけめ、保養がてらに、数週間、此地ここ逗留とうりゅうしていた事があった。
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
私はふところに手を差入れながら黙って来た、私の頭脳あたまの内からは癩病らいびょう病院と血痕の木が中々なかなか離れない、二三の人にも出会ったものの、自分の下駄の音がその黒塀に淋しく反響して
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
丁度ちょうど十楽院じゅうらくいん御陵ごりょう近処きんじょまで来ると、如何どうしたのか、右手ゆんでにさしておるからかさが重くなって仕方がない、ぐうと、下の方へ引き付けられる様で、中々なかなからえられないのだ、おかしいと思って
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
そのあたりは、その孟宗竹もうそうちくの藪のようになっているのだが、土の崩れかけた築山つきやまや、欠けて青苔あおごけのついた石燈籠いしどうろうなどは、いまだに残っていて、以前は中々なかなかったものらしく見える、が何分なにぶんにも
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
(昔はそれが中々なかなか肯定されなかった。自由詩が詩の認定を得るまでには幾多の長い議論が戦わされた。)故に今日の立場としては、言語の辞書的な解義を廃して、韻文を「音律本位の文」と考え
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
あらゆる因襲を離れて出し抜けに出合ったのだ。人間と人間とが覿面てきめんに出合ったのだ。どんな工合ぐあいだか、お前には中々なかなか分るまい。食卓を離れてから、その女と隅の方へ引込んで、己は己の事を話す。
さりながら正四位しょうしい何のなにがしとあって仏師彫刻師をむこにはたがらぬも無理ならぬ人情、是非もなけれど抑々そもそも仏師は光孝こうこう天皇是忠これただの親王等の系にいで定朝じょうちょう初めて綱位こういけ、中々なかなかいやしまるべき者にあらず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「どうも、あんまり結構な話でもねえ。面白くねえだろうから止めにして、台所には白鳥はくちょうが一本おったっている。熱燗あつかんをつけて、これで中々なかなか好い音声のどなんだ。小意気な江戸前の唄でもきかせようか」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「お上もあれで、若い時分には、中々なかなかたっしゃだったのだのう。まだ、もう二人いるはずだが、と、そう現われて来られてはたまらぬ。そこで、——もし、正真の御落胤であった場合には、う処置してよいか」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「帆村君、燐寸が見えない。これは中々なかなかの事件らしいぞ」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
中々なかなかあの真似は出来ませんよ』
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「これはどうだ。中々なかなか抜けない」
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
「冬は中々なかなか好うございます。」
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
橋を渡って、シュタンスシュタットの船つきに行く、桟橋のくいの上にのっかって煙草をふかしはじめる、船は中々なかなか見えない。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
一躰いったい自分の以前には如何どんな人が住んでおったかと訊ねたが、初めの内はげんを左右にして中々なかなかに真相を云わなかったがついにこう白状した、そのはなしによると
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
それから平貝たいらがいのフライをさかなに、ちびちび正宗まさむねを嘗め始めた。勿論下戸げこの風中や保吉は二つと猪口ちょくは重ねなかった。その代り料理を平げさすと、二人とも中々なかなか健啖けんたんだった。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一体いったい夏菊という花は、そう中々なかなかしおれるものでない、それが、ものの二時間もあいだにかかる有様ありさまとなったので、私も何だか一種いやな心持こころもちがして、その日はそれなり何処どこへも出ずすごした
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
中々なかなか逃げそうにもしない、仕方なしに、足でパッと思切おもいきり蹴って、ずんずん歩き出したが二三げんくとまた来る、平時いつもなら自分は「何こんなもの」と打殺ぶっころしたであろうが、如何どうした事か
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
支那しなおそろしい道の悪いところきまして木石ぼくせきんではこびますのが、中々なかなか骨の折れた事で容易よういではございません、勿論もちろん牛は力のあるのが性質うまれつきゆゑつまりはくにめだから仕方しかたがございませんが
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
最早もうわたしの婚礼も日がない、この一七日ぜんに、わたしついに無常の風にさそわれて果敢はかなくなりました身で御座ございます、斯様かような次第ゆえ、両親の悲歎は申すも中々なかなかの事、ことに母の心は如何いかばかりかと思えば
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
彼も中々なかなか落々おちおちとして寝込まれない。
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
ははア中々なかなか急さね位で、一寸ちょっとびっくりして済むことだろう、が、気を沈めて見れば見るほど、先登せんとうの登山をやった人達の、度胆どぎものほどが偲ばれる。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
中々なかなかそんなもんじゃありません。たとえばまだこう云うのもあります。ある連中に云わせると、色の上に標準もあるのです。あの美学の入門などに云う色の上の寒温ですね。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
数年前すねんぜん、さる家を訪ねて、昼飯ちゅうはんの馳走にあずかって、やがてその家を辞して、ぶらぶら向島むこうじま寺島村てらじまむらつつみにかかったのが、四時頃のことだ、秋の頃で戸外おもて中々なかなかあかるい、私が昼の膳に出してくれた
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
しかしとこへ入っても中々なかなか寝られないが彼はそれまでこんな事はあんまり信じなかったので、あるいは近所の瘋癲老婆きちがいばばあが裏木戸からでも庭へ入って来ていたのではないかと思ってそれなりに寝てしまった。
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
ただ細い釣竿つりざおにずっと黄色をなするのは存外ぞんがい彼にはむずかしかった。蓑亀みのがめも毛だけを緑に塗るのは中々なかなかなまやさしい仕事ではない。最後に海は代赭色である。バケツのさびに似た代赭色である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)