階子はしご)” の例文
眼に有らざるは無しであった。村をこぞって今日の珍客を見物に来ているのと知れた。中には階子はしごを掛けて軒口から見るのさえあった。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
で、げないばかりに階子はしごあがると、続いた私も、一所にぐらぐらと揺れるのに、両手を壇のはじにしっかりすがった。二階から女房が
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私がきょうそっと階子はしごの中途まで昇って行って、奴らがどんな話をしているかと、耳を引っ立てていると、一人の奴が小さい声で
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
布團で昂布卷こぶまきにされた上、丁寧に猿轡さるぐつわまで噛まされたガラツ八が、階子はしごの下まで轉げて來て、情けない眼を光らして居るではありませんか。
と急に支度をしてどん/\/\/\と毀れるばかりに階子はしご駈下かけおりると、止せばいに小増を始め芸者や太鼓持まで又市の跡を付けて来まして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
従ってこの集の中には「鋸屑おがくず移徙わたましの夜の蚊遣かな 正秀」とか、「ふむ人もなきや階子はしごの夏の月 臥高」とか、「上塗うわぬりも乾や床の夏羽織 探芝」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
階子はしごに足音聞こゆ、疑ふべくもあらぬ篠田の其れなり、彼は今ま此の疑雲猜霧ぎうんさいむうちに一歩一歩静に足を進めつゝあるなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
でもう一度押し返して頼んでいると内儀が笑いながら帳場から出て来て、どんな部屋でもよろしくば、ということで階子はしご段上の長四畳に通された。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
二人ふたりあとから続々ぞく/\聴講生がる。三四郎はやむを得ず無言の儘階子はしご段をりて横手の玄関から、図書館わき空地あきちて、始めて与次郎をかへりみた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ペンタクルの中央には階子はしごの形があって、その三段目には一七六五年と記されていた。さらに精密に検査しているうちに、わたしは弾機ばねを発見した。
そして、皆のいる階下に行こうとし、階子はしご口まで来はしたが、揺れが劇しいので、到底足を下せたものではない。
私の覚え書 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私は小説の続きも何も忘れて、表の窓やをヤケに手荒く締めると、暗い階子はしご段を二階に上って、蠅のふんで真白になった電球の下に仰向けに寝ころんだ。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
葉子は階子はしごの上がり口まで行って二人にかさをかざしてやって、一段一段遠ざかって行く二人ふたりの姿を見送った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ば懸たりけるかくるより大膳はことあらはれしと思ければ刀引拔勢ひたけ縱横たてよこ十文字に切て廻り切死せんとはたらくを大勢にて取籠とりこめつゝ階子はしごを以て取押とりおさへ漸く繩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やっとのことで、ばたんばたんと階子はしご段を下りる跫音あしおとがきこえ、玄関のかきがねを外す音が聞こえて、やがて門の戸の用心棒をはずして、柴田の細君が出てきた。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
他人ひと麺麭パンのいかばかりにが他人ひと階子はしご昇降のぼりくだりのいかばかりつらきやを汝自らためしみむ 五八—六〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
暗い階子はしごを登つて灯のついてない二階に登つて來た時、マッチをすつて瓦斯ガスをつけて呉れた。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
階子はしご上りたまふ足音の聞こゆるに、さては中川様のと、我は乱れたる髪掻き上げ、辛ふじて、重き枕を擡げたるを、中川様の見たまへて、始めていたく驚きたまひたるらしく
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
二人は二つの階子はしごをのぼった。「右へ……左側の四番目の部屋。」とバルメラ男爵が囁く。
これは多分桟敷さじきから階子はしご乗りをしたんだろう。その頃の笑話にその時群集仰ぎ視る者夥し。
折しもたれならん、階子はしご昇来のぼりくる音す。貫一は凝然として目をふたぎゐたり。紙門ふすまけて入来いりきたれるはあるじの妻なり。貫一のあわてて起上るを、そのままにと制して、机のかたはらに坐りつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ただその陋屋ろうおくに立派な物は、表の格子戸と二階の物置へあがる大階子はしごとであった。その格子戸は葭町よしちょうの芸妓屋の払うたものを二で買ったもので、階子はある料理屋の古であった。
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
階子はしごのある所を教えてくれればいい。おれが一人で仕事をするのだ」
下に降る階子はしご段の所まで行った、此の時は既に窓の外が明るくなり、日の出る刻限であるけれど下では誰も起き出て居ぬ様子である、未だ降りて行ったとて仕様が無いか知らんと、暫し足を留め
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
私もそこにしてあるとおり、自分の布団と木枕とを上り口の横に積重ねて、それから顔でも洗おうと思って、手拭を持って階子はしごの口へ行くと、階下したから暖いうまそうな味噌汁の匂がプンと鼻へ来た。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
雪洞ぼんぼりを取ってしずかに退座す。夫人長煙管ながぎせるを取って、はたく音に、図書板敷にて一度とどまり、直ちに階子はしごの口にて、ともしびを下に、壇に隠る。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
阿母さんが二階へなにか取りに行くと、階子はしごのうえから二段目のところで足を踏みはずして、まっさかさまに転げ落ちて……。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
布団で昆布巻こんぶまきにされた上、丁寧に猿轡さるぐつわまで噛まされたガラッ八が、階子はしごの下まで転げて来て、情けない眼を光らしているではありませんか。
カラ/\と打ち笑ふ男の声聞えて、主人の利八と物語りつゝ、階子はしご上りきたるは、今しもお熊のうはさせる其人なるべし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
職人たちはおどろいて、初めにこの部屋へ降りて来たところの階子はしごへ逃げあがったが、それぎりで何事も起こらないのを見て、安心して再び降りて来た。
ジェルテルスキーは、靴をはいた足の長さの三分の一は確にあまる浅い階子はしご段を注意深く下りて行った。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ことごとく旧知の様にあしらつてゐる。御客が帽子と外套を給仕に渡して、広い階子はしご段の横を、くらい廊下の方へ折れると、三四郎に向つて、今のは誰某だれそれがしだと教へて呉れる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しばらくは意趣いしゅに見返すふうだったが、やがて一種の恐怖に襲われたらしく、干し物を竿さおに通しもせずにあたふたとあわてて干し物台の急な階子はしごを駆けおりてしまった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しと/\階子はしごを下りて参り、長手の火鉢の前に坐りましたが髪が、たてでお化粧しまい為立したてで、年が十九故十九つゞ二十はたちというたとえの通り、実に花を欺くほどの美くしい姿で
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼の階子はしごを下り行くとひとしく貴婦人は再びグラスを取りて、葉越はごしの面影を望みしが、一目見るより漸含さしぐむ涙に曇らされて、たちま文色あいろも分かずなりぬ。彼は静無しどなく椅子に崩折くづをれて、ほしいままに泣乱したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
致せ湯責ゆぜめ責水責鐵砲てつぱう海老えび熊手くまで背割せわり木馬もくばしほから火のたま四十八の責に掛るぞヤイ/\責よ/\との聲諸とも獄卒ごくそつ共ハツと云樣無慘むざんなるかな九助を眞裸まつぱだかにして階子はしごの上に仰向あふむけに寢かし槌の枕を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うかとおもふと、ひざのあたりを、のそ/\と山猫やまねこつてとほる。階子はしごしたからあがつてるらしく、海豚いるかをどるやうな影法師かげぼふしきつねで。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
無用な階子はしごが掛けっ放しであり、それを登って、ひさし伝いに行けば、米吉の寝て居る二階六畳の窓に、わけもなく達することを発見しました。
この上に責めても素直に口を開きそうもないので、半七もしばらく考えていると、熊蔵が階子はしごのあがり口から首を出してあわただしく呼んだ。
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蔵前の広縁と二階の裏階子はしごとで、他の部屋部屋から遮断されていた。袋のようなたった一つの出入口を閉め切ると、前の庭を見晴すだけで、一日人に会わずに暮せた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
お國はちゅう二階に寝ていましたが、此の物音を聞き附け、寝衣ねまきまゝ階子はしごを降り、そっと来て様子をうかゞうと、此の体裁ていたらくに驚き、あわてゝ二階へあがったり下へ下りたりしていると
こんどは上へ上がろうと云うから階子はしごを登ってトップへ乗った。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かく言捨ててお峯はせはし階子はしご下行おりゆけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おなじ鼓の緒のひかえづなにて、向って右、廻廊の奥に階子はしごを設く。階子は天井に高く通ず。左のかた廻廊の奥に、また階子の上下の口あり。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
廊下へ出て、大きい階子はしご段を降りて、二た間、三間先の大闥おおとびらを押すと、中から華やかな笑いと、薔薇色の光が溢れて出ます。
奥さんがこう言いかけた時に、階子はしごをあがって来る足音がひびいた。と思う間もなく、ふすまの外から若い男の声がきこえた。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
サア出ようと思ったが、とても表からは出られませんから、屋根伝いにして逃げようと、階子はしごあがって裏手の小窓を開けて見ると、ずうっと棟割むねわり長屋になって物干がつながって居て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小さい木造洋館の石段から入った直ぐのところに在る応接室で待っていると、程なく二階から狭い階子はしごを降りて一人の男の人が出て来た。体じゅうの線が丸く、頬っぺたがまるで赧い。
狭い一側面 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
なに任務にんむだからと、何樓なにやかのまへで、かけつて、値切ねぎつて、ひきつけへとほつてさけると、階子はしごちうくらゐのおのぼ二人ふたり、さつぱりてない。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
来客と聞いて、お浜もよんどころなく立ち上がって、階子はしごをあがって来る三十四五歳の芸人を迎えた。かれは紋作の兄弟子あにでしの紋七という男であった。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)