金泥きんでい)” の例文
大書院の一隅に、屏風びょうぶがある。一双全面にわたり、日本全国の地図が金泥きんでいのうえに描かれてあった。秀吉は、それへ眼をやるとふと
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
パアドレ・オルガンティノ! 君は今君の仲間と、日本の海辺うみべを歩きながら、金泥きんでいの霞に旗を挙げた、大きい南蛮船を眺めている。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そのでかい字が読めねえのか、印籠の表に、ひいきより江戸錦へ贈るっていう金泥きんでい流しの文字がちゃんと書いたるじゃねえか」
金泥きんでいを置き墨のうえににかわを塗って光沢を出したものを漆絵うるしえと呼び、べに絵とともに愛玩されたが、明和二年にいたって、江戸の版木師はんぎし金六という者
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かくの如き手摺てずりの法は進んで享保に至り漆絵うるしえと呼びて黒色の上に強き礬水どうさを引きて光沢を出し更に金泥きんでいを塗りて華美を添ふるに至りしが、やがて寛保二
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのとき黒装束くろせうぞく覆面ふくめんした怪物くわいぶつが澤村路之助丈えとめぬいたまくうらからあらはれいでヽあか毛布けつとをたれて、姫君ひめぎみ死骸しがいをば金泥きんでいふすまのうらへといていつてしまつた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
呵々からからと気違いじみた笑いを突走らせるのは、黒髪も衣紋えもんも滅茶滅茶に乱した妖婦お小夜、金泥きんでいに荒海を描いた大衝立おおついたての前に立ちはだかって、あでやかによこしまな眼を輝かせます。
世のはて何處いづことも知らざれば、き人のしるしにも萬代よろづよかけし小松殿内府の墳墓ふんぼ、見上ぐるばかりの石の面に彫り刻みたる淨蓮大禪門の五字、金泥きんでいいろあらひし如く猶ほあざやかなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
人物と山と同じくらいな大きさにえがかれている間を、一筋の金泥きんでい蜿蜒えんえんふちまで這上はいあがる。形はかめのごとく、はちが開いて、開いたいただきが、がっくりと縮まると、丸いふちになる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金泥きんでいそらにながしていろどつた眞夏まなつのその壯麗そうれいなる夕照ゆうせふたいしてこころゆくまで、銀鈴ぎんれいこゑりしぼつてうたひつづけた獨唱ソロ名手めいしゅそらとりはねをとどめてそのみゝかたむけた、ああ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
とりわけ「金唐革きんからかわ」と呼ぶものが有名で、金泥きんでい色漆いろうるしを用い模様を高く浮き出させた鞣革なめしがわであります。草花や小鳥や獣などを美しくあしらいました。よく文箱ふばこや袋物などに見られます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あかしは奥深くいて、あそこにも、こゝにも、と見て居るうちに、六挺ばかりの蝋燭らふそくが順序よく並んでとぼる。仏壇を斜に、内陣の角のところに座を占めて、金泥きんでいの柱の側にを合はせたは、住職。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おさらいや場末の寄席よせ気分とは、さすがしなの違った座をすすめてくれたが、裾模様、背広連が、多くその席を占めて、切髪の後室も二人ばかり、白襟で控えて、金泥きんでい、銀地の舞扇まで開いている。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大運河の両がんの層楼はいづれも昔の建築で大抵は当時の貴族の邸宅だが、今はホテルや又は名も無い富家ふかいうに帰して、碧榭へきしや朱欄さては金泥きんでい画壁ぐわへきを水に映し、階上より色色いろいろの大きな旗をなびかせて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
紺紙なる金泥きんでいの蘭秋扇あきおうぎ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
うしろへまわって、お厨子ずしをのぞくと、金泥きんでいのとびらがけてあって、なかには一地蔵菩薩じぞうぼさつぞうがすえてある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燭台の光が煌々こうこうとかがやき渡って、金泥きんでいふすまに何かしらいにしえの物語めいた百八つの影を躍らせているのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
総蒔絵そうまきえ金泥きんでい散らしの二重箱には、みごとな絹ふさがふっさりとかけられて、いかさま北村大学のいったとおり、それには三カ所厳重な封印を施したあとがありました。
呵々から/\と氣違ひ染みた笑ひを突走らせるのは、黒髮も衣紋も滅茶々々に亂した妖婦お小夜、金泥きんでいに荒海を描いた大衝立おほついたての前に立ちはだかつて、艶やかによこしまな眼を輝かせます。
香の煙のたちこめた大寺だいじの内陣で、金泥きんでい緑青ろくしょうところはだらな、孔雀明王くじゃくみょおうの画像を前に、常燈明じょうとうみょうの光をたのむ参籠さんろうの人々か、さもなくば、四条五条の橋の下で、短夜を芥火あくたびの影にぬすむ
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
本堂の正面にも金泥きんでいがくかかって、鳥のふんか、紙をんでたたきつけたのか点々と筆者の神聖をがしている。八寸角の欅柱けやきばしらには、のたくった草書のれんが読めるなら読んで見ろとすましてかかっている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むらさき色のへ、金泥きんでい地蔵じぞうさまのおすがたが刷ってある。そしてそのわきには、こんな文句もんくが書いてあるのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの印籠いんろうはもとよりわたしの細工もの、ちょうど手もとにあの品がござりましたゆえ、さも江戸錦様の持ち物らしく見せかけて、あのような金泥きんでいで名まえを書きこみ
「それもございますし、小松殿におかれましても、伽藍がらんのご建立こんりゅうがあるそうで。——何かと、金沙、金泥きんでい金箔きんぱくなど、たくさんにお要用いりようでございましょうが」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
琴ばかりが十面もつかねてあるし、紫檀したんと見える箪笥たんすには黄金きんの金具が光を放ち、友禅の夜具、定紋のつづら、金泥きんでい衝立ついたて御簾みす絽蚊帳ろがや象牙ぞうげもの、螺鈿らでんもの
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金泥きんでいのふすまに信玄しんげん今川家いまがわけからまねきよせた、土佐名匠とさめいしょうの源氏五十四じょう絵巻えまきりまぜがあるので、今にいたっても、大久保長安おおくぼながやす家中かちゅうみな源氏閣とよんでいる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人がともして行った一個の網雪洞あみぼんぼりが、厨子ずし螺鈿らでんや古びた金泥きんでいの物体を、メラ、メラと、あやしげに明滅させているのみで、法達の姿はどこへ行ったか見当りません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
絢爛をきわめた新調の糸毛輦いとげのくるまである。それへ、膝をつめあわせて共に乗った盛装の若い男女は、どんな絵の具や金泥きんでいを盛りあげてもきあらわせないほど華麗であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして眼をひらくと、四壁の金泥きんでいと絵画は赤々とかがやいていた。格天井ごうてんじょう牡丹ぼたんの図も炎であった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それはよいあんばいでございました」お米は店の壁にかけてある金泥きんでい仏画ぶつがひとみをうつしたり、たもとの端をいじったり、何かもじもじしていた後に、やッと心の奥のものを持ちだした。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと見ると、内陣の深くは、赤い蜘蛛くもの巣がかがやいている。そして、剥落はくらくした金泥きんでい薬師如来やくしにょらいか何かの仏像の足元から、朱金の焔がメラメラと厨子ずしの一角をなめ上げているのでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白絹でつつんで、さらに、ちつで抱いた愛らしい一帖いちじょう経本きょうほんがはいっていた。紺紙に金泥きんでいの細かい文字が、一字一字、精緻せいちな仏身のように、端厳たんげんな気と、精進しょうじんの念をこめて、書かれてあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金泥きんでいの地に、重厚な顔料えのぐで、地図が描いてあった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)