あと)” の例文
果して然らば、たゞに国体を維持し、外夷の軽侮を絶つのみならず、天下之士、朝廷改過のすみやかなるに悦服し、斬奸の挙も亦あとを絶たむ。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
小六ころくから坂井の弟、それから満洲、蒙古もうこ、出京、安井、——こう談話のあと辿たどれば辿るほど、偶然の度はあまりにはなはだしかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東北にって聞いてみても、岡の尾崎をタテとはいうが館あととは言わない。畑とか林とかの場処をさしてただタテと呼ぶのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
王子の停車場ステーションへついたのは、もう晩方であったが、お島は引摺ひきずられて行くような暗い心持で、やっぱり父親のあとへついて行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
先生の俳句を年代順に見て行くと、先生の心持といったようなものの推移して行ったあとが最もよく追跡されるような気がする。
夏目先生の俳句と漢詩 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、地面じべたのたくつた太い木根につまづいて、其機会はずみにまだ新しい下駄の鼻緒が、フツリとれた。チヨツと舌鼓したうちして蹲踞しやがんだが、幻想まぼろしあともなし。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一昨年差上げ候蝉丸せみまるの拙作韻脚の処書損じ仕り候まゝ差上げ申候。あとにて気付き疎漏のいたりに候。後便したため直し差上げ可く候。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これを隱して人をあざむくことの快からぬために、我血はいよ/\騷ぎ立ちぬ。數日の後、反動の期至り、我心は風の吹き荒れたるあとの如くなりぬ。
眼に見えないはげしい力の動いて行ったあとでも辿たどるようにして、自分の小さな智慧ちえや力でそれをどうすることも出来なかったことを考えて見た時は
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔、宇治の稚彦わかひこ皇子が遺教して、自ら骨を散ぜしめ、後世これに傚う者があるも、これは皇子の事であって、帝王のあとにあらず、我国上古より山陵を
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
少くも硯友社は馬琴の下駄のあとを印し馬琴の声を聞いた地に育ったので、幽明相隔つるといえ、馬琴と硯友社とはいわば大家おおや店子たなことの関係であった。
然れども是れ親王の事にして、帝王のあとにあらず。我が国上古より山陵を起さざるは、未だ聞かざる所なり。
余が宇宙の漂流者となりし時、その時こそ爾が爾の無限の愛を余に示し得る時にして、余が爾をすてんとする時爾は余のあとい余をして爾を離れ得ざらしむ。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
大風おほかぜぎたるあと孤屋ひとつやの立てるが如く、わびしげに留守せるあるじの隆三はひとり碁盤に向ひて碁経きけいひらきゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
民族生活の発展のあとを明かにすることは、いうまでもなく、史学の任務であるが、主としてその材料を文献に求める史学は、その研究におのずから限界がある。
三四 作略さりやくは平日致さぬものぞ。作略を以てやりたる事は、其あとを見れば善からざること判然にして、必ず悔い有る也。唯戰に臨みて作略無くばあるべからず。
遺訓 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
もし『孟子』にいうごとく「王者のあとみて詩亡び、詩亡びてしかる後に春秋おこれり」(『孟子』離婁下)であるならば、孔子の時には詩は亡んでいたのである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
まだ新嫁にいよめでいらしッたころ、一人の緑子みどりご形見かたみに残して、契合ちぎりあった夫が世をお去りなすったので、あとに一人さびしく侘住わびずまいをして、いらっしゃった事があったそうです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
老人はいにしへを恋ひ、壮年は己れの時におごる、恋ふるものは恋ふべきのあと透明にして而して後に恋ふるにあらず、傲る者は傲るべき理の照々たるが故に傲るにあらず。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
其処に夏になると美しい衣に滲み出るかびのような、周囲に不調和な平原の陋習ろうしゅうあとが汚なく印せらるるにしても、其他の、殊に別山から雄山に続く長い頂上の何処に
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
でも、彼の心のふさぎのむしはあとを潜めて、唯、まるで今歩いているのが、大日本平城京おおやまとへいせいけいの土ではなく、大唐長安の大道の様な錯覚の起って来るのが押えきれなかった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
というような句を見ると、そこに或転化のあとが目につく。移竹の句の登高は本当の登高ではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
かく詣でつかうまつるは、一一一たのみつる君の御あとにて、いついつの日ここにはうむり奉る。
たとひその抱負は四海を覆ひその材能は天下を経綸けいりんするに足る者ありしとするも、一事為すなきのあとに徴して、断じて庸劣と為す、強ひて弁ずべからざる者あり。将軍にしてつしかり。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さうした癖は必ずしも今尚あとを絶つた訳ではない、——三ツ児の魂ひ百迄といふ譬もあるので、まだ/\それが消えうせるまでには、可なり先のあることだと考へて居る次第であります。
(新字旧仮名) / 喜多村緑郎(著)
それも当世たうせいのお嬢さんではない。五六年来あとを絶つた硯友社けんいうしや趣味の娘である。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それがしきりに市中を巡邏じゆんらする。尚ほ手先を使つて、彼等盜賊のあとを附けさせると、それが今のしば薩摩さつまぱらの薩州屋敷にはいるといふのでこの賊黨はとう/\薩藩さつぱんちうあふものだといふことが分つた。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
熱情は或は人をして判断を過らしむることあるべし、然れども熱情ある人に非ればきたる人物を写し出すこと能はざる也。史海にも、日本開化小史にも吾人は君が英雄崇拝のあとを見るを得ざる也。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
客去りて車轍くるまあとのみ幾条いくすぢとなく砂上にあざやかなる山木の玄関前、庭下駄のまゝ枝折戸しをりど開けて、二人のむすめの手をたづさへて現はれぬ、姉なるは白きフラネルの単衣ひとへに、うるしの如き黒髪グル/\と無雑作むざふさつか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
世高と秀英の二人は機の熟するまであとをくらますことにした。
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
法王シルヴェストル一世のためにあとを絶つに及べり。
この一群れのあとに残りて語合かたらう女あり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのあと泯滅びんめつする所以ゆえんなりと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
舌の戦ぎというのは、ロオマンチック時代のある小説家の云った事で、女中が主人の出たあとで、近所をしゃべり廻るのをうのである。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
けれども血色にも表情にも苦悶くもんあとはほとんど見えなかった。自分は最初その横顔を見た時、これが病人の顔だろうかと疑った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お庄はまだ目蓋まぶたれぼったいような顔をして、寝道具をしまったあとを掃いていた。お鳥は急いでたすきをかけて、次の間へハタキをかけ始めた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
驚破すはや、障子を推開おしひらきて、貫一は露けき庭にをどり下りぬ。つとそのあとあらはれたる満枝のおもては、ななめ葉越はごしの月のつめたき影を帯びながらなほ火の如く燃えに燃えたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分は方々の田舎について、そういう屋敷あとを遺し去った人々の種類を、集めて比べてみたいと思っているのだが、最も数の多いのは意外にも長者屋敷であった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
われは敢て自家を以て否運の兒となさじ。神のわざはひを轉じてさいはひとなし給へるあとおほふ可からざるものあればなり。初めわれ不測の禍のために母上をうしなひまゐらせき。
卜が焼かれた甲骨のひびわれのあとを見ることによって行われたものならば、焼く前にそれに文字を刻するというのは解しがたいことであり、またそのひびわれの迹のある甲骨は神聖なものであるから
わだちあとのみ雪に残して、檻車かんしやつひに彼を封して去れり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
至人 あと 俗に混ず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こひしき人のあとゆかし
寡婦の除夜 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
なるほど眺めていると、すすけたうちに、古血のような大きな模様がある。緑青ろくしょうげたあとかと怪しまれる所もかすかに残っている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
曽根は小男なのに、塩田は背が高い。曽根は細面で、とがったような顔をしているのに、塩田は下膨れの顔で、濃い頬髯ほおひげったあとが青い。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お島はあとから附絡つきまとって来る川西の兇暴な力に反抗しつつ、工場のすみに、慄然ぞっとするような体を縮めながらそう言って拒んだ。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼はくちびるの寒かるべきを思ひて、むなし鬱抑うつよくして帰り去れり。その言はざりしことばただちに貫一が胸に響きて、彼は人のにけるあとも、なほ聴くにくるしおもて得挙えあげざりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我等は一の劇場と一の平和神祠とのあとなる斷礎の上を登り行きぬ。ジエンナロ人々を顧みて、あはれ平和と演劇との二つのもの、いかなればかく迄相親むことを得たるぞと云ふ。
満護寺という寺のあとである。次の地名も皆民居の所在である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「え」と云いながら顔を上げた独仙君の山羊髯やぎひげを伝わって垂涎よだれが一筋長々と流れて、蝸牛かたつむりの這ったあとのように歴然と光っている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)