ことわざ)” の例文
同時代の地方の人々はたいていそうであったが、彼もやはりラテンの古典に養われて、その数ページやたくさんのことわざを暗記していた。
ことわざに「地獄の沙汰さたも金次第」というも、運命の沙汰はこの限りにあらず。ゆえに、王公貴人も運命に対しては大いに迷うところあり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ことわざにこれあり曰く、牛食はそそぐがごとく羊食は焼くがごとし。これけだし生殺の気しかるを致せり、この説『孟子』の一章を註すべし。
一たびこれに触れると、たちまち縲紲るいせつはずかしめを受けねばならない。さわらぬ神にたたりなきことわざのある事を思えば、選挙権はこれを棄てるにくはない。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雪が降るとその足跡が隠れてちょうどよいと喜ばれるといい、「でえしでんぼの跡隠し」ということわざもあるそうです(小谷口碑集)。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
火山かざん地震ぢしん安全瓣あんぜんべんだといふことわざがある。これには一めん眞理しんりがあるようにおもふ。勿論もちろん事實じじつとして火山地方かざんちほうにはけつして大地震だいぢしんおこさない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
南国の人のことわざに、人間の移り気だけには、祈祷師のお祈りも役に立たないし、医者の薬もきかない、ということがあるが、名言だ。
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
小野さんはやむを得ず、未来を望んでけ込んで来た。袞竜こんりょうの袖に隠れると云うことわざがある。小野さんは未来の袖に隠れようとする。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なるほど、北人はよく馬にり南人はよく舟を走らすと世俗のことわざにもありましたが、実に、呉人は水上を行くこと平地のようですね」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実に天下に新しき何物もないということわざを思い出すと同時に、また地上には古い何物もないということを痛切に感じさせられたのであった。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし、鬼だの、変化へんげだのといっても、今時は相当に気がいていなければならぬ。俗に気の利いたお化けの引込む時分ということわざがある。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここに天皇悔い恨みたまひて、玉作りし人どもをにくまして、そのところをみなりたまひき。かれことわざに、ところ得ぬ玉作りといふなり。
眞實まことと思ひ終に吾助の言葉の如く二兩の金をもち宿やどへ下りたり然るに惡事千里のことわざの如く早晩いつしか吾助がお兼と言合せ飯炊めしたきの宅兵衞より金五兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「あなたはことわざにいう、見るところすくなくして怪しむところ多き者ですね、それを佳い女というなら、あなたの願いはたやすいことですよ」
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「なアに別に逃げはしないが、それことわざにもある通り男女七歳にして席を同じうせずか。殊にこちらの旦那様は大変風儀がやかましいのでね」
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ことわざにも言うとおり、旧い衣のつくろいに新しい布を縫いつけるとかえって破綻ほころびは大となり、新しい酒を古い革嚢かわぶくろに入れるとかえって嚢が破れる。
この二つが自ら事件を暴く緒口いとぐちを作ったようなもんだからなあ——ことわざに云わずや、それ、過ぎたるは及ばざるにかず、とね、あははははは
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
生は相憐れみ、死は相捐あいすつということわざがある。其諺通りなら定基は早速に僧を請じ経をじゅさせ、野辺の送りを営むべきであった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
所がたび重なればあらわれるのことわざれず、る日、本者ほんものが来た。サア此方こっちは何ともわれないだろう、詐欺だから、役人を偽造したのだから。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
にくまれ世にはびこる」ということわざがあるが、わが輩はこれを顛倒てんとうして、世にはびこる者はにくまれるということも、また真実まことであると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ですから、ドイツのことわざにも、「読むことによって人は多くを得るが、考えることによって人はより多くを得る」とあります。
『少年科学探偵』序 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
遠いが花の香とことわざにもいう、東京の山の手で、祇園の面影を写すのであるから、名妓は、名妓として、差支えないであろう。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世間のことわざにもいわれているが、『人間には虎を殺すつもりはちっともないのに、虎の方でかえって人を傷つける気持がある』
「先生と言われる程の」ということわざは、なんという、いやな言葉でしょう。この諺ひとつの為に、日本のひとは、正当な尊敬の表現を失いました。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
「先ごろ申した通り大の虫を殺して、小の虫を生かすことわざだのう。あの附人のうちには山内伊賀亮などと申す、中々のしたたか者がいるとの事だが——」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まさに、人をのろはゞ穴二つのことわざ通り、お縫を狙つた猪之助の鐵砲が、たま/\用事で二階に行つた自分を狙つたとは、何んといふ皮肉さでせう。
お前の様子を見ていると、『こんな訴訟があるからは、もう敗けたも同然だ』っていうことわざをほとんど信じたくなるくらいだ
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
藤田東湖が刺身を食べるのに、いつも掌面てのひらに載せてぺろりとめてゐたといふ事は、いつぞやの茶話に書いたやうに覚えてゐる。仏蘭西のことわざ
ですからことわざは、命令めいれい意義いぎから、だん/\變化へんかして、社會的しやかいてき訓戒くんかいあるひは、人間にんげんとしてのこゝろがけをくといふ方面ほうめんに、意味いみ變化へんかしてました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
この国のことわざにも、光陰に関守せきもりなしと申す通り、とかうする程に、一年ひととせあまりの年月は、またたくひまに過ぎたと思召おぼしめされい。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
後に聞けば、それは木蓼またたびの花だという。猫にまたたびのことわざはかねて聞いていたが、その花を見るのは今が初めであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「……今までお話し申しあげましたように、万事、民政党のやり口というものは、ずるい。「人の法事で牛蒡ごぼうをする」ということわざがありますが、……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
人並みならぬこんな身体をしていても、芸が身を助けるのことわざで、妻子をまず人並に養って行けるのがありがたかった。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
ことわざのようになっている古道具屋の不正直に関しては、三千世界のいずこに正直な古道具屋ありやというばかりである。
ことわざにもいう天長節日和の冬の日がぱっと差して来たので、お雪さんは目映まぶしそうな顔をして、横に純一の方に向いた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
親の心子知らずとは、よく人がいう奴だが、俺にゃそのことわざ逆様さかさまで、これ程慕う子の心が、親の心には通じねえのだ。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
元木にまさるうら木なしということわざを話して聞かせ、誰も何もいわんことにしてしばらく休んだら戻ってきてくれとやさしい声を出して帰っていったが
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
むかしことわざに『ひともとづき、かみもとづく』とやらもうしてりますが、わたくしはこちらの世界せかいて、そのことわざただしいことにづいたのでございます。
昔から「コロンブスの卵」ということわざがあるくらいで、世界的の問題であったのが、この日に解決されたわけである。
立春の卵 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「碁です。碁敵は憎さも憎し懐しゝということわざがありますが、幸太郎君のは憎さも憎し憎らしゝですから敵いません」
変人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たれ我邦わがくにの現状に見て、金は一切の清めなりといへることわざの、遂に奪ふまじき大原理たるに首肯うなづかざらんや。近世最も驚くべきは、科学の進みなりとぞ。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
ことに町人の女房にはんだ方がよいとされているらしく、「未年の女はかどに立つな」と云うことわざまであって、町人の多い大阪では昔から嫌う風があるので
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わッははは、そちもか。もッと出い。こッちへ出い。恥ずかしがって何のことじゃ。ウフフ、あはは。のう京弥、ことわざにもある。女子おなごの毛一筋は、よく大象たいぞう
「うむ、世間は知らぬ——ことさら、女子衆おなごしゅうはな——外面如菩薩げめんにょぼさつ、内心如夜叉にょやしゃ——という、ことわざがござるに——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
身を捨ててこそ浮ぶ瀬もあれ、ということわざがある。成算さえあれば身を捨てなくとも、行うことは成就する。ただその行い方は男子らしく堂々たらねばならぬ。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ことわざに言う「手の下の罪人」とは、ちょうどかかるたぐいを指すのであろう。婦人は、暴力に於て男子の敵ではなかった。貧乏人は金持ちの前に頭が上がらなかった。
子供は虐待に黙従す (新字新仮名) / 小川未明(著)
ことわざの「ボンネットを一度水車小屋の磨臼ひきうすほうり込んだ以上」は、つまり一度貞操ていそうを売物にした以上は、今さら宿命しゅくめいとか身の行末ゆくすえとかそんな素人しろうと臭いなげきは無い。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
欧洲の昔に「愚かなる国民の上にはからき政府あり」ということわざがあるといいます。我国には専制的な政府ばかりでなく、暴横無恥な政党までが存在しております。
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そこで仕方なく二人は顔を見合わせて、ハッハッハアと笑い合ったのですが、外国のことわざに、最後に笑うものがもっともよく笑う、というのがあるそうですねえ。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
医者の不養生ということわざは、養生については、医者にも形而上学が必要であることを示すものにほかならぬ。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)