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訝
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いぶ
ふりがな文庫
“
訝
(
いぶ
)” の例文
既にして
群集
(
ぐんじゆ
)
の
眸子
(
ぼうし
)
、
均
(
ひと
)
しく
訝
(
いぶ
)
かしげに小門の方に向へり、「オヤ」「アラ」「マア」篠田長二の筒袖姿
忽然
(
こつぜん
)
として其処に現はれしなり
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
その夜万年屋のいないのを、同宿の者が
訝
(
いぶ
)
かって女房に聞いたが、ただちょっと田舎へとのみで、
委
(
くわ
)
しいことは言わなかった。
世間師
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
圖「いや犬になって来た此の書面は海禪坊主の書いた書面でも有ろうけれど、どうも手前は
訝
(
いぶ
)
かしい、これ/\
此奴
(
こいつ
)
を縛ってな
糺
(
たゞ
)
して見ろ」
松の操美人の生埋:02 侠骨今に馨く賊胆猶お腥し
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
家臣に仕えられて育った成信すら、ときには済まないと思い、なぜこんなにして呉れるのかと、
訝
(
いぶ
)
かしくなることもあった。
泥棒と若殿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「こは
訝
(
いぶ
)
かし、路にや迷ふたる」ト、
彼方
(
あなた
)
を
透
(
すか
)
し見れば、年
経
(
ふ
)
りたる
榎
(
えのき
)
の
小暗
(
おぐら
)
く茂りたる陰に、これかと見ゆる洞ありけり。
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
▼ もっと見る
細川が入って来ても
頭
(
かしら
)
を上げないので、愈々
訝
(
いぶ
)
かしく
能
(
よ
)
く見ると
蒼
(
あお
)
ざめた
頬
(
ほお
)
に涙が流れているのが
洋燈
(
ランプ
)
の光にありありと
解
(
わか
)
る。校長は
喫驚
(
びっく
)
りして
富岡先生
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
「何だらう。」裕佐はやゝ不安の気に襲はれて
訝
(
いぶ
)
かり始めた。「事によつたら、あの一人はフェレラではなからうか。もしさうだとすれば……」
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
訝
(
いぶ
)
かる眼で、どこからか風に吹きとばされて来たように、突然私達の
側
(
そば
)
へ寄って来たこの上品な容貌の老人を見た。
再度生老人
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
それが現実であるかのような暗愁が彼の心を
翳
(
かげ
)
っていった。またそんな記憶がかつての自分にあったような、一種
訝
(
いぶ
)
かしい甘美な気持が堯を切なくした。
冬の日
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
「優善は初午の日にまいりましたきりで、あの日には晩の四つ頃に帰りましたが」と、五百は
訝
(
いぶ
)
かしげに答えた。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
これでは、出汁が出たかどうかと
訝
(
いぶ
)
かられるかも知れませんが、これで充分、出汁ができているので、出たか出ないかは、ちょっと汁をなめてみるのです。
日本料理の基礎観念
(新字新仮名)
/
北大路魯山人
(著)
それを聞いた知人で、
訝
(
いぶ
)
かしがらぬ者はありません。祖父があまりに
頑固
(
がんこ
)
だと
誹謗
(
ひぼう
)
する人さえあったのです。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
二郎は心のうちで、どうして姉が
斯様
(
こん
)
な山道を
悉
(
くわ
)
しく
知
(
しっ
)
ていようか……斯様なに暗いのにどうして斯様なに
路
(
みち
)
が分るだろうかと
訝
(
いぶ
)
かしがりながら
歩
(
あ
)
るいていた。
稚子ヶ淵
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
われはかく
由
(
よし
)
なき妄想を懷きてしばしあたりを忘れ居たるに、ふと心づきて畫工の方を見やれば、あな
訝
(
いぶ
)
かし、畫工は大息つきて一つところを馳せめぐりたり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
境遇としてはずいぶん奇抜なのだが、それが一向
訝
(
いぶ
)
かしく思わないのが、むしろ不思議なくらいである。
キャラコさん:09 雁来紅の家
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
夜中に起きて細工をするとは何だろう?——と
訝
(
いぶ
)
かしみながら寝床に帰った源右衛門は、かちかちという音を耳にしながら、いつの間にか眠ってしまったのだった。
早耳三次捕物聞書:03 浮世芝居女看板
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
少しの反抗もない警戒に、一
分
(
ぶ
)
の
懇願
(
こんがん
)
をまじえたような目であった。どうしてそのように近々と私たちを見るのかと、
訝
(
いぶ
)
かるような心持も感じられぬことはなかった。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
彼等は、入口に立っている陳と山崎に気づくと、ふと口を
噤
(
つぐ
)
んで、
訝
(
いぶ
)
かしげに、二人を見すえた。
武装せる市街
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
ようやく不利な情勢から立ちなおりかけたチチコフを、やや
訝
(
いぶ
)
かしげに見やりながら、訊ねた。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
どこからそれを眺めて居るのか、眺めている自身がその白さなのか、はっきり判らぬ。聖者は
訝
(
いぶ
)
かって「慧鶴(聖者の法名)!」「慧鶴!」と自分の名を二声、三声呼んだ。
宝永噴火
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
或る日のこと、熊谷の家、鴻の巣で寝ている
筈
(
はず
)
の某が訪ねて来た。女の
衣服
(
きもの
)
の上へ
法衣
(
ころも
)
を
被
(
き
)
ていた。まことに異装であった。でも別に
訝
(
いぶ
)
かることもなく、色々と話を
交
(
まじ
)
えた。
取り交ぜて
(新字新仮名)
/
水野葉舟
(著)
「へえ、中身をネ」老人は
訝
(
いぶ
)
かしそうに
呟
(
つぶや
)
いた。「中身というと、あの酸の入っている……」
疑問の金塊
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
それだけに、重荷を背負って遠い
途
(
みち
)
にかしまだちするようにも感ぜられる。またそれだけの余力がこの老年の身にもなお残っていたのかということが
訝
(
いぶ
)
かしくも感ぜられる。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
重態の病人が自身に来るはずはないから、紅葉の使いのものか、さなくば尾崎違いであろうと
訝
(
いぶ
)
かりながら店へ出て見ると、
痩
(
や
)
せ衰えた紅葉が
書棚
(
しょだな
)
の前で書籍を
漁
(
あさ
)
っていた。
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
……ふと心づきて画工の方を見やれば、あな
訝
(
いぶ
)
かし、画工は大息つきて一つところを馳せめぐりたり。……その
気色
(
けしき
)
たゞならず覚えければ、われも立ちあがりて泣き
出
(
いだ
)
しつ。
孤島の鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
楊曁
(
ようき
)
という一官人が、この
矛盾
(
むじゅん
)
を
訝
(
いぶ
)
かって、こんどは直接、魏帝
曹叡
(
そうえい
)
にこれをただしてみた。
三国志:11 五丈原の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
此話に拠ると、会津に蒲生氏郷を置こうというのは最初から秀吉の
肚裏
(
とり
)
に定まって居たことで、入札はただ諸将の眼力を秀吉が試みたということになるので、そこが
些
(
ちと
)
訝
(
いぶ
)
かしい。
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
その時は、何の気もなしに傍観していた二人の
情交
(
なか
)
や心持が、お島にはいくらか解るように思えて来たが、どこが好くて、あの女がそんなに男のために苦労したかが
訝
(
いぶ
)
かられた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
訝
(
いぶ
)
かしく思へて耳を澄まして見ると、もう森閑として何のもの音も聞えて来なかつた。
測量船
(新字旧仮名)
/
三好達治
(著)
天地の間に生れたるこの身を
訝
(
いぶ
)
かりて、自殺を企てし事も幾回なりしか、是等の事、今や我が日頃無口の
唇頭
(
しんとう
)
を洩れて、この老知己に対する懺悔となり、
刻
(
とき
)
のうつるも知らで語りき。
三日幻境
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
泰助も続いて
入込
(
いりこ
)
み、
突然
(
いきなり
)
帳場に坐りたる主人に
向
(
むか
)
いて、「今の御客は。と問えば、
訝
(
いぶ
)
かしげに泰助の顔を
凝視
(
みつめ
)
しが、頬の三日月を見て
慇懃
(
いんぎん
)
に会釈して、二階を教え、
低声
(
こごえ
)
にて、「三番室。」
活人形
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
訝
(
いぶ
)
かしく思いながら、近づいて行った。伏せた姿勢のまま、見張の男は、栗の木の陰に、私の
跫音
(
あしおと
)
も聞えないらしく、じっと動かなかった。地面に伸ばした両手が、何か不自然に曲げられていた。
桜島
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
鎭
(
しづ
)
めて
汝
(
おのれ
)
今頃
登山
(
とざん
)
なすからは
強盜
(
がうたう
)
か但し又我が如き心願にて夜參りする者なるか何にもせよ
訝
(
いぶ
)
かしと
星明
(
ほしあか
)
りに
透
(
すか
)
し見れば旅人と
思
(
おぼ
)
しく
菅笠
(
すげがさ
)
眞白
(
まつしろ
)
に光りたり
茲
(
こゝ
)
に又彼の石川安五郎は上新田村の
無量庵
(
むりやうあん
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
万顆匀円訝許同 万顆ことごとく
円
(
つぶら
)
にしてかくも同じきかを
訝
(
いぶ
)
かる
詩人への註文
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
「太宰先生は、」みなまで云わせず、「僕が太宰ですが、ま、お上り。」私のその少し
急
(
せ
)
き
込
(
こ
)
んだ調子に微笑を見せたが、
訝
(
いぶ
)
かる様子もなく、「では少しお邪魔させて戴きます。」神妙な物腰である。
メフィスト
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
と、
彼
(
かれ
)
は
訝
(
いぶ
)
かるようにちょっと
眉
(
まゆ
)
を
寄
(
よ
)
せて
微笑
(
びしょう
)
する。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
そは
訝
(
いぶ
)
かしきかな、兄上、倉の内には
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
と
訝
(
いぶ
)
かし
気
(
げ
)
に訊く春生に
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
「今そんな笠などを出して」より女は
訝
(
いぶ
)
かしそうに眼を
瞠
(
みは
)
った、「……あなたどうなさるおつもりなの、あきつさん」
日本婦道記:萱笠
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
「沢野忠庵」と裕佐は其名札を持つて立つた儘
訝
(
いぶ
)
かし気に首をひねつた。「聞いた事のある名だがどんな人ですね。」
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
訝
(
いぶ
)
かしく思いながら——そろりそろり
跫音
(
あしおと
)
を盗んで、喬之助は、台所の戸のこっち側に立った。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
梅子は
強
(
しひ
)
て平然と装へり、
去
(
さ
)
れど制すべからざるは其顔なり、
看
(
み
)
よ、其の
凄
(
すさまじ
)
き
蒼白
(
さうはく
)
を、芳子は
稍々
(
やゝ
)
予算狂へるが如く、
訝
(
いぶ
)
かしげに姉の
面
(
かほ
)
見つめて、居たりしが、芳子々々と
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
そしてあの
反
(
そ
)
り
返
(
かえ
)
った細弁の真紅の巻き花が、物の見事に出現した。驚いたのは島人で、夢ではなかろうかと
訝
(
いぶ
)
かった。この海中の一小島がまさに楽園の観を呈したのである。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
澄み
透
(
とお
)
った水音にしばらく耳を傾けていると、聴覚と視覚との統一はすぐばらばらになってしまって、変な錯誤の感じとともに、
訝
(
いぶ
)
かしい魅惑が私の心を充たして来るのだった。
筧の話
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
「流芳」の二字が横書にしてあります。ほかの幅と様子が違うので、
訝
(
いぶ
)
かし
気
(
げ
)
に
覗
(
のぞ
)
きましたら、「これは貫名海屋という人の書で、南画の人だけれど、書にも秀れているのだよ」
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
と持って来た手紙を出すを、山三郎は
訝
(
いぶ
)
かしげに受取って開いて
読下
(
よみくだ
)
すと、驚きました。
松の操美人の生埋:02 侠骨今に馨く賊胆猶お腥し
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
... さるに
怎麼
(
いか
)
なればかく、
鈍
(
おぞ
)
くも足を
傷
(
やぶ
)
られ給ひし」ト、
訝
(
いぶ
)
かり問へば黄金丸は、「これには深き
仔細
(
しさい
)
あり。原来某は、彼の金眸と聴水を、
倶不戴天
(
ぐふたいてん
)
の
仇
(
あだ
)
と
狙
(
ねら
)
ふて、常に
油断
(
ゆだん
)
なかりしが。 ...
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
われは暫くこれに注目せしに、少女は我前に歩み寄りて、傍なる小卓を指し、おん
敵手
(
あひて
)
にはなるまじけれどと
耳語
(
さゝや
)
きたり。わが輕く
辭
(
いな
)
みて數歩を
退
(
しりぞ
)
き去るを、少女は
訝
(
いぶ
)
かしげに見送り居たり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
生空
(
しやうくう
)
を
唯薀
(
ゆゐうん
)
に遮し、
我倒
(
がたう
)
を幻炎に譬ふれば、我が
瞋
(
いか
)
るなる我や
夫
(
それ
)
いづくにか有る、瞋るが我とおぼすか我が瞋るとおぼすか、思ひと思ひ、言ふと言ふ
万端
(
よろづ
)
のこと皆
真実
(
まこと
)
なりや、
訝
(
いぶ
)
かれば訝かしく
二日物語
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
車夫三吉を
取挫
(
とりひし
)
ぎて、美人を
労
(
いたわ
)
りたる
屠犬児
(
いぬころし
)
は、
訝
(
いぶ
)
かしげに傾聴せり。
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
訝
漢検1級
部首:⾔
12画
“訝”を含む語句
怪訝
可訝
怪訝顔
怪訝相
驚訝