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衒
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てら
ふりがな文庫
“
衒
(
てら
)” の例文
先生の博士問題のごときも、これを「奇を
衒
(
てら
)
う」として非難するのは、あまりに自己の卑しい心事をもって他を
忖度
(
そんたく
)
し過ぎると思う。
夏目先生の追憶
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
傲慢を
衒
(
てら
)
っていながら傲慢が三文の値にもならないことに気づいて、私は公園にでも散歩した帰りのような陽気なふうをして見せた。
われはうたえども やぶれかぶれ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
アーティストの評価は、奇を
衒
(
てら
)
うことを避けて、有識者、具眼者の説に聴従しても大した間違いはあるまいと思う。
贔屓
(
ひいき
)
贔屓は別だ。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
沼南の清貧咄は
強
(
あなが
)
ち貧乏を
衒
(
てら
)
うためでもまた借金を申込まれる
防禦
(
ぼうぎょ
)
線を張るためでもなかったが、場合に
由
(
よ
)
ると
聴者
(
ききて
)
に悪感を抱かせた。
三十年前の島田沼南
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
江戸の初めの戦場落伍の遊民たちの大阪末の成功夢想時代から持ち越した、自恣な豪放を
衒
(
てら
)
ふ態度は、社会一般に、長い影響を及した。
女房文学から隠者文学へ:後期王朝文学史
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
▼ もっと見る
佳子としても結局あなた方の中から一番信頼に値すると思う人を
択
(
えら
)
ぶことになります。私共両親は決して奇を
衒
(
てら
)
うものではありません。
求婚三銃士
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
公民の妻と覺しき婦人の際立ちて飾り
衒
(
てら
)
へるあり。
權夫
(
けんふ
)
(夫に代りて婦人に仕ふる者、「チチスベオ」)と覺しき男これに
扈從
(
こじう
)
したり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
雑器の美などいえば、如何にも奇を
衒
(
てら
)
う者のようにとられるかも知れぬ。または何か反動としてそんなことを称えるようにも取られよう。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
寒月君が「ちと
衒
(
てら
)
うような気味にもなりますから
已
(
や
)
めに致します。四百六十五行から四百七十三行を御覧になると分ります」
寒月の「首縊りの力学」その他
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
と言われたが、
磊落
(
らいらく
)
にして世評などに無頓着を
衒
(
てら
)
う豪傑にしても、なおかつかかる人が多い。いわんや普通の凡人においてはなおさらである。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
むしろ好んで皮肉を
衒
(
てら
)
ふやうなその歪んだ
口許
(
くちもと
)
に深い皺を寄せ乍らにや/\と
傲
(
ほこ
)
りがに裕佐の顔を見てゐた孫四郎はかう云つて高く笑ひ出した。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
あながち悪趣味から来る、豪華の
衒
(
てら
)
いというわけではなく、何か茄子そのものの味に、千金にも替え難き新鮮味が味わえたからではなかったか。
百姓弥之助の話:01 第一冊 植民地の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
その話がまた、いちいち
該博
(
がいはく
)
で、
蘊蓄
(
うんちく
)
があって、そして
衒
(
てら
)
わず
媚
(
こ
)
びずである。
惚々
(
ほれぼれ
)
と人をして聞き入らしめる魅力がある。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その下等な動機や行為を、熱誠に取り扱うのは、無分別な幼稚な頭脳の所有者か、然らざれば、熱誠を
衒
(
てら
)
って、己れを高くする山師に過ぎない。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
大家の
坊々
(
ぼんぼん
)
としての
鷹揚
(
おうよう
)
さを
衒
(
てら
)
う様子が見えて不愉快なのであるが、今日は興奮しているらしく、いつもよりも
急
(
せ
)
き込んだ口調で云うのであった。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
立法者にして殊更に文章の荘重典雅を
衒
(
てら
)
わんがために、好んで難文を草し奇語を用うる者はディオニシウスの徒である。
法窓夜話:02 法窓夜話
(新字新仮名)
/
穂積陳重
(著)
ウィルスンがたとい何者であろうとも、少なくともこのことは、実に
衒
(
てら
)
いの、あるいは愚の最たるものにすぎなかった。
ウィリアム・ウィルスン
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
「けれども、私はこの間から考えているんだが、人並はずれたことが必ず正しいこととは定っていないからね。奇ばかり
衒
(
てら
)
うのははたの迷惑だよ」
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
尋常一様
詩詞
(
しし
)
の人の、
綺麗
(
きれい
)
自ら喜び、
藻絵
(
そうかい
)
自ら
衒
(
てら
)
い、
而
(
しこう
)
して其の本旨正道を逸し邪路に
趨
(
はし
)
るを忘るゝが如きは、
希直
(
きちょく
)
の断じて取らざるところなり。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
自分は
之
(
これ
)
に
由
(
よつ
)
て
艶冶
(
えんや
)
を
衒
(
てら
)
ふ
或
(
ある
)
階級の
巴里
(
パリイ
)
婦人を観察する事が出来ました。
併
(
しか
)
し
是
(
こ
)
れ等の仮装の天使が真の
仏蘭西
(
フランス
)
婦人の代表者で無い事は勿論である。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
「私は、善に誇らず、労を
衒
(
てら
)
わず、自分の為すべきことを、ただただ真心をこめてやって見たいと思うだけです。」
論語物語
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
少しも動ぜず、いささかも
衒
(
てら
)
わず、思うままを流れるように云って憚らぬ団兵衛の態度を、光政はじっと
見戍
(
みまも
)
った。
だだら団兵衛
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
浅薄
(
あさはか
)
な
表面
(
うわべ
)
の装飾や
衒
(
てら
)
いでなく、全人格を挙げて立派に装飾し、それを女子の誇とするように
力
(
つと
)
めねばなりません。
離婚について
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
為すべきは必ず為して、
己
(
おのれ
)
を
衒
(
てら
)
はず、
他
(
ひと
)
を
貶
(
おとし
)
めず、恭謹にしてしかも気節に乏からざるなど、世に
難有
(
ありがた
)
き若者なり、と鰐淵は
寧
(
むし
)
ろ
心陰
(
こころひそか
)
に彼を
畏
(
おそ
)
れたり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
それからは朝鮮語で奇を
衒
(
てら
)
うような、或は
淫靡
(
いんび
)
を極めたような文章を綴って低俗な雑誌へ方々売り込みに歩いた。
天馬
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
英国には、うるさい父も親類もおらず、謹直を
衒
(
てら
)
うこともいらないから大きに羽根を伸し、よからぬ貴族の子弟と交わって、放埓無残な生活を送っていた。
湖畔
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
如何なる種類の人でも、気取ったり、装ったり、
衒
(
てら
)
ったり、もの欲しそうな、
附焼刃
(
つけやきば
)
なものは鼻もちがならぬ。
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
それらの家庭は、さまで小心翼々としてないかあるいはいっそう好奇心に富んでるかしていて、おそらく芸術上の見栄から奇を
衒
(
てら
)
いたがってたのであろう。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
野依
(
のより
)
さんは真実さう云ふ気持のいゝ処がありますが、ともするともう一歩進んでそれを殊更に
衒
(
てら
)
ふやうな傾きがあつて馬鹿々々しくなつて来る事があります。
妾の会つた男の人々(野依秀一、中村弧月印象録)
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
六 人としての
子規
(
しき
)
を見るも、病苦に面して
生悟
(
なまざと
)
りを
衒
(
てら
)
はず、歎声を発したり、自殺したがつたりせるは当時の
星菫
(
せいきん
)
詩人よりも数等近代人たるに近かるべし。
病中雑記
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
単に日常ありのままの平面的なものを、わざと裏の分らぬやうに取りだし、恰も小学生の綴り方に近づかうとする故意の単純さを
衒
(
てら
)
つて読者の前に投げだす。
枯淡の風格を排す
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
しかし、ヴェルテルそのものは、かつて見たり想像したりしたよりずっとすばらしい人間で、その性格はなんらの
衒
(
てら
)
いもなく深く沈潜している、と考えられた。
フランケンシュタイン:02 フランケンシュタイン
(新字新仮名)
/
メアリー・ウォルストンクラフト・シェリー
(著)
彼れは其学識を
衒
(
てら
)
ひて、ミル、スペンサー、ベンダム、ハックスレー、何でも御座れと並べ立てゝ
傲然
(
がうぜん
)
たること
猶
(
なほ
)
今の井上博士が仏人、独逸人、魯人、以太利人
明治文学史
(新字旧仮名)
/
山路愛山
(著)
が、いえばその家づくりに、店飾りに、嘗てのような「
衒
(
てら
)
い」がなくなった。「焦慮」がなくなった。
浅草風土記
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
しかもその醜き人が誇り顔に、自己の偉大を
衒
(
てら
)
うがごとくにしてわれらの前に立つときにわれらは一種の皮肉なる感情を挑発さるる誘惑を感ずることを禁じ得ない。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
強いて風流を
衒
(
てら
)
うわけではないが、一面に積った雪の上に、煤に汚れた湯をこぼすのは、多少気が引けるようなところがある。概念的にこういう趣を弄ぶのではない。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
花を愛し、風景を眺め、古蹟を
訪
(
と
)
う事は即ち風流な最も上品な
嗜
(
たしな
)
みとして尊ばれていたので、実際にはそれほどの興味を持たないものも、時にはこれを
衒
(
てら
)
ったに相違ない。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
美を
衒
(
てら
)
い知られんことを求めているのも、明るい海端の広漠たる自然の中では、また生存の必要であること、あたかも孤婦の装いするごときものなることがよくわかった。
雪国の春
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
けれどもその親切な友人は、どうにも、それは異様だから、やめたほうがいい、君は天気の佳い日でもはいて歩いている、奇を
衒
(
てら
)
っているようにも見える、と言うのである。
服装に就いて
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
隋
(
ずゐ
)
の
文帝
(
ぶんてい
)
の
宮中
(
きうちう
)
には、
桃花
(
たうくわ
)
の
粧
(
よそほひ
)
あり。
其
(
そ
)
の
趣
(
おもむき
)
相似
(
あひに
)
たるもの
也
(
なり
)
。
皆
(
みな
)
色
(
いろ
)
を
衒
(
てら
)
ひ
寵
(
ちよう
)
を
售
(
う
)
りて、
君
(
きみ
)
が
意
(
こゝろ
)
を
傾
(
かたむ
)
けんとする
所以
(
ゆゑん
)
、
敢
(
あへ
)
て
歎美
(
たんび
)
すべきにあらずと
雖
(
いへど
)
も、
然
(
しか
)
れども
其
(
そ
)
の
志
(
こゝろざし
)
や
可憐也
(
かれんなり
)
。
唐模様
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
決してただ単に三味線をオモチャにして奇を
衒
(
てら
)
っているのではなく、あくまで姿態や情景をそこにほうふつと見せてくれていたところに立派な不世出な芸境があったとはいえよう。
随筆 寄席囃子
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
芝居
(
しばい
)
の女優を
喝采
(
かっさい
)
してはおのれの趣味を示さんとし、兵営の将校と争論してはおのれの勇者なるを
衒
(
てら
)
い、狩猟をし、煙草をふかし、
欠伸
(
あくび
)
をし、酒を飲み、
嗅煙草
(
かぎたばこ
)
をかぎ、
撞球
(
たまつき
)
をし
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
しかし、派手の特色たるきらびやかな
衒
(
てら
)
いは「いき」のもつ「諦め」と相容れない。
「いき」の構造
(新字新仮名)
/
九鬼周造
(著)
晩桜
(
おそざくら
)
と云っても、
普賢
(
ふげん
)
の
豊麗
(
ほうれい
)
でなく、
墨染
(
すみぞめ
)
欝金
(
うこん
)
の奇を
衒
(
てら
)
うでもなく、
若々
(
わかわか
)
しく
清々
(
すがすが
)
しい美しい
一重
(
ひとえ
)
の桜である。次郎さんの
魂
(
たましい
)
が花に咲いたら、取りも直さず此花が其れなのであろう。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
今や時勢滔々奢侈に流れ、人心華美を
衒
(
てら
)
ふ。ここにおいてか天下の士、気節の貴ぶべきを
遺
(
わす
)
れて、黄金光暉の下に拝趨す。それ黄金は士気を麻痺するの劇薬、名節を変換するの熔爐なり。
誰が罪
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
外
(
ほか
)
に対しては卑屈これ事とし、国家の
恥辱
(
ちじょく
)
を
賭
(
と
)
して、
偏
(
ひとえ
)
に一時の栄華を
衒
(
てら
)
い、百年の
患
(
うれ
)
いを
遺
(
のこ
)
して、ただ一身の
苟安
(
こうあん
)
を
冀
(
こいねが
)
うに
汲々
(
きゅうきゅう
)
たる有様を見ては、いとど感情にのみ
奔
(
はし
)
るの
癖
(
くせ
)
ある妾は
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
裁縫師には、娘二人ありて、いたく物ごのみして、みづから
衒
(
てら
)
ふさまなるを見しが、迎取られてより
伺
(
うかが
)
へば、夜に入りてしばしば客あり。酒など飲みて、はては笑ひ
罵
(
ののし
)
り、また歌ひなどす。
うたかたの記
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
又は新智識を
衒
(
てら
)
って雑誌や新聞の受け売りを吹く。女を見ては色眼を使う。
東京人の堕落時代
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
ソレさっきも云った通り、その親切の心持ちから、いろいろ変った目標を、手を代え品を代えて見せてくれる。並み大抵な苦労ではあるまい。もっとも幾分の
衒
(
てら
)
い気と、示威運動とが伴うがな。
任侠二刀流
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
馬琴は己れの理想を歌ひて馬琴の文学を
衒
(
てら
)
ひたるに過ぎず、種彦は人品高尚にして俗情に
疎
(
うと
)
きところあり、馬琴によりては当時の社会を知るには役に立たず、種彦は平民に縁遠きが故に不可なり
人生に相渉るとは何の謂ぞ
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
衒
漢検1級
部首:⾏
11画
“衒”を含む語句
衒気
衒学的
衒学
衒学者
女衒
山女衒
衒奇
衒学癖
口衒
悪女衒
衒勇
衒揚
衒燿
衒耀
衒鬻