蓮池はすいけ)” の例文
私はこの老女ひと生母ははおやをたった一度見た覚えがある。谷中やなか御隠殿ごいんでんなつめの木のある家で、蓮池はすいけのある庭にむかったへやで、お比丘尼びくにだった。
しばらくすると、このひでりに水はれたが、碧緑へきりょくの葉の深く繁れる中なる、緋葉もみじの滝と云うのに対して、紫玉は蓮池はすいけみぎわ歩行あるいていた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の頭の上から、そのムカムカする蓮池はすいけが逆さまになって降って来たのだ。私の横腹は、銃剣のような蠅のつめでプスリと刺しとおされた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
……ほとりには柳やえんじゅのみどりが煙るようだし、亭の脚下きゃっかをのぞけば、蓮池はすいけはちすの花が、さながら袖を舞わす後宮こうきゅうの美人三千といった風情ふぜい
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半蔵の家に一泊ときめて、五、六人で比丘尼寺びくにでら蓮池はすいけの方まで遊び回り、谷川に下帯洗濯せんたくなぞをして来る女中方もある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこここに死骸しがいを収める西方らしい雑兵どもが急しげに往来するばかり、功徳池くどくいけと申す蓮池はすいけには敵味方の屍がまだ累々るいるいと浮いておりますし、鹿苑院ろくおんいん
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
二人ふたり蓮池はすいけまへとほして、五六きふ石段いしだんのぼつて、その正面しやうめんにあるおほきな伽藍がらん屋根やねあふいだまゝすぐひだりへれた。玄關げんくわんしかゝつたとき宜道ぎだう
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
きのう電車ではしって来た沿線の曠田こうでんの緑と蓮池はすいけ薄紅うすべにとがはるか模糊もことした曇天光どんてんこうまで続いて、ただ一つの巒色らんしょくの濃い、低い小牧山が小さく鬱屈うっくつしている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
また巻六志太郡藤枝町大字若王子にゃくおうじの押切川蓮池はすいけに隣する北の谷に泉あり、アワラという。その下流時ヶ谷を経て葉梨川に入るとある。これは湧水ゆうすいの所かと思われる。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
呼出よびいだされ一通り尋ねらるゝにわかい者左吉重次郎千次郎の三人手負ておひの趣き又盜まれし千兩は一昨日蓮池はすいけ御藏より受取候金子にて殘らず私し方の極印ごくいんを打置候と見本の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
永禄四年に北条氏康うじやすを小田原城に囲んで、その城濠蓮池はすいけのほとりで、馬から降り、城兵が鉄砲でねらい打つにも拘らず、悠々閑々として牀几しょうぎに腰かけ、お茶を三杯まで飲んだ。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
とある蓮池はすいけほとりにある料亭りょうていで、川魚料理を食べたり、そこからまた程遠くもない山地へ分け入って、微雨のなかを湖に舟を浮かべたり、中世紀の古色を帯びた洋画のように
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それは昔の旗本が住んでた屋敷やしきで、大きな武家風の門があり、庭には蓮池はすいけなどがあった。
御釈迦様おしゃかさまは極楽の蓮池はすいけのふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今日この頃の時節は日本では厳寒の最中なので花の見られる時ではなく、夜の寒さは庭のささやかな蓮池はすいけにも厚い氷をはらせるのであるが、それでも薔薇ばら椿つばきの花をたやすことはない。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
午後になってから、おばあさんが私を近所の三囲みめぐりさまへ連れ出しても、その石碑の多い境内や蓮池はすいけのほとりで他の子供たちが面白そうに遊んでいるのを、私はぼんやりと見守っているきりだった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
博多蓮池はすいけ町○○寺の和尚はさばけた坊主であったらしい。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは私も「蓮池はすいけ」というものを書いております。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
畑のほかには蓮池はすいけが多かった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
少時しばらくすると、此のひでりに水はれたが、碧緑へきりょくの葉の深く繁れる中なる、緋葉もみじの滝と云ふのに対して、紫玉は蓮池はすいけみぎわ歩行あるいて居た。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
庄次郎はくるくる舞いして、垣の下を横へ添って勢いよく逃げて行ったが、曲がった途端に、蓮池はすいけの中へ飛びこんでしまった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこここに死骸しがいを収める西方らしい雑兵どもが急しげに往来するばかり、功徳池くどくいけと申す蓮池はすいけには敵味方の屍がまだ累々るいるいと浮いてをりますし、鹿苑院ろくおんいん
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
富士見ふじみにあるを内蔵うちぐらととなえ、蓮池はすいけにあるを外蔵そとぐらととなえたが、そのうち内蔵にあった一千万両の古金をあげてこの進発の入用にあてたというのを見ても
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人はまた寺をからにして連立って出た。山門の通りをほぼ一丁ほど奥へ来ると、左側に蓮池はすいけがあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御釈迦様おしゃかさまは極楽の蓮池はすいけのふちに立って、この一部始終しじゅうをじっと見ていらっしゃいましたが、やがて犍陀多かんだたが血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら
蜘蛛の糸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蓮池はすいけのような口吻こうふんが、醜くゆがむと共に、異臭のある粘液がタラタラとれた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
体が楽だという触れ込みのある千葉の蓮池はすいけから出ることにしたのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
蓮根はす蓮根はすとははず、蓮根れんこんとばかりとなふ、あぢよし、やはらかにして東京とうきやう所謂いはゆる餅蓮根もちばすなり。郊外かうぐわい南北なんぼくおよみな蓮池はすいけにて、はなひらとき紅々こう/\白々はく/\
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あかるくなった膳所ぜぜの辺では、蓮池はすいけを見かけて、われがちに蓮根れんこんをひきぬき、それを生でかじりかじり歩いたりした。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人ふたりまたてらからにして連立つれだつてた。山門さんもんとほりをほゞちやうほどおくると、左側ひだりがは蓮池はすいけがあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はたけ一帯、真桑瓜が名産で、この水あるがためか、巨石おおいしの瓜は銀色だと言う……瓜畠がずッと続いて、やがて蓮池はすいけになる……それからは皆青田あおたで。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
探し歩いたが見当らず、施餓鬼せがきから裏の大きな蓮池はすいけをめぐり、石のり橋を渡って来ると、こんどはほんとにお坊ッちゃんが、オシッコだと言い出した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも汽車の方で留ってくれたから一命だけはとりとめたが、その代り今度は火にって焼けず、水に入っておぼれぬ金剛不壊こんごうふえのからだだと号して寺内じない蓮池はすいけ這入はいってぶくぶくあるき廻ったもんだ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
公園の入口に、樹林を背戸に、蓮池はすいけを庭に、柳、藤、桜、山吹など、飛々とびとびに名に呼ばれた茶店がある。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北斗星ほくとせいがかがやいておる。それをあてにどこまでも逃げてゆくがよい。南も東も蓮池はすいけほとりも、寺の近くにも、賊兵の影が道をふさいでいる。逃げる道は、西北しかない。それも今のうちじゃ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公園の入口に、樹林を背戸せどに、蓮池はすいけを庭に、柳、ふじ、桜、山吹やまぶきなど、飛々とびとびに名を呼ばれた茶店ちゃみせがある。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
曲欄の下は、蓮池はすいけだった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「成程、大きに。——しかもその実、お前さんと……むかしの蓮池はすいけを見に、寄道をしたんだっけ。」
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついそばに、蓮池はすいけに向いて、(じんべ)というひざぎりの帷子かたびらで、眼鏡の下に内職らしい網をすいている半白の父を呼ぶと、急いで眼鏡を外して、コツンと水牛の柄を畳んで、台に乗せて
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついそばに、蓮池はすいけに向いて、(じんべ)と言ふひざぎりの帷子かたびらで、眼鏡めがねの下に内職らしいあみをすいて居る半白はんぱくの父を呼ぶと、急いで眼鏡をはずして、コツンと水牛すいぎゅうたたんで、台に乗せて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ぢや、ぼくとこ蓮池はすいけ緋鯉ひごひなんかうするだらうね?」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)