かつ)” の例文
も一人は、すきかついだ。そして、大熊を刺し撲殺して麓の村のわが家へ持ち込んだのだ。なんと勇ましく、命がけのことではないか。
香熊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
親の代から長屋で成長し、現在では共同して辻駕籠つじかごかついでいる銀太と金太という二人の若者は、中んずく斯様かように公言しておった。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
踊りがすっかり済みますと、最前の舞い姫が又大勢現われて、二人を胴上げをするようにかつぎ上げて、雪の塔の絶頂に登りました。
雪の塔 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
持って、外へ出ると言えば八人かつぎのかごで出るくせに、エラクないだって、ふん、そんなことを言ってわたしをだますつもりですかい
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
不平だけでは旗じるしとしてかつぐに足らない。やはり家門は良くなければならず、人物、器量、声望もある人でなければならない。
「解らないことを言うナア——なにも、そんな訳で親をかつぎ出したんじゃなし——奉公人は親ぐらいに思っていなくって使われるかい」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
門前に足を止めて見下ろすと、勿論会葬者などの群れは無くて、ただその駕籠をかついで来たらしい二三の人足の影が見えるばかりである。
寺町 (新字新仮名) / 岩本素白(著)
そこで、当番御目付土屋長太郎、橋本阿波守あわのかみは勿論、大目付河野豊前守こうのぶぜんのかみも立ち合って、一まず手負いを、焚火たきびかつぎこんだ。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、いいいい、地蔵様の前へ、男が二人でそっかつぐと、お道さんが、笠を伏せて、その上に帯を解いて、畳んで枕にさせました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
喬は孝廉の家へいって、連城をとむらってひどく悲しむと共にそのまま息が絶えてしまった。孝廉はそれをかつがして喬の家へ送りとどけさした。
連城 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
といったのは前棒さきぼうの駕籠屋。偶然にも、その駕籠をかついで行く権三ごんざ助十すけじゅうは、あのとき机竜之助を乗せた二人であるらしい。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
船室に残つてゐた単衣ひとへと夏帽子とを棺に入れてかつぎ、お袋さんがおい/\泣きながら棺の後について行つてH院の共同墓地に埋めましたがね
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
かつぐ人足は雲助で、五十三次の駅々に問屋があって、そこへ藩の者といって、掛合えば幾人でも雲助を出してくれる。また荷馬も出してくれる。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
何でも女房は仆れたまゝ気絶した様子でしたが其暇に検査官は亭主を引立て直様すぐさま戸表とおもてに待せある馬車へとかついで行きました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
洋服出立いでたちで鉄砲をもった若い男三四人、それに兎だの鴨だの一ぱい入れた網嚢あみぶくろかついだ男が一人——此れは島の者だ——どやどや騒いで立って居る。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その夜おそく一挺の駕籠が、その屋敷からかつぎ出された。戸ヶ崎熊太郎と清三郎とが、駕籠の左右に附き添っていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
気紛きまぐれにこの土地へ御輿みこしかつぎ込んだものだったが、銀子がちょっと気障きざったらしく思ったのは、いつも折鞄おりかばんのなかに入れてあるく写真帖しゃしんちょうであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たとえば祭礼の日にも宿老たちだけは、羽織はおりはかま扇子せんすをもってあるくが、神輿みこしかつぐ若い衆は派手な襦袢じゅばんに新しい手拭鉢巻てぬぐいはちまき、それがまった晴着であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あちらこちらのすぎの下に車などをかつぎおろして、木の間にかしこまりながら源氏の通過を目送しようとした。
源氏物語:16 関屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「ええッ。——」と同じようにインバネスに中折帽子という扮装いでたちの向うの二人はおどろきの声をあげ、二人でかついでいる第三の人物を地面に取り落しそうにした。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
駕籠かごかつぐ人足でも無人のときには吾々われわれ問屋場といやばいって頼んでヤッと出来た処に、アトから例の葵の紋が来ると、出来たその人足を横合から取られて仕舞う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
人々の満足そうな微笑みのうちに轎は静かにかつぎ上げられて、ゆらりゆらりと進み始めるのであったが
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
赤児の風呂桶大ふろおけほど飯櫃おはちが持て来られる。食事なかばに、七右衛門爺さんが来て切口上で挨拶し、棺をかついで御出の時たすきにでもと云って新しい手拭を四筋置いて往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
曾が二人の僕に一甕ひとかめ薬浸酒やくしんしゅかつがしてきたので、二人はそれを飲みつくすことにして飲んだが、甕の酒はもうなくなりかけたのに、二人はなおまだ酔わなかった。
黄英 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
普通葬列は、馬に引かれず、人の肩に棒でかつがれて行くべきだ。それも巡警の疑念を深くした。が、二人の巡警は、棺車を守る七八人の屈強な男の敵じゃなかった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
乘せたれどもかつのなきゆえ後藤はひざうちこれはしたり氣の付ざりしがこんな事なら惡漢の二三人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たゞね、かつぐやうで変だけど、あたし、これまで、二度も人の世話になつて、二度とも、いざ正式につていふことになると、不思議によくないことがあるんですからね。
浅間山 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
加州の家来奥村主殿おくむらとのも、若党四人に大唐櫃をかつがせ、手代りの人足二人を従え、外に侍姿の若い男——大野おおの鶴次郎つるじろうと連れ立って茶店の縁台にドカドカと腰をおろしました。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その余の者は思い思いの半裸のすがた、抜身ぬきみ大刀たちを肩にした数人の者を先登に、あとは一抱えもあろうかと思われるばかりのひのきの丸太を四五人してかついで参る者もあり
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
世間からは故人にねいしもしくは故人をかついだものかのように受取られたことが多いのです。
子規と和歌 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
折からこの地の祇園祭ぎおんまつり樽神輿たるみこしかついだ子供や大供の群が目抜きの通りを練っていた。
高原 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
玄関げんくわん式台しきだいへ戸板に載せてかつぎ込まれたのは、薩州の陣所へ入浸いりびたつて半年も帰つて来ぬ朗然和上が、法衣を着た儘三条の大橋おほはし会津方あひづがたの浪士に一刀眉間を遣られた負傷ておひの姿であつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
時に或いは神輿をかつぐ等の事をなしたが、主として警察事務に従事したのであった。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
仮にこれを演劇にたとへて見ると今千両役者が甘酒の荷をかついで花道を出て来たといふやうな有様であつて、その主人公はこれからどうするか、その位置さへいまだ定まらずに居る処だ。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
私は椅子に二本の竹を渡したものに乘つかつて急坂をかつがれて行つた。昨夜リヤカーを曳いてくれた若者の他に洋服を著た土地の人も汗を流し息を切らして舁いで呉れてゐるのであつた。
横山 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
結婚式のある久左衛門の裏口から出て来た参右衛門は、袴をつけたまま、荷物を荷馬車の上にかつぎこんだ。馬子が手綱で一つひっ叩くと、たてがみを振り上げた馬は躍り上り、車が動いていった。
通行の者が認めただちに駈附けたるに同家の主人にして愛猟家たる近藤進(三〇)は全身に大火傷をこうむりて書斎の床上しょうじょうに打ちたおれ苦悶中なりしをもって即刻附近の医院にかつぎこみて応急手当を
鼻に基く殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
其側そのそば小使こづかひや、看護婦かんごふくつ煉瓦れんぐわゆか音高おとたか踏鳴ふみならして往來わうらいし、病院服びやうゐんふくてゐるせた患者等くわんじやらとほつたり、死人しにんかつす、不潔物ふけつぶつれたうつはをもつてとほる。子供こどもさけぶ、通風とほりかぜはする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其処そこへまた下男の一人は大きい重箱二つを一荷にしてかついで来ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
平井勝家に会うて手水ちょうずを請うに、かめに水満ちて小姓二人かつぎ出し、平井洗手済んで残れる水を小姓庭へ棄てたので平井還って城内水多しと告げ、一同疑惑するところへ勝家撃ち出で勝軍かちいくさしたと記す。
かつぐの孤児戦場におもむ
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
父の墓地は岡の上の小松のわきと定まつて、やがていよいよ野辺送りを為ることになつた時は、住み慣れた小屋の軒をかつがれて出た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まといを威勢よくかついで、館林の町をはじめ、近所近在の消防組を狩り集め、十数里の路を、一瞬の間に厩橋城下へ駆けつけた。
老狸伝 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
孝廉はその言葉に従って、連城の死骸をかつがせて来たが、その室に入ったところを見ると、もう生きかえっていた。連城は父を見ていった。
連城 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
中でも松平兵部少輔ひょうぶしょうゆうは、ここへかつぎこむ途中から、最も親切にいたわったので、わき眼にも、情誼のあつさが忍ばれたそうである。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
駕籠舁かごかきにもしたたか飲ませているものだから、見ていられない恰好をしてこの騒ぎの中へ、よたよたとかつぎ込んだものです。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
火に迫られて下宿の家族と一しよに私が駒込西ヶ原へ避難する時、修一は私の重い柳行李やなぎがうりを肩にかついでくれたりした。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「大日殿でござったか。それはそれはご苦労千万」番卒の中の頭目らしい老年の武士はこう云ったが武者之助の背後にかつぎ据えられた輿こしへ鋭く眼を注ぎ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すすめられたのはかごである。前後八人の子分がかつぐ。いうまでもなくここはすでに梁山泊下の一さいであったのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに大勢の舞姫は踊りながらだんだん二人へ近寄って来て、手に手に二人をかつぎ上げたと思うと、そのまま踊りをやめて雪の塔の中へ連れ込みました。
雪の塔 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)