縞目しまめ)” の例文
平生へいぜい腰かがみて衣物きものすその引きずるを、三角に取り上げて前に縫いつけてありしが、まざまざとその通りにて、縞目しまめにも見覚みおぼえあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
縞目しまめのところは更にわからない、地質の点も不明なのですが、一見してわかるのは、その桁丈ゆきたけの極めて短いということだけです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すぐ、彼の姿は、大きな杉と杉との縞目しまめの中を通っていた。——そこを過ぎて、次の山蔭へ入ると、しばらく姿は見えなかった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こずえが、一分一寸とじりじりと下るあいだから、まるで夢のなかのようなせたにぶい外光が、ながい縞目しまめをなしてさっと差しこんできたのである。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
揉みあっているうちに着崩れたものか、縞目しまめもわからないような古布子ぬのこの前がはだけ、平べったい胸や、さら木綿もめんを巻いた腹があらわになっていた。
霜柱 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、かくきのこたしなむせいだろうと人は言った、まだ杢若に不思議なのは、日南ひなたでは、影形が薄ぼやけて、陰では、汚れたどろどろのきもの縞目しまめ判明はっきりする。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地面をささえる鉄筋コンクリートの太い柱は、ずっと遠くまで重なり合って、ところどころに昼光色ちゅうこうしょくの電灯が、縞目しまめの影を斜に落としているのが見えた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鼠色のこまかい縞目しまめが織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
俊寛 (やせおとろえ、かみをぼうぼうとのばし、ぼろぼろに破れ、風雨のために縞目しまめもわからずなりたる着物をきている。岩かどに立ちて、嘆息しつつ海を眺める)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
日なたの匂いを立てながら縞目しまめの古りた座布団は膨れはじめた。彼は眼をみはった。どうしたのだ。まるで覚えがない。何という縞目だ。——そして何という旅情……
過古 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
沢山たくさんの短いトンネルと雪けの柱の列が、広漠こうばくたる灰色の空と海とを、縞目しまめに区切って通り過ぎた。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
みな夜具やぐたゞ壁際かべぎははしくつたまゝきつけてある。卯平うへい其處そこ凝然ぢつた。箱枕はこまくらくゝりはかみつゝんでないばかりでなく、切地きれぢ縞目しまめわからぬほどきたなく脂肪あぶらそまつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ときおり娘をさがす親が厳重な防空服装で入って来て、似た顔だちやもんぺの縞目しまめをおろおろとのぞいて廻る。それを知ると少女たちの声はひとしきり必死に水と助けを求める。
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
洗ひざらしの縞目しまめも判らない袷一枚、月代さかやきは伸びるに任せて、手も足も無殘にあかまみれたのが、磁石じしやくに引かれる鐵片のやうに、無氣味な二つの瞳ばかりは、空地の隅に轉がされた
十二階の前から、池のみぎわについて、オペラ館の四つ角へ出ると、イルミネーションとアーク燈の光が厚化粧をした私の顔にきらきらと照って、着物の色合いや縞目しまめがはッきりと読める。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼が其処そこに走りついた時にも、火の手は背後にも、前にも幾層となく縞目しまめって追っていた。わずかなすすきかやの節々の燃えはじける音は、一つの交響的なほどばしりになって寄せた。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
片側はなめらかであるが、裏側はずいぶんざらざらして荒筵あらむしろのような縞目しまめが目立って見える。しかし日光に透かして見るとこれとはまた独立な、もっと細かく規則正しいすだれのような縞目が見える。
浅草紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ミチは疲れ切った男の為に、部屋に戻り、押入れから、縞目しまめもわからぬ木綿布団を無造作むぞうさに引き出して敷いた。勇は仰向あおむけに布団へ転がると大きな息を吐いた。博奕ばくちはなはだしく悪かった時の癖だ。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
縞目しまめも分らないほど古く汚れた背広を着て脚絆きゃはん草鞋わらじをはいていた。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それは色のくすんだ、縞目しまめもわからないような地味じみなものであった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
身には縞目しまめも判らぬような襤褸ぼろの上に、獣の生皮なまかわまとっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ライ麦の青き縞目しまめ縦横たてよこに赤々し冬の日の沁みてける
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
火先はさんらんと縞目しまめすじをえがいて、人穴城ひとあなじょうへそそぎ、三千の野武士のぶしの巣を、たちまち大こんらんにおとし入れてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尾部びぶからと、翼端よくたんからと、黄いろをおびたガスが、滝のようにふきだし、うしろにきれいな縞目しまめの雲をひいている。そしてぐんぐん空高くまいあがっていく。
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
姿すがたを、うしてたをやかに折重をりかさねた、そでいろは、萌黄もえぎである。ふかむらさきである。いづれもうへ羽織はおりとはれたが、縞目しまめわからぬ。ふまでもなくもんがあらう。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
酒は大好きで、常に一斗二三升も入るかと思う大瓢箪おおひょうたんを携え来り、それに入れて遣るとすぐに持って帰る。衣類は着けているが、地合じあい縞目しまめも見えぬほど汚れていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鼠いろのこまかい縞目しまめあわせに、黒無地のセルの羽織を着て立っていた。ドアを押して中へはいり
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
洗いざらしの縞目しまめも判らないあわせ一枚、月代さかやきは伸びるに任せて、手も足も無残にあかまみれたのが、磁石に引かれる鉄片のように、不気味な二つの瞳ばかりは、空地の隅に転がされた
やがて縞目しまめをなす杉林のおくに、高楼の灯やら庭上の篝火かがりやら、そこの一郭だけが蛍かごのように明るく見えた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縞目しまめは、よく分らぬ、矢絣やがすりではあるまい、濃い藤色の腰に、赤い帯を胸高むなだかにした、とばかりで袖を覚えぬ、筒袖だったか、振袖だったか、ものに隠れたのであろう。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次はズイと出ると、お勘坊の縞目しまめの怪しいあはせの肩に手を掛けました。
水の向う岸から五、六本の樹の影が、縞目しまめのように映っていた。その樹の端に人影が見えたのである。水に映っている武蔵の影を彼の眼は見たのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桜草をお職にした草花の泥鉢、春の野を一欠ひとかきかいて来たらしく無造作に荷を積んだのは帰り支度。かかとしりの片膝立。すべりとげた坊主頭へ縞目しまめの立った手拭てぬぐい向顱巻むこうはちまき
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次はズイと出ると、お勘坊の縞目しまめの怪しいあわせの肩に手を掛けました。
そこは北向きで、仄暗ほのぐらくてまた、冷たかった。柱なし何間なんげん四面という板壁板床である。わずかに武者窓からす光が、淡い縞目しまめの明りをそこに落している。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おんなは影のように、ものの縞目しまめを、傘の下にすかして、つめたく行過ぎるとともに、暗く消えた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青いものがこんもりした町角まちかどで、横一窓の油障子あぶらしょうじに、ボウと黄色い明りがれていて、サヤサヤと縞目しまめいている柳の糸。軒には、「堀川会所ほりかわかいしょ」とした三尺札が下がっていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お稲荷様いなりさまのお賽銭さいせんに。」と、少しあれたが、しなやかな白い指を、縞目しまめの崩れた昼夜帯へ挟んだのに、さみしい財布がうこん色に、撥袋ばちぶくろとも見えずはさまって、腰帯ばかりがべにであった。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青い縞目しまめを縫って飛ぶ鳥影のような武蔵の姿に、チカッと、金色こんじきの光がねた。朝の太陽がいつのまにか叡山えいざん連峰の山間やまあいから、つとくし形のかどをあらわしているのだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神泉苑しんせんえんの御所は、赤松の幹のほの赤い縞目しまめの奥にすみいろをいていた。
櫺子れんじの窓いッぱいにさしこんで、蒲団ふとんの上に日かげの縞目しまめを描いていますが、その陽光と了戒の刀に枕元を守られている当の人は、春眠暁を知らずという甘睡かんすいの度を超えて、こんこんとしたまま
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまち追いつかれて、五体は麻縄あさなわ縞目しまめにされてしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)