籠城ろうじょう)” の例文
天文十八年、法師丸が十三歳の秋、牡鹿山の城が管領畠山はたけやま氏の家人けにん薬師寺弾正政高やくしじだんじょうまさたかの兵に囲まれ、籠城ろうじょうは九月から十月にわたった。
そこへ、やせた清兵衛がやせた朝月をひいてあらわれると、毛利輝元もうりてるもとは、籠城ろうじょうの苦しさを思いやって、さすがに目になみだを見せ
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
その志だけで、武士の義も、父子おやこの道も、立派に通って居る。御城下の土を踏めば、籠城ろうじょう殉死じゅんしか、いずれは死の一途に極まっているものを
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戒厳令かいげんれいは既にかれ、巴里の城門は堅く閉され、旅行も全く不可能になった。事実にいて彼は早や籠城ろうじょうする身に等しかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「昔から籠城ろうじょうして運の開けたためしはない。明日は未明に鳴海表に出動して、我死ぬか彼殺すかの決戦をするのみだ」と。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
真ン中に白布をおおうた寝台を据え、薪炭菜肉しんたんさいにく、防寒防蠅ぼうようの用意残るところなく、籠城ろうじょうの準備が完全に整うと、黛夫人と一緒にコッソリ引き移った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
籠城ろうじょうの一揆軍は全滅したと伝えられ、生き残りは油絵師の山田右衛門作ぐらいに考えられているが、だんだんそうではないことが分ってきたようだ。
安吾史譚:01 天草四郎 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
左衛門大夫業政は武田勢の必至の軍配を察し適宜に兵をおさめて籠城ろうじょう対陣の策をとるものとみえる。……晴信は物見からとくとこのようすを見やって
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「大概分ってるさ、問題というのは神月が子爵家を去って、かの夫人に別れて、谷中やなかの寺に籠城ろうじょうして、そして情婦いろの処へ通うのを攻撃するんだろう。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北條某ほうじょうなにがしとやらもう老獪ずる成上なりあがものから戦闘たたかいいどまれ、幾度いくたびかのはげしい合戦かっせん挙句あげくはてが、あの三ねんしのなが籠城ろうじょう、とうとう武運ぶうんつたな三浦みうらの一ぞく
壮太郎氏と壮一君は、洋館の二階の書斎に籠城ろうじょうすることになりました。書斎のテーブルには、サンドイッチとぶどう酒を用意させて、徹夜てつやのかくごです。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
するとかみさんのいふには二、三日なら手前どもの内の二階が丁度明いて居るからお泊りになつても善いといふので大喜びでその二階へ籠城ろうじょうする事にきめた。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
面白いには違ないが、二十世紀の今日こんな立場のみに籠城ろうじょうして得意になって他を軽蔑けいべつするのは誤っている。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四十七、八年前パリ籠城ろうじょうの輩多く馬をほふったが、白馬の味いたく劣る故殺さず、それより久しい間パリに白馬が多かった(『随筆問答雑誌ノーツ・エンド・キーリス』十一輯七巻百九頁)
しかしながら、博士も木石ぼくせきではない。一週間も二週間もこんなところに籠城ろうじょうしているのにきてきた。
虹口ホンキューにわたしたち在留邦人が籠城ろうじょうしたときは、ほんとにもう、これで一巻の終りと思ったものだ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
賊軍の巨魁きょかい西郷隆盛は以前は陸軍大将にて天朝の御覚えめでたかりしものなること等より、田代たしろよりゆきし台兵が、籠城ろうじょう中に戦死せしこと、三奈木みなぎより募られたる百人夫長が
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
戦争に行って籠城ろうじょうしたらどうなさいます、航海して無人島へ吹流されたらどうなさいます
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あたかも稲麻とうま竹葦ちくいと包囲された中に籠城ろうじょうする如くに抜差ぬきさしならない煩悶はんもん苦吟にさいなまれていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
いっぷくの間にここまで連れて来られるのだが、それを本人が希望しないで、少なくとも七日間はあれに窮命きゅうめい籠城ろうじょうしていなければならぬというのは、何か事情があるのだろう。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その後赤穂あこう城中における評議が籠城ろうじょう殉死じゅんしから一転して、異議なく開城、そのじつ仇討あだうちときまった際は、彼はまだ江戸に居残っていたので、最初の連判状には名を列しなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
籠城ろうじょうかい。だが君、今日一日引籠ったところで、とてもできそうにないよ。だから。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
大なる高塀たかべいで厳重に取囲とりかこまれてあるから、敵が攻めて来ても籠城ろうじょうして居るにはごく都合がよく出来て居るに拘わらず、そのうちに水の出る所のないというのは実に奇態きたいな訳です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
おいらァ泥棒猫どろぼうねこのように、垣根かきねそとでうろうろしちゃァいねえからの。——それな。鬼童丸きどうまる故智こちにならって、うし生皮なまかわじゃねえが、このいぬかわかぶっての、秋草城あきくさじょうでの籠城ろうじょうだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その上、今朝江戸御留守居の大垣殿お長屋へ——国許居城の大修理は、籠城ろうじょうの用意と相見えた、謀叛の企て証拠の品を揃えて、公儀へ訴え出るがどうだ——という投げ手紙が飛込んだ
それは昔佐竹氏の先祖がこの山に籠城ろうじょうしていた時に、武蔵の横山党の人たちが攻めて来て、城の主が没落することになったからだといっていますが、この時に鎌倉将軍の命をうけて
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二日の天井裏籠城ろうじょうで、ほこりとすすによごれ染まっている死んだはずの恒藤権右衛門でしたから、右門は会心そうなみをみせていましたが、しかし不平そうなのはあばたの敬四郎で
高清水に籠城ろうじょうして居る者も、亦佐沼の城を囲んで居る者も、皆政宗の指図に因って実は働いて居る者であることを語り、く政宗が様子を御見留めなされて後に御働きなさるべしと云った。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その籠城ろうじょうのときにおいて、差し支えなき糧食輜重しちょうをば平生に調達しおかざるべからずとなすがゆえに、第一に封建領主が奨励したるは農業にして、農業中ことに奨励したるは穀物の産出なり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
与左衛門の子が八左衛門で、大阪籠城ろうじょうのとき、後藤基次もとつぐの下で働いたことがある。細川家にかかえられてから、千石取って、鉄砲五十ちょうかしらになっていた。四月二十九日に安養寺で切腹した。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
幕臣また諸藩士中の佐幕党さばくとうは氏を総督そうとくとしてこれに随従ずいじゅうし、すべてその命令に従て進退しんたいを共にし、北海の水戦、箱館の籠城ろうじょう、その決死苦戦の忠勇ちゅうゆう天晴あっぱれ振舞ふるまいにして、日本魂やまとだましいの風教上より論じて
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と言って彼の前に立った家番のかみさんの顔には、籠城ろうじょう同様の思いをしてずっと巴里に居た人達の心がありありと読まれた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
清兵衛せいべえが、残念でたまらなかったのは、まだ一度も、よき敵の首をとらず籠城ろうじょうすることであったが、こればかりはどうすることもできなかった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
さきに籠城ろうじょうと同時に城へ入って、城中の士を助けていた若い男どもも、間もなく各〻の土と家に帰って来るのだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足掛あしかけねんまたが籠城ろうじょう……つき幾度いくどとなくかえされる夜打ようち朝駆あさがけ矢合やあわせ、い……どっとおこときこえ
十重二十重とえはたえに囲まれては、老功な武者でも籠城ろうじょうがしにくいぞ。ええなさけない、お家の没落を見てどうしておめおめと生きておられよう、先殿せんとのへの申訳、まッこの通り。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わざわざ鰹節かつぶしを買い込んで、これでパリーの下宿に籠城ろうじょうするなんて大いばりだったが、パリーへ着くやいなや、たちまち豹変ひょうへんしたそうですねって笑うんだから始末がわるい。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「女は戦場には出ないでもよい、だが、籠城ろうじょうの時はそれ相応に女の仕事があるものだよ」
それは今日は籠城ろうじょうのつもりでいたから、天気に望みがあり、好きでも嫌いでも、こうなった退引のっぴきならぬ同行者がある以上、ここに逗留をしていなければならぬ理窟はない、といって
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「これでいい。とうぶんこうして、籠城ろうじょうしたままで善後策ぜんごさくを考えるんだ」
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自由競争の余地なく、四門を閉じて籠城ろうじょうし、永年作り附けの封建社会においては、新分子を注入し、新要素を与うるもの、この売禄買株の管樋かんとうを通じて来るも、またむべからざるにあらずや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ただし俳諧の方には北斎・崋山かざん暁斎ぎょうさい清親きよちかを経て、現在の漫画隆盛に到達したような閲歴は無く、人はただ発句ほっく出丸でまる籠城ろうじょうして、みずから変化の豊かなる世相描写を制限することになったが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
身分こそ五両三人扶持の徒士かちにすぎなかったが、主家没落の際は、赤穂城から里余りよの煙硝蔵に出張していて、籠城ろうじょう殉死じゅんしの列にれたというので、それと聞くや、取る物も取りあえず城下へ駈けつけて
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
戦時以来一緒に籠城ろうじょうの思いをしたり、日を定めて骨牌かるたに集ったり、希臘飯ギリシャめしを附合ったりした連中は、遠く帰って行く岸本等を見送りに来てくれた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「すぐうしろには摩耶山まやさんの険がある。摩耶とこことはわずか五十町。よろしく御大将と御舎弟とは、摩耶をとりでとして、そこへご籠城ろうじょうがよろしからん」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北朝鮮の寒さには、さすがの日本軍もなやまされ、春の雪どけまで、蔚山うるさんしろをきずいて籠城ろうじょうすることになった。加藤清正、浅野幸長あさのゆきなが、それに毛利勢の部将ぶしょう宍戸備前守ししどびぜんのかみらがいっしょである。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
そのころ三浦みうらぞく小田原おだわら北條氏ほうじょうし確執かくしつをつづけていましたが、武運ぶうんつたなく、籠城ろうじょうねんのち荒次郎あらじろうをはじめ一ぞくほとんど全部ぜんぶしろまくら打死うちじにげたことはあまりにも名高なだか史的事蹟してきじせきであります。
地上がことごとく敵の手におちようとも、この地下本営一帯は、大要塞として独立し、侵入軍との間に、火の出るような攻防戦が出来ることは勿論もちろん、長期の籠城ろうじょうにも耐え、本国のレッド宮殿との連絡も取れ
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「じゃ巴理パリ籠城ろうじょうした組じゃないのね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひたすら籠城ろうじょうの軍議一決。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)