窮屈きゅうくつ)” の例文
「一番上等な帽子に化けて、あの男に買われて、ともかくも外に出てみるとしよう。ここにこうしていたんでは、窮屈きゅうくつ仕方しかたがない」
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
手ぜまなのは、覚悟かくごのまえさ。越したところで、どうせ今度の家も広くはないよ。あるいは、ここよりも窮屈きゅうくつになるかもしれん。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
だけれど、こんな窮屈きゅうくつな袋の中にいれられているのはいやだ。出してれればコックのことだって、ボーイの役目だってなんなりとするよ
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「はじめは戸がきしんでそこだけが悪くなっているのではないかと思うくらい、窮屈きゅうくつげに出られるのが気になっていたのでございますが。」
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ちょっと見ると窮屈きゅうくつそうな人であるが、笑うと、顔にやさしい表情が出て、初等教育にはさもさも熟達しているように見えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
官位の昇進した窮屈きゅうくつさもあって、忍び歩きももう軽々しくできないのである。あちらにもこちらにも待ってわれぬ恋人の悩みを作らせていた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
隠す——そんな窮屈きゅうくつな大阪へ、一体なんのためにはるばると帰ってきたんだか、ばかばかしくって、この宅助にゃ、あなたの気心が知れませんぜ
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高い高い鳶の空から、おのれをこの窮屈きゅうくつな谷底に呼び返したものの一人は、われを無理矢理にここへ連れ込んだ友達である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことにこの特長の発達している私には食後の大儀たいぎなこと、客人きゃくじんの前の長時間などは、つくづくこの女子にのみ課せられた窮屈きゅうくつ風習ふうしゅうりてます。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼等は暫くの間、その真暗な窮屈きゅうくつな場所でお互いの呼吸を聞き合った。紋三は押入の向側に山野夫人を想像すると、身体がしびれる程気がかりだった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うかつにもののいえない窮屈きゅうくつさを感じ、あとはだまって男の子の顔を見つめていた。正が、なにか感じたらしく
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
工学士は、井桁いげたに組んだ材木の下なるはしへ、窮屈きゅうくつに腰をけたが、口元に近々ちかぢかと吸った巻煙草まきたばこが燃えて、その若々しい横顔と帽子の鍔広つばびろな裏とを照らした。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万一まんいちねずみめのいうことがげられて、せっかく自由じゆうになったわれわれが、またもとの窮屈きゅうくつ身分みぶんまれるようなことがあってはたいへんです。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
女房は相変らず力無い眼をうッすらと開けたまま窓にがみついていて、子供達は窮屈きゅうくつそうに眠っていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
玄関兼居間の四畳半に、平吉と六人の子供たちが食卓を囲んで坐ると、船の食堂よりもっと窮屈きゅうくつだった。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
小僧のくせに生意気な事を云うようだが、世間には奉公人と云う、窮屈きゅうくつな不公平な、何等なんらの価値も意義もない地位や生活に満足して、せっせと働いて居る丁稚や番頭が沢山たくさんある。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すると障子しょうじのはまったはこなかはいって、仲間なかまがうたっていました。けれど、そのはこはばかにせま窮屈きゅうくつであったのです。なんだか、そのなきごえに、おぼえがあったようでした。
春がくる前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
慎太郎はまだ制服を着たまま、博士と向い合った父の隣りに、窮屈きゅうくつそうなひざを重ねていた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二階の二人も、室借の窮屈きゅうくつに悩んでいた。ことに新吉は、六年間お婆さんの親切には心から感謝していたのに、にわかにいやな事ばかり目に立って、しみじみ他人の家の狭さを思い知った。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
そこで、死んだアリスとほぼ同じ身長、同じ体重の女の座位における腰部の周囲を測ってみたところが、その浴槽の細い部分へ坐ることは窮屈きゅうくつで、とうてい不可能であることを断定し得た。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
窮屈きゅうくつな侍稼業をスッパリして、わたくしは、あなた様と御一緒に元の町人に帰り、面白おかしく呑気のんきに暮らして——その、再び手を取り合って泣く日を楽しみに、喬さま、園絵は、園絵も
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
肩がげているので、なんだか窮屈きゅうくつだ。銃身がうまくのっかっていない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そんな窮屈きゅうくつな思いをして行くに及ばぬという考えもあったからですけれども、どんな様子か一遍見に行きたいという心地もするものですから見物に出かけたところが、なかなか面白かったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
だから一向反対宣伝もらなければこの軽業かるわざテントの中に入って異教席というこの光栄ある場所に私が数時間窮屈きゅうくつをする必要もない。然しながら実は私は六月からこちらへ避暑ひしょに来てりました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すなわち我輩わがはい所望しょもうなれども、今そのしからずしてあたかも国家の功臣をもっ傲然ごうぜんみずからるがごとき、必ずしも窮屈きゅうくつなる三河武士みかわぶしの筆法を以て弾劾だんがいするをたず、世界立国りっこく常情じょうじょううったえてはずるなきを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
殺しません。殺すと、後の仕事に差支えます。けれども逃がす事は出来ません。窮屈きゅうくつでも二三日この家にいて下さい。二三日すると、盗んだ書類は無事に仲間に渡せます。仲間のものが国へ持って行きます。ハハハハ
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
しかし模範生は窮屈きゅうくつだ。撲れば操行が乙になる。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それはさておき、カビ博士が学友辻ヶ谷と同一人だと分った今、僕はこれまでに感じていた窮屈きゅうくつさを一ぺんに肩からおろすことができた。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分を忘れかねている次郎の心を一層窮屈きゅうくつにしたのは、正木のお祖父さんが、おりおり考え深い眼をして、じっと彼を見つめることだった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「それよか、旦那あ、なぜ一本ですむ物を二本差して、窮屈きゅうくつがっているよりも、さらりと、博奕打ばくちうちにでもならないのか、わしゃあ、ふしぎ……」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし教育者としてえらくなり得るような資格は私に最初から欠けていたのですから、私はどうも窮屈きゅうくつおそれ入りました。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
英国の倶楽部クラブの発達というものが、家庭における主婦の形式的女権じょけん窮屈きゅうくつからのがれようとする男性の自由の欲望から発達したものだという話もある。
女性崇拝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さて為朝ためともは一にちはやくおとうさんを窮屈きゅうくつなおしこめからしてあげたいとおもって、いそいでみやこのぼりました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「サア、この棺の中へ隠れるのです。大型の寝棺だから、少し窮屈きゅうくつだけれど、あなた方二人位は入れます」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、こなたは何時いつか、もう御堂おどうの畳に、にじりあがっていた。よしありげな物語を聞くのに、ふところ窮屈きゅうくつだったから、懐中かいちゅう押込おしこんであった、鳥打帽とりうちぼうを引出して、かたわら差置さしおいた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
窮屈きゅうくつな境遇の源氏はこうした山歩きの経験がなくて、何事も皆珍しくおもしろく思われた。修験僧の寺は身にしむような清さがあって、高い峰を負った巌窟いわやの中に聖人しょうにんははいっていた。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
手品てじな剣舞けんぶ幻燈げんとう大神楽だいかぐら——そう云う物ばかりかかっていた寄席は、身動きも出来ないほど大入おおいりだった。二人はしばらく待たされたのち、やっと高座こうざには遠い所へ、窮屈きゅうくつな腰をおろす事が出来た。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「みんなたいらに、あぐらをかきたまえ。関君、どうです、服で窮屈きゅうくつにしていてはしかたがない」こう言って笑って、「私が一つビールをおごりましょう。たまには愉快に話すのもようござんすから」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「ああ、なかというものは、なんというたのしいところだろう。」と、おひめさまはおもわれました。そして、いままでおしろうちでしていた生活せいかつは、なんという窮屈きゅうくつ生活せいかつであったろうとおもわれました。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがてボートのうえに、この日蔽いは張られて、窮屈きゅうくつながら辛うじて全員の身体をけつくような太陽からさえぎることができるようになった。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
気づまりで窮屈きゅうくつで、もしご機嫌でも損じれば大変だし——折角、福原へ行っても、身にも皮にもならないと一致して陰でこぼしているのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ、窮屈きゅうくつな世界だこと、横幅よこはばばかりじゃありませんか。そんな所が御好きなの、まるでかにね」と云って退けた。余は
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その前で、べつに非常な窮屈きゅうくつさを感ずるというふうでもなかったが、何か知ら、これまでのように彼を友達あつかいに出来ないものを感じるらしかった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「なんだか薄気味のわるいやつだなあ……だが、そうおとなしくしていりゃあ、こっちも別に文句はねえ。じゃあまた窮屈きゅうくつだろうが、こいつをはめさせてもらおうかね」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これをどこかへりとばして、みんなでうまいものをってべようといました。それでわたしは古道具屋ふるどうぐやられて、店先みせさきにさらされて、さんざん窮屈きゅうくつな目にあいました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
外出に従者も多く従えて出ねばならぬ身分の窮屈きゅうくつさもある上に、花散里その人がきわだつ刺戟しげきも与えぬ人であることを知っている源氏は、今日逢わねばと心のき立つこともないのであった。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「それは、わるいやつらです。わたしが、征伐せいばつをしてあげます。あなたは、そのかわり、しばらく窮屈きゅうくつおもいをしなくてはなりません。」と、命令めいれいするようにいって、くもは、ろくろくはな返答へんとうかずに
くもと草 (新字新仮名) / 小川未明(著)
右の方は主人公だというのでうらなり先生、これも日本服でひかえている。おれは洋服だから、かしこまるのが窮屈きゅうくつだったから、すぐ胡坐あぐらをかいた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
横川勘平は、身長みのたけ六尺ある。十人力という評判であるが、実際それぐらいはあるかも知れない。この番所住いでは兎に角、窮屈きゅうくつに出来上っている体格だ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも密航するのだから、親子は船艙せんそうすみっこに窮屈きゅうくつな恰好をしていなければならなかった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)