目貫めぬき)” の例文
此度の『それから』でも目貫めぬきな事件に取りかゝらうといふ前で筆を止めて居る。このネライ所が何となく技巧的に思はれてならない。
文壇一夕話 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
からになつた渡船とせんへ、天滿與力てんまよりきかたをいからしてつた。六甲山ろくかふざんしづまうとする西日にしびが、きら/\とれの兩刀りやうたう目貫めぬきひからしてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
細身の蝋塗鞘ろふぬりざや赤銅しやくどうと金で牡丹ぼたん目貫めぬきつか絲に少し血がにじんで居りますが、すべて華奢で贅澤で、三所物も好みがなか/\に厭味です。
もっとも、話の中の川堤かわづつみの松並木が、やがて柳になって、町の目貫めぬきへ続く処に、木造の大橋があったのを、この年、石にかけかえた。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なるほど、ここは東海道筋の目貫めぬきと言い、箱根、熱海の温泉場の追分のようなものだから、湯治場かせぎの講釈師があふれそうなところだ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はまた子供の差す位な短かい脇差わきざしの所有者であった。その脇差の目貫めぬきは、鼠が赤い唐辛子とうがらしを引いて行く彫刻で出来上っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この日まず一発の号砲と同時に兵士が繰出すので、もっとも目貫めぬきとして見るべきは、釈迦堂しゃかどうの西の部で釈迦堂の上には法王の御座がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
都會とくわいの土地は殊更ことさら繁昌はんじやうきそふ大江戸の中にも目貫めぬきは本町通り土一升に金一升といふにたがはぬ商家の櫛比しつぴ土庫ぬりこめたかく建連ね何れもおろか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それから、第二にはなるべく人の寄る場所がよかろうと存じましたのでな。目貫めぬき々々の湯屋床屋へ参って、巧みに評判させましてござります
「拝領の品とみえて、目貫めぬき花葵はなあおいの紋がある、中身は来国俊らいくにとしだから、かれらのあいだでは相当ひろく知られている品だと思う」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この坑の中はこの通り四通八達の市街になっていまして、丁度京都全体ぐらいの大きさです。太い線になっているのがわば目貫めぬきの往来で石炭を
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのほかおしろい刷毛ばけにした兎の手だの、骨のたつたとき喉をさする鶴の嘴だの、目貫めぬきをどうとかする真鍮の才槌だの
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
そのうちに聖路易セントルイスの何とか云いましたっけが、目貫めぬきの通りに在るホテルの七階の屋上に夜遅くなってから幽霊が出る。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、燕作えんさくはソロソロ狡獪こうかい本性ほんしょうをあらわして、なれなれしく竹童のびている般若丸はんにゃまるつば目貫めぬきをなでまわしながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上に、惣八郎は秘蔵の佩刀はいとう目貫めぬきに、金の唐獅子の大きい金物を付けていた。それを彼は自慢にしているようであった。誰かに来歴をきかれると
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この町の目貫めぬき唐物店たうぶつてんと洋服屋の四つ角まで来ると、長い町並が山伏町近くまで真直に見えた。大学が休暇の間は町の姿まで怠けて赭色しやいろに長く見える。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
小田原では目貫めぬきの商店街であつたが、人通りは少なかつた。小田原の街は軒並みに国旗がひらめいてゐる。
真珠 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
こんな瞑想にふけっていたので、彼はセント・ペテルスブルグの目貫めぬきの街の一つにある古い建物の前に来るまで、どこをどう歩いていたのか気がつかなかった。
「そりゃ、火事だ、火事だ」というので、出て見ますと、火光は三軒町に当っている。通りからいえば広小路ひろこうじの区域が門跡寄りに移るきわ目貫めぬきな点から西に当る。
拝見はいけんだけおほけられてくださいましとつて、まづかしらからさきけ、それからふちを見て、目貫めぬきからうも誠におさしごろに、さだめし御中身おなかみ結構けつこうな事でございませう
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
落城ののち、忠利は数馬に関兼光せきかねみつの脇差をやって、禄を千百五十石に加増した。脇差は一尺八寸、直焼すぐやき無銘、横鑢よこやすり、銀の九曜くよう三並みつならびの目貫めぬき赤銅縁しゃくどうぶち金拵きんごしらえである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたくしの忍んで通う溝際どぶぎわの家が寺島町七丁目六十何番地に在ることは既にしるした。この番地のあたりはこの盛場では西北のすみに寄ったところで、目貫めぬきの場所ではない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ある日の午後の黄昏たそがれに近いころであった。彼は例のごとく夢みるような心持ちで、この町の目貫めぬきの大通りをあるいていると、学生仲間のひとりが肩をたたいて声をかけた。
禿かむろを呼んで、その客の脇差を取寄せると、間違いも無いこしらえ、目貫めぬきの竹に虎、柄頭つかがしらの同じ模様、蝋塗ろうぬりの鞘、糸の色に至るまで、朝夕自分が持たせて出した夫の腰の物である。
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
支那シナ料理などの目貫めぬきの商店街であったが、一歩横町へ入ると、モダアニズムの安価な一般化の現われとして、こちゃこちゃした安普請のカフエやサロンがぎっちり軒を並ベ
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
呼んでもらった俥が来た。岸本は自分の家をして深夜の都会の空気の中を帰って行った。東京の目貫めぬきとも言うべき町々も眠ってしまって、遅くまで通う電車の響も絶えていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、目貫めぬき象篏ぞうがんが、黄金無垢きんむくでできていたのでもあろう。陽をはねてキラキラと輝いた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この中心ができあがったうえでさらにぎをしあげ、舞錐まいぎり目貫めぬき穴をあけ銘を打ち、のち白鞘しらざやなり本鞘ほんざやなりに入れて、ようよう一刀はじめてその鍛製の過程を脱する——のだが!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さすがに、目貫めぬきのいい寄席では、圓朝のトリなんて鼻もひっかけてはくれなかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
度々物語の筋や目貫めぬきの個処を話した後に是非読んで見ろといって英訳本を貸した。
そこは、学生の多い神田の、目貫めぬきの場所であって、書店や、ミルクホールや、喫茶店や、カフェや、麻雀マージャン倶楽部や、活動館や、雑貨店や、ダンスホールが、軒に軒を重ねあわせて並んでいた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鋳物いものの香炉の悪古わるふるびにくすませたると、羽二重はぶたへ細工の花筐はなかたみとを床に飾りて、雨中うちゆうの富士をば引攪旋ひきかきまはしたるやうに落墨して、金泥精描の騰竜のぼりりゆう目貫めぬきを打つたるかとばかり雲間くもま耀かがやける横物よこものの一幅。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その辺は町の中心でも目貫めぬきの場所で、会社銀行料理店などから普通の商家まですべて大きいのゝみが並んでゐる。それをずばりと切断した様な河岸の軒並がはつきりと水田の末に眺めらるゝのだ。
村住居の秋 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
東都目貫めぬきの場所たる、銀座四丁目の交叉点こうさてんである、昔はここに毎日新聞、日日新聞、その他二つの四大新聞社が相対して立っていたのを覚えているが、新聞社は皆それ/″\銀座から影をかくし
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
朝の光りにすかして、切つ先からつか目貫めぬきまで、丁寧に調べて居りましたが、何を考へたか、風呂敷を借りてそれを包むと
この町並ではほぼ目貫めぬきのところでしたから、そこで行列も御輿みこしを据えて、器量いっぱいのところを見せなければなりません。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「はて……?」と龍巻は、いま手下から受けとった脇差の目貫めぬきと、伊那丸の小袖こそでもんとを見くらべて、ふしんな顔をしていたが、にわかにつっ立って
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、もう目貫めぬきの町は過ぎた、次第に場末、町端まちはずれの——と言うとすぐにおおきな山、けわしい坂になります——あたりで。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「値打はこしらえだけです」と清兵衛が云った、「鞘もまだ使えるし、こうがい目貫めぬきが幾らかになるでしょう。もうばらして売っちまおうと思っているんですが」
末っ子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あの金の雞の目貫めぬきの光る短刀を引き寄せながら、「お父つあんが戻つてから、あの小父さんの來たことをいふと、斬つて了ふよつて、よう覺えてゐや。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
今宵のうちがよい。これなる建札早々に目貫めぬきの場所へ押し立てさせい。——では京弥、菊路のところへ参ろうぞ
その目貫めぬきは、甚兵衛には惣八郎に恩を負うていることを示す永久の表章のように思われた。惣八郎は、故意にその目貫を愛玩するのだとさえ、甚兵衛は思った。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さて御約束の十時になって金善かねぜんの前へ来て見ると、夜寒の頃ですから、さすが目貫めぬき両替町りょうがえちょうもほとんど人通りが絶えて、むこうからくる下駄の音さえさみしい心持ちです。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文「縁頭ふちかしら赤銅魚子しゃくどうなゝこ、金にて三羽の千鳥、目貫めぬきは後藤宗乘の作、つばは伏見の金家の作であります」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こう云う日に目貫めぬきの位置にある船宿一軒を借切りにしたものと見えて、しかもその家は近所の雑沓ざっとうよりも雑沓している。階上階下とも、どの部屋にも客が一ぱい詰め掛けている。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
市内大森区山王×××番地とどろき九蔵氏(四四)は帝都呉服橋電車通、目貫めぬきの十字路に聳立しょうりつする分離派式五層モダン建築、呉服橋劇場の所有主、兼、日本最初の探偵恐怖劇興行者、兼
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
父は浦和から出て、東京京橋の目貫めぬきな町中に小竹の店を打ち建てた人で、お三輪はその家附きの娘、彼女の旦那は婿養子にあたっていた。この二人の間に生れた一人子息むすこが今の新七だ。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この日は本所ほんじょでは牛の御前の祭礼、神田かんだ日本橋にほんばし目貫めぬきの場所は神田明神みょうじんの祭礼でありました(その頃は山王と明神とは年番でありました。多分、その年は神田明神の方の番であったと思います)
然れども欧洲人はなほいまだ光琳の蒔絵まきえ、春信の錦絵にしきえ整珉せいみんの銅器、後藤ごとう目貫めぬき等については全く知る所なかりしが、維新の戦禍に際してこれらの古美術品一時に流出するやゴンクウル、ブュルチー
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
出し治助どん去月の幾日頃いくかごろだの治助中市と思ひました桃林寺たうりんじ門前の佐印さじるしか三間町の虎公とらこういづれ此兩人の中だと思はれますといへば十兵衞成程々々なるほど/\かうつと十日は治助どんは燒物やきもの獅子しし香爐かうろ新渡しんとさらが五枚松竹梅三幅對ふくつゐ掛物かけもの火入ひいれ一個ひとつ八寸菊蒔繪きくまきゑ重箱ぢうばこ無銘むめいこしらへ付脇差二尺五寸瓢箪へうたんすかしのつば目貫めぬきりようの丸は頭つのふち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)