流浪るろう)” の例文
ぼっちゃん、わたしは、こうして、諸国しょこく流浪るろうします。それは、どんなむらでも、またちいさなまちでも、はるからなつにかけて、あるいてまわります。
青いボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
もっとも、殺伐さつばつな戦場生活だの、僻地へきちから曠野こうや流浪るろうしてきた身なので、よけいに、彼方の女性が美しく見えたのかもしれない。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まあ近くの蕎麦屋そばやにまいりましてね、様子を聞いて見ますと、上野の落ちた後は諸処方々を流浪るろうして、手習いの先生をしたり、病気したり
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「お前も流浪るろうの性じゃ」と母がよく云い云いしたけれど、二十三と云うのに、ひどくけ込んで、脣などはさんで見えた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
もし旅から旅へ流浪るろうしたならば、一泊するごとに、至る所の宿帳へ、やはり同じような事を一々記録して行かねばならぬ。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
さて家を飛び出してから諸所を流浪るろうする間に、ある男と親しい仲になって、子を生んで、それからその男にてられます。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういう正香は諒闇の年を迎えると共に大赦たいしゃにあって、多年世を忍んでいた流浪るろう境涯きょうがいを脱し、もう一度京都へとこころざす旅立ちの途中にある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長い流浪るろうの旅はつらいものではあるが、どうでもこれだけ仕上げなければというように、いっしょうけんめいりこんでする仕事はなにもなかった。
やはり浦上の山里村やまざとむらに、おぎんと云う童女が住んでいた。おぎんの父母ちちはは大阪おおさかから、はるばる長崎へ流浪るろうして来た。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
朝々、石田氏が賢夫人から折鞄を受取って、都内流浪るろうの旅に出るのを、百々子がバラックの裏木戸まで送って行く。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大いに覚悟する所あり、ついに再び流浪るろうかくとなりて東京に来り、友人の斡旋あっせんによりて万朝報社よろずちょうほうしゃの社員となりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
簑田は曾祖父そうそふ和泉いずみと申す者相良遠江守さがらとおとうみのかみ殿の家老にて、主とともに陣亡し、祖父若狭わかさ、父牛之助流浪るろうせしに、平七は三斎公に五百石にて召しいだされしものに候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「僕が仇討ちの為めに流浪るろうしていることを知っていたんだ。野口君、君の辞令を見た日から僕は石鹸シャボンで首を洗って待っていたと昔と同じ積りで冗談を言うんだ」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
九日、市中を散歩して此地には居るまじきはずの男に行きいたり。何とて父母を捨て流浪るろうせりやと問えば、情婦のためなりと答う。帰後独坐感慨どくざかんがいこれをひさしうす。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
秋成は、かういふ流浪るろう漂泊の生活の中に研鑽けんさん執筆してその著書は、等身の高さほどあるといはれてゐる。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
二人でこの村の遠縁のものをたよって流浪るろうして来たのであるが、その遠縁のものはその時死んで居らず、やむなく、良雄の父にすがりつくと、義侠心ぎきょうしんに富んだ良雄の父は
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
晴れやかな唄ごえはなかなかまずに、「サンタ・ルチア」は幾度となく繰り返され、それから「ローレライ」になり、「流浪るろうの民」になり、ミニヨンの一節になりして
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
方々流浪るろうした果てに、やっとここに落ち着くことになったお神の芳村民子の山勘なやり口が、何か本家との間に事件を起こし、機嫌きげんそこねたところから、看板を取りあげられ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その人はもとテンゲーリンの相当なる僧侶であった。ところがテンゲーリンのテーモ・リンボチェが牢内でおかくれになると同時に、其寺そこの僧侶の流浪るろうする者も大分出来ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今から殆ど三十年以前に、彼は角川家を出奔して、お杉と共に諸国を流浪るろうして歩いた。が、頼むべき親戚みよりもなく、手に覚えた職もないので、彼は到る処で種々しゅしゅの労働に従事した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天下諸国を流浪るろうして、各流各派の剣士の門をたたき、心肝を砕いて練磨をげているうちに、いつとはなしに、自得したのが、所謂いわゆる、独創天心流なる、一種、独特な剣技だったのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
対座の客は首肯うなづきつ「ハイ、山のものですが、只今は他郷に流浪るろう致し居りまするので」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
天武天皇自体、兄天皇に憎まれ、逃走、流浪るろう、戦乱の後に帝位に即いた人である。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
落城後らくじょうごわたくしがあちこち流浪るろうをしたときにも、若月わかつきはいつもわたくし附添つきそって、散々さんざん苦労くろうをしてくれました。で、わたくし臨終りんじゅうちかづきましたときには、わたくし若月わかつき庭前にわさきんでもらって、この訣別わかれげました。
噛みはせぬが、威嚇いかくする。彼が流浪るろう時代に子供にいじめられた復讎心ふくしゅうしんが消えぬのである。子供と云えば、日本の子供はなぜ犬猫を可愛かあいがらぬのであろう。直ぐ畜生ちきしょうと云っては打ったり石を投げたりする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
強いようでも、流浪るろうによごれた寝顔はどこかやつれて悲しかった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
流浪るろうの身の上だから、言葉は通じなくても以心伝心てやつ
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
また遠く流浪るろうする人のごと
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「それではお包みするまでもない。ご推察通り如何にもして、かの鐘巻かねまき自斎を一度なりと打ち込まんものと、かくは流浪るろうの身の上でござる」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いよいよ流浪るろうの旅を始めるまえに、わたしはこの二年のあいだ父親のようにやさしくしてくれた人に会いたいと思った。
先輩は伊那いなの長い流浪るろう時代よりもずっと若返って見えるほどの元気さで、この王政の復古は同時に一切の中世的なものを否定することであらねばならない
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうして他人ひとには財産を藤尾にやって自分は流浪るろうするつもりだなんて云うんだよ。さもこっちが邪魔にして追い出しにでもかかってるようで見っともないじゃないか
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしは、子供こども時分じぶんから、故郷こきょう流浪るろうしています。このごろは、このオルゴールをいいひとつけて、もしれたら、故郷こきょうかえりたいとおもっています。」
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いったい政秀は父の政高に輪をかけた惰弱悠長ゆうちょうな性質で、その後間もなく家老馬場氏に国をわれ、家をも領土をも失いながら尚生き耻をさらして諸所を流浪るろうした程の男なのである。
蓮如どのは永の流浪るろう。たとえ北国辺土は教えなびくとも、都近くは留守の間の荒土。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
太田は祖父伝左衛門が加藤清正に仕えていた。忠広がほうを除かれたとき、伝左衛門とその子の源左衛門とが流浪るろうした。小十郎は源左衛門の二男で児小姓こごしょうに召し出された者である。百五十石取っていた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして自分たちがつぎ乾坤けんこんてきにのぞむ支度したくのために、一両年りょうねん諸国しょこく流浪るろうしてみるのも、またよい軍学修業ぐんがくしゅぎょうではないか
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまさらよそのうちに奉公ほうこうするよりも、わたしにはこの流浪るろうの旅がずっと自由で気楽なばかりでなく、エチエネットや、アルキシーやバンジャメン
山の中へ這入はいっても好い。どこへ行ってどう流浪るろうしても構わない。何でも好いから糸公を連れて行ってやってくれ。——僕は責任をもって糸公に受合って来たんだ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
べつに、また一人ひとり若者わかものがありました。こころざしをたて、故郷こきょうてから、もう幾年いくねんにかなりましたけれど、目的もくてきたっすることができずに、あちら、こちらと流浪るろうしていました。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
もともと今度の上京を思い立って国を出た時から、都会での流浪るろう生活を覚悟して来た彼である。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
上海から何処どこへ行くか、恐らく彼のおんなと黒ん坊とは、世界の果てまでも怪しい魔術をひっさげて流浪るろうして行く事であろう。己はもう、生きて再び恋いしいじょと黒ん坊の姿を見る事は出来ないだろう。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それはカピが、わたしの泣き声を聞きつけて、あのわたしの流浪るろうはじめての日にしてくれたように、今度もわたしをなぐさめに来てくれたのである。
けれど、いつも流浪るろうの身である自分が先に考えられた。果たして、自分の手によって、この少年を幸福にできるかどうか、将来の責任を、自分に問うてみるのであった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分はこの永年ながねん方々を流浪るろうしてあるいて、折々こんな因縁に出っ食わして我ながら変に感じた事が時々ある。——しかしそれも落ちついて考えると、大概解けるに違ない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから、二、三ねんもたった、のちのことです。少年しょうねんは、あるサーカスだんくわわって、諸国しょこく流浪るろうしていました。自分じぶんあねが、サーカスだんくわわっているようなうわさをいたからでもありました。
サーカスの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もとより新しい進路を開きたいとの思い立ちからとは言いながら、国を出てからの長い流浪るろう、東京での教部省奉職の日から数えると、足掛け六年ぶりで彼も妻子のところへ帰って来ることができた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それはバルブレンのおっかあのばたに育ち、ヴィタリス老人ろうじんとほこりっぽい街道かいどう流浪るろうして歩いたいなか育ちの少年にとっては思いがけない美しい生活であった。
彼もまた流浪るろうして、伯耆国ほうきのくにの横田内膳ないぜん飯山いいやま城に身をよせていたが、偶〻たまたま、その内膳は、主筋にあたる中村伯耆守ほうきのかみに殺害され、飯山城は伯耆守の手勢にとり囲まれるところとなった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれはわたしに字を読むことも、計算することも教えてくれたし、歌を歌うことも教えてくれた。長い流浪るろうの旅のあいだに、かれはこのことあのことといろいろにしこんでくれた。